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群青の空の下で  作者: 花 影
第1章 群青の騎士団と謎の佳人
23/156

21 短い夏1

 夏の終わり頃、ルークはティムをともなってフォルビア北部へ外出していた。エアリアルをグロリアの館に待機させ、馬の背に揺られながらの旅だった。

 これはただの遊びではない。領内の諸事情を把握しきれないグロリアの依頼を受けたエドワルドが、彼に現状をその目で見て来るように命じたのだ。もちろん、密偵は彼等だけではない。

 2人は旅行者を装い、今までなかなか把握出来なかった実情をつぶさに見て歩いてきた。ティムを伴ったのは、彼がフォルビア北部の出身で地理に明るい事だけでなく、より多くの発見を見越しての事である。事実、ティムは予想以上にいい仕事をした。

 主に野営をしながら8日間の旅を終え、将来義兄弟になるかもしれない2人は、昼過ぎにグロリアの館に帰りついた。

「ただいま、オリガ」

「……ただいま」

 2人を真っ先に出迎えたのはオリガだった。ルークは久しぶりに会う恋人に駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られたが、長旅から帰ったばかりで全身埃まみれである。さすがに思いとどまって声をかけるだけに留めた。

 一方のティムは疲れ切った様子で馬の背から降りた。まだ正式な竜騎士見習いにもなっていない13歳の少年には、少々過酷な旅だったのかもしれない。

「お帰りなさい、ルーク、ティム。オルティスさんが湯殿の準備を整えて下さっているわ」

「それは助かる。ロベリアに帰るにしてもこのままではさすがに……」

 ルークは苦笑しながら自分の汗が染みこんだシャツの裾を掴む。日に焼けた顔は薄汚れ、無精髭が目立つ。きちんと湯を浴びたのは3日ほど前に宿屋に泊って以来で、さすがに自分でも自分が臭い。

 用意が整えられている湯殿に直行したかったが、ルークは疲れた表情のティムを先に行かせる。まだまだ余力のあるルークは、2頭の馬を厩舎へ連れて行くついでに、エアリアルに会いに行く。飛竜は久しぶりに会うパートナーに嬉しそうに頭を摺り寄せるが、彼は軽く撫でてやるに留める。腰に付けていた小物入れをベルトごと外し、飛竜の首に巻きつける。

「それをロベリアへ持って行ってくれ。絶対に団長かアスター卿に直接渡してほしい」

 小物入れには今回の旅の記録が入っている。後に口頭で補足をする必要はあるが、これで北部の実情は概ね理解できるだろう。実際に見てきたルークは早急な対策が必要と判断し、一足先にこの記録だけを送る事にしたのだ。


グッグッ


 エアリアルは了承した様で、ルークに目を合わせて低い声で鳴く。飛竜は厩舎から連れ出されると、パートナーに見送られて身軽に空へと飛び立った。




 久しぶりに周囲への警戒を解いた状態で風呂を満喫したルークは、身支度を整えると居間にいるグロリアの元に顔を出す。

「ただいま戻りました」

 帰ってから風呂に入ったりして時間が経っているので、『ただいま』は違うかもしれないと思いながらも、ルークは慣例通りに帰還の挨拶をする。

「お帰り、ルーク卿。ご苦労だった」

「詳細は殿下からお聞きください。ただ……早急な対応は必要かと」

「……そうかえ。ティムはどうしたのじゃ?」

「随分疲れた様子だったので、もう休ませました。オルティスさんも了承して下さっています」

 グロリアの前だとまだ少し緊張するルークは、ソファには座らず直立不動で応対する。その様子をおかしそうに眺めながらグロリアは優雅にお茶を飲んでいる。

「帰ってきたらここで休んでも構わないとエドワルドからの伝言じゃ。部屋を用意させておるから、昼食でもとってゆっくり休むと良い。今ならコリンも昼寝の時間じゃろうから、オリガも手が空いておるであろう」

 意味深に言われてルークは真っ赤になる。2人が公認の中になってからというもの、ロベリアでもこの館でも冷やかされてばかりだった。最近は慣れたこともあって受け流せるようにはなっているが、さすがにグロリア相手では分が悪い。

