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群青の空の下で  作者: 花 影
第3章 ダナシアの祝福
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おまけ ジーンとリーガス愛の劇場全集

第1話 逆プロポーズ



 武術試合の出場を承諾なしに決められてしまった。澄ました顔で事後報告する上司に腹が立ち、自室の寝台でふて寝を決め込んでいた。

「リーガス」

「……」

 そっと扉が開いて恋人のジーンが姿を現す。彼女が相手ではさすがに無視も難しい。仕方なく無言で体を起こすと、彼女は隣に腰を下ろした。

「触っていい?」

 無言で頷くと、ジーンは腕に手をわせる。二の腕に触れた時に力を込めると、彼女はうっとりとしてなでまわしている。

「……ねぇ、リーガス」

「何だ?」

 ひとしきり体……正確には筋肉をなでまわして満足した彼女は、胸にそっと寄り添ってくる。

「結婚しましょ」

「は?」

 突拍子もない彼女の言動になれているが、さすがの私も言葉に詰まる。

「だってぇ……武術試合に出るのはもう決定なのでしょう?」

「……それはそうだが」

 事後承諾させられた怒りがまた沸々《ふつふつ》と沸き起こってくる。

「そうしたら、貴方のかっこいい姿をみんなが目にしてしまうわ」

「……」

「きっと、いろんな人に言い寄られると思うの」

 この容姿ではその心配はないと思うのだが、そんな事を心配する恋人がとてもかわいい。

「だったら出場を取りやめればいい」

「それは嫌」

 即答だった。

「……何故?」

「一度は貴方が活躍する姿を見たいの」

「……」

 我儘だなぁ……。そこがまた可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みだろうか。

「だから、結婚しましょ」

 どうしてそんな結論になるのか甚だ疑問だが、上目づかいでお願いされれば断れない。

「分かった」

「嬉しい!」

 喜んだジーンが抱きついて来て、その柔らかな唇を重ねてくる。

 私の理性がもったのはここまでだった。




第2話 愛を込めて



「リーガス、はい、これ」

 冬の妖魔討伐の準備に忙殺されていると、愛妻のジーンが何かの包みをはにかみながら差し出す。

「何だ?」

「開けて見て」

「……」

 包みを開けて出てきたのはショッキングピンクの物体。

「……何だ?」

「防寒具。フロリエさんやオリガさんに教えてもらいながら編んだの」

 ふんわりとしたそれは、確かに毛糸で編まれた防寒具だった。ショッキングピンクの地に真っ赤なハートが真ん中にデンッ!とあしらわれている。

 竜騎士が恋人からもらう定番のプレゼントだが、付き合い始めてから5年、編み物などしたことがない彼女から初めて贈られた。

 嬉しいのだが……何故、この色なんだ?

「最初、練習で自分用に編んだの。それで、リーガスにも同じのを編んじゃった。お揃い」

 ジーンは最初に編んだという自分用のそれを取り出して嬉しそうに付ける。

「……」

「あ、似合う、似合う」

 ジーンは固まっている私に防寒具を付けて嬉しそうにしているが、絶対にそんな事は無いだろう。

「いや……その……」

「嬉しくない?」

「……嬉しい」

 無邪気に問われればそう答えるしかない。

「絶対使ってね」

「あ……ああ」

 そう答えたものの、部下たちの前でこれを付ける勇気は無い。もちろん、あの上司2人に見られるなんて、想像するだけでも恐ろしい事態になる。

「かわいいー」

「……」

 厳つい自分が真っ赤なハートが付いたピンクの防寒具を付けているなんて、鏡を見る勇気すら出ない。




 晩秋、リーガスは2人の部下と共に、総督府を離れて西の砦の配属になった事に心底安堵した。




第3話 愛を込めて その2



 妖魔の巣を発見。その知らせを受けて我々は出撃し、どうにかそれを守護する女王を倒した。

 負傷された殿下のご容体は気がかりだが、まだまだする事は残っている。だが、騎馬兵団の到着まで、我々は一息つく事となった。

「……」

 久しぶりに会う妻は、リリアナの足に腰かけたまま何か言いたげにこちらを見つめている。みんなの目を気にして近くに来るのを我慢しているのか、それとも疲れきって動けないのか……。とにかく私もいやしが欲しいので疲れた体にかつを入れて妻の側まで行くとその隣に腰かけた。

「大丈夫か?」

「……」

「疲れたのか?」

「……」

 何だか、妻は怒っている?

