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国盗物語  作者: 深谷みどり
第十章
170/201

資格は活用してこそ (5)

 魔道士たちの死による、魔道士ギルドやアレクセイへの不信は、いまは落ち着いている。


 おそらく新聞を用いた情報発信が効果を発揮したからだろう。いささかあざとい方法だったが、効果があるなら問題ない。そう考えていたのだが、この依頼は、キーラの狡賢さを糾弾しているかのようだ。少なくとも、依頼文を読んだキーラはそう感じた。


(一人どころか、魔道士はたくさん亡くなっているんだものね)


 深く反省しながら、さてどうしたものだろう、と、キーラは考えた。


 魔道士ギルドだけではなく、アレクセイにまで事が及ぶ。下手な対応をしたら、五日後に控えている即位の式典に影響が出るかもしれない。ここで想像力が豊かに働き、依頼主が式典中のアレクセイに暴言をぶつけている場面を、まざまざと想像してしまった。


 だめ、と、キーラは考えた。そんな事態、現実になったら、式典準備を進めてきた王宮関係者やアレクセイだけではなく、そんな事態を引き起こした依頼主まで不幸になる。


 だからなんとかしないと、と考えながら、依頼主の名前を見た。女性だった。クリスチーナ、と云う名前と住所を確認して、奇妙な事実に気づく。王宮に近いのだ。貴族の邸宅が並んでいる区画が書かれている。つまり、クリスチーナは貴族である可能性が、ある。


(どういうこと?)


 まず、貴族と魔道士たちは対立関係にあったはずだ。なぜ、貴族が魔道士たちを殺害した犯人を知りたがるのか。さらに、貴族なら独自の情報網があるはずなのに、なぜわざわざ魔道士ギルドに調査を依頼するのか。体面を大事にするはずの、貴族らしくない依頼だ。


「厄介な依頼だろう」


 文面を見つめたまま、考え込んだキーラにレフが話しかける。

 うん、と、あいまいに頷いて、でも、と唇を動かした。


「なんとか、しないとね。依頼には違いないんだし」


 するとレフは、珍妙な表情を浮かべた。


「この依頼、放置したほうがいいと思うが」


 思いがけない発言にびっくりしたキーラがレフを見直すと、ひょい、と、ブラッドが脇から依頼書を取り上げた。一読して「ははあ」とつぶやいて、「おれも同意」と続けた。


「なんで?」


 さきほど想像した場面を思い返し、眉間にしわを寄せながら訊き返す。ブラッドは軽く肩をすくめ、レフは顔をしかめた。どうやら失言だったらしい。でも理由がわからないから困惑していると、ブラッドが生温かい笑みを浮かべながら、ぽんぽんと肩を叩いた。


「そーかそーか。おまえさんは貴族の面倒くささを知らんのだなあ」

「だからどういうことよ?」

「これはな、おまえさんを利用するための依頼だからさ」

(利用?) 


 まさか貴族が自分を利用しようするとは、と驚きながら、いまの自分は魔道ギルドを預かる立場だと思い出す。キーラ個人には利用価値がなくても、キーラの立場には利用価値があるのかもしれない。でもどういう方面で利用しようとしているというのか。キーラは依頼文を読み返した。魔道士さんたちを殺した犯人を見つけてください。わからない。だが困惑しているキーラに気づいているだろうに、二人の男はなにも云わない。自力で気づけということだろう。容赦ない二人に、キーラは息を吐いた。


 どうしたものか、と考える。依頼を放置したほうがいい、と、レフは云った。


 だが、魔道ギルドを預かる立場の人間として、放置は避けたい。なぜなら魔道士ギルドへの信頼を高めるため、魔道士ギルドをもっと身近に感じてもらうために、依頼を引き受けているのだ。なのに、せっかくの依頼を放棄するようでは、本末転倒である。なにより依頼を放置した事実が広がれば、魔道士ギルドの印象がまた、悪化するのではないか。


 つまり、即位を控えたアレクセイに影響があるのではないか。


(あ、――――れ?)


 いちばんの懸念にたどり着いたとたん、キーラは、どのような形で利用されようとしているのか、二人が抱いた懸念の内容がわかった気がした。だが、そういう利用なら。考えを巡らせて、うん、とうなずく。


「受けるわ、この依頼」


 にっこりと微笑みながら告げれば、レフもブラッドも驚いたように顔を見合わせる。キーラは二人の反応にかまわずに、研究室を出た。これからさっそく、クリスチーナという女性に会いに行く。依頼を受けるからには、状況を見極める必要があるからだ。



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