「あ、ありがとうございます」

 ルークは頭を下げると早々に居間を辞去し、とりあえず昼食を分けてもらいに厨房を覗く。ちょうど料理長が彼の食事を用意してくれていたので、使用人用の休憩室でそれを平らげた。

「お茶どうぞ」

 オリガがそっとルークにお茶を差し出してくれる。どうやら周囲が気を利かせてくれたらしく、彼女の手は空いているようだ。

 今回の真の目的は機密扱いで話すことはできなかったが、それとなく彼女には話している。全てを話せずルークは心苦しかったのだが、それでも彼女は口を挟まず、出立する時は2人にお弁当を用意して見送ってくれたのだ。帰って来た時のほっとした笑顔を見て、自分でも何事もなく帰還できたのを安堵していた。

「あ、そうだ、これ……」

 ルークは懐から小さな包みをとり出す。兄弟で親戚を尋ねる……と見せかけていたので、町では情報収集も兼ねて買い物もしたりしていた。これは3日前に立ち寄ったフォルビアの城下町で買ったガラス球の装身具で、ブローチとしても使えるし、髪留めにもなるよと店の主が熱烈に勧めてくれたものだった。

「え……」

「心配かけたみたいだから」

「…ありがとう」

 オリガは礼を言うと包みを開けてみる。葡萄を模したデザインが一目で気に入り、早速髪につけてみる。

「良く似合うよ」

「うれしい……」

 お茶を飲みながら、ルークは旅の間の障りの無い部分を話す。ティムが期待以上の仕事をしてくれた事をそれとなく伝えると、彼女は嬉しそうにしていた。

 テーブルを挟んで向かい合って座り、ルークはオリガの手にそっと手を重ねている。貴婦人とはかけ離れた荒れた手をオリガは恥ずかしがっているのだが、ルークはこの手が好きだった。ここへ使いに来てお互いに時間があれば、彼女の手を握ってたわいもない話をするのが習慣になっている。次第にオリガもそれに慣れて、ルークの手に包み込まれるのを嫌がらなくなった。

「!」

 穏やかに話をしていたルークが顔を上げる。

「どうしたの?」

「飛竜が来た。お客みたいだ」

 くたびれきったティムはまだ眠っているだろう。年老いた厩番だけでは飛竜の相手は無理かもしれない。ルークはオリガに一言詫びて席を立つ。

「ちょっと見てくる」

「はい」

 ルークはオリガの手を名残惜しそうに離すと、休憩室を後にした。表に出ると、ちょうど3頭の飛竜が玄関前に降りたところだった。見覚えのある飛竜に彼は思わず声をかける。

「ユリウス!」

 赤褐色の飛竜から降りてきたのはブランドル家の子息、ユリウスだった。皇都から離れたこの地で再開できた事に驚き、ルークは思わず駆け寄っていた。

「ルーク? 来てたのか」

「それはこっちのセリフだよ」

 暑苦しいことに2人は抱き合って再会を喜ぶ。その様子を出迎えたオルティスもユリウスの護衛としてついて来た竜騎士達も遠巻きに眺めている。

「第1騎士団の演習で近くまで来たからグロリア様に婚約祝いのお礼を言いに寄ったんだ。後でロベリアにも行く予定だ」

「そうか。飛竜は預かる。ロベリアには俺が案内するよ」

「頼むよ」

 ユリウスは爽やかにそう言うと、護衛の騎士を連れて館の中へ入っていく。その姿を見送ると、ルークは3頭の飛竜をなだめて厩舎へと連れて行った。

 飛竜の装具を外し、3頭に井戸で汲んだ水を与えると、3頭とも嬉しそうに水を飲み始める。すると、ユリウスのフレイムロードだけが頭を上げて『ゴッゴウ』と飛竜の挨拶をする。近づいてくる馴染んだ竜気は、外へ見に行かなくてもエアリアルのものだとわかる。

