8 選んだ道は2
昨秋に他界した国主の服喪、更にはフォルビアで起こっている内乱の為に、新年の春分節に続いて今年開催されるはずだった夏至祭も自粛となり、タランテラ国民は意気消沈していた。
そんな最中に突然、各国の協力の下内乱の終結が伝えられ、更には次代国主と位置付けられているエドワルドの婚礼と皇子の誕生が公表された。この1年あまりの悪夢のような不幸から一転し、信じられない位の慶事の連続に国中が湧きかえり、抑圧していた反動からか、各地でそれらを祝うお祭り騒ぎが起きていた。
特に皇都では各所に花が飾られ、各地から集まった露店が並んで夏至祭の様な賑わいとなっている。本来ならば、まだアロンの喪に服して華やいだことは禁止されるべきことなのだが、それを取り締まるべき役人達も一緒になって浮かれている始末だった。
その喧騒を後目に、本宮では2日後に到着する一家を迎える準備が大詰めを迎えていた。
「殿下の奥方様ってどんな方かしら……」
「優しい方だと良いわね」
これからこの北棟の新たな女主となる女性の事が気にかかるらしく、若い女官達が準備の手を止めて噂話に花を咲かせていた。部屋で書類に目を通していたセシーリアは、手を止めると開け放した窓の外から聞こえてくる会話に耳を傾けた。
「あの最強の番の御養女様だとか……」
「きっと厳しい方に違いないわ」
皇都にいる者で当のフレアに会った事がある者はごく僅か。背びれに尾びれが付いて噂は広まっており、彼女の本来の人となりとは間違えて広まっていた。側に控えていた年配の女官が若い彼女達の諌めようとするが、セシーリアはそれを止めた。
「あちらから何人も侍女を連れて来るのでしょう? 何もかもプルメリア風に変わってしまうのかしら?」
1人が今一番の不安を口にすると、一緒にいた女官達も口々に同意する。
「そうよねぇ。突然こちらに無い物を用意しなさいとか言われたら困るわよねぇ」
「そうそう」
どうやら彼女達の間では、フレアは高慢な女性として広まっているようだ。エドワルドの妻の座を得たフレアに対しての妬みも多分に含んだまま広まった噂だろう。だが、婚礼を挙げて既にフレアは皇家の一員である。彼女達は気づいていない様子だが、不敬ととられて厳罰に処せられる可能性もあるのだ。
「貴女達、おしゃべりしている暇はありませんよ」
何か対策をした方が良いだろうかと考えあぐねていると、若い女官達は監督係に注意されて慌ててその場から離れた様だ。部屋に静けさが戻ると、目を通し終えた書類を控えていた女官に渡して下がらせる。
「ねえ、ハル。どうしたらいい?」
セシーリアは壁に掛けてあるハルベルトの肖像画を振り仰ぐ。その隣には彼が一番好んで着ていた竜騎士正装がかけられている。昨秋、エドワルドが帰還する折に譲ったが、思い出の品だからと丁寧に清められて返してくれたものだった。
冬の間はこの前で泣いている事が多かったが、近頃はその回数は減ってきている。自分の役割を果たさないとハルベルトに顔向けができないと心の整理を付けたからだ。
「私のような思いはしてほしくは無いわ……」
ガウラの地方貴族の出身である彼女も噂には苦しめられた。嫁いできた時には既にソフィアは降嫁し、その翌年にはジェラルドとイザベルが火災に巻き込まれて他界してしまった。そこで彼女が皇家に連なる第一位の女性として北棟を取り仕切る立場になったのだ。
ソフィアが何かと世話を焼いてくれたおかげでどうにか北棟を統括してきたが、グスタフが何かと粗を見つけては干渉してきた。更にはハルベルトの妻に相応しくないと噂を流し、あわよくば離縁させて自分の身内を嫁がせようともくろんでいたのだ。もちろん、自分が関与している証拠は残さない。しかし、地味な嫌がらせはセシーリアの心身を弱らせるのには十分だった。
