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国盗物語  作者: 深谷みどり
第九章
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反撃するための資格 (9)

「わしには納得できぬところがある」


 ギルド長が告げた言葉に、重くなった気持ちを切り替えて、キーラは応えた。


「マティがウムブラ出身であるにもかかわらず、魔道ギルドに登録されていない件ね?」

「うむ。ありえぬじゃろ?」


 キーラがうなずけば、不思議そうに、スキターリェツが疑問を口にした。


「どういうことだい? 云っちゃ悪いけど、魔道士探索にぬかりがあったってだけだろ」

「ううん、それはありえないの。なぜなら魔道士探索はね、施療院と提携しているから」


 ウムブラは、アダマンテーウス大陸きっての先進国、と謳われている。


 いまでは珍しくない戸籍制度を整えた国もウムブラなら、水道設備、施療院を充実させた国もウムブラだ。そんな国だからこそ、施療院で出産と云う仕組みが成立している。


 つまり、ウムブラでは必ず、赤ん坊は施療院で生まれるのだ。だからこそ、施療院と提携している魔道ギルドが、魔道能力を持って生まれる赤ん坊を見逃すことはあり得ない。まあ、他国では産婆による出産をまだ行っているから、魔道能力を持った赤ん坊の発見が遅れることはあり得るのだが、ウムブラに限って、それはないと断言できる。


 そこまで説明して、ふと、目の前のスキターリェツに気づいた。カンザキキョウイチロウ。ギルドが把握できていない魔道士なら、目の前にも一人、いる。


「じいさま。……まさか、マティも異世界から召喚された魔道士、なんじゃ」


 さすがに震える声でそう続けると、その場にいただれもが、驚いたようにキーラを見る。


「いや、それは、さすがにないんじゃないかなー」


 困惑したように、自信なさげにスキターリェツが反論すれば、ゆったりとあごひげを撫でながらギルド長も言葉をはさむ。


「異世界召喚はルークス王国だけで確認されている術じゃぞ? ウムブラでそのような動きがあれば、さすがにわしらが気づくわい」


 キーラを気遣うような眼差しでアレクセイが続ける。


「ウムブラの工作員だからと云って、ウムブラ出身とは限りません。そもそも、彼は不老不死なのでしょう? だったら魔道ギルドが成立する前より、魔道士だったという可能性もあります。色に関して云えば、たとえば本人が勝手に選んだということもあり得ますね」

「そっか……」


 三者三様の説明を受けて、さすがにキーラは苦笑した。どうやら自分は先走り過ぎたらしい。ぺしぺし、と頭を叩いて、奔り過ぎている思考をたしなめた。落ち着こう。確実に、確認できるところから、追求していこう。そう考えて、ふっと、基本に戻った。


「ねえ。じゃあ、マティはそもそも、どうして魔道士たちを殺したの?」


 そう云えば、困惑していた三人の雰囲気が、一気に引き締まる。思考を巡らすだけの時間をおいて、いちばんに口を開いた人物は、沈鬱な面持ちをしたギルド長だ。


「それはやはり、ウムブラの命令じゃろ。おそらく、王太子の命令じゃな」

「だから、どうして?」


 素朴な調子で反問すると、アレクセイが身をひるがえして歩き出した。スキターリェツが追いかけて、肩をつかむ。苛立たしげに振り返ったアレクセイに、強い口調で告げた。


「僕が転移の術で先に行く。きみはここの事後処理をしてから来てくれ」


 云うなり、スキターリェツの姿が消える。急な展開に唖然としていると、ギルド長がゆっくりとした口調で、説いて聞かせるようにゆっくり告げた。


「なぜ、魔道士たちは殺されたのか。じゃが、考えてみるがよい。なぜ、魔道士たちを生かしておかなければならぬ? 紫衣の魔道士ではなくなったから、関係ない出来事として忘れはてたのか、キーラ。そもそも彼らは私欲・・で、政治をもてあそんだ人物じゃ。王の名前を用いておったから、証拠も責任もない。じゃが、魔道士ギルドの規律には明らかに反した行いをしていたと、それは明白じゃったな?」


 だからギルド長はキーラに、ルークス王国の魔道士壊滅の命令を下したのだ。

 規律違反を犯した魔道士たちを放置し、魔道ギルド全体が忌避される事態を怖れたから。


(まさか、)


 閃いた推測が、キーラから顔色を奪う。


 魔道士たちの働きは、早くから各国に知られていた。工作員に見張られていたのだ、魔道士ギルドが今回の件で知るより先に知られていただろう。封鎖したルークス国内で政治をもてあそんでいたところで、各国に影響はない。でも魔道士たちは、偽造した王の宣誓文書を他国に送った。そのときから、ルークス王国の魔道士は、立派な脅威となったのだ。


 そうして。ルークス王国の魔道士を容易に殺害する方法ならば、裏切りを防ぐ指輪がある。


 地下牢にいた魔道士たちは剣によって殺されていた。でもそれは、指輪が解除されていたからだ。ならば、指輪を解除していない魔道士たちは? 


 絆なの、と、はかない様子で告げていた、小生意気な少女の面影が、強く、よみがえる。


(アリア――――!)


「……マティアスを捕まえウムブラの仕業だと明らかにしたとしても、政治を混乱させたやからを代わりに討ったのだ、と主張するであろうな。そうしてアレクセイ王子に代償を要求するつもりであろう。あるいは、わしら魔道ギルドにも代償を求めるやもしれぬな。本来、わしらがするべきところを代わりに行ったのじゃ。以前からの要求、魔道士たちの従属も求めるやもしれぬ……」


 ギルド長が苦々しくつぶやいていたが、茫然としていたキーラには響かない言葉だった。



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