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群青の空の下で  作者: 花 影
第3章 ダナシアの祝福
146/156

19 愛のカタチ1

 コリンシアの侍女として皇都に移ったイリスは、毎日が目まぐるしく過ぎていた。普段は部屋をたまわっている本宮北棟に住み、コリンシアの身の回りの世話をし、数日に一度、大神殿に赴いて女神官のお勤めを果たす生活を送っている。

「はぁ……」

 今日はそのお勤めの日なのだが、いつもと異なり身が入らない。実は今日、彼女の主であるコリンシアがマルモアへ1泊の予定で出かけている。マルモアを視察するワールウェイド公にティムが同行し、正神殿で相棒となる飛竜を探すのが目的だったのだが、彼に恋する姫君は一緒に居たくて同行を強く希望し、娘に甘いエドワルドがそれをゆるしたのだ。

 本来なら側仕えの彼女が同道するべきなのだが、急な話の上に元より決まっていたお勤めの日と重なってしまった。親とも女神官としての務めを疎かにしないと約束して皇都に出てきているので、仕方なくお勤めを優先したのだ。そしてフレアや側仕えの侍女達と話をした結果、姫君にはオリガが付き添い、護衛としてルーク隊が同行することが決まった。

 ルーク隊には結婚を前提にお付き合いをしているラウルがいる。なかなか会う機会が無いので、一緒に行きたかったというのが本音だった。

「イリス女神官、お客様ですよ」

 時間の進みが遅く感じる中、ようやく最後のお勤めが終わったところで同輩の女神官に呼び止められる。外で待っているという伝言を受けると、彼女は急いで支度を整え、上役の神官に挨拶を済ませて外に出た。

「ラウル様」

 神殿前の広場の隅にラウルが所在なく立っている。イリスは荷物を抱えて彼に駆け寄った。彼は息せき切ってかけて来る彼女の姿を目に留めると破顔して応じる様に手を上げた。

「マルモアに行かれたのではないのですか?」

「うん、さっき戻って来た」

 どうやら今日の成果をいち早くエドワルドに伝えるために戻って来たらしい。アスターやルークからそのまま休暇を取れと言われ、北棟を統括するオルティスからも了承を得てイリスを誘いに来たらしい。

「これ、奥方様から」

 恐れ多くもフレアから直筆の手紙を預かって来てくれているらしい。広場の片隅にあるベンチに腰を下ろして広げてみると、コリンシアが戻る明日の夕刻までは自由に過ごしていいとある。彼と楽しい時間を過ごしてきなさいと締めくくられていた。

「なんだか、恥ずかしいね」

「うん……」

 ここまで周囲にお膳立てされてするデートは何だか気恥ずかしい。イリスは頬を染めて読み終えた手紙を片付けた。

「とりあえず出かけようか」

「うん……」

 内乱が収束して以来続いていた皇都のお祭り騒ぎは未だに続いており、即位式が近づくにつれて規模は拡大して更には夜通しで行われるようになっていた。明日の夕刻までおよそ1日ちかくあるが、現在遠距離恋愛の2人にとってなかなかこんな機会は巡ってこないので時間が惜しい。2人はラウルの馬に相乗りして賑やかな街中に出かけた。




 本宮を中心とした中枢区画を区切る第1の城門を抜け、商店が立ち並ぶ区画に来る頃には日が傾いていた。かがり火が用意されている広場にはまだ多くの露店が立ち並んでいる。

 飲食店を中心に装身具や日用雑貨。タランテラ各地から集まって来た特産品も並んでいる。馬を預けた2人は人込みではぐれないよう手をつないで歩いていた。

「あ、これかわいい」

 イリスは露店に並んでいたレース飾りに目を留める。女神官ということもあって彼女自身はこういったものをあまり身に付けないが、見て歩くのは好きだった。そんな様子をラウルはニコニコと眺めている。そして装身具を扱う露店をいくつか冷やかして歩き、その流れでラウルは一軒の店へと彼女を連れて行く。

