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群青の空の下で  作者: 花 影
第3章 ダナシアの祝福
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22 姫提督の挑戦2

 翌年の春、エルフレートは念願がかなってエヴィルを訪れていた。彼を筆頭に昨年エヴィルから帰還した元部下2人を含む5人を同伴し、この国で世話になった人達へのお礼を伝えると言う名目で非公式な訪問が実現したのだ。

「ようこそおいで下さいました」

 着場で一行を出迎えたのは、この国の外相を務めているブランカの祖父だった。そしてブランカからの手紙では、今回、2人の婚礼に一番反対している人物でもある。内心ビビリながらも、滞在中にブランカへ正式に求婚する予定のエルフレートは神妙に頭を下げる。

「わざわざのお出迎え、ありがとうございます」

「お疲れでしょう。どうぞこちらへ」

 非公式な訪問であるが、国主の個人的な客扱いとなっているので、一行は城に滞在する事になっている。夜には私的な晩餐に招かれているので、それまではそれぞれあてがわれた部屋で自由に過ごすことになっていた。

「ふう……」

 客間で1人になると、エルフレートは懐に入れておいたブランカからの手紙を取り出す。冬を挟んだので頻繁にやり取りは出来なかったが、それでも互いの近況を伝え合って来た。彼が手にしているのは春になって届いた最新の手紙。それによると、両親からはエルフレートとの婚姻自体は反対されなかったが、提督という身分をどうするのかよく考える様に言われたらしい。祖父である外相が反対しているのもこの手紙で知った。

 国主の後押しで彼女は提督に任命されたが、実は未だにそれをこころよく思わない人間もいる。今ここで辞めてしまえば、彼女だけでなく一族も後押しした国主も信用を失いかねない。エルフレートが婿入りするのが最良だと思われるのだが、タランテラの情勢を考慮すれば今すぐに実現させるのは難しいかもしれない。

「ブランカ……」

 思い出すのは半年前に共に一夜を過ごしたあの光景だった。幾度も思い返し、そして届いた手紙を擦り切れるまで読み返して彼女への想いを募らせた。そして半年かけて導き出した答えがある。

 ブランカにはあった時に直接相談しようと思い、まだ手紙では触れていない。今夜の晩餐会には彼女も出席するので、後に時間を作って直接話をしようと考えていた。半年間焦がれた相手にもうすぐ会えると思うと、時間の流れがやけに遅く感じた。




 侍官が晩餐の時刻が来たと知らせに来た。既に竜騎士礼装に着替えていたエルフレートは、その侍官の案内の元、他の同行者たちと共に晩餐会場へ向かった。

「よお、来たの」

「国主会議の前の忙しい時期にお招き、ありがとうございます」

 会場にほど近い控えの間で国主が一同をにこやかに出迎える。気さくな人柄なのは分かっているが、それでも相手に敬意を表して深々と頭を下げた。

「皆、揃っておる。我らも参ろうか」

 国主直々の案内で通されたのは国賓を歓迎する時に使う晩餐会場。招待客は既に全員揃っており、国主がと共に一同が入室すると、彼等は起立して彼等を迎えた。

「随分、大掛かりだな」

 礼装を着用して正解だったと思うと同時に、ここまでするのは何か裏があるのだろうかと警戒する。当然のことながら客であるエルフレートらは国主に近い席が用意されており、ざっと会場を見渡すと、末席にブランカの姿がある。

 離れているので会話ができないのは残念だが、半年ぶりにその姿を認めて安堵する。それは彼女も同じ様で、目が合うと少しだけ表情がほころんでいた。

「新たに育まれたタランテラとの絆に乾杯」

 エルフレートの杞憂とは裏腹に晩餐会は終始和やかだった。近隣の席にいる国主やその家族と談笑し、気付けば終わりを迎えていた。国主にもてなしを感謝し、御前を辞してブランカと落ち合おうと思っていたのだが、呼び止められてしまった。

「この後、少し飲まんかね?」

 国主からの誘いを断れるはずもなく、エルフレートは承諾して促されるまま国主の私的な部屋へと案内される。元よりそのつもりだったらしく、既に酒肴の準備が整えられていた。

