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国盗物語  作者: 深谷みどり
第六章
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それでは資格を活用しましょう(4)

 灰色の瞳が、ちらりとキーラを見た。なんの含みもない眼差しだったが、反射的にキーラはうつむいていた。いま、表情を確認されて、考えている内容を見透かされたくない。自分自身でも明確に捉えられない、もやもやを他人に推察されたくない気持ちが強かったのだ。


「いや。あいつはチーグルや団長と共に行動している」


 だから何かを云われることもなく、ただ、ヘルムートから情報のみを与えられた事実に安堵した。ほっとした表情を出来るだけ顔に浮かべないよう、心がけた。牢屋から出る。スィンが振り返り、にこにこと笑いかけてきた。


「喜べ、キーラ。彼らが食事をご馳走してくれるそうだ」

「それは素直にありがたいわね」


 そう応えながら、ヘルムートを見上げる。このまま『灰虎』に合流する流れになっているが、自警団の詫びを受け取る余裕はあるのだろうか。かすかにうなずいたヘルムートはさくさくと廊下を歩き始める。キーラも追いかけ、スィンと自警団の男も続いた。


 さて、と今後に関して、キーラは考え始めた。


 魔道士ギルドに向かう方針だった。それはスィンを預けるためだったが、同時に、情報を集めるためでもある。『灰虎』が今、どうしているか。動向を確認したかった理由もあるが、それ以上に、ギルド長の意向を確認したかったのである。


 だが、魔道士ギルドに向かうより先に、『灰虎』の副団長と合流した。スィンがいるから魔道士ギルドを目的地にしてくれるだろうが、そこから先、魔道士ギルド本部まで転移してギルド長と話し合う余地はあるのだろうか。すらりとしたヘルムートの後ろ姿を見る。


(副団長と云うからには、魔道士ギルドとの協力関係があるか否か、知っているんでしょうけど)


 だが、前のようにだまされてはたまらない。ギルド長本人に確認したいのだ。


 考えながら歩いて、牢屋が並ぶ区画を出ると、建物の様子はたちまち変わる。


 明るく壁紙を張られている廊下を進んで、いまが昼だと思い知った。捕まった時間は朝だったから、結構な時間が過ぎているか。さんさんと入り込む陽射しは、固まっていた心を確実に解き放つ。ようやく解放された実感がこみあげてきて、キーラは唇をほころばせた。本当に、よかった。あのまま夜を迎える事態になったらどうしようかと考えていたのだ。さすがに自然現象を我慢できなかっただろう。用意された便所は絶対に利用したくなかったし。


 やがて、ヘルムートがこの建物に慣れている、と、まもなく気づいた。

 先に廊下を進んでいるが、振り返って自警団の男に行き先を確認しない。自警団の男も何も云わない。キーラに関する手配に関する事務手続きを考えたら、ヘルムートが何度か訪れた場所なのかもと推測できる。ちなみに、いま、ヘルムートが向かっている先は、ちょっとだけ入り込んだ場所だ。


 食堂である。


 ぷうんと漂う薫りに、今度こそ、キーラは嬉しくなった。ひときわ強く漂う、香辛料の薫りがたまらない。メニューはなにがあるだろう。なにを食べられるかしら。どうせならパストゥスでしか食べられない料理を食べたいわね、などと考えていると、くるる、とお腹が反応する。


 幾人かの男たちが一列に並んでいる場所がある。盆を持ったところが配膳区画か。いち早く察したスィンがキーラを追い越して並ぶ。キーラも続こうとして、ヘルムートがテーブルに方向を変えた事実に首をかしげた。まあ、すでに食事を終えていたのかもしれない。なにげなく考えながらヘルムートを追いかけ、その先を見てキーラは愕然と瞳を見開いた。


 白髪白髭の老人が、テーブルに着いてまったりとお茶を飲んでいたのだ。ややずれた場所に空いた皿が置かれていて、老人が食事を終えたばかりだとよくわかる。しかし問題はそこではない。


 キーラは列を振り返った。すぐに順番が回ってきそうだ。だからいまは深呼吸しながら落ち着こうと試みた。おとなしく盆に料理をのせられるまで待とうと云い聞かせる。先に並んでいたスィンが、ヘルムートの隣に座る。はやる気持ちを抑えて、キーラも膳を受け取った。特別な香辛料に漬け込んで天板で焼いた鶏肉に、野菜のマリネ、海藻の入った汁物、小さく切り分けた果物、と云ったメニューにときめきながら、老人の隣まで進んで、ようやくキーラは、驚いた心のままに声をはりあげた。


「じいさまっ。なんでここにいるの?」


 ヘルムートとの歓談をまったり楽しんでいた人物こそ、魔道士ギルドの長だった。



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