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国盗物語  作者: 深谷みどり
第一章
3/201

資格が職探しに役立ちますか? (2)

「そこで止まって」


 冷ややかに云い放てば、青年はわりと素直に従う。まず余裕のある表情で海を眺めて、キーラに視線を戻して、やや薄い唇をほころばせる。


「海がお好きなんですか」

「ええ好きよ。一人で眺めていられるならもっと好き」


 だからどこかに行ってしまって、と続けたかったが、寸前でためらった。相手は元凶である。だから温情をかける必要などないのだが、キーラとて、保身の気持ちくらいは持ち合わせている。藪をつついて蛇を出す類の態度はとりたくない。


 青年から視線を外してまわりを見る。そのあたりに、あの護衛役がいるのではないかと考えたのだ。だが用心してもそれらしい姿はない。青年がおかしそうに笑う。


「セルゲイは置いてきました。あなたとは相性が悪いようですから」

「まあ。仮にも一国の王子が、不用心ね。襲われたらどうするの?」


 わざと大げさに嘆いてやっても、にこやかな青年の表情は崩れない。


「そのときはあなたに護っていただきますよ。報酬は後払いで、ついでに、今回の依頼も受けていただこうかと考えています」

(気をつけよう、うっかり発動な温情に)


 心の中で標語を作りながら、キーラは改めて青年を眺めた。忘れもしない三日前、お昼過ぎの出現時から思っていたことだが、惚れ惚れするほど優美な美青年である。自分に跪く姿も、まるで物語なのではないかと錯覚するほど絵になっていた。なにをしてもさまになる品位がある。

 だからと云って、まさか一国の王子だとは思いもしなかったが。


 ――――アダマンテーウス大陸の北に、ルークス、という王国がある。


 いまの季節ならば、ちょうど過ごしやすい気候だろう。事実、避暑のために赴く貴族も多かったと聞いている。ただし、それは十年前までの話だ。現在、ルークス王国に入国は出来ない。原因不明の鎖国政策を実施しているからだ。他国からの使者を拒み、国境に兵士を配備しているとも、魔道による強力な結界を張っているとも聞く。


 そのルークス王国から、十年前に逃れ出た王子アレクセイだと、青年は名乗った。


 少々、信じがたい話である。青年が持つ紋章は確かにルークス王室の紋章であり、精緻な細工は贋作とは思えない。だが、王子とは王宮の奥で隠されているものではないだろうか。たくさんの騎士に護られているものではないだろうか。いくらここが、自由都市とも呼ばれる場所であっても、仮にも一国の王子がほいほい気軽に出歩くものだろうか。本人が希望したとしてもまわりが許さない。王子とはそういう存在ではないだろうか。


(でも、相手の気持ちをあえて読まない態度は、確かに王族っぽいのよね)


 いまも、じっと見つめるキーラの視線に動じず、悠然と微笑んでさえいる。

 微笑みは何も読み取らせない仮面だ。青年の魂胆は今日も読み取れない。キーラは諦めて、代わりに、自分の要求を突き付けることにした。


「アレクセイ王子」

「どうぞ、アリョーシャと」

「ルークス王国の王子さま。先にも申し上げた通り、わたくしにはあなたの依頼を承る意思はございません。ご了承くださいませ」


 何度も繰り返してきた言葉を、今日もまた、突き付けてやる。

 自らをアレクセイ王子と名乗った青年は、故国に潜入するための手助けを依頼してきたのだ。不穏な気配を嗅ぎ取ったキーラは即座に断った。ところがアレクセイは諦めが悪い。何度断ってもキーラを訪れ、懲りずに依頼を繰り返すのだ。


 今回もぬらりひょんと受け流すかと思われた彼は、今までと違って、ようやく表情を変えてくれた。端整な口元が少し引き締まって、キーラを眺める気色が変わった。探る意思を慎重に隠した眼差しでキーラを見つめてくる。


「そこまで依頼を拒まれる、事情をお聞きしてもよろしいですか」

「まあ、ようやく聞いて下さるのね」


 いやみっぽく呟いて、キーラはアレクセイと真正面から向かい合う。印象的な新緑の瞳を見据えて、胸を張ってキーラは応えた。



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