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大正ロマンな魔法使い  作者: しがない草


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第1話 鳥居の中へと誘う魔法使い

 いつからかこの近辺にはとある言い伝えが流れ始めた。深夜3時33分頃。霧に隠れし鳥居をくぐり抜けると神隠しにあうと言われている。鳥居は大道寺家の近くにある湖のほとりの中心にあり。


 噂の鳥居は森と濃霧に年中囲まれた場所にあった。景観が薄暗いこともあって大抵の人間はその湖を近づくことはない……はずなのだが数年に1人、噂を面白がって船を漕ぐ者がいるようで。時折湖周辺から鳥居を見つめると空の船だけが取り残されているなんてことが稀に起きていた。

一度不気味に感じた村の住民達が鳥居を撤去することを考え行動に移したそうだ。だがいざ鳥居を壊そうすれば連中を乗せた全ての船が一斉に沈没。残された家族や関係者が乗っていた者達を探しに船を漕いだが、死体すら見つからなかったそうな。以後その出来事を知る者は祟りと考え、それをとめるために見張るのが俺達大道寺家の役目になっている。こういった話は眉唾物であることがほとんどなのだが、事実鳥居に向かった行方不明者が後を絶たないのである。


 ◆ ◇ ◇


「やれやれ……まさかこんな事になるとは」


 大道寺賢はゆったりと船を漕ぐと噂の鳥居へと向かう。何故こうなったかというとこの大道寺賢の友人にあたる隼人の消息をこの手で掴む為だ。実を言うとその風雅森隼人が何を思ってかその噂が絶たない鳥居へと向かって船を漕ぎ続けたという目撃情報が入ったのだ。それを知った大道寺賢はすぐさま船を漕ぎ確認を取ろうとした訳なのだが……実際何処へ行ったのかまでは知らない大道寺賢は同じく鳥居へと目指す事しか出来ないでいたのだ。


「もしあのアホが鳥居に向かって船を漕いだとしたら、その辺りに船が残っているはずだが……」


 これといった小船はゼロ。明らかにあるのは今漕いでいるこの船のみ。果たして風雅森隼人は何処へ行ったのか。そう考えていると鳥居から妙な歌声が聞こえてきた。


「か〜ごめかごめ、籠の中の鳥は、いついつでやる……」

「こ、これは」


 そうこれは古き歌。この近辺の人間であれば誰もが知るおぞましい歌だった。この歌が聞こえたらすぐさま引き返せとすら言われる程。鳥居の噂のおかげでこの歌はここらでは有名なのだ。


「ま、まずい!すぐに引き返さなければ!」


 大道寺賢がそう話すと直ぐに船を逆方向へと漕ぐ。しかし一手間に合わなかったのか。その不気味な歌声はどんどん近づき大道寺賢を捕らえようとする。


「や、やめろ!この船ごと捕らえる気か!?」


 大きく波を揺らせど前進する事なく寧ろ鳥居の方へと引き摺り込むかのようにその船はゆっくりと引き込まれる。そんな出来事にゾッとする大道寺賢だが為す術なく。そのまま意識と共に鳥居の方へと引き摺り込まれていった。


 ◇ ◆ ◇


「っ!?……ここは?」


 目覚めるとそこは大きな草原。静かに草花がゆらりと風と共に揺れると大道寺賢は大きく伸びをして起き上がった。


「なぜこのような草原に!?」


 妙だ。大道寺賢は思った。確か先程まで船に乗って鳥居を目指していたはずだ。なのにこの状況とは……と大道寺賢が思っていると草原に小さな影が生み出された。それは段々と大きな影となり徐々にその影は濃い物と化していく。まるで空から物でも落ちてくるかのように。


「こ、これは……な、なんだ!?」

「きゃあああああああああ!!!」


 悲鳴と共に上を眺めるとなんとそこには水色の髪をした女性らしき人物が今にも地面に叩きつけられそうな勢いで落下してきたではないか。そんなあまりの出来事に思わず目を見開き驚く大道寺賢。すると反射的にか身体が勝手に彼女を受け取るような姿勢へと正す。


「危ない!!」

「きゃっ!!」


 少々痛みはあるものの無事に受け取った彼女は小柄で華奢な重さをしており不思議と重さを感じずにいた。2つ結びの水色の髪型に奇妙な可愛らしい衣服。その姿を見てここいらの住民ではないなと悟った大道寺賢は彼女に対しこう述べる。


「お主、一体何者だ?ここいらの住民ではないようだが……?」

「イテテテテ……えっと、何?」

「だから何者だと聞いておるのだ」

「ああ、あたしの事ね……あたしはえっと……」

「どうかしたのか?」

「……あたし実は記憶喪失で自分の事よく知らないのよね」


 記憶喪失。また妙な事を言う女性だと大道寺賢は思った。何故記憶を失ったのか。色々聞きたい事はあったがひとまずここが何処なのか改めて確認しておきたい大道寺賢は彼女を一旦草原へと座らせこう述べる。


「お主、ここが何処なのか存じ上げるか?」

「ここ?確かヘルウェイティ草原地帯だと思ったけど」

「ヘルウェイティ草原地帯?」


 聞いた事のない地名だ。先程まで船に乗っていた大道寺賢はそれを聞き明らかにおかしいと思った。ここが見知った陸であるのなら自身の知る与路図町であるはず。そう思ったからだ。まさか自身が知らない間に移動でもしたのか。そう思い周りを見渡すと今度は彼女の方からこちらの事を尋ねてきた。


「そういえばあんたこそ知らない顔ね……見た事のない衣装を着ているし……なんて言う名前?」

「拙者か?拙者は大道寺賢、そういう貴方はなんと言う名なのだ?」

「あたし?あたしはえーっと……」

「自身の名も知らぬのか?」

「えっと、実はそうなんだよね……魔王討伐に行かないといけない事だけは確かに覚えてるんだけど……」


 魔王討伐。また妙な単語が出てきたと大道寺賢は思った。一体何がどうなっているのやら。そう思いながら考え事をしていると彼女の方から意図もしない事を頼まれる。


「あっそうだ、ここで会ったのも何かの縁だし……よかったら名前付けてくれない?」

「この場で名付けるという事か?この俺が?」


 人の名前を名付ける。また急に妙な事を言うなあと大道寺賢は思った。しかも出会って間もない相手にときた。そんな事を考えていると彼女から期待した目でこちらを見つめられる。仕方がない。そう思った大道寺賢はふと頭を傾げ彼女の名を付けようと努力する。知らない者の名を名付ける。とても困難な事を言われたなと考えていると空からカモメのような鳴き声が聞こえてきた。上空の真上。その辺りを眺めると思ったとおりカモメらしき鳥が空を飛んでいることが分かった。


「カモメ……今日から君の名前はカモメだ」

「ふふっ、カモメ……聞いた事のない名前……でも素敵な名ね」


 そう名付けるとカモメは嬉しそうに目を細める。これからどうなる事やら。大道寺賢はふと思いながらカモメを見つめる。ひとまずこの縁が大きな始まりの予兆になる事は間違いないだろう。大道寺賢は何となくそんな予感がした。


挿絵(By みてみん)


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