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群青の空の下で  作者: 花 影
第2章 タランテラの悪夢
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72 奢る者の末路

 寝台に横たわったまま動けないベルクは、焦燥感から一睡もできずにいた。本来ならばこんな所で大人しくしている場合では無い。一刻も早くフォルビア正神殿に駆けつけ、現状を把握した上でラグラスの暴走を抑えなければならない。

 少しでも情報を得ようと、この神殿に立ち寄ったまでは良かった。だが、無理をして馬を駆った為に腰への負担は相当かかっていた。更には夜風で汗が冷え、盛大なくしゃみをした瞬間に腰に激痛が走って身動きが取れなくなってしまったのだ。

「これはいわゆるギックリ腰という奴ですな。数日は安静が必要です」

 呼ばれた医者はそう診断を下すと彼に療養を勧めた。だが、この非常時に冗談では無い。ベルクはそう食って掛かろうとするのだが、どう頑張っても動けないのだ。付き添っていた部下達からも療養を勧められ、不承不承寝台に体を横たえたのだ。

 その代り、自分の意向を伝える為にラグラスの下に人を送り、先行させた部下を呼び戻す手配を忘れなかった。

 何よりも腹立たしいのはこんな事態にならない様にラグラスの下へ残しておいた部下である。多額の支度金も預けたのに、全く役に立っていない。更には彼女を迎えに行かせた側近からも何の音沙汰もなく、彼の苛立ちに拍車をかけていた。

「一体何がどうなっているのだ?」

 全てがうまく行っていたはずなのに、気付けば何一つ計画通りに事が進んでいないのだ。ベルクは悔しさに歯噛みするが、少し身じろぎするだけで腰に響いて呻く羽目となる。

「くそ……」

 嫌な予感がしてならない。焦燥感が募る一方のベルクはイライラとして部下からの報告を待っていた。




 美しい庭園の向こうに美しい黒髪の女性が立っていた。己の前では萎縮いしゅくしてしまうのか、今まで向けられる事が無かったあの優しい微笑みで語りかけられる。話の内容はよく分からない。近寄ってもう一度聞きなおそうとするが、彼女の姿はもう何処にもなかった。

 ベルクがもう一度辺りを見回すと、いつの間にか庭園は消え去り、あの薬草園の真ん中に立っていた。あの貴重な薬草が風に棚引いている。この分だと今年の収穫量も期待できるだろう。もたらされる収益に思わず頬が緩む。だが、だんだん強くなった風に煽られて薬草の葉がまるで自分の足に絡みつくようだ。

 葉の先がまるで血に染められたように赤い。それが己の足にまとわりつく様子を見ていると気味が悪くなってくる。視察を止めて帰ろうとするのだが、足がびくとも動かない。

「!」

 足元を見ると、薬草は消え失せ、代わりに血まみれの手が足を掴んでいた。しかも掴んでいるのは1人では無い。男もいる。女もいる。そのうち、足を掴んでいる男の1人が顔を上げる。虚ろな表情だったその男はベルクと視線が合った瞬間、ニッと笑った。




「うわぁぁぁ!」

 慣れない騎馬での移動は本人が思っていた以上に疲れていたらしく、いつの間にか寝てしまっていた様だ。あまりの悪夢にベルクは飛び起きたが、腰に激痛が走って思わず呻く。

「ベルク様?」

 寝台にかけられた天蓋が少し開いて護衛の1人が顔を覗かせる。新参者だが、よく気が利くので側近のオットーも目をかけていた男だった。名前は確かガストンだったか、ガスパーだったか……。

「大丈夫ですか? お加減が優れませんか?」

「いや……大事無い。何か飲む物を頼む」

「かしこまりました」

 男は頭を下げて退出していく。その所作の一つ一つが洗練されており、出自はどこかの貴族ではないかとオットーが話していたのを思い出す。

「お待たせいたしました」

 ほどなくして男はお盆にいくつかの器を乗せて戻ってきた。中身はワインにお茶に薬湯と様々である。とにかく先程の悪夢を振り払いたい。ベルクは迷わずワインを選んだ。

「……ブレシッド産ではないか」

 極上の味わいに思わず頬が緩む。しかし、タランテラとは直接取引していない事実に気付き、どうやって入手したのかが疑問だった。

「まあ、特別な伝手がございまして……」

 曖昧な返答に個人で隠し持っていたものだとベルクは解釈した。何はともあれ、しばらくは味わうことが出来ないと思っていた逸品を口に出来たのだ。深く詮索するのは止めておくことにした。

