13 国主の資質
「内乱で荒れたこの国をまとめ上げたのは叔父、エドワルド・クラウスの功績です。次代の国主に相応しいのは彼以外に考えられません」
「平穏が戻ったこの国に今後必要なのは経済だ。財務に詳しい我が姪のアルメリア・レオナこそ国主として立つにふさわしい」
皇都に帰還して3日後、イヴォンヌが起こした事件の後処理の為に予定より1日遅れて国主選定会議が開かれた。慣例通り、会議の冒頭では対象となる候補の長所が披露されるのだが、今回は候補が互いに相手を推薦すると言う過去に例のない事態となっていた。
「今必要なのは指導力です。この国の名だたる方々に支持されている叔父上が国の主として立つべきです」
「指導力という点ならそなたも負けておるまい。私の救出作戦の前に飛ばした激は、皆感銘を受けたと聞く」
「あの時は叔父上を救うと言う共通の目的があったからこそ、私でもどうにかまとめる事が出来たのです。国の運営となると、私ではまだまだ力不足。様々な才に長けた方々をまとめ上げるのは不可能でしょう」
「自分を冷静に判断できるなら問題ないだろう」
「単純に私よりも経験と実績のある叔父上が国主になられるのが最も効率が良いのでは?」
「いや、内乱までの悪い印象を払拭させる為にも、次代の国主には清廉な印象をもつアルメリアが適任だ」
「叔母上のご帰還とエルヴィンの誕生、そしてお2人のご成婚で、既に内乱までの印象は払拭されているのではないでしょうか?」
採決になればエドワルドが国主に選ばれるのは確実だった。もちろん覚悟は出来ているが、国主となればせっかく会えた家族との時間が削られてしまう。要するに彼は今、全力で最後の悪あがきをしているのだ。アルメリアもそれは分かっているが、あえて叔父の我儘に付き合い、弁論の修練をしているつもりでその胸を借りていた。
「平和ですな」
「全くです」
そんな前代未聞の珍事をサントリナ公とブランドル公は出されたお茶を飲みながらのんびりと見物している。一方でリネアリス公は落ち着きなく幾度も座り直し、フォルビア公として参加しているフレアは膝に抱えたルルーを撫でながら、身の置き場のない様子で2人の舌戦を眺めていた。ワールウェイド公として参加しているマリーリアは、そんなフレアに時折声をかけながら、自分の出番が来るのを大人しく待っていた。
「兄上もだんだん苦しくなってきましたね」
「そうですね」
そもそも、アルメリアが国主に選ばれたとしても、エドワルドは否応なしに補佐として働くことになる。おそらく忙しさは大して変わらないだろうが、果たして本人は気づいているのだろうか?
「これが本来あるべき選定会議の姿ですな」
「左様で」
本当にしみじみとサントリナ公が零せば、ブランドル公もリネアリス公も大きくうなずく。文字通り国主を選ぶ会議である。各大公は自分とつながりのある者を選ぼうと躍起になり、水面下で交渉するだけでなく、古来より平然と裏取引が行われ、下手をすると流血沙汰まで起こるほど殺伐とした会議になる。
アロンが倒れた時にはハルベルトが既に国主に内定されていたにも関わらず、強引にグスタフがゲオルグも候補に入れて会議を開いたのだ。しかも自ら進行役に付き、己の持論を延々と展開してハルベルト側には殆ど口を挟ませない。それでもゲオルグが選ばれる事は無かったが、最終的にはハルベルトの内定を取り消してしまったのだ。その会議に居合わせていたサントリナ公とブランドル公は本当にほのぼのとした様子で舌戦を繰り広げる叔父と姪を見守り、色々と後ろ暗い所があったリネアリス公は終始落ち着かない様子で立ったり座ったりを繰り返していた。
「未熟な私が国主に就いてしまえば、それを補佐する人間が必要です。私は迷うことなく叔父上を指名するでしょう。そうなると、叔父上が国主となられた時に比べて余計な手間がかかると思います」
「それは順次覚えていけばいいのではないか?」
「手間がかかればその分経費が掛かかります。財政が厳しい現状では少しでも経費を抑える努力が必要なのではありませんか?」
「これは……手厳しいな」
