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群青の空の下で  作者: 花 影
第2章 タランテラの悪夢
87/156

36 砂上の楼閣2

 着場上層へ真っ先に突入したのはルークだった。エアリアルから飛び降りると、グスタフの私兵らしい男達がわらわらと現れる。

「私が本宮へ帰るのにとがめられる筋合いはない。堂々としていればいいが、決してこちらからは手を出すな」

 出立前にエドワルドからそう命じられていたので、威嚇いかくしようとするエアリアルをなだめ、身構える男達を一瞥いちべつするだけにとどめた。やがてアスターやヒース、キリアンといった速さに定評のある竜騎士達も到着し、押し寄せようとする彼等を威圧するだけで遠ざけ、飛竜と共に整然と並んでエドワルドが到着するのを待つ。

「な、何をしている、早く捕えろ」

 グスタフによって第1騎士団に転属になったらしい数人の竜騎士が現れて兵士に命じるが、アスターとヒースが一睨みするだけで尻込みする。格の違いは明らかだった。

 やがて竜騎士団の本隊が到着する。上下両方の着場に飛竜達は整然と降り立ち、正装した竜騎士達は予め打ち合わせたとおり、上層の着場に整列してエドワルドを乗せたグランシアード、ユリウスとアルメリアを乗せたフレイムロード、マリーリアのカーマインを迎える。

「エドワルド殿下、及びアルメリア姫に敬礼!」

 アスターの掛け声と供に、竜騎士全員が剣を掲げる。一糸乱れぬ動きに合わせ、剣が陽の光を反射する。そしてその光を受けて一層眩くプラチナブロンドを棚引かせながら竜騎士正装をまとったエドワルドと群青のドレスに身を包んだアルメリアが堂々と歩く。

 2人が一番端に立っているアスターの元まで来ると、竜騎士達は二手に分かれた。上級の竜騎士達はエドワルドやアルメリアの護衛として付き従い、残った竜騎士達は彼等を見送ると皇都と本宮の各門へと散った。

 既に彼等への恭順を示した各貴族も手勢を連れて皇都を目指しており、もうじき到着する予定だった。中には捕えたゲオルグを護送する一隊もある。この後、彼等を交えてグスタフの糾弾と今後についての会議が行われる予定だった。




 エドワルドは何事も無いように竜騎士達を引き連れ、西棟から南棟に出ると、真っ直ぐ父親の部屋に向かう。そんな一行をその場に居合わせた人々は驚いた様に道を譲って見送る。ある者は本当に当人なのか訝しみ、ある者は期待に満ちた眼差しで見送る。だが、その場に満ちた張りつめた空気に誰一人として声を出す者はいなかった。

「何をしておる。殿下を騙る曲者を早く捕えよ」

 南棟から北棟に向かう通路で私兵を連れたグスタフとかち合う。彼は残るプライドをかき集め、遠巻きにしていた兵士に命じる。だが、彼等は顔を見合わせ、一向に動こうとはしない。

「姫をさらった犯人である。捕えよ!」

 再度の命令にようやく引き連れていた私兵達が動こうとするが、エドワルドは軽く一瞥する。ただ、それだけで私兵達は足が動かなくなる。言葉では表せないプレッシャーを浴び、腰に穿く長剣に掛けた手がガタガタと震える。

 エドワルドは悠々と彼等の横を通り過ぎ、グスタフの目の前に立つ。

「ワールウェイド公グスタフ、御前会議を行う。貴公の主張はその場で伺おう」

 エドワルドはそれだけ言い残すと、アルメリアとアスター、ヒース、ルーク、ユリウスを引き連れて北棟に向かう。だが、供に行く手はずのマリーリアはグスタフの前で立ち止まる。

「お前は……何故ここにいる?」

「……私は、私の意思で殿下に従っています。もう、お止め下さい。殿下は全てをご存知です」

 震える声でそれだけ言い残すと、マリーリアは早足でエドワルドの後を追う。アスターが足を止めて彼女を迎え、そっと肩を抱く。

「ごめんなさい、どうしても……」

「分かっている」

 本宮へ出立前にアスターとマリーリアはエドワルドに呼ばれた。日記と手記に全てに目を通した彼は、状況が落ち着いてからになるが、竜騎士クリストフの件と共に調査をすると明言した。但し、随分と時間が経っているので全てを明るみにする事は難しく、思うような結果が出るとは限らないと釘は刺し、そしてこの日記の内容の裏付けが取れたとしても、このままを公表できないと難しい表情で言われた。だが、最後に表情を緩めると、マリーリアの待遇はどうにかすると返答したのだ。

