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群青の空の下で  作者: 花 影
第2章 タランテラの悪夢
118/156

67 悪夢の終焉3

暴力を伴う残酷なシーンがあります。

 非常時という事で顔合わせはごくあっさりと済んでしまった。決死の覚悟でエドワルドはしゅうとに挨拶をしたのだが、彼はごく普通に挨拶を返してきただけだった。ただ、勝手をした息子には容赦のない拳骨が見舞われ、それは相当痛かったらしく、ルイスはしばらくの間頭を抱えてその場にうずくまっていた。

「お会いしたかったのもあるが、そのラグラスとかいう不埒者に一言物申したくてな。付き合わせてもらってよいか?」

 エドワルドに断る理由など無かった。だが、大陸を代表する賓客をいつまでも外に立たせておくわけにはいかない。そこで彼を天幕に案内し、改めて配下の竜騎士達も紹介したのだが、竜騎士達は緊張のあまり直立不動で微動だに出来なくなっていた。

 さすがにそれでは仕事にもならないので気の毒な各団長には外の警護を命じ、天幕の中にはタランテラ側はエドワルド以外にアスターとヒースが残った。

「指揮官はそなただ。気を遣わなくてよい」

 エドワルドに上座を勧められたのだがそれは固辞し、彼は先程までアレスが座っていた席に着いた。父親がいるとさすがに同じ席に着くのは躊躇ためらわれるのか、アレスとルイスは天幕の入り口付近で警護するように立っている。

 その様子を見やりながら、彼は大母補の元には部下を差し向けた旨を伝えて一同を安堵させた。

「申し上げます」

 そこへ伝令の若い竜騎士が報告に上がる。さほど緊張した様子を見せていないところから、まだ高貴な客人がいる事は聞いていないのだろう。

「準神殿でラグラスの側近とみられる男が頭から血を流して倒れているのを発見しました。意識が無く、現在治療を行っております」

「ラグラスは?」

「準神殿内部には姿が無く、現在付近を捜索しております」

「人員を可能な限り増やせ。但し、包囲網は崩すな」

「はっ」

 若い竜騎士は上座に座るエドワルドに深く頭を下げ、彼の命令を伝えるべくすぐに天幕を後にする。余談だが、後になってこの場に殆ど伝説と化している人物がいたことを知り、彼は驚きのあまり腰を抜かす事となる。



 待つ時間は長く感じ、天幕内は張りつめた空気が漂う。待ちに待った報告が届くまでにそれからさほど時間がかからなかったのだが、エドワルドには無限にも思えた。いても立ってもいられず、自分も飛び出していきたい衝動に駆られそうになるのだが、それを辛うじて堪えられたのは隣にいるフレアがそっと手を重ねてくれていたからだ。

「ご報告申し上げます。先程、準神殿の近くの用水路で動けなくなっていたラグラスを捕縛いたしました」

 淡々とした口調で報告に上がったのはルークだった。怒りを完全には抑えきれておらず、ヒヤリとした雰囲気を漂わせている。それでもラグラスを手にかけるのはどうにか思いとどまったらしい。

「ここへ連れてこい」

「外の方が宜しいかと」

「何故だ?」

「泥まみれです。一応洗いましたが、この場を汚したくありません」

「……分かった」

 部下の説明にエドワルドは納得して席を立つ。

「ここで待たれますか?」

「いや、最後まで付きあわせてもらおう」

 成り行きを見守っていた妻の父親に尋ねると、彼も当然と言った様子で席を立つ。エドワルドは頷くと、傍らの妻に手を貸して立たせた。

「コリンも呼びましょう」

 コリンシアも最後の決着を見届ける為に付いて来たのだ。母親としてその意思は尊重してやりたいとフレアは思い、戸口に立つルイスの方を見る。それで彼女の意思を悟ったルイスはすぐに天幕を出て行った。

 彼ならおそらくオリガにも声をかけてくれるだろう。ルークが補足して言うには、ラグラスを水洗いするのをティムも手伝い、そのまま竜騎士に混ざって彼を見張っているらしい。辛い逃避行を供にした彼等にはこの最後の瞬間に立ち会う権利がある。

 表に出ると、伝令の飛竜が離着陸する為に開けられている広場には多くの竜騎士や兵士が集まっていた。エドワルド達が姿を現すと、彼等はさっと左右に別れて道を開ける。するとその中心には、ずぶ濡れのラグラスが毛布にくるまって震えていた。

