52 一筋の光明
前話が悪役メインの話だったのに対して今回はフォルビアや聖域がメインのお話。
消息不明だったあのコもちょっとだけ登場w
前日に皇都に戻って来たアレスは足早に皇都の街中を歩いていた。目的がはっきりしていれば日中のみ行政区画への立ち入りが許可されている。彼は大神殿への参拝を理由に行政区画へ入り込み、小竜を操ってエドワルドの元へ送り込んだ帰りだった。
どんよりした雲からはハラハラと雪が舞い落ち、昼間だというのに辺りは薄暗い。閉門される夕刻まではまだ時間があるのだが、寒さに耐えかね彼は大神殿への参拝もソコソコに春まで借りている家へと向かっていた。
「寒……」
さすがに大陸最北の寒さは半端じゃない。標高の高い聖域で暮らしている彼でも常よりも厚着した上に普段は着ないような毛皮のついた防寒着を着込んでいる。毛皮のついた帽子をかぶり、騎乗用の防寒具を付け、毛皮で内貼りされている長靴も履いているのだが、それでも寒さがしんしんと身に染みてくる。
パタパタ……。
家まであと少しというところで、小竜の羽音が聞こえる。アレスが空を振り仰ぐと、エドワルドの元に送った小竜が飛んできた。やはり寒いのか、アレスの元に一目散に飛んでくると、彼の懐へと入り込もうとしてくる。
「お……おい……」
焦るが小竜はまんまと懐へと入り込み、熱を奪われたアレスはたまらず小走りで家の中へと駆け込んだ。
「寒……」
慌てて居間の暖炉の前に陣取り、冷えた体を温める。そして小竜を懐から出し、その場に用意していた干し果物を与えて労う。
「……何を持って帰って来たんだ?」
そこでようやく胴輪に挟んである紙片に気付く。アレスは小竜を宥めながら胴輪を外し、その紙片を手に取る。百合の紋章は無く、明らかに自分がはさんだものでは無い。
「律儀な方だ」
アレスは苦笑しながら紙片を広げる。細かい文字の羅列は美しく、王者の威厳が伝わってくる。この辺りはルカに見習わせないといけないと思いながら読んでいたが、読み進めるうちにその表情は強張ってくる。ここにまた一つ、あってはいけない事が起こっているようだ。
「繁殖用の雌竜を?」
アレスはカーマインの存在に顔を顰める。そもそも飛竜の数は国の広さ、妖魔の出没頻度を考慮して厳格に定められている。特に繁殖雌竜の管理は神殿が行い、ごくわずかな例外を除いて国や個人に与えられることは無いのだ。
タランテラ側の調査では、カーマインはもともとマルモア正神殿の預かりとなる繁殖雌竜で、彼が己の伝手と権限をフル活用してそのカーマインをマリーリアに与えた事が分かっている。
見るものが見ればすぐにバレる小細工なのだが、誰も止められなかった事実に、いかにグスタフが我が物顔でタランテラの政を牛耳っていたのかが分かる話だ。
姉が友人だと言っていたカーマインのパートナーを慮り、エドワルドも彼の兄もなかなか手を打てずにいたらしい。カーマインがファルクレインと番になった事で、その問題もどうにか解決したのだが、今度はカーマインが襲われかけるという事件が起きたらしい。その真の黒幕も見当がついているのだが、現状ではどうにも手出しが出来なくて歯がゆく思っているのが手紙からも伝わってくる。
「うーん……」
アレスがひとしきり考え込んでいると、先に戻っていたマルクスが顔を出す。
「若?」
悩んでいる様子のアレスに思わず声をかける。
「ああ、ちょっと見てくれるか?」
「おう」
アレスはマルクスに紙片を渡す。彼はびっしりと書かれた文字の羅列を読み進めて顔を顰める。
「どう思う?」
「……マルモア正神殿の神官長は、先のワールウェイド公の奥方の従兄でしたね。今まで彼の言いなりになって加担してきたが、この国での最大の後ろ盾を失って焦っているのでは?」