 マリーリアにとってグスタフは血の繋がりは無いと分かってはいても、子供の頃からどうにか認めてもらおうと努力してきた相手である。最後まで無駄に足掻かず、潔くその身を引いて欲しかった。この国と彼自身の為にも……。

「行こう」

「……はい」

 マリーリアの複雑な心境を分かってはいるが、今はやるべき事がある。アスターは彼女を促すと、先に行く一行に合流した。




 マリーリアと死んだと伝えられていたアスターが親密そうにしている光景を目の当たりにしたグスタフは、怒りで我を忘れてその後を追おうとする。だが、その行く手を巨大な影がさえぎる。

「おのれ……」

「じきにゲオルグ殿下もいらっしゃいます。どうぞこちらへ」

 巨漢のリーガスがその行く手を遮り、更には元々第1騎士団に所属していた数人の竜騎士に囲まれる。文官のグスタフよりもはるかに体格のいい彼等に囲まれ、さすがの彼も一瞬たじろぐ。だが、そのプライドはそうやすやすとは崩れるものでは無かった。

「竜騎士ごときが宰相のわしを阻むとは無礼であろう。そこを通せ!」

「生憎と、既にゲオルグ殿下は国主代行の任を解かれ、新たにエドワルド殿下がその地位についておられます。それに伴い、貴公の宰相の任は白紙撤回されておられます」

 勤めて事務的に答えたのはエルフレートだった。こちらにも死んだと伝えられていた人物がいてグスタフはギョッとする。だが、問題はそこではない。いつの間にか己が地位を失っていた事を宣言され、彼等を遠巻きにしていた兵士や文官、果ては私兵までもザワリとどよめく。

「あの者は偽物だ、嘘を申すな!」

 新たに任命するには国主のサイン入りの正式な書類が必要である。そんなものを持ち出させる隙を与えていなかった筈だが、遅ればせながら一行の中にアルメリアがいた事に気付く。

「あの小娘……」

 やり場のない怒りに強く握った拳が震える。だが、リーガスとエルフレートは断固とした態度を崩さない。

「貴公の主張は御前会議でお聞きすることになっております」

「速やかに移動してください」

 リーガスもエルフレートも内心の怒りを抑え、あくまで事務的にそう言うと、仲間の竜騎士達と共にグスタフを合議の間へ連れて行く。そんな彼等を見送った兵士や文官達は、その場で起きた事がまだ信じられずにしばらくその場に立ち尽くしていた。

 北宮はグスタフの私兵によって随分と荒らされていた。特にアロンの居室はひどく、扉は全て開け放たれ、床には物が散乱し、調度品の類もひっくり返されていた。

「……」

 居室の惨状にアルメリアもマリーリアも言葉を失い、エドワルドは一つため息をつく。そしてきびすを返すとアロンの部屋を出て上層へ向かう。途中、グスタフの私兵と鉢合わせしたが、彼等はエドワルドの姿を見るなり一様に凍り付いて固まった。竜騎士達が取り押さえるまでも無く、大人しくなった彼等の横を一行は悠々と進み、やがてエドワルドの部屋に着いた。

 エドワルドが自室の戸を叩くと、中から返事があった。

「私だ。エドワルドだ」

「少しお待ちください」

 返事をしたのは、別行動していたトーマスだった。ほどなくして内側からかけられていた鍵が開けられる。中にはトーマスの他にケビンもいて、一行をホッとした表情で出迎えた。

 ケビンとトーマス、そしてバセットの弟子ヘイルの3人は、ウォルフの護衛として先に本宮へ潜入していた。そして今日の昼前に、あらかじめ聞いていたエドワルドの部屋からの隠し通路を使ってアロンの部屋に向かい、病の国主をこの部屋へと運んだのだ。ヘイルを同行させたのは、病状を悪化させているというアロンの体調を気遣っての事だった。