「ここって……」

 閉店間際らしく、他に客はいない。上品な内装から一目で高級品を扱う店だと分かる。戸惑う彼女を促してラウルは出迎えた店主に近づいていく。

「お待ちいたしておりました。どうぞ、こちらに」

 どうやら予約していたらしい。奥の座り心地の良い椅子に並んで腰かけると、目の前のテーブルには数種類の宝飾品が置いてある。

「あの、ラウル様?」

「即位式が終わればまた離れ離れになるから、婚約の証に何か身に付けていて欲しいんだ。さすがに殿下が奥方様に贈ったような国宝級の物は無理だけど」

「でも……」

「本当なら気の利いたものを予め買っておいて、景色の良いところで渡す方がかっこいいんだろうけどね。せっかくだから君の気に入ったものを選んで」

 戸惑うイリスが傍らのラウルを見上げると、いつもと異なりどこか余裕がない。実はイリス本人は気付いていないが、本宮の文官武官を問わずに人気があった。それを知っているラウルには焦りがあり、自己満足かもしれないが結納の品となる物を贈ろうと思ったのだ。

 そんな話をしている間に首飾りや指輪が並べられる。店主がそれぞれの説明をしてくれるのだが、イリスにとってはどれもが手に取るのも躊躇われる品ばかりで固まってしまい、耳に入ってこない。

「お伺いしているお話からお勧めさせていただきますと、指輪よりも首飾りの方がよろしいかと思います」

 戸惑いを隠せないイリスに店主は笑みを絶やさずそう勧めてくれる。目の前には小さな宝石で花を象ったものや装飾を抑えたオパールの首飾り、真珠のネックレスが残った。

「気に入ったのがある?」

「どれも素敵で……」

「実際に付けてみられますか?」

 店主がそう勧めるとイリスはぎこちなくうなずいた。順に試着していくのだが、彼女は姿見の前で緊張の面持ちで固まったままになっている。そんな彼女を尻目に少し余裕が出て来たラウルは清廉な女神官の彼女には真珠が良く似合うけど、オパールも捨て難いなどと1人で葛藤していた。

「どう?」

「……」

 極度の緊張から既に放心状態になっているイリスはもう選ぶどころではなさそうだ。ラウルはどうするか迷った挙句、オパールを手に取ると彼女の首にかけた。

「これが良く似合っていると思うんだけど、どう思う?」

「うん……」

 これで同意は得られた。ラウルは店主にこれに決めたと伝えて代金を支払い、もらったばかりの結納品を首にかけたまま、まだどこか呆然としている彼女を促して店を出た。




 店を出ると既に日が沈んで外は暗くなっていたが、近くの広場からはまだ露店の賑わいが続いている。ラウルはイリスを馬に乗せると住宅街に向かい、やがて美しく庭が整えられている瀟洒しょうしゃな一軒家に着いた。

 着いたのはラウルの実家。彼はひらりと馬から降りると、続けて降りるイリスに手を貸した。あらかじめここへ来ることは聞いてはいたが、それでもイリスは緊張で体が強張っている。地面に降りた折にバランスを崩して倒れそうになるが、ラウルがそのたくましい腕で抱きとめた。