「なるほど。常と違う環境で雌竜に何かあれば返還を認めさせる理由となり得る。礎の里から何か言われる前に、とにかく雌竜が自分の神殿に戻っていれば帳尻が合わせられるとでも思ったんだな」
「そんな所でしょう」
アレスの推理にマルクスも頷く。証拠にもよるが、この分なら大神殿の神官長を介せば処罰も可能だろう。但し、ベルクが横やりを入れなければである。
「一応、これも報告しておくか。当代様が許可を出せば誰も文句は言わないだろうし」
「確かに」
幸いな事に、最も間近にいい例が存在するのだ。それを認めさせる方法だけでなく、必要とあれば、いくつも卵を孵してきた経験に基づく助言が出来るだろう。
「で、首尾は?」
「例の薬草園の一角に、厳重に警備された建物がありました。例の物が保管されているだけかと思ったら、10名程の農夫が監禁されていました。若のご親戚の推察通りなら、聖域の外れの集落にいた連中ではないかと思われます」
ルイスは聖域の外れの集落で、以前はあの薬草の栽培が行われていたと推測していた。その推測が本当ならば、ペドロはその栽培に関わった人間が連れ去られている可能性があると言って来たのだ。
そこでアレスはマルクスにあの薬草園の再調査に行かせたのだ。冬場という事で、警備は以前ほど厳重では無く、薬草園の中へは難なく中へ入り込めた。そして小竜と共に敷地の隅々まで調査してきたのだ。
「どうにか接触して、希望するなら逃がしてやろう。じいさんの話ではあの薬草を加工するには高度な技術が必要だと言っていた。おそらく、彼等はその技術を持っている筈だ」
「救出するとなると、事前に準備が必要です。悪い扱いは受けていませんが、警備員達の話から推測すると、上からの命令で外部との接触を禁止されているらしい」
「その命令を出しているのはそこの責任者か?」
「あくまで推測ですが、その上からの指示の様です」
マルクスは推測というが、全く根拠が無いわけではないのだろう。彼等の会話を聞き、それらを繋ぎ合わせて導き出したものに違いない。
「もしかしたらベルクの姿を見ているかもしれない。もし、証言してもらえるなら、十分な効力は有るはずだ」
「確かに」
「レイドやパットにも手伝わせよう」
「了解」
2人はその後、酒肴を用意すると体の中からも体を温めながら今後の方策を練ったのだった。
フレアは暖炉の側の安楽椅子で、小さな、小さな靴下を編んでいた。ルルーは丸くなって眠っているので、それは手探りで編んでいるとは思えない程見事な出来栄えだった。
「母様、出来た」
最近、編み物を習い始めたコリンシアが出来上がったマフラーを持ってくる。最初はたどたどしかった指使いも滑らかに動くようになり、編み始めよりも編み終りの方が幾分締まって幅が狭くなっていた。それでも一つの作品が出来上がったのが嬉しいらしく、コリンシアは満足そうにしている。
「良くできたわね」
フレアは出来上がった作品を手で触れて確認し、微笑みながら娘の頭を撫でる。
「お婆様に見せてくる」
褒めてもらえるとやはり嬉しいらしく、コリンシアは作品を返してもらうと、小走りで部屋を出て行った。
「エド……」
1人になると、目立ち始めたお腹に手を当て、右手首に巻いた擦り切れた組み紐に触れる。切れかかった組み紐は、片方無くしたイヤリングで留めてある。手先が器用なバトスが金具を改良して留められるようにしてくれたのだ。
ラグラスがベルクを通じて起こした審理の話を聞き、彼女はどうしようもない程の不安に駆られていた。絶対に何か裏があるはずと、そう勘ぐらずにはいられない。そして何も出来ない己の身が恨めしくも思える。
ポコン……。
お腹に衝撃が起こる。初めて体験する胎動にフレアは驚いて固まる。するともう一度、まるで彼女を励ます様にポコンと動く。
「……励ましてくれているの?」
フレアはお腹を撫でる。お腹の子供の励ましにいつの間にか塞ぎ込んでいた気持ちは軽くなっていた。彼女は感謝をこめてそのまましばらくの間お腹を撫で続けた。
