23 幸せになる権利
怖い、痛いと泣き叫んでも男は暴力を止めなかった。体を殴られ、蹴られ、時には腕や背中をナイフで傷つけられた。体がボロボロになるまで蹂躙したところで飽きたらしく、私は男に捨てられた。ただ帰りたかった場所も失った私に残されたのは憎い男の子供だけだった。
悪夢にうなされて目が覚めたディアナは暗闇の中でのろのろと体を起こした。暖炉に火が付いていても真冬の室内の空気はひやりと冷たい。悪夢でかいた汗が冷えて体をブルリと震わせた。
「今更……どうして……」
彼女の立場を理解し、支えてくれる人が居るおかげで忌まわしい記憶の夢はこの1年ほどは見ることは無かった。それなのに幸せになることは許されないのか、まるで呪いの様にあの記憶が彼女をがんじがらめにからめとっていた。
「バート……」
汗を拭き、寝間着を着替えて寝台に戻ると幼い我が子は健やかな寝息を立てていた。夏に全身に及んだかぶれは痕を残すことなく完治した。全ては聖域から来たグルース医師のおかげだ。あれ以来、息子はグルース医師を尊敬し、弟子になると公言している。あの男の血を引いているとは思えないくらい真っすぐに育ってくれている。
バートはまだ真実を知らない。知らない方がいいとも思っている。ディアナの今の最大の懸念は望まぬ形で彼に真実が知られてしまう事だ。結局眠ることが出来なかった彼女は、暗い気持ちを引きずったまま朝を迎えた。
「どうしたの? 元気ないわね」
仕事の前にバートを預けにドレスラー家に寄ると、ディアナの姿を目ざとく見つけたジーンが声をかけて来る。急いでいるからと逃げようとするが、そんなごまかしは彼女には通用しなかった。
勤め先である竜騎士宿舎の食堂には休む旨を伝える使者が送られていた。バートはニコル達と一緒に勉強部屋に行き、残されたディアナはジーンに引きずられるようにして彼女の部屋へ連れて行かれた。
「さて、話してもらいましょうか?」
お茶を淹れてもらった侍女を下がらせると、早速ジーンに追及される。ただ、悪い夢を見ただけと答えたのだが、それだけではごまかされてはくれなかった。
「悪い夢を見てしまうほどの何かがあったんでしょ?」
「……」
図星だった。前日に仕事から帰るところを恩人であるキリアンの恋人だという女性に待ち伏せされていた。彼女はいきなりディアナを突き飛ばし、蔑みの言葉を投げかけた。そして春になる前に彼の前から消えるよう言ったのだ。
彼に好意を寄せられているのは分かっていた。自分でも気づかないうちに浮かれているのだろう。その女性の言葉は彼との身分の違いをまざまざと思い知らされたのだ。そう、あの男に穢された自分は彼に相応しくないのだ。
「バカねぇ。その女の言葉なんか信じちゃだめよ。今のあいつにディアナ以外の女性に目を向ける余裕なんてないわよ」
「でも……」
「自信を持ちなさい。確かに、何年か前まではヤンチャしてたけど、今はキッパリ関係を絶っているわ。そうでなければ私もリーガスも貴女に近づくのを認めないと宣告している。きっと、諦めきれない誰かが貴女の存在を知って短絡的に事に及んだのでしょう。後はこちらに任せて頂戴」
ジーンは自分の事の様に怒っている。彼女も今まで何度も助けてもらった恩人なのだが、巻き込んでしまうのは何だか申し訳ない。
「あのね、突き飛ばされたのでしょう? その手の傷はその時に出来たのではなくて? しかも侮辱するだけでは飽き足らず、脅してきたのでしょう? これはね、もう立派な犯罪なの」
「ジーン卿、でも……」
怒り狂うジーンはディアナの消極的な反論を認めなかった。その場で夫に宛てて事のあらましを綴った手紙を認めていた。あとはこの手紙を使用人に届けてもらうだけである。人を呼ぼうとしたところで、先程ディアナの休みを知らせに行かせた若い使用人が戻って来た。