 わざわざ使いに行ってくれた飛竜を労う為に、3頭の飛竜には断りを入れて厩舎の外に出る。勝手を知っている飛竜は、玄関先に一旦降りると一目散にルークの元へやってくる。

「ありがとう、エアリアル」

 首には小物入れのついたベルトが巻いたままになっている。それを外して中身を改めると、手紙が一通入っていた。

『任務ご苦労。報告は明朝でかまわないから、オリガと楽しい夜を過ごしてくれ。 エドワルド』

 不敬にあたると思いながらも、ルークは思わず手紙を握りつぶした。

「ルーク?」

 聞きなれた柔らかい声に振り向くと、オリガがグラスをのせた盆を手に立っている。ルークは手にした手紙を丸めて再び小物入れに押し込んだ。

「とにかく影に入ろう」

 容赦なく照りつける太陽に汗がにじみ出てくる。エアリアルを厩舎に連れて行き、先客の3頭と同様に井戸で汲んだ水を与えると、飛竜は嬉しそうに飲み始める。ルークは別に汲んでおいた水で手と顔を洗い、オリガが持ってきた飲み物を受け取る。

「ありがとう」

 グラスの中身は冷やしたハーブティーだった。癖も香りも強くなく、僅かな甘みがあって飲みやすい。喉が渇いていたこともあって一気に飲み干してしまった。

「うまいな、これ」

「まだあるわ」

 物欲しそうにしていると、オリガがおかわりを注いでくれる。それもルークはすぐに飲み干した。

「フロリエ様の考えた配合で作ったの」

「へぇ、彼女、こんな事も出来るようになったんだ。ルルーのおかげかな?」

 愛嬌のある小竜を思い出しながら、空になったグラスをオリガに返す。

「細かいことは難しいみたいで、このハーブの調合も苦心なさっておられたわ。もうちょっと落ち着いてもらわないといけないと、フロリエ様は笑っておられたけど」

「好奇心がある割に臆病だからな……」

「そうね」

 厩舎の壁に寄りかかり、2人は手を握って見つめあう。このひと時が幸せだった。

「ここでいちゃついていたのか?」

 声をかけられて振り向くと、ユリウスが立っている。

「もう済んだのかい?」

 悪びれる風もなく、ルークは答えた。2人はまだ手をつないだままである。

「ああ。それよりも紹介してくれよ、君の彼女を」

「俺の恋人、オリガだ。このお屋敷でフロリエさん付きの侍女をしている。オリガ、彼が友人のユリウスだ」

 ルークはオリガの肩を抱いて友人に恋人を紹介する。オリガは恋人という言葉に頬を染め、ユリウスに丁寧にお辞儀をする。

「初めまして、オリガと申します。お話はルークから伺っております。この度はご婚約、おめでとうございます」

「ありがとう。ルークから話を聞いて気になっていたんだ。彼がこんなかわいい娘とどうやって知り合ったのか不思議だよ」

 散々な言われようだが、2人はユリウスの言葉に頬を染める。

「それは……まあ……」

「ルークが助けてくれたのです。両親が他界したので、ここの近くに住む親戚を弟と尋ねる途中、馬が立ち往生してしまって……。城壁の門が閉まる期限も迫って焦っていたところをルークが通りかかって助けて下さったのです」

「ほぉ……」

「まあ、そういったところだ」

 友人の視線を逸らし、ルークは照れ隠しにポリポリと頭を掻く。

「お互い、一目惚れのようだな」

 ユリウスの言葉は正しかったらしく、2人は真っ赤になる。

「よ、用事は済んだんだよな? ロベリア行くんだろ?」

 ルークはごまかすように3頭分の装具を取り出す。

「わかりやすい奴」

 ユリウスはボソリと言うと、フレイムロードの装具を受け取り、厩舎の外に控える護衛の2人に声をかける。

「荷物とってくる」

 エドワルドからは館に一泊する許可をもらっていたが、ユリウスと約束したこともあって一緒にロベリアに戻る事にする。

 用意されていた部屋に置いたままになっていた荷物を手にすると、居間にいるグロリアに戻る旨を伝えて辞去の挨拶をする。その慌ただしさに彼女は苦笑しつつも、すっかりお気に入りとなった竜騎士にまたいつでも立ち寄るようにと声をかけた。