「私的にもてなすつもりだったが、思った以上に大掛かりとなって済まなかったの」

「いえ、驚きましたが、何かありましたか?」

「そなたの方が良く知っておろう?」

 国主の口ぶりから既に2人が結婚の意志を固めていることが広まっていることに気付く。

「ブランカとの婚姻ですか?」

「そうじゃ。外相が反対しているのは聞いておろう? あれが不満を漏らしてしまったものじゃから、あっという間に広まってしまった。もちろん、あの娘に反感を抱く者達の耳にも入っておる。

 そなた達の思惑とは異なり、あの娘の提督位をどうするかで勝手に議論が始まってしまっておる。まだ危害が及ぶと決まった訳ではないが、安全を考慮してそなたを公式にもてなす事に決めたんじゃ」

「そうでしたか……ご迷惑をおかけしました」

「いや、そなたが謝ることではあるまい。慎重に事を進めるつもりだったのは聞いておる。逆にその思惑をこちらが壊してしまった事を謝らねばならない。好きあった者同士を祝福してやらねばならんのに、難儀な事じゃ」

 国主は顔を顰めると、杯の中身を飲み干した。

「……一応、考えていることはあります。まだ、彼女と相談していないのでここでは話せないのですが……」

「そうかね? では、話がまとまったらまた聞かせてもらおうかの」

「はい」

 エルフレートが承諾すると、忙しいらしい国主は席を立つ。そして部屋に戻るように言いおいて、部屋から出て行った。

 エルフレートもその姿を見送ると、侍官の案内で部屋に戻るが、無人のはずの部屋の中から灯りが漏れている。そして中からは良く知る人の気配を感じる。その場で侍官に朝まで人払いを頼み、中に入ると再会を強く願っていた女性の姿があった。相変わらず男前ないでたちをしているが……。

「ブランカ!」

「エルフレート!」

 半年ぶりに再会した恋人達はしっかりと抱き合い、唇を重ねた。




 高まる欲望のまま寝台になだれこみたい衝動を抑え、エルフレートとブランカは手をつないだまま並んでソファに座った。念のため人払いをしてあるが、情報が広まっている現状ではどこで誰が見張っているか分からない。うかつな真似は避けておいた方が無難だろう。

「お祖父様が済まない」

「君が謝ることじゃないさ」

「でも……」

 気丈そうに振る舞っているが、精神的にはかなり参っているのだろう。エルフレートは彼女の肩に手をまわし、そっと抱き寄せた。

「やはり提督の地位を返上するのは止めておいた方が良さそうだな」

「……」

「心配するな。うちの両親は家を出ることに反対はしていない。すぐには無理だが、いずれはエヴィルに籍を移す」

「本当に?」

「ああ。だが、さっきも言った通り、すぐには無理だ。今、タランテラ騎士団の再編の最中で、こんな私でも必要だと言われている。指揮官が圧倒的に足りないんだ」

「そうか……」

 タランテラの人手不足……特に1大隊が壊滅した騎士団は、深刻な状態が続いている。傭兵を雇い、更には国主も先頭に立って討伐に出ることでどうにか保たせてはいるが、この状態をいつまでも続けてはいられない。若い竜騎士を育てているが、彼等が一人前になるにはもう数年はかかりそうだ。

「そこで陛下に指南役を申し出た。若い竜騎士を鍛え、指揮官を育てる。楽な仕事ではないが、いつ発作が起きるか分からない状態で前線に立つよりもいい。それに、これなら団長職でいるよりも君に会いに来る時間も作れる」