内乱が終結し、首謀者の一人でもあった彼が亡き今、あからさまに嫌がらせをする愚か者はさすがにもういないと思いたい。だが昨年、ベルクにエドワルドとの縁談を斡旋されたリネアリス家の令嬢が彼に未練を残していると聞いているし、グスタフの近縁で処罰を免れた者達も隙を窺って不穏な動きを見せていると言う。安易に他人を疑いたくはないが、広められた噂は明らかに現実と異なるので、故意に流されたと捉えていいのかもしれない。
「セシーリア様、ルーク卿とオリガ嬢が到着されました」
先程、書類を持って辞した女官が戻ってきて、肖像画の前で物思いにふけっているセシーリアに遠慮がちに声をかける。彼女は我に返ると、居住まいを正して知らせに来た女官に向き直る。
「手配通りに済んだら水鳥の間にご案内して頂戴」
「かしこまりました」
苦難の逃避行の最中、身重のフレアと子供のコリンシアを姉弟2人だけで支えた英雄の片割れの到着である。心無い噂を懸念した彼女が事情を説明した手紙をエドワルドに送った所、休暇を終えたオリガを先に皇都へ送ってくれることになったのだ。
今日は午後から上級貴族の奥方を集め、セシーリアの私的なお茶会が開かれる。心無い噂の対策としてソフィアやブランドル公夫人らと計画したものだった。新たな女主を良く知る人物の登場はセシーリアにとって心強い援軍だった。
「ハル……今度は私があの方をお守りいたしますわ」
セシーリアは決意を新たに夫の肖像画をもう一度見上げた。
10日間の休暇をルークと共に彼の故郷であるアジュガで過ごしたオリガは、緊張の面持ちでエアリアルの背から降り立った。本当は出立前日にフレアが疲れからか熱を出したので、今回の休暇は見合わせるつもりでいた。しかし、引き続きルークはフォルビア所属となり、オリガが皇都に行ってしまうと顔を見合わせるのも困難となる。また皇都に帰還してしまうと、国内の貴族向けのお披露目や国主選定会議、そして即位式も控えていて、今度はオリガ自身が忙しくなる。
幸いにしてフレアの熱もすぐに下がり、オルティスにより手配された乳母も側仕えも揃った。周囲に勧められて、ようやく1年越しの休暇が実現したのだ。
アジュガではルークの家族に歓待され、楽しい時間を過ごしてきたのだが、エドワルドの頼みで彼等は一足先に皇都に行くことになった。二つ返事で受けたは良いが、本宮どころか皇都に来るのも初めての彼女は、いささか緊張していた。
「心配ないよ。皆、良い方ばかりだ」
ルークはその緊張を和らげようとしてくれるが、女性同士の付き合いの難しさまでは分かっていないだろう。主の為に身を粉にして働くのは厭わないが、皇都側がフレアの事情をどれだけ理解してくれるのかが問題である。エドワルドが自分を先行させたのは、その辺の事情を徹底させる目的もあると聞いている。国の中枢となる本宮という場所とその重大な責任にオリガの足は今にも震えだしそうになっていた。
ルークが相棒を着陸させたのは本宮上層の着場。上級でも高位の竜騎士しか着地を許されない場所である。
ルーク自身はハルベルトから特別な許可を得ていたので、2年前の夏至祭後から利用できていたのだが、無暗にその特権を使用した事は無い。今回は色々と注目を集めている恋人のオリガを守る為、その特権を行使したのだ。
「ルーク、オリガ嬢!」
いち早く2人を出迎えてくれたのはユリウスだった。ルークが女性を伴って現れた噂はすぐさま広まり、興味本位から係員や竜騎士達が様子を窺っていたのだが、彼の姿を見ると慌てて仕事に戻って行く。そんな彼等の姿にユリウスは苦笑すると、部下に飛竜達を休ませるように指示を与え、付き従って来たシュテファンとラウルにも休むように言って下がらせた。