「こちらの薬湯は体の苦痛を和らげる効果が、お茶の方は安眠効果があるそうです」

「ほう……」

 お盆に乗せて持ってきた薬湯やお茶の類を男は説明していく。お茶はともかく体が楽になるなら薬湯は飲んでおこうかとベルクは何の疑問も抱かずにその器を受け取った。

「うっ……」

 薬湯特有の匂いに顔をしかめるが、背に腹は代えられない。一刻も早く動けるようになりたい一心でベルクはその薬を飲み干した。後味の悪さに思わず差し出されたお茶も飲み干す。すると、何だか口の中がピリピリとしてくる。心なしか手が震え、じっとりと脂汗がにじみ出てきた。

「な、何を……飲ませた?」

「薬湯でございます」

 男は平然と答える。

「き、貴様、ワシに毒を盛ったのか?」

「とんでもございません。これは半年前、療養なさっていたロイス神官長の為に特別に用意された物でございます。他ならぬ、貴方様が神官長の回復を願ってご用意なさったものだとうかがっておりますが?」

 男の答えにベルクは蒼白となる。確かに上辺ではそう言って薬湯を飲ませる様に指示はした。だが、その実態は徐々に体を弱らせる毒薬だったのは当のベルクが一番よく知っている。

「こ、このワシに毒を……」

「おや、毒だったんですか? これ」

 男はわざとらしく驚いて見せる。その白々しさにベルクは腰が痛むのも忘れて掴みかかった。

「ふざけるな! これはあの男を始末するのに用意した代物だ。誰か、誰かおらんか! ワシを毒殺しようとしたこの男を捕えよ!」

 部屋の外に向かってベルクは叫ぶが、その声に応じて駆けこんでくるものは1人もいなかった。

「誰か、誰かおらぬか! この不埒者を捕えよ!」

 再度声を上げると、ようやく1人の若者が顔をのぞかせる。小竜を肩に乗せた黒髪の若者のその顔には見覚えがあった。宿敵ミハイルの養子で自分を目の敵にしているアレスだった。

「お、お前は……」

 ベルクが戸惑っている間に寝台を覆う天蓋布が外れてストンと落ちる。すると何故か彼は広間の中央にいた。あの小神殿の客間で休んでいたはずなのに、いつの間にか広間の中央で休んでいたのだ。しかもこの場所には見覚えがない。少なくとも彼が情報の拠点にしていたあの小神殿にはこの大きさの広間はなかった。

「な、何故……」

「今の話は全て聞いた。そなたは同輩に毒を盛る様に指示したのか」

 声をかけられて首を巡らすと、驚いたことに寝台の周囲に人が集まっていた。ガウラの王弟にダーバの先代国主、シュザンナの父親でもあるタルカナの宰相、そしてエヴィルの国主もいる。いずれもベルクが良く知っている顔ぶれだった。だが、彼と親しいタルカナの宰相までもが一様に渋い表情を浮かべている。

 そしてミハイルとエドワルドに付き添われたシュザンナが彼の正面に回り込む。その姿にベルクは顔を強張らせるが、それでもあっさりとは認めず白を切ろうとする。

「同輩とは申し上げておりません」

「見苦しいの。いずれにせよ、人を殺める指示を出したのは確かの様じゃな」

 今までベルクの前で見せていた態度とは異なり、シュザンナはその地位に相応しい荘厳な雰囲気を身にまとっていた。彼女がかたわらにいるミハイルに重々しく一瞥すると、彼は所持していた書類の束をベルクに付きつけた。

「これはそなたの指示を仰いでいた者達を尋問した調書だ。ラグラスの下から解放されたロイス神官長を静養という建前の元、監禁していたと証言している。特にここを統括していた者は、弱っていた神官長を確実に始末するよう、そなたに命じられたと言っておる」

「そんなのデタラメに決まっておる。大方、そこにおる聖域の面汚しどもがでっち上げたに違いない。いくら養い子だからと言って、そんな戯言を信じるとはプルメリアの首座殿も落ちぶれたものよ。まあ、元は言えば忌むべき反逆者の血を引く身。似た者同士が寄ってたかってワシをおとしめようとしているに違いない」

 突き付けられた証拠にも動じず、感心するほど図太い神経で言い放つベルクにその場にいた誰もが怒りを覚える。だが、言われた当の本人は口元に笑みをたたえ、ちらりとアレスに視線を移す。

