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4話 主の元へ

 闇市でも特に人が少なそうな通り、そこには正座の男にそれを見下ろす三人組がいた。



「それで、貴様の名前はなんだ」

「……タイケ、タイケ・オブリだよ。そういうお前らは何ものだ?」

「口の利き方がなっていないな。その腕使い物にならなくなっても良いのか?」


 鞄から剣を取り出すと、すぐにタイケは態度が変わる。


「いや、すまない! 敬語って言われると難しいんだよ!」

「ふん、まぁいい。我は寛大だからな、それで、貴様の技などを見るに元冒険者だろう。こんな所で何をしている」


 そう聞くとタイケはバチの悪そうに頭を搔く。


「あー、友人の頼みってか、願いのためにな、ちょっとここで警備員してんだよ」

「頼みってなんなんすか?」

「妙なオーラの女、それを答えることは俺の義理に反するから言えねぇな」


 ふむ、嘘は言ってないようだ。なんとも覚悟の決まった目をしている。すると、ピュアが口を開いた。


「あの、オブリさん。ならばせめてこの市の支配者……あなたの雇い主でしょうか、その方のいる所に連れて行ってはいただけないでしょうか?」

「……あ、えっとー、っすねー、あーでも、やっぱり義理、があるんでー……」


 妙に歯切れが悪いな。先程までの荒くれつつ義理堅い男は何処へ行ったのだ。ごもごもと言い淀む姿が似ても似つかない。

 それを見た瞬間クズノが何かを思いついたようにニヤリと笑った。


「あっれー? もしかしてー……ピュアちゃんに弱いかんじー?」

「ぎぐぅ」


 口で効果音を言うやつがいるか、タイケのやつ汗がダラダラと滲み出ているぞ。


「さっきー、あのスカートの下の絶対領域、普段の生活じゃあ、見ることなんて出来ないブラックボックス、その中身がわかりそうだったもんねー?」

「ク、クズさん! 何を言ってるんですか!」

「ち、違う! 俺は断じてやましい男でも、可愛い女に弱い訳でもない!」

「あ!? あたしが可愛くねぇって言いたいのか!?」


 クズノめ、随分と生き生きしているな。宝を目の前にした時と同様の昂り様だ。タイケに詰め寄って延々と言葉を並べていく。


「――じゃあ、連れていくってことでいいよねー?」

「はい……分かりました」

「あ、あとピュアちゃんにも謝っとけよー?」

「本当にすいやせん!」

「い、いえ、大丈夫です!」


 話はまとまったらしいな。義理堅い男だが、何か考えがあるようで、案外早く話がまとまった。


「よし、では行くぞ」

「待ってくだせぇマーの旦那、一つだけ、聞きたいことが」


 そう言うとタイケはかしこまって、目つきが鋭くなった。


「ピュアさん……は一体どこの人間なんでしょう。クズの姉御やマーの旦那は元々こっちに近い人間だってぇのが雰囲気で分かりやすが、あの人だけはオーラが違う」

「例えるなら、白く純粋で、外を知らない……そんな箱入り娘のような…………名前だってこの前失踪したとかいうカーナリ家の長女と同じだ」


 こいつ、オーラとやらでそこまで分かるのか。それにピュアの名前をそのままにしたのはマズかったか。カーナリ家であることがバレなければ良いと思っていたが、あの一件が噂になるとは、我が凡人ら世間を知らぬ弊害だな。


「それはさすがに別人だよ? ピュアって名前でよく勘違いされるけどー、そんな貴族令嬢がここにいる訳ないじゃん!」

「そうだぞ、我の忠実な下僕だ。そんな貴族なぞ、むしろわれの下僕の名を騙る偽物だ」

「……そうっすよね姉御、旦那すいやせん」


 クズノは顔色ひとつ変えずに嘘をついた。さすが我の下僕一号だ。我が見込んだだけはある。


「とりあえず、俺の雇い主……この市の頂点がいる場所に案内しやす」


 こうして、タイケを案内役として、我々は闇市の深くへと潜り込んで行った。



 案内された先にあったのは、大きな館だった。

 ピュアの屋敷と比べれば大したことは無いが、それまでの露天や、こじんまりした小さな店と比べると明らかに別格だ。


「入る前にひとつ言っておくことがある」

「なんだタイケ、言ってみろ」

「雇い主は女に目がない。この布をやるから、顔や体つきは隠して、極力目立たないようにしろ」

「あ、新品だからな!」

「ありがとうございます。オブリさん」


 タイケは腰付近に付けていた鞄から布をとりだし、クズノとピュアに渡した。あれも拡張術式を付与されている。ここの主の魔法だろう。


「ほんとにー? 自分の使ってたやつを女の子に渡して喜んだりしてないー?」

「してないっすよ!」

「いいから、行きますよ!」


 クズノの言葉を遮るように、タイケが扉を開ける。中に入ると、広い玄関の左右にいくつも裸体の彫像が置いてある。


「うわー……ガチで女好きなんですね、キモ」

「クズさん、これ全部かなり良い像ですよ……」

「マジで? 何とかして持ってけないかな……売れないか」


 玄関を入って正面にある階段を上り、廊下を歩いていくと、タイケが部屋の前で立ち止まった。


「ここが俺の友人……闇市の支配者の部屋です」


 タイケが扉を開いた。

 中には椅子にふんぞり返った男がいる。いわゆるチャラい、といった風貌だ。


「よく来たな! お前らの存在は闇市に入った時から把握していたぜぇ、只者ではなさそうだが、名前を答える名誉をやるよ!」

「なんだ貴様、我に向かって不敬だな。貴様から名乗れ」


 ムカつく野郎だな。しかし、我の言葉を聞くと特に何か反論する訳でもなかった。


「たしかにそうかもなぁ、いいぜ、俺様の名前を教えてやる」


「俺様はカール・イヤツ。空間の魔法使いとは俺様のことを指す言葉! 覚えとけよ!」


 目の前の机にあるグラスをわざわざ魔法で手元に引き寄せると、カールは、ふんぞり返りながら高笑いを部屋に響かせた。

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