 ルークは洗ったと言うが、顔はまだ泥で汚れている。草や葉が絡んだままの髪からはしずくがポタポタと落ちており、水分を吸った毛布は最早その役目を果たしてはいなかった。

「お、俺様を、こ、こんな扱いしやがって……ただで済むと思うなよ」

 寒さで震えながらも取り囲むフォルビアの竜騎士達をラグラスは睨みつけていた。だが、彼等は冷めた目で元上司を見下ろす。

「お前、それからお前もだ。誰のおかげで竜騎士になれたと思ってんだ! 恩をあだで返しやがって!」

 時折くしゃみを連発しながら、特に古参の竜騎士を順に睨みつけていく。それでも彼等は毅然とした態度を崩さない。

「我々が御恩を感じているのは貴方様ではありません。我々をとりたててくれたのは貴方様の父親です」

 代表して答えたのは、昨年までフォルビアの騎士団を実質率いてきた古参の竜騎士だった。今はルークと共に、ヒースの下で竜騎士のまとめ役を担っている。

「親父が死んだら俺様に返すのが当然だろうが!」

「……亡くなられたあの方のご遺言もあり、我らは貴方様に従った。しかし、貴方様はそれがさも当然の様に我らをこき使い、更には偽りをもって竜騎士の尊厳を踏みにじる行いを強要したのだ。我々には最早、貴方様に従う義理は無い」

「おのれ……」

 ラグラスは相手を強くにらみつけた。




「彼の言うとおりだな。強要するばかりでは、真の忠誠は得られぬ」

 フレアを一時彼女の父親に任せ、ルークやアスターと共にエドワルドが広場の中央に姿を現すと、今度は彼に掴みかかろうとする。だが、縄で縛り上げられているラグラスは動くことも出来ず、結局は聞くに堪えない己の持論をわめき散らすだけだった。

「忠誠なんて必要ねぇ! 下賤な奴らはフォルビア大公の俺様に黙って従い、役に立つのをありがたく思えばいいんだ!」

「それが間違いだとは思わんのか?」

 この期に及んで考えを改めないラグラスにエドワルドはため息をついた。

「フォルビアは俺様のものだ。そう決まってたんだ。どこの馬の骨とも知れん下賤なあの女のもんじゃねぇ! 俺様がフォルビア大公だ! 無能な領民どもを好きな様に扱って何が悪……」

 ラグラスが完全に言い終える前に、ルークが素早く動いてその左の頬に拳を叩き込んだ。ラグラスにとって幸いだったのは、負傷していた利き腕で殴ったために力が入りきらず、歯が数本折れた程度で済んだ事だろう。

「な、何しやがる」

「黙れ! お前はフォルビア大公じゃない。反逆者だ。今のお前には領民を従わせるどころか小石1つ動かす権利も無い」

「黙れ、エドワルドの犬め! 俺様には礎の里が付いてんだ。こんな目に合わせたことを後悔させてやる!」

 血走った眼でルークを睨みつける。ルークはもう一度拳を握るが、それはエドワルドによって止められる

「言っても無駄なようだな」

 すっとエドワルドの目が細められる。一瞬で、周囲の空気が凍りつくほどの怒りを向けているのだが、向けられた当人にだけは伝わらなかった。

「あの賢者が来れば審理が始まる。お前は全てを奪われて国から追い出されるんだ」

 楽観的希望から妄想は膨らみ、左の頬を腫らしたラグラスは口の端から血と涎を垂らしながら高笑いをする。最早正気では無いのかもしれない。

「そんな事はさせません」

 突然割り込んできた声に振り向くと、ラグラスはギョッとする。エドワルドのプラチナブロンドに負けないくらい豪奢な金髪をたなびかせた男が見覚えのある女性をともなって現れたのだ。

「おめぇ……フロリエ!」

ラトリ村の襲撃が成功し、てっきりベルクの手中にいると思い込んでいたフレアが現れ、ラグラスは驚いた。続けてルイスに抱きかかえられて現れたコリンシアと、その後に続くオリガの姿を目にして絶句する。