「奥様、大変です。今しがた総督府で聞いた話ですが、東砦の管轄で大規模な討伐が行われ、竜騎士方にも負傷者が出たとの事です」
現在、東砦はキリアンが受け持っている。すぐにそれに思い至ったディアナは血の気が引いてくる。
「他に何か情報は?」
「指揮系統が機能しなくなる恐れがあると、総督府からも応援が向かいました」
「それって、まさか……」
ディアナの脳裏に最悪の事態がよぎる。このまま会えなくなるのは嫌だ。そう
思った彼女はジーンに必死になって頼み込んでいた。
「あの、ジーン卿、私を東砦に連れて行ってください!」
「良いわよ」
あっさりと了承したジーンは、驚くほどの速さで全ての手配を済ませ、ディアナを連れて総督府へ向かった。子供達には悪いが、後はジーンの両親が見ていてくれることになった。
厳冬の最中に初めて飛竜の背に乗ったディアナは、その寒さに震えながらも必死に彼の無事を祈っていた。やがて慌ただしさが未だに残る東砦に到着すると、ジーンに手を引かれて砦の中へずんずんと歩いていき、やがて重厚な扉の前に着いた。
中からは緊迫した空気が伝わってくる。いてもたってもいられず、ディアナは自分で中に飛び込んだ。
「キリアン様は?」
「え? あれ? ディアナ?」
中には確かにキリアンが居た。上半身裸の彼の肩には痛々しく包帯が巻かれているが、机の淵に座って目の前にいる竜騎士達を叱責している最中だったらしい。いきなり現れたディアナに驚き、目を丸くする。
「け、怪我をしたかもと聞いて……」
「あ……かすった程度だ。問題ない」
「でも、指揮系統が機能しないって……」
「こいつらが変に争ったからな。今、説教していたところだ」
叱責されていた竜騎士達はバツが悪そうに項垂れている。どうやら自分の早とちりだったと気付き、安堵したとたんに力が抜けてその場に座り込んだ。
「ディアナ?」
キリアンは慌てて駆け寄ってくる。そして彼女を抱き上げると、今まで叱責していた部下達を邪魔だから下がれと蹴り出してしまった。
「大丈夫? あっと、このままじゃだめだ。ちょっと着替えるからここ座っていて」
キリアンは上半身裸だったことを思い出し、ディアナを手近の椅子に座らせる。彼女は過去の辛い記憶から異性の裸に強い拒否反応を起こしてしまう。動揺して状況を把握出来ていないのか、パニックを起こしていない今のうちに着替えてしまいたい。
以前に彼女に気がある騎馬兵の1人が男の肉体美を披露などと訳の分からない理由で彼女の前で上半身裸になった。当然、彼女はパニックを起こし、倒れてしまった。医務室に運ばれて事なきを得たが、その後は食堂では騎士服を着用という規則が出来ていた。
そこへ見習い竜騎士がお茶を持ってきてくれた。ディアナを連れて来てくれたジーンが指示したのだが、その後さっさと帰ってしまっているらしい。帰りは送っていかないといけないなと思いつつ、見習いがお茶を淹れてくれている間に隣の寝室で手早く身支度を整えた。
「落ち着いた?」
湯気の立つ茶器を手にしたディアナは小さく頷いた。顔色も幾分良くなっている様にも見え、安堵したキリアンは控えて居た見習いを下がらせると、彼女の向かいに座った。自分もお茶を飲もうと茶器に手を伸ばそうとすると、ディアナが淹れなおしてくれる。
「ありがとう」
好きな人が淹れてくれるお茶はやはり格別だった。討伐から帰ってすぐに治療を受け、その後は部下を叱責していたので一息つく暇もなかったのだ。もっと味わいたかったのにすぐに飲み干していた。
「お怪我は大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない。このくらいならすぐに良くなるよ」
「よかった……」