「すみません」

「大丈夫? もしかして緊張してる?」

「少し……」

「さっきも言った通り、うちの親は留守にしているから心配しなくて大丈夫だよ」

 ラウルはそう言って肩を抱くと額に口づけた。そこへ玄関の扉が開いて年配のちょっといかつい感じの男性が出て来る。

「お帰りなせぇ、坊ちゃま」

「ただいま……って坊ちゃまは止めてくれ」

 口調からしてアイスラー家に長く使えている使用人なのだろう。その男性はイリスの姿を目に留めると、そのいかつい風貌からは信じられないほど無邪気な笑顔を向けて来る。

「イリス、彼はうちの親が留守中この家を管理してくれているグンター。親父の元部下なんだ」

「は、始めまして」

「これは可愛らしい。しかし、旦那様より先に会っちまって何だか申し訳ないなぁ」

「仕方ないだろう。帰ってこないんだから」

 ラウルの両親は仕事で留守をしているのは聞いている。心の準備もなくいきなり会わずに済んで良かったが、かえって彼等が居ない間にお邪魔することに罪悪感も感じていた。

「あんた、坊ちゃまとお客さんをいつまで外に立たせておくつもりだい?」

 今度はなかなか迫力のある年配の女性が出て来る。口ぶりからどうやらグンターの奥さんらしい。

「お、すまねぇ。馬はお預かり致しますんで、坊ちゃまもお嬢さんも中にどうぞ、どうぞ」

「ああ、頼むよ」

 ラウルは馬をグンターに託すと、イリスを促して家の中に入っていった。




「長々と外に立たせてしまって済まなかったねえ」

 デボラと名乗った迫力のある女性は、やはりグンターの奥方だった。彼女は2人の為に夕食を用意して待っていてくれたらしい。促されるまま席に着くと、馬の世話を終えたグンターも入ってきて4人で食卓を囲む。

「さあさ、たくさん食べてくださいな」

 テーブルには湯気の立つ家庭料理が並んでいる。4人で食べるにはいささか量が多い気がするのは、体が資本の竜騎士が居るからだろう。デボラは自分が食べるのは二の次で、ラウルやイリスにせっせと取り分けている。

「それにしてもこんなに可愛らしい方がお嫁さんになってくれるなんて、坊ちゃまは幸せですねぇ」

「だから、坊ちゃまは止めてくれ」

 既に2杯目のエールを空にしたラウルは顔を顰めると、既にほろ酔いのグンターは追い打ちをかける。

「坊ちゃまは坊ちゃまだ」

「……」

 憮然として3杯目を飲み干したラウルの姿に、ようやく緊張が解けたイリスはクスクスと笑った。

「……そういえば、親父はともかくお袋から何か連絡あったか?」

「旦那様が熱入ってしまっているから、まだ当分帰れないですって」

「そうか……。相変わらず頑固だな」

 半ばあきらめた様にラウルはため息をついた。

「まあ、奥様が側にいれば大丈夫でしょう」

「うまく舵取りをしてくれるといいんだがな」

 3人の会話に入り込めないイリスが黙って話を聞いているのに気付き、ラウルは肩をすくめて事情を説明してくれる。

「親父が第1騎士団配下の騎馬兵団の副団長だったのは前に言ったよね?」

「はい」

 ラウルの問いかけにイリスは素直にうなずいた。ついでにアイスラー家が過去に何人も竜騎士を排出した騎士の家柄なのも結婚を申し込まれた後に教えてもらっている。

「内乱の時にうちはグスタフに従わなかった。その為、親父は第7騎士団へ、俺は第5騎士団に左遷となった。元々親父付きの補佐官だったお袋は、親父が左遷させられた後、半ば人質として皇都に慰留。グンター達はお袋を守る為にここに住み込んで使用人のまねごとをしてもらっていたんだ。

 殿下が復権されて帰還できることになっていたんだけど、『近頃の若い者は基本がなっておらん。ワシが鍛え直してやる』と、今は団命無視で第7騎士団に居残っている。お袋はそれが心配で後を追っかけて行ったんだ」

「お母様はお父様の事を愛しておられるのですね」

 イリスの感想に他の3人は微妙な表情を浮かべて顔を見合わせる。

「いや、あの2人に恋愛感情はないな」

「無いですね」

「同感です」

 イリスは3人の答えに目を瞬かせる。

「元々、親父もお袋も結婚するつもりは無かったらしいが、あまりにも周囲がうるさいから手っ取り早く身近にいる相手を互いに選んだと聞いている。共に長年、妖魔相手に死線をかいくぐって生きてきたせいか、側で見ていると夫婦というよりも同志と言った方が正解な気がする」

