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国盗物語  作者: 深谷みどり
第十二章
195/201

いつかまた。再会を希う心に、資格など無粋です。 (1)

 遠く遠く。なぜかどうしようもなく懐かしい声が、キーラの名前をくりかえしていた。

 なにも考えられない、ぼうっとした状態のまま、キーラは声が響く方向に歩こうとする。でも近づけない。あたりまえだ、なぜなら身体はまったく動かないのだから。


 それでも、不思議なほど、意識に響く声に惹かれる。


 どうして。なにげなく、ちらりと生まれた思考が、覚醒のきっかけだった。


 ぱちりとまぶたを開いた。


 クリアに目覚めた意識はいっきにたくさんの情報をとりこむ。ひんやりと冷たい空気、背中に触れるゴツゴツした感触、新鮮な水と緑の匂い。まばゆい光とあざやかな青。それらを感じているうちに、自分の状況を思い出した。視界の先にある、青空を改めて見直す。


 青空には雲ひとつ浮かんでいない。いまいましい天空要塞もだ。


(自爆成功、生還成功、か)


 地面に横たわったまま、キーラは唇をほころばせた。


 安堵が身体をゆるませる。服が汚れるからすぐに起きあがろうという発想はなくて(なによりいまさらだ)、そのまま、しばらく横たわっていた。


 あの爆発からどのくらい時間がたっているのか、さっぱりわからない。だからサルワーティオーの状況がとても気にかかる。アレクセイの即位の式典は無事に執り行われたのだろうか。王宮の客人たちやルークスの民に、天空要塞の存在は隠し通せただろうか。スキターリェツはどうなった。ギルド長やロジオンたちは。


 気がかりはたくさんある。けれどいちばん危ない場所にいたキーラがこうして無事なのだ。きっとうまくいったにちがいない。そう考えてもいいのではないだろうか。


 少なくとも、いま、この瞬間くらいは。


 そう考えて、うっとりと、まぶたを閉じた。正直に言えば、まだ、動きたくないのだ。けがをしているわけではなくて、ただ、億劫である。いずれは起き上がってサルワーティオーに戻らなければならないとわかっているが、いまは休んでいたい。わりと疲れてる。


 うとうととあいまいにぼやけてきた思考は、ふと、目覚めの寸前に聞いていた声に向かった。


 だれかが、呼んでいた。キーラを呼んでいた。


 だれだったの、と、改めていぶかしく感じたところで、さくさくと草を踏みしめる音を聞いた。足音だ。だれかが近づいている。ぴくりと指が反応する。同時に、明瞭な声が響いた。


「驚いたな。まさかと思っていたが、ちゃんと生還してやがる」


 まぶたを閉じたまま、キーラは顔をしかめた。

 もう少し、だらだらしていたかったのに。内心の不満を表情に出し、うっそりと開いた瞳で、そばに立っている人物をにらみ上げた。


「なんで、あなたがここにいるわけ。マティアス」



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