 玄関先にはオルティスとオリガが見送りに出てくれていた。小さな姫君はまだお昼寝中だった為、フロリエはまだ彼女についているのだろう。

「また来るよ」

 オリガにそう言ってエアリアルにまたがると、ロベリアに帰還するべく飛び立った。




 8日ぶりに乗るエアリアルの背は心地よく、ルークはいつまでも乗っていたかったが、客を案内する責務があるので遠回りせずに真直ぐロベリアを目指した。ルークとユリウスが他愛のない会話を交わしているうちに、一行はロベリアに着いていた。

「何だ、今日は恋人の所でお泊りじゃなかったのか?」

 一行を出迎えたキリアンがルークの姿を見てからかってくる。

「……いけませんか?」

「甲斐性の無い奴だなぁ」

「……」

 あまり突っかかると余計にいじられるので、ここはグッと我慢する。ユリウスは予め使いを出していたらしく、執務室へ案内するようにキリアンに言われ、ルークは飛竜を係りの者に任せた。そして客のユリウスをエドワルドの執務室へと案内する。

「失礼いたします。ユリウス卿を案内してきました」

 風を通すために執務室の扉は開け放たれ、目隠しに籐で編まれた衝立が置いてある。開いたままの扉を叩くと、すぐに返事があり、頭を下げてユリウスと共に室内に入る。護衛の竜騎士達は部屋の外で待機しているようだ。

「ああ、ご苦労。伝言は読まなかったのか?」

 エドワルドは新任の副総督と何かの打ち合わせをしている様子だった。ルークの姿を見て怪訝そうな表情を浮かべたが、呆れた様子でため息をつく。

「変なお気遣いは無用です」

 分をわきまえているルークはそれだけ言うと、頭を下げて執務室を後にした。エドワルドは肩を竦めると、控えていた副総督も下がらせる。

「ユリウス、遠路よく来てくれた」

「お久しぶりでございます、エドワルド殿下。先日は祝いの品をありがとうございました」

 ユリウスはまず、丁寧に頭を下げて礼を述べる。夏至祭の後、エドワルドはロベリアに戻ってからすぐに、ユリウスとアルメリアに婚約祝いを送っていた。牧畜が盛んなロベリアは軍馬の育成にも力を入れており、厳選した名馬を2人に贈ったのだ。ちなみにエドワルドも個人的に軍馬を育成する牧場を所有している。

「それは丁寧に痛み入る。気に入って頂けただろうか?」

「はい。あれほどの名馬はなかなか手に入りませんので重宝しております。留守中に兄上達に横取りされないか心配ですけど」

 ユリウスの上には2人の兄がいた。長男は多忙な父に替わってブランドル家を支えていて、二男は武術試合で優勝したエルフレートだった。代々武断の家系に相応しく、いずれも優秀な竜騎士だった。

「ははは」

 和やかに挨拶を済ませると、ユリウスはハルベルトからの親書を取り出す。

「こちらをハルベルト殿下から預かって参りました」

「ありがとう」

 エドワルドは親書を受け取ると、早速封を開けて目を通す。途端に彼は青ざめていく。

「エドワルド殿下?」

「あ、いや、何でもない。遠路疲れただろう。部屋を用意させているから休むといい」

 ユリウスに声をかけられて我に返ったエドワルドはベルを鳴らす。すぐに年若い文官が姿を現し、ユリウスの案内とアスターを呼ぶように命じる。

「それでは、失礼しました」

 ユリウスは釈然としないながらも、文官に案内されて執務室を後にする。普段は何事にも動じない彼がそこまで動揺するのは一体何だったのだろうと疑問に思いながら。




 呼ばれたアスターが執務室に入ると、エドワルドは手紙に目を通していた。ユリウスが来ている事は耳にしているので、ハルベルトからの手紙である事は容易に察することが出来た。

「皇都からは何と知らせてきましたか?」

 浮かない表情の上司にアスターは訊ねる。

「増員を3名ほど寄越してくれるそうだ」

「3名ですか?この冬はいくらか楽になりそうですね」

 夏至祭でルークとリーガスだけでなく、アスターも活躍したこともあって、第3騎士団への入団希望者がいつもの年より増えていた。エドワルドは武術試合で目をつけた若者数名に打診していたのだが、今日の親書はその中から正式に移動が決定した者を知らせる内容だった。