エドワルドは思わず目を見張る。これで決着がついたとアルメリアは安堵したが、エドワルドは少し意地の悪い笑みを浮かべて反論する。
「その英明さがあれば国主となっても問題ないのではないか?」
「叔父上……」
あまりの往生際の悪さにアルメリアは叔父に冷たい視線を送る。
「国民の大半は叔父上が国主になると決めつけています。それなのに私が国主になったら、禍根が残るのは明白です。もう二度とあのような悲劇を起こさない為にも、潔く国主の座に就いて下さい」
きっぱりと言い切るアルメリアにサントリナ公もブランドル公も手を叩いて賛同していた。彼等だけでない。マリーリアもリネアリス公も同意するかのようにうなずき、一方のフレアは少し困ったような笑みを浮かべてエドワルドを見つめている。
「言いくるめられると思ったのだが、我が姪は案外手ごわいな」
「叔父上」
「それだけの才覚があれば、国主は十分に務まると思うのだが?」
「これ以上褒めても何も出せません」
呆れを通り越して本当に怒ってしまったらしいアルメリアは頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。こうしてみると、まだまだ年相応のかわいらしい所があるのだと思い、エドワルドは苦笑する。
「殿下、そろそろ覚悟は決められたでしょうか?」
「覚悟は出来ている。一応な」
エドワルドが肩を竦めて答えると、散々悪あがきをした後なので当然の如く一同から疑いの眼差しが向けられる。
「本当ですかな?」
「後は5大公家の総意に従う」
慣例に従って宣誓すると、どうにか信じて貰えたようだ。アルメリアも叔父に倣って宣誓し、ようやくここから選定のための審議が始まる。
「では、審議を始めますので、エドワルド殿下とアルメリア姫は別室でお待ちください」
ここからは5大公家の当主だけで話が進められるため、候補となるエドワルドとアルメリアは会議の間から退出しなければならない。エドワルドはルルーを膝に抱えたまま座っているフレアと一度視線を合わせると、アルメリアを伴って部屋を出て行った。
本当は不安げな彼女を抱きしめて元気づけてやりたいのだが、選定会議の折には候補と5大公は必要以上の接触を避けるのが慣例である。この場での無駄な争いを避ける意味合いがあるのだが、今回はエドワルドが妻の側からなかなか離れない可能性があり、別の意味で会議に支障が出る為にそれが順守されていた。
「では、始めますか」
5人は重厚な円卓を囲み、背もたれにそれぞれの紋章が彫り込まれた椅子に座っている。これは5人の立場が平等である事を示している。進行役は大概最年長者が行うのだが、今回はリネアリス公が辞退したのでサントリナ公が行う事になっていた。
「エドワルド殿下、アルメリア姫、どちらが国主に相応しいか、先ずは意見交換と致しましょう」
先ずは1人1人自分が指示する候補をあげる。意見が割れれば、5人ですり合わせをしていくのだが、通常であればこれに時間がかかり、意見をまとめるのに何日もかかるのも珍しくは無かった。
「私はエドワルド殿下を推挙いたします」
「私もエドワルド殿下が国主に相応しいと感じました」
先ずはブランドル公が口火を切り、リネアリス公がそれに同調する。
「私も兄上……エドワルド殿下が相応しいと思います」
マリーリアはついいつも通り兄と呼んでしまい、慌てて言い直す。
「アルメリア姫も優秀ですが、やはりエドワルド殿下が飛びぬけておられる。代行を務められたこの半年間の仕事ぶりも申し分ない。私もエドワルド殿下を国主に推挙いたしたい」
サントリナ公は先に自分の見解を言うと、未だに口を閉ざすフレアに視線を向ける。
「フォルビア公としての御意見を伺えますかな?」
「……客観的に判断いたしますと、エド……ワルド殿下が国主に相応しいと思います」
事前にエドワルドからは、気にせず自分が思った通りを口にしていいと言われていた。それでもつい考えてしまうのは、エドワルドが国主になると、その妻である自分は自動的に皇妃と扱われる事だった。
