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国盗物語  作者: 深谷みどり
第九章
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反撃するための資格 (1)

「ばっかもんがーっ」


 広間を出てしばらく歩いたところで、キーラはいきなり怒鳴りつけられた。


 ぱちくり、とまたたいて振り向いたところ、顔を真っ赤にしたギルド長がずかずかと近づいている。その後方からゆったり歩いている人物はスキターリェツだ。キーラと視線が合えば「やっほー」と手を振ってくれたが、とりあえず目先のギルド長が問題である。あまりの形相におののいて後ずさると、傍らで笑ったアレクセイがキーラの肩を押し出した。


「ちょっと!」


 アレクセイを振り返りながら抗議すると、にっこり、と胡散臭い笑顔が目に入った。


「いまは素直に怒られておくべきですよキーラ。愛のむちです」

「そんなむち、いらないわよっ」


 云い返したところで、ごいん、と、後頭部に衝撃が来た。ギルド長が容赦なく拳を振るったのだ。あたた、と頭を抱えたところで、ふん、と荒く鼻息をつく音が聞こえた。


「まったくこのばか孫が。まわりに迷惑をかけた事実を自覚せい」

「……はい」


 反論の余地がない糾弾に、じんじん痛む頭を撫でるしかなかった。


 結果的に、王弟救出はアレクセイ王子がギルド長とスキターリェツを引き連れてきたから成功したのだ。キーラ自身は何も役に立ってない。たしかに隠し通路を通って王弟の元にたどり着けたが、王弟を動かせないという事態を考慮していなかった。あのままではすごすご戻るか、あるいは、魔道士たちと一戦交える事態になっていただろう。


 ただ、見事に窮地を救われたからこそ、気づいた事実がある。


 ちらりとスキターリェツを見た。アレクセイと会話している彼は、たぶん、キーラ「が」王弟を救出する事態を期待して依頼してきたわけではないのだ。むしろ魔道能力を失ったキーラが無謀にも王弟救出に向かった、とアレクセイとギルド長に知らせることによって二人を動かすことが目的だったのではないだろうか。


(なんのためか、さっぱりわからないけれど)


 じーっと見つめれば、視線に気づいたスキターリェツがにっこり笑いかけてくる。あまりにも平然とした笑顔に、こんちきしょう、という気持ちが湧き上がってきた。こぶしを振るいたい気持ちもあるが、我慢する。そもそも、スキターリェツの提案に踊らされた理由は、キーラがうかつだったためだ。世間勉強させてもらった、と考えることにする。


(チーグルやキリルたちに、巻き込んでしまったことを謝らないと)


 うん、とひとつ頷いたところで、スキターリェツとの話を終えたらしいアレクセイが振り返った。「キーラ」と呼びかけてきたものだから、首をかしげて言葉の先を促す。


「これから捕まえた魔道士たちのところに行きます。あなたも行きますか」

「もちろん!」


 反射で応えた後に気づいて、眉根を寄せた。


「どうして?」


 すると再び、ごつん、とギルド長にこぶしを振るわれた。向けられた眼差しは「よく考えてから行動しろ」と語っている。たしかにその通りなのだが、キーラはアレクセイに従うとすでに決めている。にもかかわらず、長くかやの外に置かれていたから状況が分からないのだ、容赦してほしい。身を縮めていると、スキターリェツが間に入った。キーラの肩を抱いて、歩き出したアレクセイに続くよう、誘導してくれる。ギルド長は溜息をついて、アレクセイ王子の隣に並んだ。二人に続きながら、スキターリェツが話しかける。


「現在の状況を教えてあげるよ。きみ、ずっと放置されていたからね」

「あなたがあたしを囮にして、王子さまとじいさまをここに誘導した理由から?」


 うん、と、スキターリェツは苦笑して教えてくれた。


 まず、スキターリェツがアレクセイとギルド長を王弟、いや、現王救出へと誘導した理由は、先にキーラに説明した通り、これ以上、王を魔道士たちに利用させないためであり、また、アレクセイに譲位させることによって魔道士たちの勢力を削ぐためだった。


 ではなぜ、アレクセイとギルド長がすみやかに王の救出へと動けなかったのかと云うと、魔道士たちの影で不穏な動きをしている存在を探っていたためだと云うのだ。


「それは、……特権を失うまいと考えた神殿関係者?」


 これまで手に入れた情報を元に訊き返せば、スキターリェツはあいまいに微笑んだ。

 ちょっと考え込んだあと、まったく別の方向から話を続ける。


「あのね。マーネからここに来るまでに、おかしいと思わなかったかい? たとえばマーネできみたちに襲いかかった魔道士が殺されたこと、たとえばパストゥスからルークス王国に向かっている最中に襲いかかってきた魔道士がいたこと。たとえば王権廃止を宣言する文書を各国に送っていること。矛盾だらけだろ」

「それは、……たしかにおかしいと感じていたけれど」


 魔道士たちの行動には一貫性がない。アレクセイは以前、そう指摘していた。


 事実、その通りである。マーネの老魔道士の件ならば、そのあと、アリアが救出された事実が矛盾している。襲撃してきた魔道士たちの件ならば、そのあと、スキターリェツが協力を求めてきた事実が矛盾している。文書を送った件ならば、そのあと、結界を張り続けている事実が矛盾している。――――まるで、複数の考えを持ち合わせているようだ。


 ギインナイカクセイという形態を用いているためかとキーラも考えた。だが、この政治形態でも、複数の結論に沿った行動は基本的にしない。なぜなら非効率的だからだ。


 ということは、だ。


「……魔道士たちと神殿関係者たち以外に、ルークスに関与する勢力がいるの?」


 なかば直感に導かれるまま、閃いた案を口にするとスキターリェツは微笑んだ。


「あたり。本来は、魔道士たちを見張れ、と命令された他国の工作員たちがね」


 そんなものがいたのか、と、キーラは瞳をまたたかせた。



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