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国盗物語  作者: 深谷みどり
第七章
112/201

資格が無効になる日 (3)

 キーラの予想は、正しかった。


 パストゥス王宮にいた間には皆無だった襲撃が、ルークス王国に向かう三日間で、なんと十一件もあったのだ。襲撃時間はまちまちで、いずれも魔道士によるものだった。

 だから戦闘を請け負う人間は、キーラとギルド長となる。だが百人の色なし魔道士を、一人で相手に出来ると云う紫衣の魔道士が二人もいるのだ。ぶっちゃけ、戦闘にならない。

 途中から「おぬしはまだまだ経験を積まねばならぬのう」とギルド長が手出しをしなくなったから、キーラの独断場になったが、それでも撃退できた。


「……じいさま」


 はあはあぜえぜえ、と肩を揺らしながらキーラは、のほほんと構えているギルド長に呼びかける。

 ギルド長の結界に護られている『灰虎』の面々は、感心したような、それでいて面白そうな眼差しを向けているから、キーラとしては報われない。少しは申し訳ないそぶりでも見せろ、と云いたいのだが、キリルですら、素直に拍手しているのだ。期待してはいけない行為を求めている、とよくわかる。

 くそう、とつぶやき、ギルド長を見た。

 チーグルと並んで、顎ひげを撫でている。ご満悦だ。チーグルも嬉しそうに微笑んでいる。


「ほっほう。だんだん時間短縮できるようになったのう、結構結構!」

「ふむう。おんしが喫茶店経営に反対する理由がわかる気がするのう。なかなかどうして、あざやかな手並みじゃ。下着泥棒捕獲作戦も見事じゃったが、……ふうむ」

「ふん、侮るでないわ。たかが下着泥棒程度でキーラの真価がわかるはずもない。それなのにおぬしときたら、キーラが望んでおるから、と云う理由だけでこやつの夢を応援するのじゃから、甘いにもほどがあるぞ」

「人間、一度きりの人生なのじゃぞ? ならば本人の好きな道を応援してやって、なーにが悪いのじゃ。そもそもおんしとて、好き放題に生きたからこそいまがあるじゃろうに」

「人が気ままに生きてきたように云うでない、猪突猛進が。わしとて苦労しておるのじゃぞ。あとを任せようにも魔道士は好き勝手なやつらばかりじゃし、研究を妨げたら文句を並べて、役職を放棄しようとする輩ばかりじゃし」

「なにおう、陰険くそじじいが。やましい陰謀を企ててばかりじゃから苦労するのじゃ。自業自得じゃ莫迦たれ。ざまをみぃ、ざまを!」


 ところが二人の元気なご老人は、次第に口論に突入していった。

 口論は別にいい。いつもどこでも、うるさいほど口論しているのだ、かまわない。

 だがキーラの呼びかけをまるっと無視しているところはいただけない。「じいさま」、もう一度呼びかけたが、興奮しているご老人たちは聞きやしねえ。くっ、とこぶしを握り締めると、口論に夢中になったからか、それとも最後の判断力なのか、『灰虎』の面々を護っていた結界が解かれた。

 空気の変化にいち早く気づいたアレクセイが、微笑みながらキーラに話しかける。さすが傭兵と云うべきなのか、力など見えないくせに、敏感だ。


「お疲れさまです。今回も見事でしたよ」

「……ありがとお」

(うれしくないっての)


 じっとりと細めた目で応えれば、出会った当初のキラキラを取り戻したキリルが続ける。


「本当に、お見事でしたっ。まだまだ甲板磨きは僕に劣りますが、さすがに魔道による戦闘はピカ一ですね。見事です、感服ですっ、甲板磨きのへたくそ加減が嘘のようですっ」

(だったら甲板磨きの上達具合を示してみましょうかぁっ?)


 ぴく、とこめかみを動かせば、うんうん、とアーヴィングは腕を組んで、さかんにうなずいている。


「やっぱり襲撃してくる魔道士には魔道士だよなあ。いきなり魔道しかけられても、結界で防ぐと云う戦法が取れる。さすがお・れ! よくぞギルドに依頼した!」

(結局は自画自賛なの!?)


 思わずギュッとこぶしを握りなおしていると、ヘルムートとロジオンが他の団員に指示して捕獲した魔道士を検分している。


「今回も色なしの魔道士か。雑魚だな、つまり」

「命令している人物は無能ですね。紫衣の魔道士二人に、たかが色なし魔道士十名程度をぶつけるとは」

(負傷している魔道士に、さらなるトドメさして楽しいわけ……)


 自由な面々にぐったり座り込むと、唯一、慰めるようにセルゲイが頭を撫でてきた。

 慰めようとしてくれる気持ちは嬉しい。武骨な行動は確かに、ほっこり、心に温もりをもたらす。少なくとも他の面々より、ずっと思いやりに満ちた、温かい反応だ。でも。


(どうして頭を撫でるのよっ)


 慰めるなら肩だろう、肩を叩け! れっきとした、成人している乙女に向かって、なぜ子供に対するように、頭を撫でるのか。キーラは子供じゃない、子供ではないのだ。続いて飴を差し出そうとするな。もらうけど。疲れたときに甘いものは定番だからもらうけど!


(こんなに緊迫感のない一行で、スキターリェツたちを相手に出来るのかしら)


 もごもごと口を動かしながら、キーラはむっつり顔をしかめた。


 セルゲイからもらった飴玉をなめている、いまのキーラ自身も緊迫感がないと自覚しているが、しょせん、他人への評価より、自分への評価は甘くなってしまうものなのだ。


 パストゥス王宮から、順調に進み、三日。目的地にほど近い街道における出来事である。



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