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国盗物語  作者: 深谷みどり
第四章
55/201

誰にでも事実を知る資格はあるのです。 (11)

 かつて、統一帝国があった時代、ルークスはうっそうとした森に占められていた。

 その土地に住みついたのが、現在、『精霊』と呼ばれている種族である。強く聡く麗しい黄金きんの女帝の治世下で、ヒトとは異なる、だが穏やかな生活を営んでいた。

 けれどその生活は、永続を望まれた女帝の治世が終わると同時に、終わりを告げる。

 女帝のもっとも忠実な臣下であった彼らは、なぜか女帝の後継者に従うことはせず、ルークス王国を建国し、開拓民の少年を王として迎えたのである。

 そうして彼らは、王となった少年に、永遠の友誼を約束して、森に去った。



 レフが語る内容を最後まで聞いて、キーラはティーカップに唇をつけた。

 ひと口だけ飲んで、「それで」と口を開いた。知らない知識を入手して感心してはいるが、それだけである。ためらいを覚えながら、レフにさらなる質問を重ねた。


「先ほどあなたは『隣人を犠牲にして』と云ってたけど、その隣人って誰?」

「だから『精霊』たちだ。この国には統一帝国の施設が多く残っている。ほとんどの人間は施設の詳細を知らないが、『精霊』たちは知っている。かつて魔道士ギルドにいた魔道士たち、いまは神殿にいる魔道士たちは王を幽閉し、『精霊』たちを利用して、統一帝国時代の施設をよみがえらせ、国をいまのかたちに変えた」

「どうして魔道士たちは神殿に移ったの?」

「きっかけは、十年前に現れたカンザキキョウイチロウと云う人物だ」


 キーラははっきり眉を寄せた。カンザキキョウイチロウ、覚えがある。今日に訪れた図書館で見た『召喚者名簿』にあった名前だ。いちばん新しい日付と共に書かれていた。


 そしておそらく、スキターリェツの本当の名前なのだろう。


 ――――キョウ、と呼んでくれてもいいよ。


 朗らかに云い切ったスキターリェツ。笑顔まで思い出しながら、レフの話を聞く。


「どこの出身なのか、わしはまったくしらん。だが王を後見人とし、神殿で暮らしていた人物だ。彼は他の魔道士たちが知らない知識や技術を身につけていたから、魔道士たちへの接触も認められていた」

(え?)


 違和感を覚えた。レフはスキターリェツの故郷を知らない。さきほどスキターリェツと共に訪れた図書館から得た知識から、彼が異世界から訪れた人間だとわかるのに、と考えた。禁書だから読む機会に恵まれていなかったのか、と思考を発展させて、気づいた。王が後見人、神殿で暮らしている。


(どういうこと?)


 神殿はわかる。スキターリェツがいま、滞在している場所だ。滞在を許されるような過去があったのだろう、おそらく友好的な過去に違いないと感じるから問題ない。


 だが、王が後見人とはどういうことだ。


 スキターリェツは王族にとっての脅威ではなかったのか。敵ではなかったのか。敵ではないというなら、十年前に王子アレクセイが預けられた理由はなんだ。


 ちょっと考えて、自分の頭をポンポン叩く。なんというか、情報過多の感覚がある。考えがまとまらない。こめかみを押さえながら、さらに話の続きを促す。


「そのカンザキキョウイチロウは、魔道士たちに何をしたの?」

「知識の伝授だ。やつの知識を手に入れ、共に言葉を交わすうちに、次第に魔道士たちはギルドの基本方針が間違っているのではないかと考えるようになった。だからギルドから距離を置いて、神殿に、カンザキキョウイチロウのもとに向かうようになった」


 ふうん、とつぶやいた。好奇心旺盛と云う性質は、多かれ少なかれ、魔道士と云う存在に備わっているものだ。カンザキキョウイチロウは異世界の人間だろうから、知識も技術も並の人間より珍しいだろう。


 だから納得できる理由ではあるが、魔道士たちがスキターリェツのもとに向かうようになった、その流れはいささか不自然だ。レフ一人だけが残っている、と云うのもおかしい。なぜ他の魔道士は神殿に移ったのか、なぜレフはギルドに残っていられるのか。そう考えているキーラの疑惑に気づかないまま、レフはさらに話を続ける。


「だから前任者は、王に進言した。カンザキキョウイチロウを追放するか、王子アレクセイを留学の目的で他国に預けるか、と云う提案をしたんだ」


 ぴくりとキーラは眉をひそめた。



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