ディアナは安堵した様子で顔を綻ばし、気恥ずかしさをごまかす様に空になった彼の茶器にお茶を注いだ。
「ところで、バートは?」
「仕事に行くつもりだったからドレスラー家で預かって頂いてます」
「それならいいが、仕事は?」
「えっと、ジーン卿の勧めで休むことになって……」
ディアナは事の発端になった令嬢の話はごまかして事情を説明する。しかしそれだけでは納得してくれなかったらしい。ゆるゆると追及されているうちに結局は令嬢の件は口を滑らせていた。この辺りはさすがの手腕としか言いようがない。
「全く……」
「ごめんなさい」
呆れた様子のキリアンの前でディアナは小さくなって項垂れるしかない。彼はブツブツと何か言いながら席を立つ。ああ、呆れて相手にするのも嫌になったのだと思い、悲しくて涙がこぼれそうだった。
「え、ちょっと、何で泣いているんだ?」
ディアナが涙を零しているのに気付いたキリアンが慌てた様子で駆け寄り、彼女を抱きしめた。その行動に驚いた彼女は彼の腕の中で固まった。
「えっと、あの……呆れて嫌われたんじゃないかと……」
「それはない」
ディアナの懸念を彼は一言で吹き飛ばした。そして懐から出した何かを彼女にそっと握らせる。
「本当は春になってから渡そうと思って用意していた」
手の中にあるのは花を象った美しいブローチだった。高価な宝石も使われており、ディアナは驚きのあまりまたもや固まってしまう。
「ディアナ、俺をバートの父親にしてくれませんか?」
「え……」
養子に欲しいと言うのだろうか? 彼の言葉の真意を掴めずにいると、抱きしめられている腕に力が入った。
「結婚しよう」
驚いて顔を上げると、額に口づけられる。男性との過度な接触が怖いディアナに配慮しているのだろう。本当なら、こうして抱きしめられているのも怖いはずなのだが、キリアンが相手だと不思議と安心していられる。
「……私でいいの?」
「君でないと嫌だ」
「キリアン様……」
「返事を聞かせて欲しい」
頷きたいところだが、脳裏をよぎったのは昨日の女性だった。
「でも、あの女性は……」
「向こうの勝手な思い込みだ。もうかかわってこないよう話を付けておく。それに勘違いしないで欲しい。俺には君だけだ」
必死に言い募る様子から、キリアンは本気で言っているらしい。本音を言うと、ディアナにとって既に彼は特別な存在になっている。結婚してほしいと言われ、嬉しくないはずはない。
「何度でも言う。君だけだ。結婚してほしい」
なかなか返ってこない返事に焦りが出たのか、畳みかけてくる。ディアナはもう胸がいっぱいで、ただ頷くしかできなかった。
その日はもう日が暮れてしまい、ディアナは砦に一泊して翌朝、総督府までキリアンに送ってもらった。彼はそのまま痛い勘違いをしている女性と話を付けるつもりでいたのだが、ジーンから先に話を聞いていたリーガスによって女性は既に捕らえられていた。
悪気はないと言ってはいるが、怪我もさせているし脅迫めいたことも言っている。反省の色が見えない彼女には厳しい罰が与えられ、牢に入れられた。親が保釈金を用意したのですぐに出れたが、キリアンやディアナへの接触は一切禁じられている。結局、ロベリアに居られなくなり、春を待たずに親子ともどもロベリアから出て行った。
「ただいま」
皇都の高等学院を無事に卒業したバートが、1年ぶりに帰宅して玄関の扉を開けると、何かが勢いよく突撃してきた。受け止めきれず、その場で尻餅をついてしまう。
「うおっ!」
「おかえり、にーちゃ」
「おかえり!」
元気よく声をかけて来たのは4歳と3歳の弟妹。いつも父親にする出迎えを彼にもしたのだが、常に鍛えている竜騎士とは異なり医者の卵が不意に受けるには強すぎる衝撃だった。
「出迎えは嬉しいけど……もうちょっとお手柔らかに……」
