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3話 大剣使いタイケ

 路地裏に出現した入口をくぐり抜けると、そこには路地裏の先とは思えないほどの広い空間に様々な店の看板が並んでいた。チラホラと人が見えるな。


「なるほどな、拡張術式だ。なかなかにやる魔法使いがいると見た」

「マーさん、拡張術式ってなんです?」

「なんだクズノ、そんなことも知らないのか。拡張術式は密閉された空間内を本来の広さ以上に大きくする魔法だ。我の無限収納鞄も同じ術式だ」


 実は、この魔法自体はあまり難しくない。


 しかし、その分魔法使いの技量によって効果に大きな差がでる。この闇市の場合、永続的な効果を持っているようだから、凡人の中でも上澄みの魔法使いが関わっていることは確かだ。


「なんでいちいち罵倒から入るんですかね! でもありがとうございます!」

「あ、あの、マー様……あちらから誰か近づいています」


 おっと、騒ぎすぎたか、男が一人こちらへと歩いてきている。明らかに我々を見ている。技量としてはなかなか、筋肉の付き方、背中に見える大剣……大剣使いか。いつの間にか人の姿もない。


「おいクズ、お前がうるさいからだぞ」

「あたしのせいですか!?」

「おい、そこの三人」


 男が話しかけてくる。近くで見るとなかなかの巨体だ。我の最強無敵に身長は関係ないが、我を軽く見下ろすとは不敬だ。

 その調子では店のドアも屈んでくぐる必要があるだろう。削って小さくなってしまえ。


「聞いているのか!」

「む、なんだ、もう一度言え」

「だから! お前らは一体何者だ! ここらじゃ見ない顔だ。そのうえオーラが違う」


 オーラ……第六感か?冒険者をやっているとそういった感覚が身につくと聞いたな。つまりこいつも冒険者崩れか。

 だが、我の異常なまでの強さに気づきつつ近づいてくるとは、大したやつだ。


「そこのうるさい女」

「え、あたし?」

「お前からは妙なオーラが見える。何者か答えなければ切り捨てる。答えろ」

「え、ちょちょっと! なんでそうなるんですか!」


 クズノから妙なオーラだと、我を差し置いて?この史上最強最大にして天才無敵の魔法使いである我よりも目を引くオーラをしていたのか?


「…………気に食わんな」

「マー様……?」

「おい、そこの男」

「なんだ、今俺はこっちの女に……!」


 魔力で周囲の空間から我々のいる空間を遮断、そして、ピュアに当たらぬように、冷気を流し込む。


「お前、魔法使いか!」

「さむ! マーさん? なんか寒いんですが!」


 男は背中にかけていた大剣を取りだし構える。体の芯が通っておりブレない。やはり相当な使い手だな、何故こんな所にいるのかは知らないが、我への不敬、それは万死に値す……


「マー様! あの! 殺さないでください!」

「なんだと?」

「前もそうでしたが、人を殺してしまうと面倒です!」

「ピュアちゃん結構なこと言うね!」


 殺さない……ピュアを誘拐した際のゴロツキはゴミを払う程度の力で良かったが、こいつは実力者だ。どう手加減するか……なぜ我が人の言うことを聞かねばならない。しかし、下僕の願いを無視しては、最強の名が廃る。

 仕方ない、なんとかするか。冷気を出すのをやめ、鞄から適当な剣を取り出す。


「よかろう。では我も剣術で対抗しよう、不得意ではあるが、良いハンデだろう」

「……! 舐めたまねを!」


 そう言って男は切りかかる。長い剣のリーチを利用し、大振りで周囲を薙ぎ払う。

 我は後ろに飛び避けるが、剣士はすぐに体制を直して突進してくる。大剣を振った後とは思えぬスピードだ。体の軸がぶれないためにできる芸当だろう。


 我は手にした剣で大剣の力の流れを受け流す。大剣の振られた方向を少しだけズラしてやれば、我に当たることは無い。

 それでも男は体制を崩すことは無い。我が剣を振るう前に後ろに飛び退いた。


「そんな剣で俺の一振りを!」

「なかなかにやるな男、名前を聞いてやろう」

「お前に名乗る必要はない……! おらぁっ!」


 男は大剣の面を大きく振り下ろし、風を起こした。なかなかの風圧だ。我ではなければ足元をすくわれていただろう。


「うわぁ! ヤバイヤバイ!」

「きゃあ!」


 クズノは必死に近くの店の看板にしがみついている。ピュアは我が予め張っておいた結界で風は来ないはずだが、勢いに驚いたようだ。


 しかし、我の結界は勢いを大幅に減らしたものの、風を完全に殺すことはできなかった。ピュアのスカートが今にもめくれそうだ。


 どうでも良い事だが。


「なにぃぃぃぃ!」


 すると男は顔を紅潮させ、鼻から血を吹き出して倒れた。

 ピュアのいる方向を向いた瞬間だ。何かの攻撃か?


「なんだと? 何が起こった」

「うわぁ……マジかよこの男」

「…………!」


 クズノは呆れた様子で、近づいてきた。ピュアは男以上に顔を紅潮させている。


「み、みましたか?」

「ん? 何をだ? 貴様の下着ならば見てはいないし、興味はないぞ」

「よ、よかった……でもよくない……」


 しかし、この大剣使い、一体どうしたものか。人々が戻ってきたようで騒がしくなってきた。


『タイケさんが剣でやられた!』

『マジかよ! アイツ何者なんだ……』


 何者か……とな……仕方ない名乗ってやろう。


「はっはっは! 我こそは史上最強最大の魔法使いマー……むぐ」

「何をする!」

「何をするじゃありません! 本名言おうとしたでしょ!」

「…………チッ」

「はぁ! なんで舌打ち!?」


 仕方ないから本名を名乗るのは止めにしてやる。とりあえずこの大剣使いを起こして情報を引き出そう。


 我々は男を引きずって、闇市の更に端へと移動した。

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