「奥でお休みでございます」

 ケビンが頭を下げて報告すると、エドワルドはアルメリアとマリーリアを促して奥の寝室に足を向ける。竜騎士達は手分けして部屋の警備にあたる。

 カーテンを引き、遮光された室内にはセシーリアと年配の女官、そして脇にヘイルが控えている寝台にはグスタフが血眼になって探していたアロンが横になっていた。

「お母様……」

「アルメリア……」

 アルメリアは真っ先にセシーリアの下に駆け寄り、2人はしっかりと抱き合って互いの無事を喜ぶ。離れていたのは10日程だったが、それでも色々な事が立て続けにあり、もっと長く離れていた様にも感じる。

 だがエドワルドは、感動の再会をする母子も目に入らない様子で寝台に歩み寄る。

「父上……」

 エドワルドは横たわる父の姿に思わず声を詰まらせた。昨年の夏至祭の折には人の手を借りながらでも自分で立って歩いていたのだが、心労が祟って病が悪化した今では自力で体を起こす事も出来ないらしい。痩せ細った手を取り、声をかけるとアロンはようやく目を開けた。

「……お……おぉ……。エド……ワルド……」

 驚きに満ちた表情で自分の手を取る息子を見上げる。死んだと聞かされていた息子の姿を認め、涙を流す。

「ご心配をおかけしてすみませんでした。ただ今、戻りました」

「よぉ……よぉ……無事で……」

 アロンは息子の手を握り返した。再会を果たした母子も寝台の側に跪き、アルメリアも祖父の手を握る。

「おじい様、ただ今戻りました」

「アル……メリア……」

 頼もしい息子とかわいい孫娘の帰還にアロンは涙を流しながらしっかりと手を握り返した。

「私の不手際により、お2人にはご苦労をおかけして申し訳ありませんでした」

「わ……ワシの所為じゃ。ワシが……」

「父上……」

 手にすがるアロンを、エドワルドは彼が落ち着くまで背中を撫で続けた。

「父上、この度のワールウェイド公の振舞いは反逆罪に値します。その審議を行う御前会議の準備を整えております。ご臨席頂いてもよろしいですか?」

 エドワルドの問いにアロンはうなずく。予めサントリナ公とブランドル公には伝えてあるので、今頃は彼等がその手配を済ませてくれているだろう。

「その前に一つだけ耳にお入れしたい事がございます。義姉上、アルメリアも聞いて欲しい」

「はい」

 アロンが頷き、母子が返事をすると、エドワルドはヘイルと女官に席を外すように促す。2人が部屋を出ると、マリーリアを寝台の側に呼び寄せる。

「父上、マリーリアを父上の養女に迎えて頂けませんか?」

「え?」

 突然のことにマリーリアだけでなくアルメリアもセシーリアも驚く。

「今のところ、証拠としてあるのは彼女の母親や叔母が残した手記だけなのですが、それによるとマリーリアはジェラルド兄上の娘です。更に、ゲオルグは我が皇家の血を引いてない事が分かりました」

「……本当に?」

 アルメリアの呟きにエドワルドは頷く。そしてアロンは大きく目を見開き、マリーリアに手を伸ばす。

「そなたが……ジェラルドの……」

「あ、あの……その……」

 まさかこの場でアロンに伝えられるとは思っていなかったマリーリアは言葉に詰まる。

「ただこの事は、例え裏付けが取れても公にする事は出来ません。しかし、だからと言って彼女をこのままあのグスタフの非嫡出子という立場にしておきたくはありません。異例ではありますが、この度の功績で父上の養女として皇家に迎え入れる形を取りたいと思います」

 エドワルドの言葉にアロンはうなずいた。

「姉上もアルメリアも異存はないだろうか?」

 母子を振り返ると、彼女達も大きく頷いて賛同した。

「ありがとう……ございます」

 マリーリアが思わず涙をこぼすと、アロンは手を伸ばして彼女の頭を撫でた。

「殿下、御前会議の準備が整いました」

 そこへ部屋の外からアスターが声をかける。エドワルドが父親を窺うと、彼はうなずき体を起こそうとする。

「横になっていてください」

 エドワルドは彼を制すと、部屋の外に声をかける。すると、竜騎士達がこの為にサントリナ家で用意した寝椅子を改造した輿を運んでくる。それを寝台の側に一旦降ろすと、竜騎士達がアロンを輿へ移し、寒くないように用意された毛布と共にタランテラの紋章が入った長衣を掛けた。