「何を……怒ってる?」

「……防寒具」

 ポツリと返ってきた言葉に私は思わず後ずさった。

「どうして……どうしてつけてないの?」

 西の砦に赴任する前、彼女は手編みの防寒具をプレゼントしてくれた。今までしたことも無い編み物をフロリエ嬢やオリガ嬢に習いながら習得し、おそろいで防寒具を編み上げてプレゼントしてくれたのだ。真っ赤なハートをあしらった、ショッキングピンクの防寒具を……。

「使ってくれると言ったのに……」

 確かに言ったが、さすがにあれは恥ずかしい……。誰にも見られないように箪笥たんすの奥にしまいこんでいた。

「その、あの、も、もったいないからだ。君が折角編んでくれたのに、汚してしまうのが忍びなくて使えないんだ」

「……本当に?」

「ああ」

 嘘ではない。確かに妻の手作りの防寒具は非常に嬉しかったし、汚したくないと言うのも本音だ。だが、それ以上に……恥ずかしすぎる。

「あれは宝物だからな」

「嬉しい……」

 妻は唇を震わせ、うるんだ瞳で私を見上げる。思わずその柔らかな唇を味わいたくなる衝動に駆られるが、辛うじて理性で抑え込んだ。

「リーガス……好き」

 妻はいつものように手を伸ばすと私の腕に触れてくる。力を込めるとうっとりとその感触を楽しむ。

 どうにかごまかせた。安堵した私は彼女の頭を優しくで、そして妻との甘いひと時をしばし楽しんだ。



「余所でやれ」

 byアスター




今宵は舞踏会である。

この地方で最も格式が高いとされている夜会の1つだ。

隊長を勤めているために毎年招待されてるが、自分には正直、苦痛な時間でもある。

だが、今年は楽しみが一つだけあった。

新妻のジーンがどんな装いをするか当日まで内緒だと言って教えてくれなかったのだ。

これから迎えに行くのが実に楽しみである。


「少しお待ちくださいませ」

マリーリア卿を迎えにきたルークと共に支度をしている部屋に行くと、応対に出た顔見知りの侍女が2人を呼びに奥へ戻っていく。

そして衣擦きぬずれの音と共に2人が姿を現した。


最初に目に入ったのは真紅のドレスをまとったマリーリア卿。普段と異なるドレスアップした姿に私もルークも言葉を失くす。

そして最初の驚愕きょうがくから覚めて隣に立つ妻の姿を見て私は再び絶句する。

「な……」

何で、いつもと同じ竜騎士礼装なんだ?

「ふふっ、驚いた?」

悪戯っぽい目で彼女は私を見上げる。

「これで出席できるのも最後だからね。見納めよ」

「……」

確かにそうかもしれないが……。

「それに……こっちの方が楽なんだもん」

それが本音か……。



第5話 独占欲



「小父ちゃん、だっこ」

「僕もー」

「あたしが先よ」

 幼い声に惹かれて覗いて見れば、リーガスが子供達に囲まれていた。私の優しくて素敵な旦那様は子供達の求めに応じ、その美しい筋肉を駆使して代わる代わる子供を抱き上げ、その惚れ惚れする筋肉に覆われた肩に乗せてあげている。とても微笑ましい光景だ。