「証拠がないと言いたいようだが、ここに2通の書状がある。あんたがお抱え医師に宛てた物とその返答だ。内容はロイス神官長に与える薬について書かれているが、いずれも弱っている人間に投与するには危険なものだ。中には明らかに毒性が強い物もある」

「そなたがねつ造したのであろう」

 アレスが出した書状にはベルクの署名が入っていたが、それでもベルクは自ら罪を認めようとはしない。このまま押し問答を繰り返したところで話は進まない。エドワルドは打ち合わせ通り、傍らにいるシュザンナに深く頭を下げて請願する。

「大母補シュザンナ様。このままではロイス神官長も浮かばれません。大恩あるあの方の為にも、真相を暴きたいと思います。幸いにも各国より国主の意を受けた方々がお揃いですので、臨時の国主会議を開き、審理の申請を行いたいと思います」

「な……。審理を受けるのはお前だ! ダナシアの教えに背き、武力をもってタランテラの国主となるゲオルグ様と正当なフォルビアの大公を排除したのだ」

 ベルクはエドワルドを差して糾弾するが、それに同意する者は1人もいなかった。一同からはただ、冷たい視線が向けられる。

「既にその審理は無効となった。エドワルド殿下に対する脅迫行為もあるが、1年前の内乱は元はといえば奴が武力で殿下を亡き者にしようとしたことが発端となっている。それにより、この件の訴えは却下となった」

「ワシは知らんぞ、そんな事……。何故、何故だ……」

 呆然と呟くベルクをよそに、各国の重鎮達は揃ってシュザンナに頭を下げて国主会議の開催に同意を示す。

「我らに異論はございません。国主会議の開催に同意いたします」

「この場にはおられないが、エルニア、ヴェネサスの両国主からは我らに一任する旨を頂いております。国主会議の開催をお認め頂けますか?」

 ミハイルは言付かっている委任状をシュザンナに差し出すと、彼女はそれに目を通して重々しくうなずく。

「よい。国主会議の開催を認める」

 シュザンナが下した判断に腹をたて、ベルクは忌々しげにエドワルドを睨みつける。だが、それを全く意に介さずに受け流した。

「準備は整っております」

 ルイスは配下の竜騎士の立場を崩さずミハイルに報告する。

「それでは方々、着席を願います」

ミハイルはシュザンナを正面の席に案内し、各国の重鎮は寝台を囲むように配置された椅子に座っていく。そしてアレスはガスパルに掴みかかったまま動けないでいるベルクをそのまま横たえるよう指示を与える。だが、ベルクは不敵な笑みを浮かべている。

「良い気になるな。そなたの大事なものがどうなっているか知りたくはないか?」

 大事なものが何かはすぐに察しが付くが、この期に及んでまだそんな事を言っているベルクに呆れるしかない。アレスが盛大な溜息をつくと同時に、痛まない様に配慮してベルクを横たえていたガスパルが少しだけ強引にその体勢を変えてやる。

「うっ、ぐあぁぁ」

 言葉にならない悲鳴を上げるベルクに、各国の代表は失笑し、エドワルドは肩をすくめ、アレスは呆れたように見下ろす。

「バカだな、あんた。大事なもんがいるのに何も対策をせずに俺が村を空けると思うか?」

「な……」

 アレスはそれ以上何も言わず、寝台から離れて自分の席に着いた。

 向かって正面に座る賢者とシュザンナが進行役の審理官長を務める事となる。その左右に分かれてミハイルを筆頭とした各国の代表が並び、一番若輩となるエドワルドがその末席に着いた。

 寝台は審理の対象となる者が着く場所に置かれており、ギックリ腰で身動きもままならないベルクが寝転がらされていた。加えて皆は審理の場に相応しく正装を纏っているのに、彼は寝巻のままで1人みすぼらしく見える。その屈辱感に彼は歯ぎしりをする。

「ただ今より審理を執り行う」

 全員が着席し、準備が整うと進行役を務める賢者が重々しく宣言する。

「ベルク・ディ・カルネイロ、犯した罪を神妙に白状し、悔い改めるのであれば、ダナシア様の御慈悲が賜れるであろう。嘘偽りなく証言すると誓うか?」

 審理の冒頭に行われる宣誓の常套句なのだが、まだこの審理に納得のいかないベルクはこれを無視し、末席にいるエドワルドを指さす。

「ワシは納得がいかん。責められるべきはあの男であろう。フォルビアのみならず皇都も武力によって制圧したのだ。しかもだ、ありもしない持病をでっち上げ、邪魔なグスタフ殿を弑逆し、そして己の即位の障害となると言う理由だけで無実のゲオルグ殿下を投獄したのだ」