「ラウル様は寂しくないのですか?」

「一応、親としての愛情は注いでもらったと思っている。まあ、2人がそれで幸せなら今更俺が口を挟む事ではないかな」

「……そうですね」

 余計な心配だったと反省し、イリスはうつむいた。だが、ただ自分の事を心配してくれているのが分かっているラウルは、隣に座る心優しい婚約者を片腕で抱き寄せてその額に口づけた。

「はいはい、お2人の仲がいいのが分かりましたから、その辺で離して差し上げて下さいな。坊ちゃまの力でお嬢様が折れてしまいますよ」

「だから坊ちゃまはやめろって!」

 湿っぽいような微妙な空気をデボラが明るく吹き飛ばす。その後は話題を変え、和やかな空気のまま夕食を終えた。




 イリスに用意されたのは優しい色合いの調度品で揃えられた1階の客間だった。泊りでお勤めをすることもあり、大神殿から与えられている居室から彼女は一通りの着替えを持ち出していた。夜着に袖を通し、今日もらったオパールの首飾りを眺める。蝋燭ろうそくの灯りできらめくその美しさはいくら眺めていても飽きそうにない。正直、まだこれが自分の物だと実感も湧かないのだが……。

 夜も更けて来たのでそろそろ休もうかと灯りを消して寝台に横になる。だが、初めてラウルの家にお泊りしている緊張感からかなかなか寝付けない。何度も寝返りをしながら寝る努力をしていると不意に大きな音がする。

 

ドカッ! ガッチャーン!


「な、何?」

 驚いたイリスは飛び起きた。寝台の上で震えていると、何やら言い争っている声が聞こえる。中の1人はどうやらラウルの様で、珍しく怒りを露わにしている。彼女は寝台の脇に置いていた薄手の上着を羽織り、そっと部屋の扉を開けた。

「何考えているんだ、この馬鹿親父!」

「おうおう、親に向かってなんだその口の利き方は?」

「自分がしでかした事をよく見てから言え」

 暗がりの中、手さぐりで廊下を進み、居間に向かう。灯りを落とした部屋の中、目を凝らしてみると、2人の男が対峙していた。暗がりでも片方はラウルだとすぐに分かった。一方、対峙している相手は彼よりも小柄な男性で、腰に手をあててふんぞり返っている。

「あらあら……。旦那様、お帰りなさいませ」

 そこに手燭を手にしたデボラが反対側の廊下から居間にはいってくる。彼女は手早く部屋の灯りを付けていき、そこでようやく部屋の惨状が明らかになった。居間に置かれていたテーブルとソファが無残に壊れ、テーブルの上に飾られていたはずの花瓶も割れて床に散乱している。そして小柄な男は、どういう訳か外れて床に倒れている玄関の扉を踏みつけていた。

「アレはまだ着いていないじゃろう? 今回はワシの勝ちじゃ」

 話の流れからするとこの人がラウルの父親なのだろう。袖のないシャツにひざ丈のズボンをはいているのでとても騎馬兵団の副団長を勤めている人物とは思えないのだが、非常に筋肉が発達しており、グンターよりもいかつい顔をしている。

「また奥様と競争ですか?」

「そうじゃ。ワシの勝ちじゃ」

 男は勝ち誇って胸を張っているのだが、一方のラウルはその姿に呆れた様子で見ている。

「どうでもいいけど、これどうするんだよ?」

「どうでもいいとは何じゃ! ワシとアレの神聖な勝負だぞ!」

「時と場所をわきまえろ。それに鍵のかかった扉を蹴破る事ないだろう」

 この騒動で近所からも人が出て来て何事かと様子を伺っているらしく、外が騒がしい。確かに、夜も更けたこの時間にこの騒ぎは近所迷惑だ。

「何じゃと!」

 激昂した彼は息子に詰め寄る。そんな親子を尻目にデボラは慣れた手つきで片づけを始めている。手伝った方がいいだろうか悩んでいると、人の気配を感じたらしい男が振り向いてバッチリ目が合った。

「む、不審者め!」

「あ、違う、待て!」

 ラウルが止める間もなく男が間を詰め、その恐ろしさにイリスは腰を抜かして尻餅をついた。


ゴツ!