「ようこそ本宮へ、オリガ嬢」
「お出迎えありがとうございます。ユリウス卿」
見知ったユリウスの姿を見てオリガの緊張も多少は和らぎ、少々ぎこちないながらも淑女の礼をとる。彼女達が連絡を寄越さなかったのはやむを得ない状況だったと判断したエドワルドにより、その事で彼女達を責める事は禁じられている。一方の彼女達にも済んだことなのでその事を気に病む必要は無いと諭されていた。
「かしこまらなくていいよ。どうぞこちらへ」
先程慌てて仕事に戻ったはずの係員達が仕事をするふりをしながらチラチラとこちらの様子を窺っている。この1年間にルークが纏っていたギスギスした空気は無くなっているが、それでも恋人に好奇の目を向けられれば彼をイラつかせるには十分らしい。どんどん機嫌が悪くなる親友を気遣い、ユリウスは彼等を南棟へと案内する。
だが、いくらも進まないうちにオリガは数名の女性に取り囲まれたかと思うと、あっという間に拉致されていく。側に居たルークが庇う暇もないくらいに見事な連携だった。慌てて追おうとするルークを止めたのは案内役のユリウスだった。
「……そこをどけろ」
「落ち着けよ」
地を這うような声に周囲にいた見物人達は震えあがる。だが、事情を聞かされていたユリウスは親友の居るような視線を飄々《ひょうひょう》と躱し、落ち着いた様子でやじ馬たちに仕事に戻る様に言って追い払う。
「落ち着いていられるか」
「彼女達は母上の侍女だ。サントリナ家の侍女と北棟の女官も混ざっている」
「どう言う事だ?」
「もう間もなくセシーリア様主催のお茶会が開かれる。そこでオリガ嬢がお披露目される事になっている」
「……それで?」
「その支度の為に連れて行ったんだろう」
ユリウスの答えにルークの機嫌が一気に悪くなる。
「奥方様の悪い噂が広まっているのは聞いているだろう? 奥方様の事を知っている人物が皇都には少ないのが一番の原因だ。今一番の話題だから、妬んだ奴が絡むと途端に悪い方向の話が広まる。今日の会で一番近くに居る彼女の口から奥方様の人となりが伝われば、すぐには無理でもその噂が間違いなのは分かるはずだ」
「……大勢集まるのか?」
「母上にソフィア様、アルメリア姫、後はリネアリス公夫人等、有力貴族の奥方達だ。彼女達さえ味方に付ければ後はもうどうとでもできるだろう」
「……」
「ほら、俺達も着替えるぞ」
「何故?」
「俺達も呼ばれているからだ」
「は?」
「ほら、行くぞ」
今度はルークがユリウスに拉致されて本宮の客間へと連れ込まれた。
ルークから引き離されたオリガは見知らぬ部屋に連れてこられて途方に暮れていた。侍女と思われる女性陣に囲まれて連れてこられたので、どこをどう通ったのかわからない。泣きそうになっていたところに2人の貴婦人が入ってきた。
「強引に連れて来てごめんなさいね、オリガさん」
先に声をかけて来たのは半月ほど前にフォルビアで顔合わせをしたブランドル公夫人で、その後ろにはソフィアがいる。自身の後見人の登場にオリガはほとんど条件反射で淑女の礼をとった。
「済まぬが時間がなくての。支度しながら説明いたす」
訳が分からないうちに控えていた侍女達によって着ていた服を脱がされる。初めて他人に傅かれて湯を使い、気疲れしたところにクリーム色のドレスが運ばれて来た。
「これからセシーリア妃主催のお茶会があるの。急で悪いのだけど、貴女のお披露目も兼ねて出席してもらうことになったの」
「お茶会ですか?」
「そうじゃ。集まるのはこの国の主要な貴族の奥方。今後も何かと顔を合わせることがあるじゃろうから、そなたが先に覚えておいた方があの方の為にもなろう」