 寝台に横になったままだが、ベルクは勝ち誇った表情でエドワルドを糾弾する。

「更には繁殖用の飛竜を勝手に流用し、全ての罪をグスタフ殿とマルモア正神殿の元神官長に擦り付けた。そして身勝手極まりない見解を振りかざし、本来は神殿で管理するべき繁殖雌竜を返却せず、その秩序を乱したのだ」

知らない間にフレアがエドワルドと夫婦になっていた事を知り、怒り狂った彼はエドワルドに対抗心を燃やしていた。その執念で彼を貶める材料をかき集め、糾弾する日を心待ちにしていた。予定していた筋書きからは少々ずれてしまったが、それでも絶好の機会を得たベルクは次々と持論を展開していく。

「そもそもフレア殿の窮地を助けたと言っていたが、それすらも怪しい。記憶が無いのをいいことに、己に都合のいいことを並べ立てて信じ込ませたに違いない。それで恩を着せ、強引に婚姻を承諾させたのであろう。そもそも偽名による署名は無効だ。よって婚姻も、グロリア殿が残した遺言も効力がなく、フォルビア大公は親族の中で最も濃い血を受け継ぐラグラス殿となる」

 熱のこもった弁舌をまくしたてるように披露し、気が済んだ頃にはベルクは息が切れていた。だが、これでエドワルドを貶める事には成功した筈だ。

「言いたい事は終わったか?」

 同意を得ようと室内を見渡すが、返って来たのはミハイルの冷ややかな一言だけだった。戸惑うベルクに今度はエドワルドが声をかける。

「ご立派な弁舌だったが、一つお尋ねしたい」

「な、何だ?」

「私が我妻の本名を知ったのはつい先日の事なのだが、貴公はいかにして我妻の本名がフレアだと知り得たのかお教えいただきたい」

「それは……」

「確かに、それは私も知りたい。我らは娘の安全を考慮し、娘の帰還を一切公表しなかった。当方に漏れがあった事になる故、その原因究明に役立てたい」

「……」

 ベルクは返答に窮してしまった。それはラグラス発案によるラトリ村襲撃の報告で知ったからだ。しかも襲撃はラグラスの独断で行った事になっており、自分はかかわっていない事になっている。

「つれてきなさい」

 黙り込んだベルクを後目に、ミハイルは入り口の側に立っていた竜騎士達に命じる。すると彼等は扉を開けると、その外側で待っていた人物に声をかける。

「な……に……」

 大きく開いた扉から最初に部屋に入って来たのは2人の女性だった。その顔を見たベルクは驚愕のあまりその場に凍りつく。入って来たのはアリシアに手を引かれたフレアだった。静々と会場を進み、彼女はあろうことかエドワルドの隣に着席し、アリシアは当然の様にミハイルの隣に座った。オットーによって身柄を確保されている筈の彼女が現れ、ベルクは著しく動揺する。

 更には慌ただしい足音と共に、拘束された5人の男が連れて来られる。皆、ベルクが良く知っている男達だった。情報の拠点としていた小神殿の責任者にラグラスの見張りに付けていた男、先行させた部下もいるし、彼女を迎えに行ったはずのオットーもいる。そしてあろうことか、あの薬草園を任せていた部下もいた。彼等はバツが悪そうにベルクから視線を逸らす。

「何故……」

 ベルクが固まっている間に最後に入室してきた赤毛の若者が審理官長を務める賢者の前にひざまずく。

「ゲオルグと申します。発言をお許しいただけますか?」

「良かろう」

 予定のない行動に一同は怪訝そうな表情を浮かべるが、賢者は快く承諾する。

「ベルクによって叔父上にかけられた嫌疑を晴らしたいと思います」

「ゲオルグ、止めなさい」

 慌てたエドワルドは彼を制するが、意を決したゲオルグはそれを無視して口を開く。

「本宮が叔父上達によって解放された日、祖父グスタフを手にかけたのはこの私です」

 ゲオルグの告白に一同は思わず息を飲む。

「私は……私は、母の不義によって出来た子で、皇家の血を引いていなかった事実を祖父グスタフによって隠匿されていました。可愛がって頂いていたと思っていたのに、祖父にとって私は手駒の1つに過ぎなかったのです。それを知った私が逆上して祖父をこの手にかけたのです」