「まあ、見てくれ」

 ハルベルトの親書をアスターに見せる。そこにはこの秋から配属となる3人の名前が記されていた。最初の2人はまあ希望通りだろう。問題は最後の1名だった。

『マリーリア・ジョアン・ディア・ワールウェイド』

「……」

 アスターも絶句してピキリと固まる。親書の内容からすると、特にサントリナ家の支持で彼女の移動が決まったらしい。

 どうやらソフィアは夏至祭の折にエドワルドが彼女をダンスに誘う姿を見て、彼が彼女に気があると勘違いしているようだ。どんな形でも討伐に参加したいマリーリアは、その辺りの勘違いは気にしていないのかもしれない。

「どうしたものかな……」

「拒否できないですよね?」

「ちょっと無理だろうな……」

 非常に優秀な第3騎士団の上役2人をもってしても、頭を抱える事態だった。




 その夜、ロベリアに1泊したユリウスは、本当はルークが隠しておきたかった告白の顛末を心優しい先輩達にばらされて大笑いした。

「そんな事まで言ってしまうなんて、君らしいよ」

 赤面する親友に慰めの言葉をかけるものの、面白いので皇都に帰ったら絶対話のタネにしようと思うユリウスだった。

 翌朝、ハルベルト宛ての手紙をエドワルドから預かったユリウスは、無口な護衛を引き連れて第1騎士団の演習地へと帰っていった。

あたしはブルーメ。白いふわふわの毛が自慢なの。

お館のご主人様を初め、みんながかわいいって言ってなでてくれるの。

特に黒い髪のお姉さんが膝にのせて撫でてくれるのはとても心地いいの。

おもわずお昼寝してしまうくらい。


それなのに……。

あたしは信じられない光景を見た。

今まで見た事無い奴が、我が物顔であのお姉さんの肩にとまっているの!

あの優しい手で撫でてもらって、これ見よがしに頬ずりまでして!


許せない!


しかも最近はアイツばかりちやほやして誰もアタシをかまってくれなくなった。

屈辱だわ!


傷心のアタシは気持ちを落ち着けるために、お気に入りの棚の上で昼寝をすることに決めた。

誰? 登ったらまた降りれなくなると言った人は?

もうお子ちゃまじゃないからそんな事は無くてよ。フン!


ピョン、ピョンといつもの調子で飾り棚に登ると、信じられない事に先客がいる。

何であいつがこんな所に!

アタシのお気に入りの場所を我が物顔で占領して、気持ちよさそうに丸くなっている!


フツフツと怒りが込み上げてくる。

アタシは積年の恨みを込めて、眠っているあいつに必殺の一撃をお見舞いした。


『必殺猫パーンチ!』

ペチッ


グッ?

目を覚ましたアイツはアタシを見て首をかしげる。


そんな……アタシの必殺技が効かないなんて……。

アタシは気合を入れ直すとフリフリと動いているアイツの尻尾にとびかかって噛みついてやった。


クギャー!

さすがにこれは効いた。アイツはむちゃくちゃに暴れてアタシを振りほどこうとしたが、アタシも必死で尻尾に食らいついた。

狭い棚の上で暴れているうちに、アタシもアイツも棚から落ちていた。

とっさに口を離してしなやかな猫の体を生かして綺麗に着地を決める。


パササ……

不利と見たのか、アイツは逃げ出した。

アタシは逃がしてなるものかと必死でアイツを追う。


グワッ

急に方向転換したアイツがアタシに襲ってきた。

急降下してきたアイツを躱し、次のタイミングを見計らってとびかかる。


グギャー

フミャー

掴みあったまま床の上を転がっていた。


「あ、フロリエ、ルルーとブルーメがじゃれて遊んでいるよ」

「あらあら……」


ぐーきゅるるるる……

アタシもアイツも動きがとまる。


「ルルー、ブルーメ、御飯ですよ」

いつものメイドのお姉さんが呼んでいる。

しばらく睨み合っていたが、背に腹は替えられない。

ここで一旦休戦となった。


2匹とも、所詮は子供。

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