「何故だ……」

「ここに彼女がいるのがそんなに不思議か?」

 エドワルド同様、金髪の男もヒヤリとした空気を纏っているのだが、ラグラスの関心は父親の手を離れてエドワルドにそっと寄り添うフレアに向けられていた。

「貴方が送り込んだ兵は全て捕えられました。審理も無効となり、フォルビアにいてはタランテラに混乱をもたらしたあなたは裁きを受けなければなりません」

「そんなのでまかせだ! 俺様はフォルビア大公として当然の権利を主張しているだけだ! 盗んだ証を返せ! それは俺様のだ!」

 ラグラスは血走った眼でフレアを見上げて喚く。母親の窮地を救おうとでも思ったのか、ルイスの腕から降りたコリンシアが父親と母親の間に立ち、座り込んでいるラグラスの顔をじっと見る。

「どうして嘘をつくの? 母様は何も悪い事してないよ。悪い事してたのは小父さんでしょ? 母様やオリガに悪い事しようとしたし、おばば様のお金を勝手に使っていたのもコリン、知ってるよ」

「ガキは黙ってろ!」

 子供に指摘され、腹を立てたラグラスは縛り上げられているのも忘れてコリンシアに掴みかかろうとする。姫君は両親によってすぐにかくまわれ、彼の目の前には長柄のブラシが鋭く突き出される。

「姫様に触れるな!」

 先程彼を磨いたブラシを突き出したのはティムだった。普段は飛竜の体を清潔に保つために使われるブラシには、彼を洗浄した名残の枯葉やごみが付着していてさすがのラグラスもウッと後ずさる。丸洗いされた光景を思い出したのだろう。

「この姫君は先の女大公が自分にフォルビアを託したかったのを理解している。その上で、今回の顛末を最後まで見届けたいと自分から言い出したんだ。お前よりもずっと領主に相応しいと思わないか?」

 後ずさったラグラスに今度はルイスが間を詰めてくる。

「笑わせるな。俺様がフォルビア大公になるのは昔しっから決まってんだよ! 余所者が口出しするな! 審理が終わればお前ら皆、首をねてやるから覚悟しておけ!」

 どうあってもラグラスは現状を理解しようとしていない。彼等のやり取りを見守っていた金髪の男が一つため息をつくと、ルイスを下がらせ、自分がラグラスの正面に立つ。

「お主がどんなに待っていても審理は行われない。随分とベルクをあてにしておるようだが、奴自身にも嫌疑がかかっておる。今はお主がこの子の存在をちらつかせてエドワルド殿下を脅迫しているのを知り、審理が無効になるのを必死に食い止めようとしておるが、それも徒労に終わる。そなたが聖域に兵を向かわせ、その兵を捕えた時点で既に審理は無効と決したからだ」

「……」

 ラグラスは答えない。そんな彼に男は続ける。

「下の者が仕えてくれて当然と考える限り、そなたには誰もついて来ない。現にこうして不利な状況におちいっても、そなたを助けようとする者はおらぬであろう?

 だが、エドワルド殿下はどうだ? そなたや先のワールウェイド公に牛耳られたこの国にありながら、彼を慕う者達は最後まで抵抗を続け、遂には殿下を救出した。更に彼が不調な間も彼の部下達は陰日向となって彼を支えた。この違いは何かわかるか?」

「な、何を偉そうに……。部外者は黙っていろ」

 ラグラスは反発するが、男の放つ圧倒的な威圧感にのまれて先程までの勢いがない。

「私はこの地でフロリエと呼ばれていたこの娘の父親だ。わが娘の事をそなたは散々下賤だとののしってくれた様だが、私から言わせると、この場にいる誰よりもそなたは下劣だ」

「な……」

「多少はこの地にまで知られているはずだ。わが名はミハイル・シオン・ディ・ブレシッド。この子は養女だが、我がブレシッド家の血を引いており、紛れも無く一族の一員である」

 多少どころでは無い。その場にいる全員がその名を知っている。ミハイルが名乗った事により、竜騎士達の間でささやかれていたまさかが現実となり、周囲は大きくどよめいた。

「ば……かな……」

 ラグラスの顔は蒼白となる。彼もようやく大陸随一の実力者を敵に回してしまった事に気付いたのだ。

「そなたの凝り固まった頭では、いくら口で言っても通じないな」

 そこで一旦振り向き、控えていたアレスに視線を送る。それだけで全てを了承した彼は小竜を肩に乗せたままミハイルの隣に立った。

「アレス、体に傷をつけなければ好きにして構わん。この外道に己が犯した罪の重さを思い知らせてやれ」

「はい」

 アレスが返事をすると、ミハイルはもう興味を無くしたとばかりにきびすを返す。周囲の人垣が自然と割れて道を作り、ミハイルと彼に呼ばれたルイスがその場を後にする。

「俺は彼女の弟だ。姉からお前の所業を聞き、この日が来るのを待っていた。お前によってしいたげられた人々の恐怖と痛みをじっくりと体験するがいい」

 ラグラスの顔を覗き込み、ニヤリとアレスが笑う。気付けばラグラスの周囲を取り囲むように10匹以上の小竜が集まっている。アレスが指をならすと肩に乗った小竜を経由し、集められたその記憶がラグラスへ強制的に流れ込んでいく。