 一語一句選ぶように話す彼の言葉に室内は水を打ったように静まり返る。もしかしたら、話す内容はあの場にもいたウォルフに相談したのかもしれない。

「叔父上は私を慮ってその事実を伏せて下さったのです。彼に非は有りません。その件で罪に問われなければならないのは私です」

 ゲオルグは跪いた状態で両手を床につき深く頭を下げた。

「あい分かった。審理とは切り離し、後ほど事実確認をさせてもらう。それで良いな?」

「はい、ありがとうございます」

 審理の対象とはならないと言質を貰い、ゲオルグは再度頭を下げる。そんな彼をようやく自分を取り戻したベルクは忌々しげに睨みつける。

「余計な事を……」

「ベルク・ディ・カルネイロ、言葉を慎むがよい。神聖な審理の場で宣誓すら怠り、あろうことか他者をおとしめ、進行を妨げるとは何事か? ダナシアに仕える資格なしと判断し、今、この時より高神官の地位及び敬称を剥奪する」

 ベルクの態度に我慢が出来なくなり、シュザンナは立ち上がるとそう言い渡す。今の彼女は大母の代理として全権を与えられている。それは大母の決定として認められる。

「お、お待ちください、シュザンナ様」

 さすがのベルクもこれには狼狽する。更に言い募ろうとするが、腰の痛みから動くこともできない。

「発言の許可はしておらぬ! よいか、ベルク。最初、アリシア様からお話があった時は、そなたを信じ、我もすぐには彼女の話を信じなかった。だが、我らは見たのじゃ。タルカナのあの夜会で、配られた物の中身を」

「……」

「先のワールウェイド公グスタフと共謀し、領内で栽培した禁止薬物の密売。いくら否定しようとも、それに関わったロイス神官長を口封じの為に殺害したのは明白じゃ。更には逃亡したラグラスと通じ、資金を提供した事によりタランテラ国内の混乱を増長させた」

「元々は聖域の外れにある難民の集落でそれを栽培していた。移転に伴い、これらの集落を盗賊の襲撃に見せかけて壊滅させ、一部の専任の農夫を除いて殺害された。

 そなたには知らされていなかったようだが、フレアはこれに巻き込まれて行方不明になったのだぞ」

「な……んだと……」

 続くミハイルの言葉にベルクは愕然となる。

「その場に居合わせた彼女に気付いたオットーが、回収したあの薬草の種と共に拉致したあの子をワールウェイド領に連れ去った。だが、妖魔に遭遇したこいつらは、フレアを見捨てて逃亡した。おそらくフレアは妖魔から逃げる間に頭を打って記憶を失い、そして当てもなくさまよっている所を殿下に助けて頂いたのだろう」

 初めて知らされる真実に最早ベルクは帰す言葉も無かった。

「余罪はまだ有る。だが、これらだけでも極刑に値する」

 シュザンナの父親でもあるタルカナの宰相が続けて口を開く。

「既にカルネイロ商会は差し押さえ、そなたが所有する財産もすべて没収した。かかわりのあった者達も全て捕え、罪に応じて処断していく」

 知らない間に身ぐるみを剥がされていた。守銭奴の彼には全財産の没収は相当堪えるようで、今にも卒倒しそうだった。

「里では今頃、そなたの伯父も糾弾されている頃合いだろう」

「ベルクをダムート島の監獄に収監せよ。余罪を全て明らかにしてから刑を言い渡す」

 一通りの報告が済み、最後に審理官長を務める賢者がそう締めくくった。

 ダムート島は礎の里の沖にある孤島で、重大な罪を犯した者が収監される監獄だけがぽつんと建っている。余罪を残さず調べるにはおそらく1年や2年では足りないだろう。今は他に収監されている囚人はいないので、ベルクは1人でその島で生活する事になる。

「嘘だ……嘘だ……」

 竜騎士達に連れ出される間も蒼白な顔をしたベルクは現実を逃避するかのようにそう呟き続けた。



ちなみに、ベルクは一服盛られて一昼夜眠らされ、その間にアレス特製の悪夢を見ております。

ベルクが寝ている間にシュザンナとアリシアを迎えに行き、エヴィルの国主とタルカナの宰相が到着して色々と打ち合わせをした事になっております。

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