34 フォルビア解放劇2
目を覚ましたエドワルドは見覚えのない天井に困惑した。だがやがて、仲間に助け出され、制圧したフォルビア城の客間で休んだことを思い出して大きく安堵の息を漏らす。
昨夜はあの後、無理を言って本隊に同行したオルティスの世話を受けながら2か月ぶりに湯を使って体を清め、そしてオルティス同様、無理をごり押しして同行してきたバセットの診察を受けた。本当は色々と報告を聞きたかったのだが体の方がもたず、かろうじて妻子がまだ生きている可能性がある事だけを聞いて休んだのだ。
やはり無理して力を使い続けたのが祟ったのか、体がだるくて起こす事もままならない。そのだるさに任せ、牢獄の寝台とは比べ物にならない程柔らかく、そして暖かな寝台に横たわっていると、またうつらうつらと眠りについていた。
「……おるのじゃろう。仕方あるまい」
「ですが……」
ふと、声を抑えて交わされる会話に目が覚めた。明かりを落とした室内を見渡すと、バセットとオルティスが何やら話をしているのが目に入った。
「殿下……」
いち早く気付いたオルティスは感無量と言った様子で涙ぐんでいる。エドワルドが眠る前には余裕が無くて気付かなかったが、少しやつれた様子の彼にも心配と迷惑をかけたのだと、自分の至らなさが招いた事態の重さが心に伸し掛かってくる。
「オルティス……」
ずっと眠っていたからか、かすれた声しか出てこない。オルティスはすぐにエドワルドの体を負担がかからない程度に起こし、用意してあったハーブ水を飲ませてくれる。紫尾の蹴爪に掛けられて寝込んでいた間にも飲んだ記憶があるそれは、彼の妻であるフロリエの調合を再現したものだった。
「苦労を掛けたみたいだな」
「殿下が受けられた苦難とは比べ物になりません」
オルティスはそっとエドワルドの体を横たえる。するとバセットがすかさずエドワルドを診察し、難しい表情を浮かべる。
「私はどのくらい眠っていた?」
「丸1日といったところじゃの。まだ数日は安静が必要じゃろうて」
「のんびり寝ている訳にはいかないな」
「殿下。無理は禁物ですぞ」
「全てを把握している訳ではないが、その無理をしなければならない状況なのは一目瞭然だろう?」
「……相変わらず頑固じゃのう」
エドワルドがこう言い出す事は予測していたのだろう。バセットは大きなため息をつくと、諦めたように続ける。
「先ずは滋養のある物を摂り、用意する薬を飲んで今夜は休む事じゃ。状況の把握は朝になってからにせい」
「分かりました」
これ以上の譲歩は無さそうだったので、エドワルドも素直にうなずく。確かに今の調子では報告を受けても全てを把握しきれる自信は無かった。二度手間にならない為にも、老医師の勧めには素直に従う事にする。
そこへオルティスが食事を運んできた。再び彼等の手を借りて体を起こすと、出汁をきかせた野菜と穀物のスープをゆっくりと味わって食べた。
温かい物で腹が満たされれば、薬を飲むまでもなく自然と眠気が来る。彼は一つ欠伸をすると、再び寝台に横になったのだった。
結局、エドワルドが次に目を覚ましたのは次の日の昼前だった。前の晩に起きた時に比べると随分と体が楽になっているが、診察したバセットにはまだ安静を言い渡される。仕方なしに運ばれてきた食事を済ませ、オルティスに手伝ってもらって身だしなみを整えると、寝台に体を起こした状態で報告を受ける事となった。
「叔父上……」
真っ先に寝室へ訪れたのはアルメリアだった。作戦成功の知らせをロベリアで受け、すぐにでもフォルビアへ来たがっていたのだが、完全に混乱が収束してからと周囲に諭されてつい先ほどフォルビアに到着したらしい。眠れぬ夜を過ごした彼女は、エドワルドの姿に安堵するが、そのやつれた姿に涙が止まらない。
「アルメリア、苦労を掛けて済まない」
「いえ……」
言葉に詰まったアルメリアは、持参した父親の形見をそっと差し出した。エドワルドは一瞬怪訝そうな表情となるが、すぐにそれがハルベルトの物と気付く。
「母からの伝言です。本宮に帰る時には正装が必要だろうから、これを着て下さい、と」
「義姉上が?」
ハルベルトの遺志を継いでほしいという願いも込められているのだろう。元よりそのつもりだった彼はそれを後押ししてくれるセシーリアの気遣いがたまらなく嬉しい。彼の身分を示す記章も全てつけられている。