彼女にとって皇妃としてあるべき姿の良き見本は養母のアリシアだった。養母程ではなくとも夫の役に立たなければと思うのだが、エドワルドには気負わなくてもいいから出来る事をしてもらえればいいとも言われている。それで納得し、エドワルドではないが覚悟はしていたはずである。だが、今思い起こせば、愛する人と再会できたことで彼女も少々浮かれていたのだ。皇都に着き、盛大な出迎えを受け、そしてリネアリス家の令嬢の一件で必ずしも全員が自分を歓迎してくれている訳ではない事を改めて知ると、目の見えない自分で果たして本当に務まるのかと、今更ながらに不安を感じているのだ。
「何やら屈託がお有りのようですが、お聞かせいただけますかな?」
サントリナ公はそのフレアの迷いに気付いたらしく、穏やかな笑みを浮かべて問いかけてくる。ルルーの目を使って見渡すと、他の大公方も気遣わしげに自分を見ていた。
「ただ……不安なのです」
ポツリと漏らした言葉にサントリナ公は大きくうなずく。どうやらそう言いだすのが分かっていたようだ。
「慣れぬ地に来られて不安に思われるのは当然の事です。ですが、お努めに関してはそう気に病まれる事も無いかと思います」
「そう……でしょうか?」
「昨年から殿下は奥方様がお戻りになる事を想定して様々な改革を行って来ております。その最たるが公の場でもその小竜を同伴出来る様にした事でしょう。内乱を経て、生まれ変わろうとしている今だからこそ、可能にしたのではないかとも言えます。フレア様だからこそ、気付かれる事もありましょう。どんどん気になる事は仰っていただいて、この国で過ごしやすいように変えてしまうのです」
自分が合わせるのではなく、周囲を自分に合わせてしまえと言いきるサントリナ公の大胆な発言にフレアは返す言葉が無かった。
ちなみに今、ルルーの首輪には小さなメダルがつけられていて、これが公の場での同伴を許可した証となる。事前に審査が必要で、ルルーはフォルビアにいる間にエドワルドやアスター、ヒースといった最高位の竜騎士達に基本的なしつけができているかどうかを審査されて合格していた。
「先ずは自信をお持ちください。聖女とも呼ばれた類まれなる気質をお持ちの貴女様が、殿下と並び立たれれば、この国もより良い方向へ向かうでしょう」
「そうです。貴女様以上に皇妃に相応しい方はいらっしゃいません」
ブランドル公がフレアを諭すと、すかさずリネアリス公が同意する。先日の令嬢が起こした一件で、すっかりフレアに心酔してしまった彼は、彼女を大母の様に崇めている。
「兄上と奥方様が幸せそうにしていれば、それにあやかろうとする人達がきっと増えてきます。幸せな人が増えれば、この国の平和はずっと続くと思います」
隣の席のマリーリアがフレアに笑いかける。彼女もワールウェイド公に任命された時には自分では荷が勝ちすぎると思っていた。就任してまだ日が浅く、出来る事も限られているが、それでも支えてくれる夫や従兄のおかげで職務もどうにかこなしている。あんなに躊躇していたのが嘘の様に今ではその地位をすんなり受け入れていた。
皇妃という立場とはまた違うかもしれないが、それでも今までの様にエドワルドに寄り添っていればいずれ彼女の役割も決まって来るだろう。そして今までにもあった事だが、2人が幸せそうにしていると、周りも温かな気持ちになれるのだ。
「こんなに甘やかして頂いて、良いのでしょうか?」
「大役を引き受けて頂くのです。当然でございます」
自分からその地位に就きたがる人間の多くは、その華やかさに目を奪われてそれに伴う責任をはっきりと理解していない。だが、フレアはそれをきちんと理解した上で、己に務まるかを危惧している。そんな彼女だからこそ、今、この国を支える重鎮達は彼女に協力する方向で一致させていた。代表してサントリナ公が頷けば、フレアの目から涙が一滴零れ落ちる。
「ありがとう……ございます」
掠れる声で礼を言う。すると膝の上のルルーが心配そうに見上げ、フレアは安心させる様にその体を優しく撫でた。
「それでは、そろそろ採択と致しましょうか? 外で待たれておられる方々も心配しておられるでしょうからな」
