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6話 ふはは!ごめんなさい!

 カールとタイケが戦闘態勢になると、ピュアが悲しそうな目をする。


「オブリさん……!」

「すまねぇ、ピュアさん。こんなでも友人なんだ」

「こんなってなんだ! こんなって!」


 まぁ、妥当だな。しかし、我の実力を知っていながら義理に報いるとは、なかなかにいい戦士ではないか。


「じゃああたしは退散しときますねー……いくよピュアちゃん」

「は、はい!」

「私も失礼する。頑張ってくれよカール様」

「なんでお前も逃げんだよ! ちょっとは戦えるだろ!」

「スライムから自衛できる程度だ。すまないが、私は戦わない」


 あの鑑定士は参戦しないのか。いい腕を持つようだし、一応クズノ達と同じく結界を張っておこう。三人が部屋から出ると、カールが話し始める。


「仕方ない……タイケが連れてきたところから、只者では無いと分かってはいたが、案外話が出来て油断したぜ! いい女がいたせいで通しちまったし!」

「貴様は考えているのか、いないのか分からないやつだな」

「バカにしてると痛い目みるぜ!」


 カールが指をならす。すると、部屋が一瞬にして、存分に戦えるほどの広さの空間へと変わった。大抵の魔法使いには出来ない技だ。


「俺様はこんなことも出来る!」

「ほう、闇市の拡張術式といい、やはりいい腕を持っているな」

「余裕ぶってると足もとすくわれるぜ!」


 突如背後に魔法陣が現れたタイケが中から飛び出してくる。なるほど、発動までも早い。これは拡張術式ではないな。

 先の戦いと同じく大振りだが、我が躱すと、すぐに姿が空中に現れた魔法陣に消える。


「ははは! 貴様は転移の魔法も使えるか! それで空間の魔法使いとな! 確かに名乗るに相応しい凡人だ!」

「何が凡人だ! 俺様は空間の魔法使いだぞっ!」


 カールが指をならし、我の周囲の空気が圧縮された。空気が塊のように我を推し潰そうとする。手足は押し付けられ、景色が歪んで見える。


「拡張できるなら、それを解除すればそれは縮小し、圧縮状態となる! 押し潰れるってことだぁ!」

「やはりいい魔法だ! よいぞ!」


 我が空気で身動きを制限されているうちに、上から魔法陣によって転移してきたタイケが降ってくる。そのまま受けてしまえば、生身の人間は真っ二つにされてしまうだろう。


「だが……我がそうなることはない」

「ッ! 風……!」


 我は上空に向かって強風を引き起こす。タイケはそのまま上に吹き飛ばされるが、転移魔法によって、カールの元へと戻されたようだ。


「おい、タイケ、あいつは一体なにもんだ?」

「俺も知りてぇよ」

「内緒話か? 我に話しても良いのだぞ?」

「お呼びじゃねぇよ! タイケ!」


 カールが叫ぶと、タイケがカールの後ろへと飛び退く。

 カールの手元にはなにやら小さな球体がいくつか握られている。


「さすがにお前もこれは防げないだろ!」

「まさか……! なるほどな、素晴らしいぞ! カール・イヤツ!」


 カールが球体をこちらへ投げつけ、転移魔法で上下左右へと移動させると、球体にかけられた魔法を解除した。

 すると、球体の中の拡張術式が解除された影響で、中にあるものが一気に溢れ出し、なだれとなって我に降りかかる。剣や矢、鉄球など、多種多様だ。爆発物のようなものも見えるな。