「これはおじい様からです」
アルメリアが差し出した書状を受け取って目を通すと、エドワルドの表情が少し険しくなる。
「随分と弱っておられる……」
弱弱しい筆致に思わず呟く。だが、そればかりを気にしていられない。国主の署名入りの公式文書により、既に自分が国主代行に指名されているのだ。
「国主代行か……私がする事になるとは……」
書状を眺めながら自嘲気味に呟く。今まで彼の上には常にハルベルトがいた。人望が厚く、文武に優れた彼が次代の国主になる物だとずっと思っていた。もちろんそれに異論はなく、自分は気楽にその兄を手助けするだけだと思っていた。
昨年、兄から国主になる様示唆された時は一蹴したが、その兄が亡き今、それが目の前に突き付けられようとしていた。
「叔父上?」
考え込んでしまった彼を気にかけ、アルメリアが声をかける。
「今、考えても仕方ないか……」
エドワルドはため息をつくと、書状を丁寧に折りたたんで片付けた。悩んでいる暇はなく、目の前に山積みとなっている問題を片付けるのが先だった。
「そろそろ痺れを切らしているだろうから、皆を呼んでくれるか?」
「はい」
エドワルドの頼みにアルメリアは頷くと、待機しているだろう竜騎士達を呼びに行く。ほどなくして扉を叩く音がして、主だった竜騎士達が入って来る。アスターを筆頭にヒース、リーガス、ルーク、マリーリア、アルメリアの手を取ったユリウス、そして最後にエルフレートが寝台の側に集まる。
「殿下……」
救出して一日以上経つのだが、まだ疲労の色が色濃く残っている彼の姿に、一同は救出できた喜びよりも彼をここまで貶めたラグラスへの怒りが再燃し、言葉が詰まる。
「こんな形だが、皆、改めて礼を言いたい。駆け付けてくれてありがとう」
1人1人の顔を見ながらエドワルドは礼を言い、握手を交わす。だが、最後に握手を交わしたアスターの眼帯で覆われた顔を見ると、強く唇をかみしめていた。
「殿下、もう気になさらないで下さい。こうして命を拾い、再びお仕えする事が出来ます。この左目はあの時の不手際を忘れない為の戒めとなりましょう」
救出後、会話を交わした時にアスターの姿を見てエドワルドは衝撃を受けた。それは彼が存命していた喜びを全て打ち消す程で、自分の不手際を彼は心底呪ったのだ。それをアスターは同様のセリフで宥めたのだが、やはりその後悔はなかなかぬぐいきれないのだろう。
だが、いつまでも起きてしまった事にこだわっている暇は無かった。エドワルドはもう一度「すまん」と呟くと、集まった一同からここに至るまでの報告を順に受けた。
「現在、ラグラスは殿下が捕らわれておられた地下牢に投獄しております。ゲオルグは同じ北の塔の別室へ。取り巻き達も個別に投獄しています」
それぞれの視点から、救出作戦までの経緯を一通り報告した後、ヒースが代表してフォルビア城制圧後の報告を始める。
「ウォルフはどうした?」
ゲオルグの取り巻きと聞き、ふとウォルフの事を思い出したエドワルドの何気ない問いにヒースは少しバツの悪そうな表情を浮かべる。
「それが……」
今回の作戦が成功したのは彼が綿密な情報を寄越してくれたおかげでもある。いわば今作戦の功労者なのだが、彼は現在牢の中にいると言う。
「何故だ? 私の命令が伝わらなかったのか?」
エドワルドは眉間に皺を寄せる。救出された後、彼はすぐにウォルフを客として扱うように命じていた。アスターもヒースもそれを了承していたのだが、どうやら彼は自ら牢に入っているらしい。
「は?」
「自分はゲオルグの側近だからそれはおかしいと言いまして、自ら牢に入りました。もちろん、鍵はかけていないのですが……」
答えるヒースも困惑した様子である。ユリウスもルークも暇を見つけては説得を試みているらしいが、彼は頑として応じようとはしていないらしい。
「私が呼んでいると言って連れて来てくれ」
「かしこまりました」
すぐにルークが部屋を出て行く。ヒースはそれを見送ると、報告を再開する。
「フォルビア騎士団は殿下に帰順する意思を見せておりますので、一時的に私の指揮下に入れました。今のところ、彼等の言動に不審なところは見られませんが、もう少し様子を見てみようかと思っております。