小竜が運んできたベルクの調査報告書をエドワルドが受け取っていた頃、フォルビアでは総督のヒース主催による国主アロンの鎮魂の儀が執り行われていた。本来ならば正神殿で行われるのが筋なのだが、神官長のロイスが体調不良で静養中なのと、いつ妖魔が現れてもおかしくない状況を考慮し、城下の小神殿で執り行われた。
城下に住む者だけでなく、地方から城下に避難している者も多く押し掛けたので、当日は神殿に入りきれない程人が集まった。それでも竜騎士達も警備にあたった事もあり、大した混乱は起こらず、国主の冥福を皆で祈った。
「ヒース卿、少しお時間を頂けないでしょうか?」
鎮魂の儀がつつがなく終了し、小神殿の神官長に挨拶を終えたヒースはルークを伴い、総督府へ戻ろうとしたところを呼び止められた。振り返るとそこにいたのは、ロイス神官長に代わってフォルビア正神殿を預かるトビアス高神官とレイドだった。内々で話がしたいと言って来たので、とにかく総督府へ場所を移す事を提案し、彼等もそれを了承した。
ヒースの執務室に彼等を招き入れ、補佐としてルークも同席させて部屋の外ではラウルとシュテファンが警護に当たる。一同が席に座り、早速差し出されたのは一連の報告書。なかなか会わせてもらえないロイスが静養しているあの小神殿の調査報告書だった。
「これは……」
「事後承諾で申し訳ない。3日前の深夜、我々は強行突入して小神殿を制圧した。詳細は報告書の通りだが、ロイス神官長の容体は極めて危険な状態です」
あの神殿で静養していたはずのロイスは衰弱して体も起こせない状況らしい。だが、その状況を作り出したのは、ベルクの命令で少しずつ投与されていた毒薬が原因だとある。俄かには信じがたいが、報告書には現在ロイスの治療にあたっている医者の診断書だけでなく、いくつも証拠が挙げられていた。
「しかし、何故ベルク準賢者は……」
「彼は亡くなられたワールウェイド公と手を組み、ある薬物を売りさばいて多大な利益を得ています。これは憶測ですが、どうやらロイス神官長はそれに利用された可能性があります。おそらくは口封じ。使われた毒物は少量ずつ与えると、徐々に体が弱っていき、やがて死に至る代物です」
レイドが薬の説明をしている間、トビアスは俯いていた。ロイスを尊敬していた彼は、タランテラに移った彼に自ら希望して同行していた。今回のこの報告に長年彼の補佐を務めてきた彼は動揺を隠せない
「今すぐ、奴を告発しましょう」
ルークはヒースから報告書を受け取り、目を通すとすぐにでも飛び出していきたそうに腰を浮かしかける。
「落ち着け」
ヒースはルークを窘めると、レイドに向き直り正面から見据える。
「これだけ証拠が揃っているのに、まだ告発をされていない理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「普通ならばこの証拠で礎の里へ告発すれば済む話です。ですがこの程度の証拠では、彼の手腕をもってすれば自身には白とも黒ともつけず、全ての罪をラグラスとワールウェイド公になすりつけてしまう可能性があります」
「以前、ハルベルト殿下からお話を伺った事があります。礎の里では賢者をもしのぐ権限を持ち、黒ですら白と言い換えるのも可能だと。これでもまだ不十分なのか……」
硬い表情のレイドの顔をヒースはじっと見つめる。館の跡で潜入している仲間と落ち合っているらしいとルークから報告を受けたのは初雪が降る前ごろだった。敵ではないと分かっていても、周囲を嗅ぎまわられているようであまり気分がいいものではない。
エヴィルから詮索は無用と言われているが、大陸でも屈指の権力者を敵に回すなら、共闘する相手の素性は知っておきたい。そこで単刀直入に聞いてみることにする。