尻餅をついた彼の体によじ登ってきた2人に頼むが、よくわかっていない彼等はバートの体の上で好き勝手に跳ねている。歓迎されているのは嬉しいが、そろそろ限界だった。
「こらこら2人とも、お兄ちゃんが苦しんでいるわ」
そこへようやく母親が来てくれたらしい。2人を引きはがしてくれたおかげでようやく体が軽くなり、体を起こすと2人は笑いながら奥の部屋へ駆けて行った。
「大丈夫? ごめんね。いつもお父さんを相手にしているから加減が分からないみたいで……」
「そうだろうね」
バートは立ち上がって服の埃を払い、落とした鞄を拾い上げた。そして自分よりも目線が下がってしまった母親に改まって向き直る。優しい笑顔は昔と変わらない。だが、来年10周年を迎える結婚生活でどんどん綺麗になっている気がする。
「ただいま、母さん」
「おかえりなさい、バート。そして卒業おめでとう」
「ありがとう」
ここでようやく帰宅の挨拶が出来た。バートはほっと息を吐くと1年ぶりのわが家へ足を踏みいれた。
「バート、飲まないか?」
暗くなるころに父親も帰宅し、久しぶりに家族が揃って夕飯を囲んだ。バートの帰宅ではしゃぎすぎた弟妹は早々に眠ったので、自室で勉強をしているところを父親に誘われた。学院は卒業したが、ロベリアには2日ほど滞在してすぐに赴任先の薬草園に向かうつもりだった。今後は今までの様には帰宅できなくなるし、ほかならぬ父親の誘いだ。断る手はなく、誘われるまま彼の部屋に赴いた。
そこに用意してあったのは、高級な蒸留酒。成人したばかりのバートが飲むには少々強い酒だ。酒豪が揃う第3騎士団の中でも特に強いとされる父親に合わせていたら、明日は確実に寝込む羽目になりそうだ。
「まあ、座れ」
「うん」
一緒に飲むのは春分節の後に父親が公用で皇都に来た折に、成人を祝ってもらって以来だ。その折にはリーガス等、親しい人達も一緒だったので、父親と差し向かいで飲むのは今回が初めてだった。
水で薄め、ちびちび飲みながら近況を報告し合う。忙しくて参加してもらえなかったが、卒業式での様子を教えると、父親は嬉しそうにしている。血は繋がっていないが、それでもこうして喜んでくれることがバート自身にも嬉しかった。
「……お前に伝えておきたいことがある」
おもむろに父親が居住まいを正す。その改まった口調にバートも自然と襟を正した。
「お前の出生の秘密だ。今まで黙っていたが、お前の実の父親は……」
「知ってますよ」
バートはその忌むべき名前を告げられる前に口を挟んだ。内乱終結から10年経った現在でもその名を口に出すのは憚られている。
「え?」
彼の返答は思いもよらなかったのだろう。父親は目を丸くしている。
「金ぴかの部屋にいた偉そうなオッサンに、お前はラグラスの子だとはっきり言われた記憶が残っています」
内乱時の記録を読んだ今なら理解できる。母親と平穏に暮らしていた彼をヘデラ夫妻によってフォルビア大公に祀り上げられようとしているところだろう。その後、当時大公を名乗っていた実父が彼等の謀反に感づいた。逃げようとしていたところ馬車の事故が起き、河に投げ出された母子を助けてくれたのが父親達第3騎士団員だった。
「バート……」
「最初は何者かなんて分からなかった。その名は禁忌として誰も口にすることが無かったから。でも、学院に行く前、ニコルさんに連れて行ってもらった正神殿の書庫で偶然に知ることが出来たんだ。
当時の書簡が残っていて、読んで理解した後に愕然とした。自分にあの男の血が流れているなんて信じたくなかった。だけどそれ以上にニコルさん達に申し訳なかった」
ニコル達ドレスラー家の子供の半数は養子で、あの男の命で襲撃を受けたマーデ村の生き残りだった。要はあの男によって故郷を壊され、家族を殺されたのだ。混乱が収まらない中、バートは資料探しに付き合ってくれた親友に泣きながら謝罪していた。