「行こう」

 準備が整った所で、国主が横たわる輿をルークとケビン、トーマス、そしてヒースが担いだ。

 先導するアスターを先頭にエドワルド、アロンの乗った輿に女性陣と医師のヘイルが付き添い、殿をユリウスが守った。その行列をまたもや兵士や文官がポカンとして遠巻きに見送る。

「……!」

「……」

 合議の間へ着くと、中から言い争う声が聞こえる。どうやらグスタフがサントリナ公やブランドル公相手に猛烈に抗議しているのだろう。エドワルドは一つ深呼吸をすると、護衛として立つリーガスに扉を開けるように促す。

「アロン陛下の御出座でございます」

 今までの騒ぎが嘘のように静まり返る。その中を輿が悠々と進み、その後ろにエドワルドは従って歩く。彼の姿に誰もが思わず息を飲んだ。

「本当にエドワルド殿下?」

「生きておられたのか」

「今まで一体どこに?」

 集まった貴族は、いずれもハルベルトが国主代行を務める前から国を支えてきた重鎮ばかりである。そんな彼らの間で密やかな会話が交わされていたが、話しているうちに今まで本宮を牛耳っていたグスタフに不信の目が向けられる。中にはあからさまにグスタフを非難する者まで出ていた。




「惑わされるな。その者は殿下をかたる曲者である。竜騎士達が仕立て上げた偽物を本物に見せかけるために、病の陛下を連れ出されるとは非道極まりない行いではないか」

 おもむろにグスタフは立ち上がると、エドワルドを指して糾弾し始める。下座には両手を束縛されたゲオルグが厳重な監視の下に隔離されており、それで余計に腹が立ったのかもしれない。

「なっ」

「無礼な!」

 これにはサントリナ公もブランドル公もアスター等竜騎士達も思わず声を荒げる。だが、当のエドワルドは平然として父親の寝椅子の置かれた隣の席につき、特にいきり立つ竜騎士達を片手で制した。

「私が偽物だと?」

「エドワルド殿下は亡くなられたのだ。奥方に毒を盛られてな。そう言いふらされておられたのはソフィア様ではありませんでしたかな?」

「それは……」

 グスタフが指摘すると、夫の隣に座っていたソフィアはわなわなと震える。確かに彼女は急な婚姻が気に入らず、財産狙いではないかとフロリエを疑った。そこに付け込まれ、リューグナーに投与された薬の所為でエドワルドはだまされていると信じ込まされてしまったのだ。

 だが、リューグナーが目の前から姿を消し、時間が経つにつれて使われた薬の効果も薄れ、そしてワールウェイドが本宮を牛耳っていく様を目の当たりにしてようやく自分が利用されていたことに気付いたのだ。そして先日、ロベリアからリューグナーを捕縛してその自供内容を伝えられ、彼女は卒倒しそうになるほどの衝撃を受けた。今日エドワルドが本宮に帰って来ることを聞き、まだ体調が思わしくないにもかかわらず、夫にせがんでついて来たのだ。

「その件だが先日、リューグナーを捕えた。姉上に思考を鈍らせる薬を用い、そう思い込ませたと供述している。更にその薬を始め、様々な禁止薬物の原料となる薬草をワールウェイド領で栽培しているとも聞いているが?」

 エドワルドの追及にほんの一瞬だけグスタフの眉がピクリと動いたが、それでも不遜な態度のままエドワルドを睨みつけた。

「エドワルド殿下は亡くなられたのだ。偽物が何を言った所でワシを裁くことは出来ぬ」

「ラグラスは正神殿からお館にお戻りになるご一家を私兵に命じて襲撃させました。その結果、奥方様と姫様は行方不明に、お2人を逃がそうとしたエドワルド殿下はラグラスによって捕えられました。その私兵を手配したのがワールウェイド公であることが判明しております」

