追録
自分が書きたいだけの、おまけです。
これだけではまったく意味が分からないので、必ず本編を読んでからお読みください。また読まなくても、本編にまったく影響ありません。
「鹿さんも鳥さんも、きらきら!」
実際、話の中で彼らは物理的に光っていたが、娘の表現は幸せだということ、らしい。聞き終えて、満足して、大きなあくびをした娘は乳母が連れていった。
「さいご、黒い翼、ところが気になりましたわ。何が起きましたの?」
娘は魔女が退治されて満足したが、妻は追究してきた。
「御伽噺らしい終わり方じゃないかな?」
「ええ、でも・・誰かが来た例えのような感じがしましたの。」
深読みも面白いものだから、夫も会話に乗った。
「君はなにがそこにあると思うんだい?」
「・・・偉大なるものの比喩、で。・・・ 鳥の姉妹、そこに現れる黒い翼、」
ふ、と連想がつながり、口をつく。
「----大烏の、女神? 姉妹ということは母親もいるかもしれませんわ。」
「なるほど。鳥つながり、で。」
「では・・父親は塚の神、で?」
「さあ、それは・・・どうだったかな?」
だれも聞いたことのない神の名と物語を語る夫の笑みは、また掴みどころがない。
「さておき、大烏の女神は何のためにやってくるんだい? 道を外れた姉娘に怒り心頭で?」
それをまた不安に覚えながらも、いいえ、と柔らかな表情を保つよう努めて首を横に振った。
「母親なら娘たちを心配して、駆けつけて。妹は五色の鹿とともに安全なところに送り届けて、姉の鳥は連れて帰って、躾直し、という機会を与える・・・のはないかと。」
娘の姿を思い浮かべている目で、彼女は言う。もちろん娘は、強欲な姉でも妬み嫉む妹でもないが。
「妹の鳥は、けなげで一心で、なるほど五色の鹿とずっと幸せに暮らすのに相応しいと思いましたわ。でも、・・姉も----きっと魔女になるほどに心痛む何かがあったのかも知れません。」
黒い翼が世界を覆ったのは、終焉ではなく安らぎであってほしい、と思ったのだ。
「・・わたくしなら、きっと助けようと守りたいと願うでしょう。あなたは違いますの?」
「おれは・・」
父親は一瞬だけ置いて、
「何でも与えたいな。望むままに。いや、望まずともふんだんに。」
「まあ!」
眉を顰めても、美しさが減じない妻である。
「どんなに甘やかすおつもり? 」
「義父上だってそうだろう?」
自分だけ責められるの心外だとばかりに、目を瞠った。
「まあ、お父様はわたくしに厳しいですわ。前国王の娘として、王女殿下方に等しい教養を持ち、立ち居振る舞わなくてはならない、と、ずっと、いちいち申してますのに、」
「君の望むままに、おれを与えておいて?」
素性どころか記憶も分からない男と、国にただ一人の大公の娘である。
「与えたって・・そんな一方的な言い方、」
む、としたが、
「もちろん、おれも君がほしいと思っていたよ?」
たいへん魅惑的に微笑まれ、とたんに頬に血がのぼった。夫は俯いた妻の頬に手を添えて視線を引き戻す。
「でも、おれに君を許してくださったのは、おれが望んだからじゃない。」
「あなたが優秀で、お父様は気に入っていたから、」
「それはある。あの頃、君に言い寄っていた侯爵家の次男でも伯爵家の三男でも、おれじゃないだれかの手を君が取っていれば、執政官のひとりとして召し抱えてくださったくらいには。」
それでもかなり破格の扱いなのだが。
「君がおれがいいと望んだから、義父上はあらゆる困難と面倒を薙ぎ払って、君の隣におれを置いてくださったわけだ。」
父には父の思惑があったことは分かっているが、その根底は間違いなく娘に対する深い愛情である。
「----ということで、尊敬する義父上をぞんぶんに見習わせてもらおうと思っている。」
そう、したり顔でいうから、腕の中で妻はくすくすと笑い零してしまった。
「もちろん、わたくしも甘やかしてくださるのでしょう?」
上目遣いでいえば、返ってくるのは睦言だと分かっている。
「君ごとだ。」
本編では、まったく絡みが出てこない夫婦ですが、出会いとか王城での武闘会界隈とか書いたら、すごくハーレイクインな恋愛小説になりそう、と最近思います。
よろしければ本編(港町編)で、少し先の彼らと出会っていただければと思います。




