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国盗物語  作者: 深谷みどり
間章
153/201

(2)

 イーゴリ陛下、順調に回復――――。

 今月八日にアレクセイ殿下によって、魔道士たちによる監禁から解放されたイーゴリ陛下は、順調に回復されている。宮内庁によると、陛下はまだベッドから降りられない状態だが、粥や果物を中心に、食事を取られているという。来週半ばごろから歩き回ったり、軽い運動をしたりして、リハビリを始められる予定。だが以前のように政務をとることはむずかしく、近々、アレクセイ殿下に譲位されるご意向だという。


 魔道士たち、仲間割れか――――。

 今月五日に起きた、魔道士たちの変死事件について新たな事実が明らかとなった。魔道士ギルドルークス支部長に就任したキーラ・エーリンが、魔道士たちの死因は統一帝国時代の古代魔道によるものであり、魔道士ギルドは関与していないと主張。ギルドから離反した魔道士たちが同じデザインの指輪をしていたとは周知の事実であるが、あれこそが古代魔道の呪物だと、神官長立会いのもと、識者たちに説明がなされた。港湾都市マーネで起きたアレクセイ殿下襲撃の犯人も同じ魔道で亡くなっている、とマーネ市長ベルナルド氏から書簡による報告もあり、参加した議員の一人は「にわかには信じられない。だが、魔道士たちがわたしたち議員にも内密で動いていた事実は否定できない」と述べている。


 アレクセイ殿下、パーヴェル陛下のお墓をご拝礼――――。

 十二日、アレクセイ殿下は王都サルワーティオーの主神殿に設けられた父王パーヴェル陛下の墓前に参られた。殿下は十年前、パーヴェル陛下生前のご意向により、海外留学されたため、今回、初めてのご拝礼となる。アレクセイ殿下は長く黙祷されたのち、神官長と会談され、王宮にお戻りになられた。


 *


「なかなか面白い方法で反撃に出ているね、アレクセイ王子?」


 白パンに蕎麦のカーシャ、ハムとチーズのオムレツ、と云う朝食を食べていると、スキターリェツがひょいと現れた。ちらりとテーブルを眺めて「うわ、質素」とつぶやく。


 アレクセイは口元をぬぐって、置いたばかりのナイフを取り上げた。鋭く手首を動かして、スキターリェツの澄ました顔に飛ばしたが、キン、と云う音と共にナイフは別方向に飛んでいく。結界に阻まれたのだろう。不敵な表情を浮かべたスキターリェツも行動に出た。ぱちん、と指を鳴らせば、どぱっと水の竜が生まれ、アレクセイに襲いかかる。だが、アレクセイに届く寸前でぱあっと水滴となって散った。キーラに用意された腕輪によって阻まれたのだ。散った水滴は完全に消え去り、テーブルや床を濡らすことはない。しらじらとアレクセイがスキターリェツを見返せば、面白がるように口端をもちあげている。


「お二人とも。そのくらいになさいませ」


 すると、無言で見守っていた女官長が、腰に手を当てながら憤然と口を開いた。


「毎朝毎朝。顔を見合わせるたびになんですか。まったくおとなげない。お互いが気に入らないとは、よっくわかっておりますが、せめてお食事のときくらいはお控えなさい!」

(食事のときじゃなかったらいいのか)


 アレクセイは反射的にそう考えたが、顔には出さない。貫録たっぷりなこの女官長を怒らせれば、王宮での生活に支障が出ることはすでに経験済みだ。スキターリェツ共々神妙な様子を作って短く詫びれば、女官長は満足した様子で元の位置に控える。毎朝の寸劇だ。


「面白い方法で反撃、とは?」


 さきほどまでのレクリエーションなどなかったように問いかければ、いつもの飄々とした表情を取り戻したスキターリェツも平然と応える。


「新聞だよ、新聞。ここ最近、興味深い記事が載っている。アレクセイ王子の指図だろ?」


 そう云いながら、持っていた紙束をひらひらと示す。ああ、と、納得しながら紅茶を飲み、アレクセイはスキターリェツを見返した。


「目には目を、歯には歯を、新聞記事には新聞記事を。単純な理屈でしょう?」

「その通りだけど、ずいぶん、権力者らしくない手に出たな、と思ってさ」

「逆効果ですからね」


 そう応えながら、アレクセイは苦笑を浮かべた。


 状況はアレクセイには優しくない。だからといって、権力者らしい方法で状況を変えるわけにはいかない。権力、この場合は兵力ともいえるが、その力任せに状況を変えたら反発を招く。だから時間がかかることを承知の上で、ルークス王国民の感情を和らげる方法に出た。それだけのことであり、そしてスキターリェツにも理解できている事実のはずだ。


 けれどいま、スキターリェツは奇妙なものを眺めるように、アレクセイを見返している。


「訊いてもいいかな。アレクセイ王子は、今後、この国をどうやって治めるつもりだい」




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