「君は一体何者なんだ? ただの傭兵にしては里の事情に随分と精通しておられる。武術も操竜技術も上級騎士並み。どこかの騎士団に所属していると見受けられるが、如何か?」
「……」
レイドはため息をつくと、懐から何かを取り出してヒースの目の前に置いた。それは竜騎士を示す記章だったが、添えられた所属を示す記章に息をのむ。大母の象徴白ユリを守る様に配置された剣と盾。大陸で最も入団する条件が厳しい騎士団を示す記章だった。
「神殿騎士団……。君達は彼を告発する為に動いていたのか?」
「これだけではありませんが、優先する案件なのは確かです」
レイドの返答にヒースは深いため息をつく。
「……君達が我々に求めるのは何かな?」
「ヒース卿?」
追及して話を聞き出すのだろうと思っていたらしいルークは驚いて上司を振り返る。
「当代様の御下命で既に皇都の殿下にはこの件をお知らせする手はずを整えております。ベルクの部下はあの神殿に残っていた者達だけではありませんので、今まで通りに振舞っていただけたら助かります。今後、何か必要な事がございましたら、お願いに上がると思います」
「分かった」
ヒースは了承するが、ルークは納得のいかない様子で聖域の竜騎士に向き直る。
「ロイス神官長に会わせて頂けませんか?」
「貴公は目立ちすぎます。少々変装したぐらいではよく訓練されたベルクの部下の目をごまかす事は出来ません。それに……言い難いことですが、今の彼は何方にお会いしても相手を認識するのは難しい状態です」
「そんなに……」
ロイスの現状にルークだけでは無くヒースも絶句する。
「不躾なお願いばかりで申し訳ありませんが、奴を罪に問うにはそれなりの準備が必要です。そして、このまま放置しておりますと、タランテラを手始めに大陸全てが奴の食い物にされてしまいます」
「……分かりました。ロイス神官長の事、よろしくお願いします」
ルークも渋々納得し、頭を下げた。
「里の医術を結集し、出来る限りの事をいたします」
「頼みます」
ヒースも頭を下げ、レイドも頷く。彼の言葉から助かる確率は極めて低いのだろうが、快方に向かうのを祈るばかりだ。その後は討伐に関する細かいうち合わせを済ませると、レイドは持参した報告書を回収し、ずっと黙って控えていたトビアス高神官を伴い執務室を後にした。
「全て信じてしまっても宜しいのでしょうか?」
「嘘ではないだろう。だが、まだ隠している事は有りそうだ」
「……」
正直、ルークはまだ彼等を信じ切れていない。
「お前が不審に思うのも仕方ないが、少なくても我々の敵ではない。そう、邪険に扱うな」
「……分かりました」
本当に渋々と言った様子でルークはうなずいた。ヒースはそんな彼に苦笑しながらも、閉じていたフォルビアの地図を広げる。
「例の砦に動きがあった」
「本当ですか?」
少し様子を見ようと、しばらくはルーク自身があの古い砦に足を運ばないようにしていた。西部の有力者達の動向も怪しく、ヒースの命を受けた部下がそれを含めて交代で辛抱強く様子を見守っていた所、ついにラグラスの部下が姿を現したらしい。
「くれぐれも早まった真似はしないでくれよ」
「それは……分かっています」
正式に審理を受けると決めた以上、居場所が分かったとしても現段階でラグラスの身柄を拘束する事は出来ない。様子を窺うだけに留めるしかできないのが何ともいえず歯がゆい。
「とにかく、冬を乗り切るのが先決だ」
「分かっています」
有名傭兵団に所属する心強い助人が来てくれたが、やはり率いる立場になったからか不安が付きまとってくる。ルークは気を引き締めて頷いた。
「見回りに行ってきます」
「一人で行くなよ?」
「分かっています」
ルークはそう答えると、頭を下げて執務室を辞し、部下2人を引き連れて見回りに出る。落ち着かない時は飛竜と共にいるに限る。そう考えるのはルークだけでは無かった。