急に言われてオリガは動揺する。その間に古参の侍女達によって髪を整えられ、化粧を施されていく。
「今、皇都でフレア様の悪い噂が流れているのは知っているわね?」
「はい」
アジュガで休暇中に届いたエドワルドからの手紙でオリガもルークも事情を知り、敬愛する女主の為に何でもしようと皇都に駆け付けたのだ。オリガは表情を引き締め頷いた。
「主催のセシーリア様を始め、実際にフレア様にお会いしたことのあるアルメリア様や私達はもちろん言葉を尽くすつもりですが、間近で接してこられた貴女なら正確な実像をお伝えする事ができるはずです。お茶会の席で貴女の言葉で伝えてください」
ブランドル公夫人の言葉にオリガはフォルビア出立前に会った女主の姿を思い浮かべる。体調を崩した彼女が心配で休暇を取りやめると伝えたのだが、なかなかない機会だから行って来なさいと逆に説得されてしまったのだ。幸いに熱はすぐに下がり、グロリアにも使えていた古参の侍女達が後を引き受けてくれたので、恋人と楽しい時間を過ごすことが出来た。
「分かりました。精一杯頑張ります」
敬愛するフレアの為にオリガは覚悟を決めた。その決意に彼女の後見者達は満足してうなずいた。
「はあ……」
フリルの付いた絹のシャツに豪奢な刺繍が施された上着……着なれない正装に辟易しながらルークは深いため息をついた。貴族の子弟の間で流行っている最新のものらしいのだが、非常に煌びやかな一方で窮屈極まりない。上流の家庭で育ったユリウスは違和感なく着こなしているが、ルークは何だか道化になった気分である。
「せっかくの男前が台無しだぞ」
「……着替えさせてくれ」
「却下」
「……」
フレアの悪い噂を打ち消す為、自分で出来る事は何でも引き受けるつもりでいたが、この服装だけは耐えられそうにもない。いつもの竜騎士正装を取り上げてしまった親友に恨みがましい視線を送るが、彼は素知らぬ顔をしている。
「おや、ルーク。そんな顔してどうしたんじゃ?」
そこへソフィアが姿を現し、仏頂面のルークに首を傾げる。
「ルークはこの服装がお気に召さなかったらしい」
「おや、何が気に入らんのじゃ?」
「……その……あまりにも窮屈でして……竜騎士正装に着替えたいのですが……」
さすがにソフィアが相手ではルークも文句は言いづらい。それでも言い淀みながらも自分の要望を何とか伝える。
「随分と似合っておるが何故気に入らぬ? そなた達竜騎士は何でも騎士服で済ませようとするからたまには良かろう? いずれエドワルドが国主となれば、そなたは彼を支える寵臣の1人となる。この様な服装も今のうちに慣れておくといい」
やはり、口では叶わなかった。がっくり肩を落としていると、今度はブランドル公夫人が姿を現す。
「お待たせしました。さあ、ルーク卿、エスコートを頼みますよ」
彼女は伴っていた若い令嬢をルークの前に連れ出す。彼女は昼間の集まりに相応しく、襟元の詰まったクリーム色のドレスを身に付け、結い上げた豊かな黒髪を白い花とリボンで飾っている。
「オリガ?」
「ルーク……」
若い恋人たちは互いに見つめあったまま固まる。特にルークは正装した彼女の姿を見るのは初めてで、その美しさについ「綺麗だ」と呟き、見惚れてしまう。
「なかなかお似合いでしてよ。さあ、時間がありませんから、そろそろ参りましょうか」
ブランドル公夫人に急かされてようやくルークは我に返る。もう服装への不満などどこかに吹き飛んでいた。傍らでユリウスがそんな様子をニヤニヤして眺めているのも目に入らず、促されるままオリガに手を差し出していた。
「行こう」
「はい」
上品なレースの手袋で覆われた彼女の手が重ねられる。重大な使命を与えられた恋人たちは気を引き締めると、会場に足を向けた。
