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国盗物語  作者: 深谷みどり
第十一章
188/201

権利を主張できる資格は、とうにない。 (6)

 構成された魔道が拡散されていく。一瞬だけの浮遊感覚が抜け切れない瞬間だった。


「、キーラっ!」


 メグからの警告に、先に身体が動いていた。大気の力を集め、こちらにやってくる魔道へとぶつける。音もなく、だが、衝撃は残して、魔道は散った。ほう、と息をつく。


 まったく物騒だ、と考えた次の瞬間、キーラは鋭く息を呑んだ。


「じいさまっ」


 厳つい身体つきの精霊を相手にしているギルド長の背中が、目に入ったのだ。どうやら今の魔道は、ギルド長への攻撃が外れてこちらにやってきたものらしい。転移魔道によって現れたキーラたちを見て、精霊はひとたび、攻撃の手を止めた。


 転移した先は、丸い天井におおわれた、銀色の部屋だった。珍しい、とキーラは感じた。天空要塞は石ではなく、金属で構成されているようだ。どれだけの労力を使って作り上げたのかしら、という疑問を抱きながら、ギルド長越しに、動揺した様子の精霊を見る。


 ギルド長に攻撃を仕掛けていた精霊は、たった一名。だが、まわりには幾人かの精霊たちが倒れている。死んではいない、気を失っているだけだ。閉ざされた大きな扉を半円状に囲むかのように倒れている。まるで気を失う寸前まで、扉を守ろうとしたかのように。


 いや、それが事実だろう。よくよく目を凝らせば、技巧的に優れた結界が盾のように、扉をおおっている。強固な結界は、以前に見た記憶がある。里長が交信室に入っていたときだ。精霊と結界をどうにかしなくちゃ、と考えたとき、前に進むロジオンに気づいた。


 魔道能力もないくせに、ロジオンはずいと進んでギルド長の前に立つ。あわててキーラも進んで、ギルド長をのぞきこんだ。「来たか、キーラ」、にやりと笑ったギルド長に外傷はない。だが張りつめた気が緩んだためだろうか、崩れ落ちるように片膝をついた。どのくらいの時間かわからないが、一人で戦っていたのだ。さすがに憔悴した様子である。


「じいさま……」

「どいてくださいませ」


 メグがキーラを押しのけて、ギルド長に癒しの魔道をかけるために詠唱を唱え始める。ロジオンが精霊に相対したまま、ギルド長に語りかけた。


「ありがとうございます。約束通りみなにトドメをささないでいてくださったのですね」

「ただ、先送りにしているだけじゃがの」


 わずかにロジオンの肩が揺れた。「スィン」、と一人残った精霊が呼びかけてきた。ロジオンよりもキーラよりも若い精霊だ。キーラには覚えがないが、ロジオンは短く応える。


「バオ」

「おまえは、おれたちの敵に回るつもりか」

「そのつもりはないよ。ただ、わたしは」

「ただもなにも、あるものか!」


 そう叫ぶなり、バオと呼ばれた精霊は空に文様を描き、魔道を組み立てる。だが、同時に、キーラも動いた。力を集め、バオの魔道を防ぐ盾を作り、ロジオンの前に発動させた。


「バオ、やめろ!」

「うるさい、この裏切り者!」


 ロジオンが制止したが、バオは完全に我を忘れた様子で、次々と攻撃魔道の文様を描いた。ありがたいことに、長ほど技巧的な文様ではない。キーラは精霊がつむぐ魔道をすべて無力化させたが、鋭く舌打ちした。バオの魔道は、ひたすら数で押して攻めているだけである。だから面倒で、おまけに、きりがない。時間が迫っているのに、と苛立っていると、ギルド長がささやく。


「キーラよ。ロジオンが精霊を説得し終えるまで待つつもりかの?」

「いまは攻撃を防ぐしかないじゃないっ。たしかに時間があまりないけど」

「あまり、ではない。いま、天空要塞が動きを止めている理由は、すでに王都が、天空要塞の攻撃範囲に入っているからじゃぞ。暗闇の魔道が消えた瞬間に、攻撃を仕掛けるつもりなのじゃ。だれの目にもわかりやすく鉄槌を下すべきだ、という考えに基づいてな」


 うわあ、いやな思考。顔をこわばらせて、ギルド長を振り返る。メグに支えられながら、ギルド長は立ち上がり、苦い顔つきで扉を睨んでいる。


「なんでそんなことを知っているのよ、じいさま」

「そこの青臭い精霊が教えてくれた。じゃから諦めろとな。親切なことじゃろ?」

「そういうの、親切って云わない!」


 だとしたらなおさら、悠長に、ロジオンの説得を待っている時間はないわけだ。キーラは魔道をふるいながら、ずい、とさらに前に進んだ。バオがキーラに攻撃を集中させる。


 ありがとう、と、キーラはつぶやいた。おかげさまで、だれも守る必要がない。ずいぶん楽になった、と考えれば、ロジオンの声が響いた。


「待ってくれ、キーラ」

「聞けないわよ。状況、わかってるでしょ?」



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