 気付けば体が小さくなっていた。波に翻弄ほんろうされる船の上ではしっかりと縁に掴まっていないと湖に体が投げ出されそうだった。感じるのは猛烈な空腹感と喉の渇き、そして言いようのない恐怖。

 縁に掴まったままの手も痛く、だんだんと痺れてきた。その手が緩んだ瞬間に小船が波で大きく揺れる。

「うわっ」

 体が宙に浮き、湖に落ちるとギュッと目をつむった。だが、いつまで経っても水に落ちない。恐る恐る目を開けて見ると、今度は薄暗いながらも豪奢な部屋の中にいた。元の大きさに戻ったようだったが、何故か体は女性になっていて何も身に付けていない。

「!」

 ひんやりとした床の上に座り込んでいたのだが、目の前に立つ男の顔を見てギョッとなる。それは自分だった。

「な……」

 驚いて固まっている間にヒュッと風を切る音と供にピシッと何かが打ち付けられ、肩に鋭い痛みが走る。それが何度も何度も繰り返され、止めてくれとすがろうとすると、今度は足で蹴飛ばされた。ひっくり返った自分のお腹をもう1人の自分は凶悪な笑みを浮かべながら何度も何度も踏みつけてきた。

「うあぁぁぁ」

 お腹を守ろうと反射的に体を丸めるが、それでも何度も何度も蹴りつけられる。下腹に激しい痛みが襲い、泣きわめいていると、もう1人の自分はそれを高笑いして見下ろしていた。

 その激しい痛みに意識が遠のき、再び気が付くと辺りは真っ暗だった。目を凝らしても何も見えない。手を動かしてみると何かにあたった。

 驚いた事に男に組み敷かれて口を塞がれていた。しかも男の荒々しい息遣いがすぐ間近に感じる。嫌悪感から抵抗を試みるが、男の力が強くて振りほどけない。それでもめちゃくちゃに暴れると、男の顔に手が当たる。

 怒ったらしい男が何かを叫ぶ。その声は紛れも無く自分の声だったが、驚いている場合では無い。この状況から脱しようと必死に抵抗を試みるが、頬を叩かれ、後ろにあった硬い物に頭を打って意識が途絶えた。


 パチパチと火の爆ぜる音で意識が浮上する。今度は飛竜となって何故か火のついたはりを支えていた。火事となった厩舎らしい建物にいるのだが、どうやら人間達が逃げるまで崩れないように支えているらしい。

「くっ……」

 煙が目に染みる。丈夫なはずの飛竜の皮膚も炎が直接当たればさすがに火傷を負った。これだけ被膜も傷んでしまえば飛べるかどうかも不安だったが、それでもパートナーの元へ行かなければならない。

 最後の1人が脱出した。えそうになる気力を振り絞り、自分も脱出する為に炎に包まれた屋根を体当たりして突き破った。


 全身に焼け付くような痛みを感じる。気付けば人間に戻り、長剣を振るっていた。味方は既になく、大多数の敵を相手に最早気力だけで動いている。

「!」

 何人も敵を切り伏せ、切れ味の悪くなった長剣が弾き飛ばされる。とうとう素手となったが、それでもこのまま倒れる訳にはいかない。1人でも多くの相手を道連れにしようと武装した相手にもひるむことなく立ち向かっていく。

 だが、それもいつまでも続かない。とうとう顔に致命的な傷を負って地面に倒れる。敵は無様な自分の姿を嘲笑し、動かなくなった体を蹴飛ばしてその場を去って行った。その光景が暗くにじんでゆく。


 今度はしかばねが累々と横たわる光景を目の当たりにして立ち尽くしていた。体はまた小さくなっており、絶望が彼を支配していた。

 傍らには他にも子供が何人かいて、皆、泣いていた。そこに横たわっているのはこの村の住人達で、皆、この村で家族の様に暮らしていた人達だった。朝方、嵐と共に襲ってきた兵士達によって殺されてしまったのだ。