「すまん……」
「父さんが謝ることじゃないでしょ? でもね、同じ言葉をニコルさんからも言ってもらったんだ。悪いのはバートでも母さんでもないって」
バートとドレスラー家の子供達との交流は今でも続いている。その事実を知ってもなおその交流が途絶えていないという事は、彼等が本当の絆で結ばれているからなのだろう。喜ばしい事実に父親はホッと安堵の息を漏らす。
「ニコルの言う通り、お前達は被害者だ。だが、その事実は子供のお前が背負うにはあまりにも重すぎた。ディアナは、母さんは黙っておくつもりだったらしいが、お前には知る権利もあると思って今夜は声をかけた」
「そうだったんですか」
その事実を1人抱えていた母は随分苦労したに違いない。内乱が収束した後は事情を知る人達によって自分達親子もその秘密も守られた。更にはこの人が父親になってくれたおかげで、母もようやく自分の幸せを見つけ出す事が出来たのだ。
「……自分の出生を知ったから、医師になって人助けしようと思ったのか?」
「違いますよ。僕は純粋に師匠を尊敬しています。あの人の弟子になりたいと思ったのは真相を知る前でした。でも、今は人の役に立ちたいという思いが強くなったのは確かです」
「そうか……それは立派な事だと思う。だがな、自分の幸せも見つけるんだぞ?」
「父さん……」
「親としては子の幸せを願うのは当然だろう?」
偽りのない言葉にバートは嬉しくて涙が出て来る。それをごまかす様に彼は杯を空にした。
結局、2人は夜が明けるまで飲み続けた。当然、酔いつぶれたバートは二日酔いとなり、かまって欲しい弟妹達の攻撃に苦しめられた。
「それでは行ってきます」
薬草園に向かう朝、バートは見送りの家族と抱擁を交わして馬車に乗り込んだ。もっと遊びたい弟妹はごねたが、父親が2人を抱え上げて黙らせていた。
「気を付けてね」
「無理はするなよ」
「にーちゃ、にーちゃ!」
「うわーん!」
賑やかな家族に見送られ、気持ちを新たにしたバートは子供の頃から憧れていた師匠の元へ旅立った。
ジーンとリーガス愛の劇場10
最終話 幸せな光景
昨年生まれた末の女の子をあやしていると、外から子供達の元気な声が聞こえてくる。
「そこだ!」
「兄ちゃんがんばれ!」
窓から覗いて見ると、皇都から帰郷している息子がリーガスと試合をしていた。周囲には他の子供達が見学していて、頑張る息子を応援している。
だが、昨年、書類の山との格闘が嫌で団長職を辞したとはいえ、まだ現役の竜騎士に見習いのひよっこが敵う筈も無い。息子は正に片手であしらわれている。
「ああ、素敵……」
相変わらず旦那様の筋肉は美しい。躍動する美しさに目を奪われる。一方の息子はまだまだこれからだ。同年代の他の子に比べると体格に恵まれているが、一時期よりは衰えたとはいえ父親の体に比べるとまだ貧相だ。下の子達は言うに及ばず。だが、年長のニコル達は鍛えたおかげでかなり理想に近づいている。
ガキン!と音がしてまた息子の剣が弾き飛ばされている。諦め悪くまた剣を手に立ちあがろうとするが、もうフラフラしている。そろそろやめさせた方が良いかもしれない。
「今日はここまでにしなさい。お兄ちゃん達が帰って来るわよ」
上から声をかけると、見ていいたのを気付いていた旦那様は手を上げ、気付いていなかった子供達はびっくりして可愛い手を振ってくる。
「手を洗って着替えてらっしゃい」
「はーい」
息子の帰郷に合わせ、今夜は成人して独立したニコル達も帰って来る。今夜は素敵な筋肉を観賞しながら過ごせるのだ。それを思うと自然と顔が綻んでしまう。
思い描いていた夢がかないました。ああ、大母ダナシア様、私、今とても幸せです。