この冬最初の討伐を終えたルークは報告の為にヒースの執務室へ向かった。今回現れたのは青銅狼が20頭ほど。討伐期最初としてはごく普通の出だしだった。
「失礼します」
「おう、お疲れ」
ヒースは相変わらず山ほどの書類に囲まれていた。入室してきたルークの姿をチラリと見ると、きりの良い所まで終わらせてからペンを机に置いた。
「どうだった?」
「青銅狼が20。怪我人はおりません」
「そうか、ご苦労だった」
竜騎士になって10年以上経ち、例え騎士団長の地位に就いて自ら先陣を切らなくなってもその冬最初の討伐は緊張する。まだ先は長いのだが、最初の討伐が無事に終えたと聞き、ヒースは安堵の息を吐く。
「つい先ほど、知らせが来た。ロイス神官長が亡くなられたそうだ」
神殿騎士団が監禁状態のロイスを救い出して10日。既に手の施しようが無かった状態だった彼は、今朝がた静かに息を引き取ったらしい。密かに知らせに来てくれたレイドが、里の医術をもってしても救えなかったと、悔しさをにじませながら報告に来たらしい。
「そうですか……」
ルークは拳を強く握る。ロイスの為に何の役にも立てなかった自分が腹立たしかった。
「とにかく今日はもう休め。次の出動要請には私が応える」
「ですが……」
「休める時に休んでおきなさい」
「……分かりました」
まだまだ先は長いのだ。今から無理をしては、後が続かない。ルークは頷くとそのまま自室に引き上げた。
ナオーン。
窓辺に置かれたクッションの上で寛いでいた白い猫が、部屋に戻ったルークの足元に擦り寄ってくる。その猫はすっかり成猫となったブルーメだった。
館が襲撃を受けた後はしばらく行方不明だったのだが、近くの村長の家で保護されていた。日増しに表情が乏しくなり、口数も以前に比べてめっきり減ってしまった部下の精神状態を危惧し、引き取って来たヒースがその猫を半ば押し付けるようにルークに預けたのだ。
「水と餌を用意する。ちょっと待て」
おかげでどうにか人間らしい感情を失わずにいるらしい。フロリエやコリンシアが可愛がっていた猫は彼の恋人も良く世話をしていた。その思い出に縋りながら、猫の世話を嫌がらずにやっている。
「……どうして頼って下さらなかったのだろう」
世話が一段落すると、ルークは寝台に寝そべった。どうしてもロイスの訃報を思い起こし、役に立てなかった悔しさが沸き起こってくる。
「仲間を頼れと教えて下さったのは貴方だったのに……」
荒れ果てた館の跡で呆然自失し、僅かな可能性も打ち砕かれて絶望しそうになった彼に助言をくれたのは他ならぬロイスだった。その苦境に気付いてやることも出来ず、結局恩に報えなかった。悔しさに涙が溢れる。
ニャオン
餌を食べ終え、食後の身づくろいも済ませたブルーメが寝台に上がってくる。寝転んだルークに擦り寄り、ゴロゴロと喉を鳴らす。緩慢な動きで彼は手を動かすと、その体を少し撫でる。討伐で疲れていた彼はいつの間にかそのまま寝入っていた。
アイドルの座は譲れない3
★インターバル
つまんない……。
お館が無くなってしまった。
優しいお姉さんも、いつも遊んでくれる女の子も、いつもご飯を暮れていたお姉さんもどこかに行ってしまった。
認めたくないけど、いつもアタシの縄張りに侵入してくるアイツもいないとなんだかつまんない……。
「えさだぞ」
今、ご飯をくれているのはいつもご飯を用意してくれたお姉さんと仲の良かったお兄さん。
お礼代わりにニャオンと鳴けば、ごつごつした手で撫でてくれる。
でも、その顔は凄く寂しそうだ。お兄さんもお姉さんに会えなくてさびしいのかな?
もそもそとご飯を食べたらいつもの窓辺に登って外を見る。
もう外は雪が積もって真っ白だ。
ここはちょっと寒いけど、こうして待っていれば、いつかみんな帰って来るかな?
早く帰って来てよ。
やっぱりみんないないと寂しいよ……。