「高い、たかーい」

 弾んだ声を上げているのは一番小さな女の子だ。その子が喜んでいる姿を見て、我慢できなくなった男の子が私の旦那様の足元で「早く、早く」とせがんでいる。

「仕方ないな、ほらっ」

 彼はその子も片手でヒョイと抱き上げると、器用に反対側の肩に乗せる。

「小父さん、すごい!」

 これにはニコルや他の子達も驚いたようだ。尊敬の眼差しで私の旦那様を見上げている。さすが、リーガス。その隆々とした筋肉、今日も美しいわ。

「そうか?」

 子供相手でも尊敬されれば嬉しいのか、2人の子供を肩に乗せたまま彼はその場でくるりと回る。きゃあきゃあと子供達は大喜びだ。

「これでお終いな」

 リーガスはそう言って子供を2人共地面に降ろした。まだまだ遊び足りない彼等は不満そうにしているが、それを年長のニコルがなだめている。さすがはお兄ちゃん。

「あの……」

 だが、そのニコルは年少の子達を宥めると、ためらいがちにリーガスへ話しかけた。

「どうした?」

「……小父さんの腕、触っていい?」

「いいが……」

 リーガスは不思議そうに、鋼の様に固く逞しい筋肉に覆われた腕をニコルの前に惜しげもなくさらし出した。

「すごい……」

 ニコルはその硬い筋肉の感触を確かめる様に子供らしい手で撫でている。……いいなぁ。

「あたしも触りたい!」

「僕も、僕も!」

 それを見ていた他の子供達も興味をひかれて我も我もとリーガスの腕を触る。……羨ましい。

「僕も小父さんみたいに力もちになれるかな?」

「うーんと鍛えなきゃダメだぞ」

 まだニコルはリーガスの美しい筋肉をナデナデしている。あー私も触りたい。

「先ずはしっかり食べて大きくならないとな。鍛えるのはそれからだ」

 小さなうちから過剰な筋肉が付くのは好ましくない。リーガスは子供達に優しく教えてやっている。それでも未練がある様で、子供達はまだ旦那様の筋肉をナデナデ……ナデナデ……。なんだか子供達が恨めしい。

 その筋肉は私のよ~



 小屋の陰から覗いていたジーンの怨念の籠った視線に気づいたリーガスは、大いに狼狽うろたえた。




第6話 愛の結晶


 殿下の救出に成功した。しかし、バカ皇子どもから受けた暴行により、思った以上に殿下の体は弱っておられる。しかも殿下だけでなく、復帰したばかりのアスター卿も受けた傷の後遺症とかで寝込んでしまわれた。

 仕方なく事後処理は我々が行ったのだが、なかなか仕事がはかどらない。結局、総督府で待っておられる姫君に報告出来たのは夜明け前だった。

「そうですか、良かった……」

 ユリウス卿に付き添われてお出ましになられた姫君は不安気にしておられたが、報告を聞いて安堵の表情を浮かべる。同席した総督殿もクレスト卿も同様にほっとした表情を浮かべていた。