この会議室の控えの間ではエドワルドやアルメリアだけでなく、ソフィアやアスター、セシーリアといった面々が待っている。今回はすぐに決着がつくと思われているので、なかなか開かない会議室の扉にきっとやきもきしているだろう。
「次期国主はエドワルド殿下に決定し、5大公家の総意として公表いたす事に異議のある方は?」
当然、異議のあるものなどおらず、これによりエドワルドが次期国主に決定した。
叔父との白熱した舌戦を終え、控えの間に出たアルメリアは母親と婚約者に迎えられた。その場には他にソフィアやブランドル公夫人、そして今回の役目を妻に任せたアスターが待っていた。
「お疲れ様」
アルメリアに席を勧めると、ユリウスはそっとお茶を差し出してくれる。結果が分かりきっていたとはいえ、やはりあの叔父と正面から論議をすると精神的にかなり疲れる。お茶を飲みながらそっとその叔父の様子をうかがえば、同様にソフィアから差し出されたお茶を優雅な仕草で飲んでいる姿が目に映る。先程まで散々無駄な悪あがきをしていたのに、余裕があるその態度が何だか悔しい。
「それにしても遅いですね」
代行の肩書にこだわっているのは当人だけなので、今回の選定会議は形だけ行われる物だ。今回の進行役を務めるサントリナ公も、会議が始まる前にそれぞれが名を上げただけで終わるだろうと半ば冗談めかして言っていたぐらいなので、アルメリアも控えの間に移って寛ぐまもなく終わるだろうと思っていた。だが、飲みかけのお茶が冷めてしまっても会議室の扉が開く気配がない。心配げに呟くユリウスに彼女も神妙な面持ちで同意する。
「何か……あったのかしら?」
自分に国主の座が巡って来る事は万が一にもない。それは分かっているのだが、会議が思った以上に長引いている事が不安を煽る。それは同じく結果を待つ立場のエドワルドも同じらしく、椅子に座って瞑目しながらも何度か居住まいを正し、その頻度は徐々に増えていっている。彼はどちらかというと、会議室に籠っている奥方を気にかけているのかもしれないが……。
「お待たせしました」
エドワルドだけでなく、アスターも落ち着きがなくなってきた頃になってようやく会議室の扉が開いた。そして今この瞬間に最も重要な決定を下した5人の大公は、中から出て来ると進行役を務めたサントリナ公を中心にして並んで立った。アルメリアとエドワルドは、立ち上がると慣例通りに彼等の前に進み出て居住まいを正した。
よく見ると、フレアの目元が僅かに赤くなっている。気がかりではあるが、進行役のサントリナ公から決定を聞くまでは私語は厳禁である。アルメリアも、そして彼女よりも気になっているはずのエドワルドも大人しく彼の言葉を待つ。
「5大公で協議した結果、次代の国主が決定した」
サントリナ公が重々しく口を開くと、控えの間にいた全員がその瞬間を聞き逃すまいと固唾をのんで見守る。
「5大公の総意として、エドワルド殿下を時期国主に指名致します」
その瞬間にアルメリアは安堵して傍らの叔父を見上げる。すると彼は「決まってしまったか」と呟いて天を仰いでいた。
「おめでとうございます、叔父上」
「……ありがとう」
エドワルドは肩を竦めて礼を言うと、先ほどから気になって仕方が無かった妻の元へと歩み寄る。本来ならば国主に選ばれるのは名誉な事である。その地位に選ばれれば小躍りして喜んでもいいはずなのだが……。
「どうした? フレア」
一直線に妻の側に近寄ると、そっとその肩を抱き寄せる。泣いたのがばれて気恥ずかしいのか、彼女はその腕の中で俯く。
「……少し、不安になってしまいました」
「フレア……」
妻の返事にどうして会議が長引いたのかも納得し、その華奢な体を抱きしめた。
「ご自身が皇妃として立たれるのを不安に思われたようです。殿下がコツコツとなされてきたように、周囲をご自身に合わせてしまえばいいと申し上げて納得していただきました」
「そうか」
サントリナ公が口を挟むと、エドワルドもようやく安堵の息をはいた。
「これで正式に殿下が次期国主に選ばれました。引き受けていただけますでしょうか?」
そこで改めてサントリナ公がお伺いを立てる。まだ明確な返答を貰っていないので、このままのらりくらりと躱されてはたまらない。この場できちんと承諾してもらう必要があった。
