おまけ アイドルの座は譲れない全集
★第1ラウンド
アタシはブルーメ。白いふわふわの毛が自慢なの。
お館のご主人様を初め、みんながかわいいって言ってなでてくれるの。
特に黒い髪のお姉さんが膝にのせて撫でてくれるのはとても心地いいの。
おもわずお昼寝してしまうくらい。
それなのに……。
アタシは信じられない光景を見た。
今まで見た事無い奴が、我が物顔であのお姉さんの肩にとまっているの!
あの優しい手で撫でてもらって、これ見よがしに頬ずりまでして!
許せない!
しかも最近はアイツばかりちやほやして誰もアタシをかまってくれなくなった。
屈辱だわ!
傷心のアタシは気持ちを落ち着けるために、お気に入りの棚の上で昼寝をすることに決めた。
誰? 登ったらまた降りれなくなると言った人は?
もうお子ちゃまじゃないからそんな事は無くてよ。フン!
ピョン、ピョンといつもの調子で飾り棚に登ると、信じられない事に先客がいる。
何でアイツがこんな所に!
アタシのお気に入りの場所を我が物顔で占領して、気持ちよさそうに丸くなっている!
フツフツと怒りが込み上げてくる。
アタシは積年の恨みを込めて、眠っているアイツに必殺の一撃をお見舞いした。
『必殺猫パーンチ!』
ペチッ
グッ?
目を覚ましたアイツはアタシを見て首をかしげる。
そんな……アタシの必殺技が効かないなんて……。
アタシは気合を入れ直すとフリフリと動いているアイツの尻尾にとびかかって噛みついてやった。
クギャー!
さすがにこれは効いた。アイツはむちゃくちゃに暴れてアタシを振りほどこうとしたが、アタシも必死で尻尾に食らいついた。
狭い棚の上で暴れているうちに、アタシもアイツも棚から落ちていた。
とっさに口を離してしなやかな猫の体を生かして綺麗に着地を決める。
パササ……
不利と見たのか、アイツは逃げ出した。
アタシは逃がしてなるものかと必死でアイツを追う。
グワッ
急に方向転換したアイツがアタシに襲ってきた。
急降下してきたアイツを躱し、次のタイミングを見計らってとびかかる。
グギャー
フミャー
掴みあったまま床の上を転がっていた。
「あ、フロリエ、ルルーとブルーメがじゃれて遊んでいるよ」
「あらあら……」
「ルルー、ブルーメ、御飯ですよ」
いつものお姉さんが呼んでいる。
グーキュルルルル……
アタシもアイツも動きがとまる。
しばらく睨み合っていたが、背に腹は替えられない。
ここで一旦休戦となった。
2匹ともまだまだ子供。
★第2ラウンド
んー極楽、極楽♪
こんな寒い日は暖炉の前がいちばん!
アタシ専用の寝床はふわふわのクッションが詰めてあって寝心地最高!
いくらでも……ふぁぁ……寝て…られる……zzz
ペシッ!
にゃ?
グイッ
にゅ?
グイーッ
ドスン
ニャニャニャ?
何かに押されてアタシは寝床から落ちていた。
寝ぼけ眼で見て見ると、あの、憎き小竜がアタシの寝床を占領していた。
しかも仰向けで大の字になって!
許せない!
ここはアタシのものよ!
頭に血が上ったアタシはひらりと寝床に飛び乗った。
必殺ネコパーンチ!……はっ、こいつには効かなかったんだ。
寸でのところで思い出し、アタシは前足を引っ込めた。
ちゃんと学習してんのよ。偉いでしょ?
あの小竜とは違うんだからフフフン。
……はっ、悦に浸っている場合じゃなかった。
コイツをどうにかしなきゃ!
ふと、眠りながらもゆらゆら揺れている奴のしっぽが目に入る。
よし、これよ。これなら奴にダメージを与えられる!
アタシは揺れているしっぽに狙いを定め、慎重に間合いを計って飛びついた。
フミャー!
グッ……グギャ?
目を覚ましたヤツはびっくりして寝床から転げ落ちた。
ふふっ、成功、成功。
アタシは悠々と取り返した寝床に丸まる。
これでゆっくり眠れる。
ビシッ! バシッ!
寝付こうとしたところで何かを叩きつけられる。
もう……なんなのよ?痛いじゃない!
目を開けると怒ったらしいヤツがアタシにしっぽを叩きつけていた。
もう、怒った!人の邪魔ばかりして!
ここはアタシの縄張りよ!
フミャァー!
グギャー!
アタシはヤツに爪を立てて飛びかかった。
奴も応戦し、アタシたちはその場で取っ組み合いを始めた。
ドスン!バタン!
アタシたちが立てる物音にいつの間にか人が集まってきていた。
「何事ですか?騒々しい」
フンギャー!
ギュワー!
