2話 闇市へ行くぞ
カーナリ家で些細な事件があった翌日、三人で我の家へと戻ってきた。かなりの量の宝を持ち帰ることとなり、気分は良い。
ついでに、事情があって家に帰りたくないというので、カーナリはうちに置いておくことにした。
「では、カーナリ、我の下僕となることに異論ないな」
「ないです!」
「我の全てを敬い、崇め奉るか?」
「もちろん! マージ様最高です!」
なんでもやるから家に置いてくれと懇願された時は驚いたが、予想以上に素晴らしい。こいつは逸材だ。クズノとは比べ物にならないな。
「ちょっとちょっと! 何してんですかマージさん!」
「なんだクズノか、どうした」
「どうしたもこうしたもないですよ! なーに本名言っちゃってんですか! あと置いとくってどういうことですか! 突然言われても意味が分かりません!」
クズノがありえないと言ってうるさい。
「我の決定は覆らない」
「クズノさん、私なら大丈夫です、秘密を口外することはありません! 絶対!」
カーナリはクズノの顔に接近し、肩をがっしり掴みながら言っている。
「カーナリちゃーん、そうは言ってもさぁ……」
「まだ文句を言うかクズノ、鼻から茶を飲ませてやろうか」
「なにそれこわいやだ!」
クズノは『それは勘弁してください!』と言いながらそそくさと部屋を出ていった。初めから文句をつけなければよいのだ。
少しするとクズノが戻ってきた。どうやら我の無限収納鞄を持ってきたようだ。
「カーナリちゃんのことはいいとして! これ、どうしましょう」
目を輝かせたクズノは今にも踊り出しそうだ。
「ふむ、我は言ったことは守る。その中から三割、貴様にやろう」
「ぃやったぁ! どれ持ってこうかなぁ……」
そう言って鞄の中から頂いたものを物色し始めた。
「これはとっときたいな……でも高く売れそうだしな……いや、こっちもありか……」
我としては金になる前のものの良し悪しなどわからない。存分に迷ってもらって構わないのだが、問題がある。
「しかし、これはどう金にするのだ。このまま換金しに持っていっても盗品を疑われるのではないか?」
「あー、確かに、考えてなかったー……」
クズノめ、我が疑問を持つ前に全て手配しておけと言ったというのに、(言っていない)どうしたものか。
「あの、マージ様! 私役に立てるかもしれません!」
「なに? カーナリ、言ってみろ」
「はい! ズバリ隣町に闇市があると聞いたことがあるのです!」
「闇市……いい響きだ」
そんなものが存在するのか、凡人なりに良い働きをしているようだな。
「へー、闇市あるんだ。隣町にも」
「なんだクズノ、知っていたのか」
「色んなとこに行ってた時期があるんで、そういう噂を聞く町もあったのを思い出したんですよ」
そういえば初めてクズノと会った時に言っていたような気もするな。
「ただ、マージ様にとって問題は無いと思うのですが、噂には続きがありまして」
「なんだ」
「なんでも、その闇市を仕切っているボスが冒険者くずれで、とてもお強いのだとか」
冒険者か、世界を旅して歩くさすらい人のことだな。ここ十年あたりで急速に数が増えて言ったと前にクズノが言っていた。
「元冒険者ねぇ……最近の冒険者ってギルドとかいう組織が出来たせいで、色々揉めたって聞いたからなー」
「自由に世界中を冒険していたい方たちが、そういった活動に制限を設けようとするギルドに反抗したんでしたっけ?」
「カーナリちゃんの言う通り! その結果そういった勢力は世界各地へと散らばって行ったのでした」
まぁ、大層な肩書きが増えても関係ない。凡人に変わりはないな。覚えておく必要はなさそうだ。
「要するに凡人の中のいざこざということか」
「マジで、あんたって適当だな!」
「マージ様にとって人類はみな等しくあるのですね……」
ともかく、闇市とやらに行く必要がありそうだ。
「おい、闇市へ向かう、準備しろ」
「また、即決しましたね! マージさんって案外せっかちなんですか?」
「なんだクズノ、お前の判断の遅さを、我の素晴らしい判断力と比べてしまうのは凡人の性であるが、それをせっかちなどという俗語で表すな」
「マージ様! あの、私もついて行って良いのでしょうか……」
何を言っているんだこやつは、まったく、言わなければ分からないようだ。
「当たり前だ。貴様は我の下僕、我に付き従い、我の手足となって働くのだ」
「……はい!」
カーナリはなにやら軽やかな足取りだ。我の下僕となれたことが相当嬉しいらしいな。
「あ、そうだ。カーナリちゃんの呼び方、そのままじゃだめでしょ!」
「そうか、身分がバレてしまうな……ピュアと、名前で呼べば良いか」
「な、名前で呼んでくださるのですか!」
ピュアが大声で叫ぶ。うるさい。
「それで大丈夫かな……ま、いっか! よろしくねピュアちゃん!」
「はい! クズノ様!」
カーナリの屋敷のある町の隣町へ着いた。闇市を求め、来たはいいものの、闇市なぞ、一体どこにあるのか。
「闇市なんてどこにあるんでしょうね? あるのは確かっぽいんですけど」
クズノが言うのだからあることに間違いは無いだろう。しかし、手がかりがないな。
「でしたら、私町の人に聞いてみます!」
そう言ってピュアが住民へと駆け寄る。
「ちょっと! そんなこと聞いちゃ不味くない……!?」
「まぁよい、やらせておけ」
話を聞いていたピュアが戻ってきた。
「噴水広場から北へと進んだ先の路地裏にあるそうですよ!」
「マジで言ってんの!?」
「よくやったぞ、ピュア、褒めて遣わす」
「ありがとうございます! マー様!」
ピュアの聞いた話を頼りにその場所へと向かうと、魔法による結界を発見した。
「ほう、隠蔽の結界か。まぁ、我には通用しないがな」
指先で結果の表面をつついてやる。そうすると、先程まで行き止まりに見えた場所に扉が現れた。
「わ、すっげ」
「さすがです!」
「では行くぞ」
闇市とやらがもうすぐそこだと考えると、気分が高揚してくる。金が手に入る、その期待を胸に、我々は闇市への入口をくぐり抜けた。