 全く動じる気配も見せないグスタフに、ヒースが怒りを堪えて淡々と報告すると、列席している貴族たちが大きくどよめく。

「知らぬな。ワシを貶めようとそなた達がねつ造したのであろう。早くこの殿下を騙る曲者と、厚かましくもゲオルグ殿下を罪人扱いした竜騎士共を捕えよ」

 上座に座るエドワルドを指し、控える兵士に命じる。だが、寝椅子に横たわるアロンがそれを制した。

「控……えよ」

 弱弱しいが、その声は合議の間に集まる全員の耳に届いた。

「彼は……我が息子……に相違ない」

「陛下、騙されてはいけませんぞ。そもそも……」

「控えよ」

 グスタフが更に言い募ろうとすると、断固とした口調でアロンがそれを制した。

「陛下?」

 いつもなら大人しく自分の言う事を聞くアロンが、今日に限って発言すら許してくれずにグスタフは面食らう。国主を味方に付ければまた事態はひっくり返せる。そしてアロン相手ならば絶対に言いくるめられると自信を持っていたのだが、計算外の事態だった。

「全ては……そなたの野望を、見ぬふり……して、いた我の……所為じゃ」

 起きるのもままならないはずのアロンが体を起こし、グスタフを見据える。エドワルドは慌てて父親の体を支えた。

「父上、あまりご無理をなされては……」

「構わぬ。せめて……後始末は、自身の手で……」

 父親の意を汲みとったエドワルドは、背後に控えていたヘイルと、後から本宮に入ってここで待機していたバセットを振り返る。医者2人の表情は険しいが、今は当人の思う様にさせるべきと判断する。

「分かりました」

「お祖父様のお体は私達が支えます」

 アルメリアとセシーリアが申し出たので、アロンを一同に向くように座らせると、エドワルドは席に戻った。

「グスタフよ……此度の混乱を……招いた責により、大公位を含む、全ての……権限を剥奪する」

「お、お待ちください」

 グスタフは上座に詰め寄ろうとするが、アスターとヒースに阻まれる。

「そこをどけ」

「陛下のお言葉は終わってはおりません」

 アスターの言葉通り、アロンはグスタフに対して不快そうな視線を向けている。彼が黙ると、一度大きく息を吐いた国主はさらに続ける。

「ゲオルグを……皇家から除籍、する」

「お祖父様! 何故ですか?」

 とたんにゲオルグが暴れはじめるが、竜騎士が2人掛かりで抑え込む。そんな様子をため息交じりで一瞥した後、視線を側に控えるマリーリアに向けて呼び寄せる。

「マリーリア・ジョアン、を我が養女とし、皇家に、迎える」

 思いもよらない発表に大きくどよめく。当のマリーリアも何よりも彼女の処遇を気にかけていたアスターも目を見開いてアロンとエドワルドの顔を窺う。そんな彼等にエドワルドは少しだけ口元をほころばせた。

「何故だ、何故、その罪人の血を引く女が皇家に迎えられて俺様が除籍されるんだ!」

「ゲオルグ殿下の仰せの通りでございます。陛下、何故でございますか?」

 グスタフもゲオルグもこの発表には黙っていられない。上座の国主に詰め寄ろうとするが、当の国主は残る力を使い切ったらしく、ぐったりとしている。慌ててバセットとヘイルが国主を診察し、これ以上は無理だと首を振る。

「エド……ワルド、我の代理として、権限の行使を……認める」

 再び寝椅子に横になった国主は、心配そうに覗き込む息子の手を握ると改めて国主代行に任じる。国主直々の命令である。グスタフとゲオルグ以外の貴族は皆、国主とエドワルドに頭を下げて承認の意思表示を示す。

「かしこまりました、父上。国民の為に力を尽くします」

「た……のむ」

 疲れたのか、アロンはそのまま目を閉じた。グスタフとゲオルグが国主の決定にまだ不服を唱えており、このままここに居てはゆっくりと休むことも出来ないだろう。

 エドワルドは控えている竜騎士や兵士に命じて寝椅子を父親の部屋へ運ぶように命じる。荒らされていた部屋も古参の女官の指示で既に片付いているはずだ。バセットとヘイルが付き従い、念のためにトーマスとケビンを護衛として同行させ、寝椅子が静かに運ばれる。

 追い縋ろうとするグスタフはアスターとヒースに抑えられ、竜騎士に抑えられたままのゲオルグは聞くに堪えない暴言を吐く。集まった貴族はそれらの行為に顔をしかめながらも一様に起立してそれを見送ったのだった。

自分の非を認めず、あくまでエドワルドを偽物扱いするグスタフ。

このかたくなな態度が次話、悲劇をもたらします。

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