「分かった」
彼等は言葉巧みにラグラスの主張を信じ込まされていた。それがあの時、あの現場を目の当たりにして真実を知り、団長以下慌てて助けられたエドワルドにひれ伏したのだ。
裏切られたこともあってまだ完全には彼等を信用してない。だが、早ければあと1月ほどで初雪が降る。冬場の妖魔襲来の事を考えると、無暗に拘束できないのも確かだった。アスターとヒースが2人で相談し、仮の措置としてロベリア騎士団の下に付ける形で落ち着いたのだ。
「サントリナ公とブランドル公に殿下救出の知らせを送りました。早ければもうじき返事が帰って来ると思います。合わせて皇都の様子も分かると思います」
「そうだな。エルフレートの帰還も知らせたのか?」
「もちろんです」
エドワルドにもひれ伏して謝罪したエルフレートはまだ完全には吹っ切れていない様子だった。以前の快活さは姿を消しており、弟のユリウスすら声をかけるのも躊躇われる程である。今も何かを耐えるように歯を食いしばっている。立ち直るにはまだまだ時間が必要なのだろう。
他にフォルビア正神殿のロイス神官長やジーンの父親を始めとしたロベリアの有力者から救出されたエドワルドを気遣う手紙が届き、親族以外のフォルビアの有力者は慌てた様子で謝罪に来ているらしい。エドワルドの体調に配慮し、現在は面会を断っているが、皇都に出立する前に彼等の代表とは会う機会を設ける必要があった。
最後にラグラスに同調していた4人の親族の現在の状況が報告された。
「実は牢にヘデラ夫妻とヘザーの3名が捕えられておりました。3人とも体調を崩しておりますが、命に別状はありません。治療を施し、そのまま継続して拘束しております。ラグラスの側近を勤めているダドリーも既に捕らえております」
牢の中へしばらく姿を現さなかったのはそう言う事かとエドワルドは納得した。自分の陽動作戦が成功し、彼等に報復できていたことに少しだけ満足した。もちろん、これだけで終わらせるつもりは無い。やる事が多すぎて後回しになるかもしれないが、彼等が行ってきた事を糾弾し、罪を償わせなければならない。
「フォルビア城制圧の件、グスタフに知られる前に皇都へ帰還したい。手筈はどうなっている?」
「ゲオルグ殿下が乗って来られた船を利用しようと思います。準備は既に整っております」
「分かった。……グランシアードの様子は?」
エドワルドは飛竜での帰還が叶わないのが残念に思うが、冷静に今の自分の体調を判断すると諦めるしかなさそうだった。飛竜も怪我をしてまだ本調子ではないらしい。我儘は言えないだろう。
「随分回復しておりますが、まだ長時間の飛行は無理のようです。小刻みに休憩を入れれば、船が皇都に着くのと同じ頃に着くと思います」
「そうか……」
かまってやれないのが残念だが、順調に回復している様子にエドワルドは安堵した。
「殿下の体調次第ですが、最後の寄港地から飛竜の編隊を組んでの帰還を考えております」
エドワルドの帰還は出来るだけ華々しく演出すると竜騎士達の意見は一致していた。そして彼の帰還に同行する竜騎士全員が正装するよう通達され、今、その準備にも追われていた。ちなみにアスターは私物の全てを失い、更には新しく誂える暇もないので、ロベリアに残るクレストの正装を手直しして借りる事になった。ユリウスとエルフレートは実家から送った物を寄港先で受け取る手筈を整えている。
「ならば、早く体調を整えなければな」
自分の希望を察し、叶えようとしてくれている部下にエドワルドは感謝する。とにかく自分の体調を整えるのが急務だった
「殿下、ウォルフを連れて参りました」
そこへルークがウォルフを伴って戻ってきた。彼はひどく恐縮した様子で部屋に入って来ると、エドワルドの寝台の前で膝をついた。
「お呼びでございますか?」
「ウォルフ、何故、牢にいる?」
エドワルドが少し不機嫌そうに問うと、ウォルフは少し身を固くして答える。
「私はゲオルグ殿下の側近です。その私が殿下の客として扱われるのは抵抗があります」
「君は私を助けたのは間違いだったと言いたいのか?」
「そ、そうではありません」
エドワルドの詰問にウォルフは慌てて否定する。