 腕を掴まれそうになって目をつぶる。すると何か固いものがぶつかる音がする。恐る恐る目を開けてみると、目の前にラウルの父親が白目をむいて倒れていた。近くに木の置物が転がっており、どうやらこれを投げつけられたらしい。

「大丈夫かい?」

 顔を上げると背の高い女性が立っていた。兵団服を纏い、腰に剣を下げている。笑いかけて来るその顔はどこかラウルに似ている。

「お袋」

「脇が甘いわよ、ラウル。この子があんたの大事な娘だろう? ちゃんと守ってやらないとだめじゃないか」

 壊れたソファの残骸を乗り越えてラウルが近寄ってくる。そんな彼を女性は一睨みするが、それを無視してイリスの側に跪く。

「親父がゴメン。大丈夫か?」

 問いかけにうなずくものの腰が抜けて立ち上がれない。気付いたラウルはそんな彼女をそっと抱き上げた。

「イリスさんだったね? 私はノーラ。この不肖の息子の母親だ。で、ここで伸びているのが父親のアンドレアス。それにしてもうちのが悪かったね。こんなかわいい娘を不審者と間違えるなんて。きっと脳みそまで筋肉になっちまったんだよ」

 どう答えていいのか分からず、イリスは曖昧にうなずいた。抱き上げてくれているラウルの服をギュッと掴んだ手はまだ震えている。

「怖い思いをさせちまって悪かったね。今日はもう遅いから、朝になったら改めて挨拶と詫びをさせてもらうよ。グンター、デボラ、とりあえず大雑把に片付いたら今日はいいよ。残りは自分でさせる」

 そういうと、ノーラは伸びたままのアンドレアスの襟首を片手でつかんで引きずって行く。そしてそのままソファの残骸を乗り越えて階上へと上がっていった。

「デボラ、ごめん。彼女に何か飲み物を頼む」

「ええ、ええ、ちょっとお待ちくださいな」

 とっさに断ろうとしたのだが、ラウルは彼女をさっさと客間に連れて行き、置いてある椅子に座らせる。それからほどなくしてデボラは安眠効果のあるハーブティーを用意してきてくれた。

「すみません……」

「お嬢様が謝ることは無いんですよ。全ては旦那様が悪いんです」

 デボラは笑いながらハーブティーの茶器を手渡してくれるが、目は笑っていなかった。これからあの惨状の後片付けがあるのだから無理もないだろう。忙しい彼女は後をラウルに任せて部屋を出て行った。

「それにしても本当にゴメン」

 お茶を飲む様子を見守っていたラウルが頭を下げるが、そもそも不用意に様子を見に行った自分も悪いのだ。そう伝えると彼は深くため息をついた。

「あんなのが親父でびっくりしただろう? 普段はそうでもないんだけど、お袋と勝負を始めると見境が無くなるんだ」

 寝台の傍らで跪く彼は項垂れている。きっと、こんなことは今までにも何度かあって、彼等はその後始末に奔走してきたのだろう。イリスは空になった茶器を傍らのテーブルに置くと、宥める様に彼の肩にそっと手を置いた。

「ラウル様、じゃあ、もうちょっと一緒に居てもらっていいですか?」

「女神官様のお望みのままに」

 ラウルは肩に置かれた手を取ると、その甲にそっと口づけた。実は婚礼を上げるまで同衾はしないと固く心に誓っているのだが、そんなラウルには深夜に密室でイリスと2人きりとなっているこの状況は試練だった。それでも彼は沸き起こる欲望を必死に抑え、彼女の気が済むまで話に付き合った。


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