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国盗物語  作者: 深谷みどり
第九章
149/201

反撃するための資格 (13)

 ぐぐぐ、と、縄が引っ張られる。災いがもがき、動き出そうとしている。ぐいん、と頭を動かし、視線を固定させた先には二人の魔道士たちがいる。ひやりと背筋が冷えたが、災いはさらに動いて二人の魔道士をやり過ごした。まるで、気づかなかったかのように。


 推測は正しかった。災いは、魔道能力えさを認識できなくなっている。つまり、体内にため込んだ魔も使えなくなったため、新たに魔道能力えさを摂取しようとして活動を再開した。ただし、魔道封じの腕輪が効いている。魔道能力えさがそこにあっても、認識できていない。気づいていない。地面に打ち付けたくいがぐらぐら揺れるほど暴れまわりながら、そこまで魔道能力を求めながら、物質であるがゆえに、気づかない。


「キーラ!」


 緊迫した様子で呼びかけられた頃には、キーラはすでに走っていた。


 暴れまわる災いを縛っている理由は、キーラが災いを喰らうためだ。二人の魔道士の詠唱が耳に届く。右手に掲げていた灯りはとっくに放り出している。詠唱を受けて、反応しているはずのナイフを懐から取り出して、キーラは災いに突きたてた。


 このナイフには、転送魔道陣と同じく言葉ヴォールズを刻んでいる。魔道士たちの詠唱によって、言葉ヴォールズの効果がいま、発揮されているはずだ。すなわち。


「物質よ。魔を取り込み、自らを持つ生命体に、すべてを注ぎ込め」


 いまのキーラは魔力の流れがまったく見えない。だからナイフを突き立てたところで、おそろしい力強さで暴れようとする災いに怯む気持しか自覚できない。だが「おお、」とうめくギルド長の声が聞こえた。


 その声に勇気づけられ、キーラは両手でナイフをつかんだ。つかみ続けた。「キーラ!」、と緊迫した声が聞こえる。はっと地面を見て、くいから外れそうになっている縄に気づいた。でも、ナイフは持っていないと。それだけ考えたキーラは、ナイフをつかみながら腕と足を災いの足に回してしがみついた。すぐに、ぴん、と、縄がはじけた音が聞こえたような気がした。


「キーラっ」


 悲鳴のように叫んだのは、キリルだろうか。上に下に左に右に。魔道能力を求めて暴れまわる災いの動きに従って、激しくシェイクされる。思わず目をつぶった。だが、頭にごつごつと降り注ぐものがある。なんだろう、と、おそるおそる目を開けて。


 懐かしい光景を、見た。


(魔力が……)


 見える。同時に、ぼろぼろと崩れていく災いも見えた。


 ごつごつと降り注ぐものは、災いからの崩れ落ちた欠片だ。無詠唱で魔道を使って、障壁を張った。災いの身体にひび割れが走る。そうしてそこからまた新たに崩れていくのだ。


 災いの崩壊は止まらない。魔道封じの腕輪はそろそろ災いから外れそうだが、ナイフの効果は魔道士の詠唱によって有効だからだ。すなわち、災いの体内にある魔がキーラに注ぎ込まれている。そうして魔道を使える程度に、キーラは魔道能力を取り戻した。


「ペ・フェラム」


 スキターリェツの新たな詠唱が聞こえた。炎の魔道だ、と気づいたキーラはすぐにナイフから手を放した。ぼわん、と、勢いをつけてキーラは災いの足から吹き飛ばされ、宙を飛ぶ。地下施設の壁に叩きつけられるかと思えば、ギルド長の魔道が働いてキーラは宙を浮いた。そのころには、災いの欠片がスキターリェツの魔道によって燃やされている。キーラが地面に足をつけるころには、魔道の炎によって、災いは完全に消滅していた。


 これが長年、ルークス王国を悩ませつづけてきた、災いのあっけない最期である。


 むしろ事態を疑うように『灰虎』の面々はお互いの顔を見合わせていた。災いはもう欠片も残っていない。だから喜んでいいのだが、信じられないでいるのだろう。くすり、と笑って、キーラは力を集め、ぱちんと指を鳴らして、魔道を発動させた。強い風が吹き抜けて、『灰虎』の髪をかき乱していく。傭兵たちは驚いたようにキーラを見て、そうして実感が出てきたらしい。ようやく笑顔になる。


 ところがゆるんだ空気を刺すようにギルド長の声が響く。


「さて。それでスキターリェツよ。おぬし、これからどうするつもりじゃ」


 はっと視線を向ければ、ギルド長が雷撃を手にまとってスキターリェツを眺めていた。


 

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