「エルフレート……」

「結婚しよう、ブランカ。当面は年に1度しか会えないけれど、それでも私は今すぐにでも君を妻と呼びたい」

 エルフレートの熱い想いが伝わり、ブランカは彼に抱きついた。彼がそんな彼女の頭をそっと撫でると、少し潤んだ目で見上げられる。

「私も、会いに行く。昨年、タランテラに行ったときに、交易面で色々調査させていただろう?」

「ああ」

 昨年の即位式の前、早めにタランテラ入りしたエヴィルの一団は、タランテラ側と協力して今までカルネイロ商会が独占していたマルモアを中心とした交易の実態を調べていた。

 秋以降、ロベリア以北の外海は荒れるので、リラ湖を経由した川船での輸送が中心となるのだが、彼等は果敢にもマルモアから外海に出て直接タルカナに向かっていたらしい。その情報を聞いたエヴィルの船乗り達は、負けん気を発揮してその航路を見つけ出そうと躍起になっているらしい。

「当面、私の艦隊がその役目を引き受ける事となった。見付けた後は航路が定着するまで商船の先導もする。秋のわずかな期間だが、タランテラに居られる」

 無論、艦隊を放り出すわけにはいかないので、始終一緒に居られるわけではないが、共に過ごす時間を捻出する事は出来るだろう。

「そうか……だが、無理はしないでくれ」

「大丈夫。冬の荒れた海で妖魔を討伐するんだ。うちの連中は少々荒れたくらいではものともしないさ」

 誇らしげに胸を張って答えるブランカの姿にエルフレートは苦笑する。昨年、思いを遂げた翌日に彼女を本宮まで送り届けると、彼女の部下達から手洗い洗礼を受けたのを思い出したからだ。

 ブランカは止めようとしたがエルフレートが制し、1対10で殴り合いとなった。もちろんエルフレートが勝利し、彼等に認められたわけだが、要はそれ程彼女は部下に慕われているのだ。余談だが、後になって本宮で騒ぎを起こしたとして厳しい罰を受けたのは彼女には内緒にしている。

「だったら、近いうちにご両親に挨拶したい。時間は取って頂けるだろうか?」

「反対しているのはお祖父様だけ。きっと喜んで会ってくれる」

「そうか。でも、その外相殿にも話は通したい。協力してくれるか?」

「勿論だ」

 2人の方針が決まり、心が軽くなったせいか、いつもの男前なブランカが戻っている。そんな彼女も愛おしいエルフレートは、彼女の頬を両手で包み込むと唇を重ねた。




 その翌日、ブランカは速攻で彼女の両親と会う約束を取り付けてくれた。竜騎士正装に身を包んだエルフレートは彼女の自宅におもむくと、2人に神妙な面持ちで彼女への求婚を申し出た。

当面は通い婚となる事を丁寧に説明すると、彼女の両親は意外なほどあっさりと了承してくれた。そこまでして求められる娘は幸せだと逆に感激していたくらいだった。

 残るは祖父。面会を申し込もうにものらりくらりとはぐらかされてなかなか取り付けない。困った彼等は先に国主に報告する事となった。

「お忙しいのに申し訳ありません」

「いやいや、構わぬよ。その様子だと、良い答えが見つかったようじゃの」

 並び立って報告に来た彼等の表情から察したらしい国主は満足そうな笑みを浮かべている。

「はい」

 エルフレートは頭を下げると、早速2人で決めた通い婚の概要を説明する。最初は驚いた様子だったが、それでも共に国を離れられない現状では最良の策なのだと納得してくれたようだ。

「で、あの頑固じじぃは納得したのか?」

 茶化す様に問われ、ブランカは俯く。

「お祖父様は会っても下さいません。お忙しいのかもしれませんが、ほんの少しでも話を聞いて下さるといいのですが……」

「ふむ……」

 ブランカの答えに国主は思案する。そして侍官を呼び出すと、何か小声で指示を出した。

「全く、往生際の悪い奴じゃ。呼びつけたからもうじき来るじゃろう」

「陛下……」

「何、いらぬ重荷を背負わせてしまった詫びじゃ。じゃがの、そなたの提督としての資質は本物じゃ。誰が何と言おうとも胸を張っていなさい。最良の伴侶も得られることじゃしの」