「やはり貴様は凡人の中でも上澄みだ! 拡張術式や転移魔法に関しては、我を凌駕する瞬間がある! さすがに危ういな!」

「そりゃそうだ! 俺様は空間を統べる魔法使いだからなぁ!」


 数の暴力が我を襲う。大きめに張った結界も溢れ出したものにより簡単に、ガラスのように割れていく。

 結界が壊れたことで、なだれが我を襲う………………なんてことはない。


「『絶対零度』」


 我はそう呟いて、魔法を発動させる。

 地面から冷気が溢れ出し、我を覆う。冷気はすぐに広まっていき、降りかかる物全てをまとめて氷の中に閉じ込め、我を覆う氷のドームを作り出した。


「うっそだろ! 俺様の必殺が!」

「なんてことだ……旦那、あんた一体」

「全く、簡単な魔法のみで戦ってやる予定が、思わず使ってしまったわ。喜べ、貴様らは強いぞ」


 もう戯れは十分だな。意趣返しといこうか。

 我は転移魔法を使って、二人の背後へと周り、カールの術式をのっとり、空間拡張を部分的に解除、我を拘束した空気を二人へと食らわせてやる。


「術式の乗っ取りまで!」

「動けない……!」


 カールもタイケも、もがいているが動くことは叶わない。


「では、終わりだな。お前らのような実力ある凡人が()()()()()()()()()()()()()()()()()は知らないが、我がせいぜい良く使ってやる」

「ふはは! ごめんなさい! 許してください!」

「旦那! あんた、何を知って……!」



 カールは必死に謝罪し、タイケは驚いた様子だが、どうでも良い。

 二人の背後から首を軽く叩き、気絶させる。

 拡張術式を解除すると、三人を呼び寄せた。


「うわぁ、結構凄い魔法使いなんじゃないっけ」

「実際実力は高かったぞ。我の足元に少し及んだ程度だがな」

「あれ、マーさんにしては高評価だな」

「マー様、この後はどうするんですか?」


 ピュアが首を傾げて聞いてくる。


「それは既に決まっている。おい、カンテとやら、」

「なんだ」

「今換金できる分で、町外れに屋敷を作ることは出来るか? このあたりだ」


 鞄から地図を取りだし、町の外、程よく人が来ないであろう場所を指した。強力な魔物がいるとやらで人が近寄らないらしい。


「可能だ。この闇市にある金の半分程度があれば、かなりの物が建てられる」

「では、その分だけ換金しろ」

「了解した。カール様には後で伝えておこう」

「また来るゆえ、それまでに金を集めておけとも言っておけ」


 ひとまずこれでいい。残った物はこの後また換金することにした。カンテは金庫管理も任されているらしく、すぐに換金することが出来た。


「マーさんもしかして、屋敷! 建てるんですか!」

「お屋敷……! マー様に相応しい職人を探さなくては!」

「そうだ! 我は寛大だからな! ひとまずはこれで手を打ってやろう!」

「最高の考えです! マー様!」


 こうして、我々は闇市を後にした。我々は屋敷を建てることが出来る程の金を手に入れた。

 実はピュアの屋敷を見た時に巨大な屋敷が良いと思っていたのだ。最初の大金は屋敷に使う!


「はっはっは! 金を手に入れたぞ! これで我の計画も一歩前進だ! はっはっは!」



 気がつくと、旦那も姉御もピュアさんもみんな居なくなっていた。カンテが言うにはここの金の半分を持って行って屋敷を建てると……また来るとも言っていたとか。


「『大金を集めて何をしようとしているか』……ね」


 あの方は聡明だ。実力的にも、あの妙なオーラの姉御にしても、ピュアさんにしても、周りの人間を見たって、ただの魔法使いではない。

 まさか……俺たちが金で買おうとしていたものに気づいて、それはいけないと止めてくれた……?


()()()()()()と女のために貯めてきた俺様の金が、半分……」


 カールは意気消沈し、部屋の隅にうずくまっている。


「カール、やっぱりあそこから先祖返りの血を買うのはやめないか?」

「なんでだ、あれがあれば、俺たちの故郷を取り返せるかもしれないんだぞ!」

「やっぱり得体の知れないものに大金を使うのはおかしいと思う」

「………………へっ、いいぜ別に、かなりの金が持ってかれて萎えたし、女のために金は使いたいし」


 旦那は全てを知っていたんだろう。

 俺たちが魔族と取引して、先祖返りの血――どこかの貴族の娘に流れるとかいう、飲んだものに絶大な力を与える血――を買おうとしていたことを知っていたんだ。


 故郷を救うためとはいえ、魔族と取引しようとしていたのがおかしかったんだ。

 あの四天王の配下だとか言う魔族も数日前から連絡が取れねぇ。もしかしたら旦那は片っ端からあの魔族に関連するところに殴り込んでいるのか。


 カンテが言うには町の遠く、具体的には、あの魔族と取引の為に使っていた拠点の近くに屋敷を建てようとしているらしい。

 そんなところにわざわざ屋敷を建てて、町を守ってるみてぇだ。


「旦那は魔族との関係に新しい風をもたらすのかもしれない!」

「何言ってんだ……タイケ」

「旦那は勇者に近い何者か……もしくは勇者その人なんだよ!」

「はー?」



 こうして、タイケの頭の中では、マージの大金稼いで遊びたいだけの目的が、崇高な目的へと勝手に昇華された。

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