 親によってかくまわれ、彼等は運よく生き延びたが、子供だけでどうやって生きていいのだろうか? 絶望だけが彼を支配していた。




「うあぁぁぁ!」

 地面の上でもがき苦しむラグラスをアレスは無表情で見下ろしていた。その光景を、エドワルドを始めとしたタランテラの竜騎士達はただ、呆然として眺めている。

「何が……起こっているのだ?」

「幻覚のようなものです、エド」

 呆然と呟く夫にフレアは簡単に説明する。飛竜が記憶したものをパートナーに見せる様に、小竜が記憶している内容を強制的にラグラスに見せているのだ。小竜1匹だけでは難しいが、これだけの数が揃えばかなり現実感のあるものが再現されているらしい。

「あの子、かなり怒ってましたから、容赦しないと思うのだけど……。大丈夫でしょうか?」

 あんな男の心配までする己の妻にエドワルドは半ばあきれて溜息をつく。

「あんな男でも苦しむ姿は見たくないのか?」

「……そうじゃありませんの。あれは度を越すと正気を無くしてしまいます。ベルクの事とは切り離して審議されると思うのだけど、そこまでしてしまうと逆にあなたに悪評が付いてしまうのではないかと……」

 フレアの答えにエドワルドは寸の間目をしばたかせ、やがて笑みを浮かべると彼女を抱き寄せた。

「奴の所業は既に正気の沙汰ではない。それに、審議するまでも無く奴の処遇は決まっている。その辺は心配しなくても大丈夫だ」

「そう……」

 再びラグラスに視線を移すと、一体、どんな幻覚を見せられているのか、彼は涙を流しながら何度も止めてくれと叫んでいた。状況を1人理解できていないコリンシアが「あの小父さんどうしちゃったの?」と首を傾げている。

「グランシアードが自分も混ぜてくれと言っている」

「ファルクレインもです」

 今、何が行われているのか飛竜達にも伝わったらしく、内乱の折にはパートナー共々重傷を負った2頭が参加を強く希望する。確認の為にアレスに視線を向けると、彼は無表情のまま頷いたので、それを伝えると飛竜達は嬉々として自分達の記憶をラグラスに送り込んだ。




 気が付くと再びあの黒髪の男が自分の顔を覗き込んでいた。

「お前のそのとんでもない欲の犠牲になった人たちの苦しみが少しは分かったか?」

 ラグラスは何度もうなずく。体の震えが止まらないのは寒さだけでは無かった。

「も、もう許してくれ……」

「……そう懇願する相手をお前はそれで許したか?」

 それだけで許す気のないアレスは意地の悪い笑みを浮かべる。ラグラスにはそれがとてつもなく恐ろしく感じ、思わず「ひぃっ」と情けない声を上げて後ずさりした。


やっとラグラスを捕縛。

ちなみにラグラスの罪は反逆罪なので、当然極刑になります。

ベルクが余計な事をしなければ、例え討伐期でも捕えて刑を執行できていました。


アレスがラグラスに見せた幻覚の補足

最初は「悪夢の始まり1」の後、小舟で脱出したコリンシアの記憶。

ちなみに船から投げ出されそうになっても、ティムやオリガが体を支え、その後はフレアが彼女を抱きしめていました。


続けて出てきたのは「交錯する思惑1」でラグラスの夜伽に呼ばれた女性のもの。

フォルビア城解放後に助け出されたが、心身ともに傷ついており、女医のクララが診察。なかなか回復せず、ロイスの治療の為に聖域から来たアイリーンにも声がかかった。そのおかげで彼女の壮絶な記憶を知る事となった。


次は「責任の在り処2」でラグラスに襲われかけたフロリエ(フレア)の記憶。アレスはルルーから読み取った。


次は「悪夢の始まり」で館が襲撃を受けた折のグランシアードの記憶。ラグラスはその熱さも体感。

その次は「悪夢の始まり1」のラストで倒れる前のアスターの記憶。ファルクレインが是非ともとラグラスに送り込んだ記憶。

最後は「手がかりを追って」でリーガスに保護される前のニコル達の記憶。

これもグランシアードが記憶していた。


これで多少はラグラスも反省してくれるといいのですが……。

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