「……ありがとうございます」

 国主の言葉にブランカは声を詰まらせる。そんな彼女の肩をエルフレートは優しく抱いて慰め、その様子を国主は満足そうに眺めていた。

 やがて、侍官が外相の来訪を知らせる。緊張の面持ちで若い2人は居住まいを正し、国主は余裕の表情でふんぞり返った。

「どういう事ですかな、陛下?」

 外相は2人の姿を認めて明らかに不機嫌となった。

「答えを用意し、筋を通そうとした2人にそなたが会おうとしないからじゃろう。既にわしは2人の婚姻を許可した。そなたがどうあがこうともうくつがえることは無い。そなたもきちんと話を聞いて、若い2人を祝福してやれ」

 そう言うと、国主は部屋を出て行ってしまった。外相と若い2人だけとなり重苦しい空気が漂うが、やがて根負けしたように深いため息をついた外相は2人に向き直った。

「では、聞かせてもらおうか。そなた達が出したという答えを」

 自棄になってか、先ほどまで国主が座っていた席に彼はどっかりと座り込んだ。エルフレートとブランカは一度顔を見合わせると、互いにうなずき合ってから彼等が出した答えを伝える。国をまたいだ通い婚という結果に渋い表情を浮かべていたが、いずれはエルフレートがエヴィルに籍を移すという結論に納得し、非常に不本意そうにしながらも最終的には結婚を認めてくれたのだった。




 ブランカは試練に耐えていた。城の一室、侍女達に全身くまなく磨きをかけられている最中だった。

 エルフレート達タランテラ一行の滞在最後の夜に国主主催の夜会が開かれることになったのだ。国主の提案でエルフレートとの婚約が調ったことをこの場で公表するのに異論はなかった。ブランカがすんなり了承すると、エルフレートが着飾って出て欲しいと言い出したのだ。

 公式の場には常に軍の正装、礼装をまとうブランカはドレスの類を持っていない。それを理由に断ろうとしたのだが、エルフレートは母親から預かってきていると言い出したのだ。優しい笑みを向けられれば断り切れず、結局了承してしまっていた。

 国主はそれならばと城の一室を彼女の支度部屋として用意し、口の堅い経験豊富な侍女を手配してくれたのだ。

「まあ、ブランカ様、良くお似合いですよ」

 エルフレートが持ち込んだのは昨年タランテラで着たのと同様締め付けが少なく楽に着られるドレスだった。繊細なレースがふんだんに使われており、エルフレートの話では彼の母親がこの日の為に1年がかりで用意させていたらしい。

 長い冬を有効に利用して発展したタランテラの手工芸品はエヴィルでも人気がある。特にレース製品は女性の憧れとなっており、今回のこのドレスは注目を浴びるに違いない。

「ふう……」

 姿見に映る自分の姿を見てため息を漏らす。綺麗に仕上げてもらえたとは思うのだが、果たして自分に似合っているのだろうか? こんな格好をして笑われはしないか不安になっていた。

「エルフレート卿がお見えになられました」

 ブランカが硬い表情のままうなずくと、竜騎士礼装に身を固めた彼が部屋に入ってくる。彼女の姿に感嘆すると、そのまま近寄って彼女を抱きしめる。

「綺麗だ。良く似合うよ」

「そうかな? おかしくないか?」

「どこから見ても立派な淑女だよ」

「そうかな?」

 恋人に褒められれば悪い気はしない。頬を染めてはにかむ姿を控えて居る侍女達は温かい目で見守っている。

「ブランカ、仕上げにこれを」

「え?」

 エルフレートが懐から出したものを見て彼女は固まる。彼はそんな彼女の首に取り出した大粒のダイヤモンドが連なる首飾りをかけた。

「うちに代々伝わる物らしい。私が受け継いで君に渡せと持たされた。私個人からはこっちだ」

 仕上げに付けられたのは首飾りと対となるようにデザインされたダイヤモンドの髪飾りだった。金の台座とダイヤモンドのきらめきが彼女の銀髪に映えて美しい。姿見に映る彼女の姿は華やかさを増していた。