「疲れたわね」
「ああ」
お茶会を終えた2人は、用意されていた本宮南棟の客間で着なれない正装を脱ぎ捨ててようやく寛いでいた。ルークは上半身裸のまま寝台に突っ伏し、彼に勧められて浴室で湯を使い、普段着に袖を通したオリガはその寝台の縁に所在なく座っている。
ルークが所用で本宮に来る度に用意されている客間だが、疲労困憊していた2人は同じ部屋に通された事にさしたる疑問も抱かなかった。ユリウスの差し金らしく、2人の荷物も運び込まれ、食事も2人分用意されていた。明朝、オリガには新しい職場となる北棟を案内するとセシーリアが言っていたので、それまではここで心置きなく2人で過ごせと言ってくれているのだろう。
「でも、無事に終わって良かったわ」
「そうだね」
お茶会は大成功だった。集まった誰もが話を聞きたがり、2人はずっと出席者に囲まれていた。求められるまま、稀有な群青が顕現したエドワルドとフレアの結婚式の話や、嫡子のエルヴィンとお姉さんらしく彼をお世話するコリンシアの様子、そして大陸で最も名高い夫婦の話もした。
概ね好意的に受け取られたので彼等の使命は無事に果たしたと言えるのだろう。だが、一度だけ何日も野営を重ねて旅をするのは野蛮だと口を滑らせた夫人がいた。ユリウスの話だと元々グスタフの側についていた貴族の夫人らしい。
「当時の私たちの使命は、追手から逃れ、何が何でも生き延びる事でした。例え野蛮と揶揄されようとも、生き延びなければならなかったのです。それは子供のコリンシア様でもご理解され、旅の間は不満を一切口になされず、更にはそんな状況でも母君を労わり、私達に感謝して下さったのです」
静かにそして語気を強めて反論したオリガに当の本人だけでなく、その場にいた誰もがたじろいた。そしてソフィアやブランドル公夫人に窘められ、彼女はその場を取り繕うように反省めいた言葉を口にした。おそらくはこういった安易な発言の積み重ねがあの噂へと発展していったのだろう。
その後は主催者のセシーリアが話題を変えてくれたおかげで穏やかにお茶会は終了したのだ。一先ずやれることはやった。短時間で噂が急激に治まるとは考えにくいが、変わるきっかけになってくれればいいと2人は思っていた。
「オリガ」
「どうしたの?」
「今日の……良く似合っていた」
「本当? ブランドル公夫人から頂いたの」
「そうか……」
オリガはフレアの側仕えの侍女として本宮に上がる為、ティムは将来竜騎士になった時の為にサントリナ公夫妻とブランドル公夫妻が2人の後見を買って出てくれていた。養子としなかったのは本人達の要望を優先してくれた結果である。
だが、それでも娘の居ないブランドル公夫人は特に喜び、今回の衣装を始め今後のお付き合いに欠かせない衣装を何点も用意してくれていた。ちなみに今回のルークの衣装も彼女の見立てだった。
「ルークも素敵だったわ」
「……窮屈でしょうがない。俺はやっぱり騎士服の方がいい」
ルークがため息交じりに愚痴るとオリガはクスリと笑う。
「そうね。騎士服を着ている方がルークらしいわ」
「もうあれは着たくないな」
脱ぎ捨てた正装はソファへ無造作に投げてあった。もう着る事も無いとこの時は思い込んでいたが、ソフィアの予言が当たり、また袖を通す羽目になるのはまだ先の話である。
突っ伏していたルークは寝台の上でゴロンと転がって仰向けになり、恋人に熱いまなざしを送る。
「……」
彼が何を求めているのか分かり、オリガは頬を染める。本宮の客間に2人きり。少し躊躇ったが、この先恋人とこうしていられるのも限られる。彼女は迷いながらも差し出された手を取ると、彼の胸に引き寄せられた。