「分かっている。但し、条件がある」
「条件ですか?」
急に条件を持ち出されてサントリナ公は困惑する。無理難題を言って国主の座を辞退するのではないだろうかとその場にいた誰もが思ったに違いない。
「心配するな、約束通り国主は受ける」
彼等の危惧を見透かしていたらしく、エドワルドはそう言って先ずは彼等を安心させる。そして妻を腕に抱きしめたまま、アルメリアとユリウスに向き直る。
「ユリウスとアルメリアの婚約の約定を見直さなければならない」
「叔父上?」
急に矛先を向けられ、アルメリアはたまらず声を荒げる。それを側に居たユリウスがそっと宥める。
「殿下は、我々の婚約を反故にすると言っている訳ではないよ」
落ち着いている所を見ると、どうやらブランドル公とユリウスは予め話を聞いていたらしい。エドワルドは頷くと、アルメリアや妻に席を勧め、彼の考えを口にする。
「このままアルメリアがユリウスの元に降嫁してしまうと、成人した皇家の継承権を持つ人間が私以外にいなくなってしまう。コリンシアはフォルビア公が確定しているし、エルヴィンも成人するまで時間がかかる。もし万が一、今、私の身に何かが会った時に、すぐに後を継いでもらえる者がいなくなるのは分かるな?」
「はい……」
「だから、そなた達の結婚に際し、アルメリアを降嫁させるのではなく、ユリウスを皇家に迎えたいのだ。結納などの金に絡む部分は色々と微調整は必要だが、すでにブランドル公とユリウスの了承は得ている。そなたには後回しになってしまったが、このまま皇家に籍を残してもらいたい」
エドワルドの意図を理解したアルメリアは傍らにいる婚約者を見上げる。彼は優しげに微笑むと大きく頷いた。
「宜しいんですの?」
「ああ」
エドワルドと既に話は付いているのだろう。アルメリアとしては好きな人と結ばれるのなら構わないのだが、ユリウスにも皇家の責任を負わされる事になるのは何だか申し訳なく思わなくもない。また、そういった先々の所にまで目を向けているエドワルドの凄さを改めて実感した。
「ユリウス様が納得しているのでしたら、私も異論はございません」
「そうか……。済まない」
アルメリアの返答にエドワルドは頭を下げる。本当は快く送り出してやりたいのだが、現状を考えるとエドワルドにはそれが出来なかった。自分に何か起きなくても、エルヴィンが無事に育たないかもしれないし、無事に成長しても国主に向かないかもしれない。もちろん、弟か妹が出来る様に励むつもりではあるが、選択肢は多い方が良いに決まっている。
先々を読む癖が付いてしまっている事が恨めしくなってしまうが、ロベリアにいた頃では到底考えたくも無かった事が現実に起きてしまっている。2人には申し訳ないが、国の為に協力してもらおうと考え、先ずは婿となるユリウスとその父親であるブランドル公に相談したのだ。彼等は難色を示すどころかエドワルドが国主になるのならば、と快く承諾して彼を驚かせたのだ。
「では、殿下、改めてお伺いいたします。国主となり、この国を導いていただけますか?」
「有能な貴公らの協力が得られるのならば、国主となり、この国の為に尽くそう」
ようやくエドワルドが国主になる事を承諾し、その場にいた一同はホッと胸を撫で下ろした。こうしてようやく国主制定の会議が終了し、その結果はその日のうちに公表されたのだった。
別タイトル「最後の悪あがき」
とうとうエドワルドが時期国主に指名されました。
会議後の一コマ。
ちなみにこの後に他の貴族達に国主会議の結果を披露する場が設けられていた。普通なら会議の2~3日後に晩餐会も開かれて盛大に行われるところを、情勢を考慮して簡素に行われる。
エド 「あ~、とうとう指名されてしまった」
アスター「殿下、お披露目まで時間がありませんのですぐにお支度を」
エド 「え? (フレアと子供達の顔を見に行こうと思ったのに……)」
アスター「誰かが散々ごねるからです」
エド 「う……」
フレア 「子供達の部屋が公務の合間でも見に行けるくらい近ければいいのに……」
エド 「ふむ……。ちょっと考えてみるか」