「私自身のけじめがつくまでお待ちいただきたいのです」
「けじめ?」
「はい。殿下や皆さんの様な苦悩も知らず、更にはゲオルグ殿下と一緒になって悪さもしてきた自分がこのまま償いもせずに楽をしていてはいけない気がするんです。勿論、この後もエドワルド殿下の役に立ちたいと思いますし、ワールウェイド公にもその、どうしてそんな恐ろしいことをなされたのか……」
ウォルフの肩が震えている。今まで信じてきた人に裏切られた気もするのだろう。様々な葛藤を抱えている様子にエドワルドは一つため息をつく。
「君の気持は分かった。だが、償う気持ちが有るのならば、そこまでする必要は無い。君のおかげで私はこうして仲間の元に戻れた。その努力に報いたい」
「……」
エドワルドの言葉にウォルフは涙を流す。そんな彼を竜騎士達は黙って見守った。
「これ以上グスタフに愚かな罪を重ねさせない為にも、皇都に帰らねばならない。手伝ってくれるな?」
「……はい」
ウォルフはその場で膝をついたまま、エドワルドの頭を下げた。彼の嗚咽が室内に響く中、エドワルドの体調を気に掛けたバセットが、時間切れとばかりに入室してくる。
「まだ終わっていない」
「それでもじゃ。少し休憩してからにせい」
「バセット」
恨みがましい視線を向けるが、彼はさっさと竜騎士達と未だ床に膝をついているウォルフを部屋から追い出してしまう。
「そのやつれた姿のまま皇都に戻っても侮られるだけじゃ。あのワールウェイド公と対峙するのじゃろう? 体力をつけておかねばならんぞ」
「分かっている」
「アスターとヒースがおるんじゃ。お前さんが一々指示を与えんでも、彼等なら満足する結果を出してくれる」
「……」
バセットの言う事は尤もで、エドワルドはもうそれ以上反論できなかった。仕方なくオルティスが用意した食事を摂り、言われるまま体を横たえた。やはり疲れが出たのか、ほどなくして彼は深い眠りについていた。
「若、遅くなって済まない」
宿屋の一室。夕刻になり、アレスが小竜達の見たものを聞き出している所へ、フォルビア領とワールウェイド領の境にある薬草園へ行って来たスパークが戻ってきた。
「おう」
突然現れたスパークに驚いたのか、小竜は翼をバタつかせ、アレスは落ち着かせるように背中を撫でる。
「すまん。驚かせたか?」
「ちょっとな。まあ、ある程度は聞き出せたから大丈夫だ」
アレスは小竜達を労うと解放してやる。彼等は一声鳴くと、また夕闇が迫る街へ飛び立っていった。
「マルクスは?」
「先に皇都へ向かわせた。とりあえず、下で話を聞こう」
「了解」
アレスがスパークを促して階下の酒場へ降りると、昨夜の事があったばかりだと言うのに既に多くの客で賑わっていた。2人は女将が確保しておいてくれた席に着くと、早速本題に入る。
「どうだった?」
「若が言った通り、栽培されていたのはあの薬草だった。近くの湯治場で色々情報収集したところ、今年収穫した薬草は既に搬出されていた」
「搬出先は分かったか?」
「マルモアだ。あの山奥から一旦フォルビアへ運び、近くの桟橋から川船で運ばれているらしい」
「マルモアは確か……」
潜入前に彼等はタランテラに関する基礎知識を頭に叩き込んできていた。アレスは記憶の糸を手繰り寄せようとするが、先にスパークが答える。
「総督はゲオルグ皇子だったな。実質はワールウェイド家が取り仕切っているようだが」
「……マルモアのどこへ運ばれているか分かったか?」
「残念ながらそこまでは……。ただ、昨年から何度も高位の神官が視察に来ている。考えたくないが、栽培に神殿が絡んでいる可能性がある」
「……マルモアには正神殿があったな」
「ああ」
グスタフは礎の里の賢者数名と太い繋がりがある。礎の里からの要請であれだけの施設を作る事はあり得ない話ではない。
だが、専門の施設は礎の里にも聖域にもあり、研究の為であればいくらでもそれらの施設を使う事は可能なはずである。一番問題なのは、栽培しているのが礎の里が使用を禁じている『名もなき魔薬』の原料となる薬草である事実だ。
「嫌な予感がする」
「行ってみますか?」
「そうだな。フォルビアの混乱を最小限で済ませたヒース卿の手腕は大したものだ。ラグラスは捕えたし、この混乱もすぐに収束するだろう」