取っ組み合っていたアタシたちはいつの間にか持ち上げられていた。
顏を顰めた黒っぽい服の男の人がアタシたちの首根っこを捕まえて顔を覗き込んでいる。
「奥様がお休みになっておられます。こんな時間に騒ぎを起こすとはどういった了見でしょうか?」
男の人はアタシたちの首根っこを掴んだまま、その後もクドクドと小難しい言葉で説教を続けた。
う……何でアタシまでおこられなきゃいけないの?
すべてはアタシの縄張りを脅かしたアイツが悪いんだ!
勝負は結局、両者の痛み分けで決着つかず。
次回に持ち越し?
★インターバル
つまんない……。
お館が無くなってしまった。
優しいお姉さんも、いつも遊んでくれる女の子も、いつもご飯を暮れていたお姉さんもどこかに行ってしまった。
認めたくないけど、いつもアタシの縄張りに侵入してくるアイツもいないとなんだかつまんない……。
「えさだぞ」
今、ご飯をくれているのはいつもご飯を用意してくれたお姉さんと仲の良かったお兄さん。
お礼代わりにニャオンと鳴けば、ごつごつした手で撫でてくれる。
でも、その顔は凄く寂しそうだ。お兄さんもお姉さんに会えなくてさびしいのかな?
もそもそとご飯を食べたらいつもの窓辺に登って外を見る。
もう外は雪が積もって真っ白だ。
ここはちょっと寒いけど、こうして待っていれば、いつかみんな帰って来るかな?
早く帰って来てよ。
やっぱりみんないないと寂しいよ……。
★ファイナルラウンド
今日はなんだか騒がしい。
折角お昼寝をしていたのに、うるさくって眠れないじゃない。
もう、仕方ないわねぇ。
目がすっかり冴えてしまったアタシは大きく伸びをして、いつもの窓辺に登って外を眺めた。
外を歩いている人達、なんだかみんな嬉しそう?
なんかいいことあったのかな?
「お、いた、いた」
お兄さんが忙しいときに代わりにお世話をしてくれる人がアタシを見つけてヒョイと抱き上げた。
な、何よ、いきなり?
驚いて手に爪を立てたが、何ともないらしい……。
「ああ、驚かせてごめんよ」
その人は謝りながらそのごつごつした手で撫でてくれる。……気持ちいいから、ま、いいか……。
連れて行かれたのは広いお部屋。そこには先客がいて……。
「あ、ブルーメだ!」
真っ先にアタシを見つけた女の子が駆け寄ってくる。いつも遊んでくれたあの女の子だ。
「まあ、ブルーメ、無事だったのね」
「ルークが世話をしていたそうです」
あの優しいお姉さんも、いつもおいしいご飯を用意してくれたお姉さんもいる!
お兄さんが床に降ろしてくれたので、ニャオンと一番かわいい声で鳴いて擦り寄ると、優しいお姉さんはその手で撫でてくれる。
うーん、やっぱりこの人の手が一番気持ちいい。ゴロゴロと喉を鳴らして体を摺り寄せると、抱き上げて膝にのせてくれた。
「ブルーメも大変だったのね。良かったわ、また会えて」
頭から背中にかけて優しく撫で、喉の下も擽ってくれる。もう、たまんない。
あー幸せ……。
ピシッ!
撫でられる心地良さに身を任せていると、急に何かが打ち付けられる。
痛いにゃない!
ガバッと体を起こすと、目の前に尻尾をゆらゆらと揺らしているアイツがいた。アタシの幸せなひと時を邪魔するなんて許さない!
グッ?
アイツは素知らぬ顔をして首を傾げているが、尻尾をわざと揺らして挑発してくる。ムカついたアタシは狙いを定めてアイツに飛びかかった。
フミャー!
「あらあら……」
「ルルーと仲良しだったもんね。ブルーメも嬉しいのかな?」
ドスッ!ガタン!
オンギャー!
激しい取っ組み合いをしながら床を転げまわっていると、何か硬いものにぶつかった。とたんにけたたましい泣き声が聞こえてアタシもアイツも動きが止まる。
「あぁ、びっくりしたのね。よしよし……」
いつもご飯をくれるお姉さんが人間の赤ん坊を抱き上げてあの優しいお姉さんに手渡した。そしてそのお姉さんはもうアタシには目もくれずにその赤ん坊をあやし始める。
「あ~、エルヴィンが起きちゃったじゃない。騒ぐんならお外に行って」
アタシとアイツは女の子に掴まり、部屋の外へ追い出された。
バタン
無情にも目の前で扉が閉められる。
中からはお姉さん達の楽しげな声が聞こえる。
え~ちょっと待って~。
ニィー、ニィー……
クルクルクル……
アタシもアイツも中に入れてもらおうと、甘えた声を出して扉を引っ掻いていたら、何時かの黒い服を着た男の人に見つかって、また何時かの様に難しい言葉で小言を言われた。
結局、喧嘩両成敗で勝敗はつかず。しかも第三者に横取りされて終結となった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ちなみにファイナルラウンドはベルクの糾弾が行われた日、フォルビア正神殿から城に移動した直後のお話。エドワルドは執務でこの場にはいなかった。