 そこへ侍官が2人を呼びに来る。彼はエルフレートに手を取られて姿を現したブランカの姿に絶句して固まっていた。

「では、行こうか」

「うん」

 我に返った侍官の案内で広間に向かう。今日の主役の扱いとなっているので、国主以外の招待客は既に会場入りをしている。2人の名前が告げられて注目を浴びる中、2人が姿を現すと会場はシンと静まり返った。そして一拍の間を置いてから絶叫が響き渡った。

 招待客の中にはブランカとの縁談を断った相手も複数いるのだが、彼等は彼女が女らしくない事を断った理由の一つに挙げていた。見返してやりたいと思っていたエルフレートは、この反応に満足していた。

「おお、皆揃っておるの」

 そこへ上機嫌の国主が姿を現した。動揺が治まらない中、彼はエルフレートとブランカに歩み寄った。

「ここで喜ばしい報告をしたい。こちらにおられるタランテラの竜騎士エルフレート卿と我が国が誇る姫提督ブランカの婚約が調った。若い2人の門出を皆で祝おうではないか」

 国主の報告を受けても最初の衝撃から立ち直れていない一同からは異論も上がらなかった。そして宴はどこかざわついた雰囲気が治まらないまま終わったのだった。



「秋にはまたタランテラに行くから」

「うん。待ってる」

「気を付けてね」

「ああ」

 翌朝、出立するエルフレートをブランカはいつもの軍装で見送っていた。婚約を正式公表したことで最後の夜は共に過ごすことが出来たが、余計に別れ辛くなっていた。それでもエルフレートはこれから国主会議に向かうエドワルドと合流し、婚約の首尾を報告する義務がある。最後に軽く抱擁を交わすと、相棒の背にまたがった。そして見送りの一同に目礼を送ると、飛竜を飛び立たせた。




 ロベリアの港にエヴィルの船が入港してくる。船員が慌ただしく作業する様を少し離れたところでエルフレートは眺めていた。

「父様!」

 小さな子供が2人駆け寄ってくる。似たような背格好から双子なのだろう。彼等はエルフレート目掛けて勢いよく抱き付いてきた。

「おっと……。相変わらず元気だな。母様は?」

 同時に飛び込んで来た2人を彼は難なく受け止め、抱き上げると左右の肩にそれぞれを乗せる。

「あっちー」

 右の肩に乗る女の子が停泊している船の方を指さす。

「兄様がね、気持ち悪いだって」

「そうか」

 左肩に乗る男の子の報告にエルフレートは苦笑する。そのまま女の子が指を刺した方角に歩いていくと、愛しい妻の傍らに7歳になる長男が座り込んでいた。彼はエヴィルの生まれなのだが、どうも船と相性が悪い。今回の船旅でも酔いがひどかったのだろう。随分と青い顔をしている。

 やはり昨年提案した通りこのままタランテラに残して竜騎士への道を進んだ方がこの子の為になるだろう。賑やかに話しかけて来る双子に適当に相槌を打ちながらよく似た母子に近づいていく。

「ブランカ」

「エルフレート」

 エルフレートは双子を肩から降ろすと久しぶりに会う妻と抱擁を交わす。婚約の翌年に結婚した2人は8年経っても互いの国を行き来する生活を送っていた。慣れてしまったのもあるが、討伐期の長いタランテラにおいては、竜騎士が家族と過ごせるのは夏場だけというのも珍しくはない。周囲の助けもあってなんとか離れ離れの生活を無事に過ごしてきていた。

 だが、エドワルドの即位10周年を機にエルフレートは籍をエヴィルに移す決意をした。それでも彼の指南を望む声は多く、両国を行き来する生活はまだまだ続くことになりそうだ。

「立てるか?」

「うん……」

 座り込んだままの長男を助け起こす。今日はこれから、10日後に迫った即位10周年の式典が開かれる皇都へ向かう。そこではエルフレートの両親が嫁と孫に会えるのを楽しみに待っていた。

「では、行こうか」

「父様、抱っこ!」

「僕も!」

 元気な双子が抱っこをせがんでくる。エルフレートは2人を抱え上げると、再び肩に乗せる。エルフレートもブランカも双子のはしゃぐ声を聞きながら久しぶりに揃った家族と過ごす幸せをかみしめていた。


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