ここまでくれば、もう自分達が手伝えることはもう無いだろう。アレスはスパークの提案にうなずいた。
彼はあの薬に浅からぬ縁がある。本人は否定していたが、死んだ恋人はあの薬を常用していた。その危険性を知っていた彼がそれに気づき、薬を止めさせようとしていた矢先に彼女は中毒を起こして死んだのだ。
今となってはその薬の入手方法を知る術も無く、その事件に関する全てが闇に葬られてしまった。真相を突き止めるのは最早絶望的だった。
ただ、あの当時から燻り続けている疑念はある。自分が薬に気付いたから、彼女は薬を渡していた人物によって殺されたのではないかと。もしそれが神殿関係者なら……。
「……若?」
不意に声をかけられて顔を上げると、スパークが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「ああ、どうした?」
「どうした?はこっちのセリフだ。急に黙り込むからどうしたのかと」
「ああ、すまん。考え事していた」
アレスはそう答えると、杯に残っていたエールを飲み干す。
「マルモアには俺も同行しようか?」
「そうだな。フォルビアはガスパル達3人に任せよう。マルクスを先行させているが、急げば俺達も殿下帰還の場に間に合うだろう」
「了解です」
アレスはいつもの調子を取り戻し、女将にエールのおかわりを頼む。小竜達から得た情報では、皇都へは船で向かう事に決まっている。だが、エドワルドの体調があまり良くないらしく、出立も明日の午後にするか明後日にするかはまだ決まっていない。
明日の早朝に出立すれば、例えマルモアまで行っても先に皇都に着く。そして帰還したエドワルドが復権するのを確認すれば、アレス達も役割を終えて村に戻るのだ。エドワルドの体調が気がかりだが、この分だとフレアにいい報告が出来そうだ。
「今夜は早めに切り上げて、明日は早朝に出立するぞ」
「了解」
2人は残った料理を平らげると、翌日に備えてその日はいつもより早めに部屋へ引き上げたのだった。
何やら新しい問題が浮上してきた模様……。
今更だけど神殿の組織を簡略にまとめてみました。
上位から順に書いています。
1.大母:女性のみ。祭司を司る。ダナシアの化身として象徴的な存在。(1名)
2.大賢者:賢者のまとめ役。12名の賢者の中から選ばれる。(1名)
大母補:大母の補佐。(2~3名)
3.賢者:神殿の実務を取り仕切っている。位を降りるか、他界するなどして空席が出来た時に1位の高神官の中から賢者達の投票によって選ばれる。(12名)
4.高神官:1位から5位まであり、賢者に欠員が出た時は1位の高神官の中から選ばれる。特に有力な1位の高神官は準賢者とも呼ばれる。
大母候補:各国が競うようにして候補を養育している。特に資質の高い女性が選ばれ、国主、或いは有力貴族の後ろ盾が必要とされる。12~3歳で礎の里に留学する。
5.正神官:1位から5位まである。
6.準神官:資質が低く、見習い期間が過ぎても正神官になれない神官。様々な雑務をこなす。
7.神官見習い:正神官の下に預けられ、身の回りの事を手伝いながら勉強する。通常2~3年。
正神官以上の位を持つ者が100人以上いる神殿を大神殿、10人以上100人未満で正神殿、10人未満で小神殿、普段は無人で祭祀のある時だけ神官が来る所は準神殿と呼ばれている。
大神殿は各国の首都ぐらいにしかなく、その神官長に選ばれるのは第1位の高神官のみ。
正神殿の神官長には第3位以上の高神官、小神殿の神官長は高位の神官長から選ばれる。
賢者と国主はほぼ同等。
竜騎士は高神官と同等。
公の位に定められていないが、大母候補になったり、その教育を受けた女性は敬意を込めて聖女と呼ばれることもある。
フレアやアレスの祖父ペドロは12人の賢者の内の1人。聖域の管理を任されている。
フレアに言い寄ったベルクは1位の高神官。
フォルビア正神殿の神官長ロイスや皇都郊外にある霊廟のある正神殿の神官長は第2位の高神官。
ペドロの弟子グルースは準神官。正神官になる意思がないらしい。
大きな組織だけあって複数の派閥が存在する。特に新たな賢者を選出する時には水面下での駆け引きが激化する。
ちなみにペドロやロイスは中立派。