 だが……先程から気になっているのだが、妻のジーンの姿が見えない。自らアルメリア姫の護衛を申し出て総督府に残ったはずなのだが……。

「リーガス卿、ジーン卿の事が気になりますか?」

 どうやら彼女を気にかけているのがバレバレだったようだ。

「気分が優れないらしいので、休ませました」

「え?」




 気が動転し、気がつけば挨拶もそこそこに姫様の御前を辞去して妻の部屋に向かっていた。

「ジーン!」

「……リーガス?」

 寝台で横になっていた妻は目をこすりながら体を起こした。

「ジーン、気分が悪いって……クララかヘイルに診てもらったのか?」

 いつも元気な彼女が寝こむなんて、何か悪い病気じゃないのかと心配になってしまう。

「うん……」

「ジーン」

 寝台に腰かけて体を起こした彼女を抱きしめる。すると彼女は、気持ちを落ち着けるためか一番のお気に入りである私の二の腕の筋肉に手を這わせる。

「あのね……」

 何を告げられるのか、私は覚悟を決めて彼女の言葉に耳を傾ける。

「出来ちゃったの」

「は?」

「赤ちゃん」

「……」

 それこそ予想外の答えに私は頭の中が真っ白になった。





第7話 壮大な夢


フォルビアで警備の打ち合わせ中に妻が産気づいたと知らせを受けた。

周囲の勧めもあってすぐにロベリアに戻ったのだが、家の扉を開けた瞬間に赤子の泣き声が聞こえてきた。

慌てて寝室に赴くと、出産を終えたばかりとはとても思えないほど元気な妻が私に笑顔を向けてくれた。

「……生まれたのか?」

「ええ、男の子ですって」

「そうか……ありがとう」

妻を労わり、その額に口づけると、彼女は私の二の腕に触れてくる。

「どうした?」

「ううん」

元気そうにしてても、やはり疲れているのだろう。この腕で癒されると言うのならいくらでも触らせてやろうと、私は自分の腕に力を込めた。


ナデナデ……ナデナデ……


妻はうっとりとして私の腕を撫でまわす。

するとそこへ湯浴みを済ませた赤子が運ばれてきて、何と私に手渡してくる。

「おめでとうございます、旦那様。元気なご子息でございます」

「あ、ああ……」

手渡された赤子はあまりにも小さく、そして頼りないくらいに柔らかかった。

私はおっかなびっくり抱きかかえるが、つぶしてしまいそうですぐに妻に手渡した。

「ちっちゃい……」

赤子を抱いた妻はいとおしげに息子を眺めている。

6人の子供を引き取り、既に母となっている彼女ではあるが、やはり血を分けた子は愛しく感じるのだろう。

「ねえ、リーガス」

「何だ?」

「この子もあなたみたいなステキな筋肉がつくかしら?」

「鍛えればつくだろう」

「決めたわ、リーガス。私、もっと赤ちゃん産むわ。そしてみんな鍛えさせてステキな筋肉に囲まれて暮らすの。もちろん、ニコル達もね」

「……」

妻の夢は壮大だ。だが、協力するのはやぶさかではない。





第8話 嫉妬



 奥方様と姫様がお戻りになられた。ラグラスは捕え、懸念されていた審理も回避される事となった。この朗報を一刻も早く妻に知らせたくて、ジーンクレイを急かしてロベリアに戻った。

「ジーン、朗報だ」

「どうしたの?」

 妻は豊満な胸をはだけて授乳の真最中だった。

「奥方様と姫様がお戻りになられた」

「本当?」

 妻は驚いて私を見上げる。だが、体が動いたために息子の口から乳が離れ、ぐずりだす。

「ああ、ごめんね」

 彼女は慌ててもう一度乳を含ませると、息子はまた一心不乱に吸い始める。何だかうらやましい……。

「しかもだ、御嫡子様を伴ってのお帰りだ」

 気を取り直して続けると、彼女は驚いた様子で動きが固まる。

「……奇跡だわ」

「ジーン?」

 ポツリと漏らした妻に問いかけると、彼女は表情を曇らせて私を見上げる。

「お子様を宿したまま追手を逃れられたのは奇跡だわ。きっと、大変だったはずよ」

 彼女自身は悪阻つわりなどの妊娠に伴う体調の変化は比較的軽く済んだ。それでもたまに辛くて寝込む事もあったと聞く。その困難さを思うと、確かにこうして無事にご帰還されたのは奇跡とも思える。

「そうだな……」

 こうして会話を交わしながらも、ジーンは母親らしく息子を気遣いながら乳を与える。それにしても羨ましい……。

「すぐにお会いしたいわ……」

「行くなら坊主も連れて行こう。若様と同い年だし、遊び相手にちょうどいいとヒース卿とも話したんだ」

 満足したのか息子はゲップをすると妻の腕の中で眠り始めた。彼女は器用に息子を膝に乗せたまま肌蹴た衣服を元に戻してしまった。ああ……残念。

「一緒に遊んで、勉強して……素敵だわ」

「だろう?」

 そう遠くない未来にそんな光景が見られるかもしれない。

「いっぱいおっぱいを飲んで、早く大きくなって、パパみたいに立派な筋肉付けて、若様をお守り出来る様になるのよ~」

 妻が眠っている息子に言い聞かせているのを聞いていると、先ほどの授乳の光景を思い出す。

 ああ……早く乳離れしてくれないかな……。何だか無性に息子が羨ましくなってきた。俺も……触りたい。




9 幸せの満喫方法


 空になったマリーリアの茶器にオリガはお茶のお代わりを用意し、フレアはコリンシアにお菓子を取り分けている。気の合う仲間と香り高いお茶を飲みながらおしゃべりに興じる……。1年前を思い起こさせるこの光景にジーンは深い感慨を覚えた。

