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国盗物語  作者: 深谷みどり
間章
42/201

(8)

 それからしばらく、あいまいな時間を過ごすことになる。


 やはりというべきか、チーグルをはじめとする団員たちはキーラを味方に取り込もうと主張した。事情を話しさえすれば、彼女はきっとわかってくれると云うのだ。だが、同意できないアレクセイは、やはりこのまま監禁しようと主張した。アレクセイに共調する者は少なく、まったく、とアレクセイは呆れてしまう。


(こいつらに対し、どんな魔道を使ったんだ?)


 キーラが仲間たちに魔道を使うはずがない。理解しながらも思わずにいられない。最強の傭兵集団『灰虎』のいかつい傭兵たちをここまで信用させるとは、いったいどんな魔道を使ったのか、と。だがキーラを呼び出したとき、きっぱりと云われてしまった。


「今回の依頼はお断りします。即刻、わたしを船から降ろしてください」


 改まった口調だった。かちかちにしゃちほこばっている様子がよくわかる。


 アレクセイとしては覚悟していた言葉のはずだった。だが、やはり実際に云われてしまうと、落胆している自分に気づいた。やはり魔道をかけられている。戯れにつぶやいてみた。だがこわばった表情はゆるまない。アレクセイが沈黙している間にも会話は進み、ついに、キーラが泣きそうな顔でアレクセイを見つめてきた。


 うそつき、と云われている気持ちになった。

 うらぎりもの、と罵られている気持になった。


 アレクセイの決意は、キーラと会う前から始まっている。なにもかも了承して、アレクセイはルークス王子を騙る道を選んだ。だから、いまさらなのだ。道を定めた後に知り合った人間に非難されたところで、道を違えるはずがない。だが、――――だが。


(彼女を傷つけない方法が、理解を得られる方法があったんじゃないか?)


 動揺したまま、そう考えている自分に気づいた。けれどもう遅い。他にもいろいろ道はあったと思うが、これが、現実に発生している状態だ。キーラはアレクセイたちの仲間にならない。だからとつとつとした口調で平静を装う彼女をアレクセイはさえぎっていた。


「その先は云わなくてもいいですよ、キーラ。よくわかりましたから」


 ぎりぎりのところで踏みとどまっているキーラを、これ以上追い詰めたくなくて、ことさら王子らしい態度をよそおうと、ますます彼女は泣き出しそうになる。アレクセイはひとつ息を吐いて、キリルにキーラを部屋まで送るように云いつけた。おとなしく部屋を出ていくキーラは、何事か云いたいようだったが、諦めたように首を振る。


 アーヴィングもチーグルもセルゲイも、なにも云わない。云おうとしない。キリルの言葉もある。これまでを悔いる気持ちはわかるが、このまま沈黙しても状況は変わらない。


「彼女を船から降ろしましょう」

「それはだめだ」


 アレクセイが提案したら、アーヴィングが即座に反応した。両手を組み合わせたまま、陰鬱に落ち込んでいるくせに、きっぱりとした響きで云う。


「彼女は魔道士ギルドから紹介された魔道士だ。彼女をこの件から降ろして、新しい魔道士を紹介してもらえるはずがない。おれたちに魔道士は必要なんだからな」

「心当たりがあります。先日、船から降ろした魔道士を雇うわけには?」

「方法としてはあるだろうが、あの男にはギルドの保証がない。おまえの秘密を話すわけにはいかんだろう」


 秘密を話すわけにはいかない以上、同じ事態を繰り返す可能性が高いというわけだ。沈黙したアレクセイを、セルゲイがじろりと睨みながら、口を開く。


「おまえは本当に、どうかしているぞ」


 溜息ひとつを、まずは返した。いまとなっては、秘密を明かさなかった自分が悪いとわかっている。前髪をかきあげ、そのままの態勢でつぶやいた。


「おれがアリョーシャ本人から騙りの依頼を引き受けた。それを話したところで何が変わる? 国をだまし、民をだまそうとしているのは事実だ。なによりあそこまできっぱり拒絶しているんだ。深い事情など知らないほうが、彼女のためだろう」

「深い事情を知れば、だまされて雇われたのだ、と云う言い訳ができなくなる、か? だが現状を見ろ。キーラ嬢の性格を見れば、一方的な配慮にすぎないとよくわかるだろう」

「ああ。まったく返す言葉もないね」


 放り出すように告げて、アレクセイは息を吐いた。キーラを、仲間として受け入れる。けれど自らが犯した過ちのために、彼女を頑なにしている状況をどう切り開くか。もう一度息を吐く。なによりも骨が折れる仕事になりそうだった。



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