 つい先日婚礼を上げたばかりのエドワルドとフレアがロベリアへ視察に訪れたのだが、男性陣が仕事に忙殺されている間、女性陣は優雅にお茶会となったのだ。

 1年前と異なっていたのは、このお茶会の会場がロベリア総督府の客間という事と、部屋の一角を占めていた大きなゆり籠だろうか。中にはポヤポヤのプラチナブロンドとふさふさの赤毛の赤子が仲良く並んで眠っていた。




「何だか幸せ……」

1日が終わり、自室のゆり籠で眠る息子を眺めながらジーンは昼間のお茶会を思い返していると、夫のリーガスが帰ってきた。

「何だ、まだ起きていたのか?」

 漂ってくる酒精から仕事ではなく飲んでいて遅くなったのだろう。それを指摘すると、ごまかす様に唇を重ねてくる。ごまかされてなるものかと二の腕をつねってみたが、強靭な筋肉には全く効果は無かった。

「アスター卿に捕まったんだ。仕方ないだろう」

 大げさに二の腕をさすりながら言い訳をしてくるが、嫌々付き合った訳ではなさそうだ。この半月で大きく事態が変わり、更には先日の婚礼からの流れで国内はお祭り騒ぎとなっている。羽目を外したくなるのも無理はないのだが……。

「反省してください」

「面目ない」

 毅然とした態度で反省を促すと、リーガスは頭を下げた。

「仕方ないからこれで許してあげるわ」

 ジーンはさっきつねった二の腕を撫でまわした。何のことは無い。せっかく平穏が戻ったのだからもうちょっとかまって欲しかったのだ。

 早めに仕事を終わらせたエドワルドがお茶会に顔を出し、ずっとフレアと甘い空気を醸し出していたのだ。新婚なのだから仕方ないのだけど、ジーンはちょっとだけ羨ましかったのだ。

「フフッ」

「何だよ」

 急に笑い出した妻をリーガスは怪訝そうに見返す。

「今頃、ワールウェイド公夫妻は口論しているかもね」

「あ……」

 ジーンの意図を察してリーガスも納得している。

「ま、いいんじゃないか? 平穏が戻って来たんだ。それぞれの方法で満喫すれば」

「そうね」

 夫の出した結論に同意すると、ジーンはまた夫の筋肉を撫でまわす。リーガスはそんな彼女を引き寄せると、今度は優しく唇を重ねた。




最終話 幸せな光景



 昨年生まれた末の女の子をあやしていると、外から子供達の元気な声が聞こえてくる。

「そこだ!」

「兄ちゃんがんばれ!」

 窓から覗いて見ると、皇都から帰郷している息子がリーガスと試合をしていた。周囲には他の子供達が見学していて、頑張る息子を応援している。

 だが、昨年、書類の山との格闘が嫌で団長職を辞したとはいえ、まだ現役の竜騎士に見習いのひよっこが敵う筈も無い。息子は正に片手であしらわれている。

「ああ、素敵……」

 相変わらず旦那様の筋肉は美しい。躍動する美しさに目を奪われる。一方の息子はまだまだこれからだ。同年代の他の子に比べると体格に恵まれているが、一時期よりは衰えたとはいえ父親の体に比べるとまだ貧相だ。下の子達は言うに及ばず。だが、年長のニコル達は鍛えたおかげでかなり理想に近づいている。

 ガキン!と音がしてまた息子の剣が弾き飛ばされている。諦め悪くまた剣を手に立ちあがろうとするが、もうフラフラしている。そろそろやめさせた方が良いかもしれない。

「今日はここまでにしなさい。お兄ちゃん達が帰って来るわよ」

 上から声をかけると、見ていいたのを気付いていた旦那様は手を上げ、気付いていなかった子供達はびっくりして可愛い手を振ってくる。

「手を洗って着替えてらっしゃい」

「はーい」

 息子の帰郷に合わせ、今夜は成人して独立したニコル達も帰って来る。今夜は素敵な筋肉を観賞しながら過ごせるのだ。それを思うと自然と顔が綻んでしまう。

 思い描いていた夢がかないました。ああ、大母ダナシア様、私、今とても幸せです。


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