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1話 我はとにかく金が欲しい / 路地裏でカツアゲだ(4/4)

 当然のように素早く屋敷へと侵入した我々だったが、これは驚いた。我は家の大きさにまるで興味がないが、とにかくデカイな、我の家が十軒は入る敷地である。


「じゃあ、あたしは少し屋敷内の金目のものを探しましょうかね……」

「後で我に献上するのだぞ」

「さっき決めたように割合は守ってよ! 全額の三割をあたしに! こんなんで働いてくれるのあたしくらいだからね!」


 この我から三割ももっていくのに、図々しいやつだ。だが、今回は初めてにしては金になる匂いがする……!かなり楽しみだ。


「マー様、私はどうすれば……」

「カーナリ、貴様は我の周りにいれば良い。控えめにはしているが、半径10m以内ならば確実に安心だ。誰であろうと一本の指どころか、爪の先まで触れさせることは無い」

「なんて、御業……! やはり勇者様なのでは?」


 カーナリがまた虚言を吐き始めたな。本当は屋敷中を安全圏にするために結界を展開したかったが、どうも妙な力の流れがある、面倒だな。


「……だから…………どうすれば…………」


 これは……なにやら会話しているようだが、人間二人妙な気配がひとつ、人ではないな。

 声のする部屋の前へ向かうと、先にかけていた光の屈折に加え、遮音の魔法を展開する。


「カーナリ、この声は貴様の両親のものか?」

「……はい、お父様と、お母様です。あとは…………セバス? どうして……」


 声が聞きやすいように、耳の能力を強化する。カーナリにもかけてやる。


「すごい、目の前で話しているみたい……」


 耳をすませると、その会話がしっかりと聞こえてくる。


「これ以上私たちにできることは無い……ピュアのためとはいえ、こんな、こんなことでは……今無事でいてくれるのかも分からないのに……!」

「三人組は何者かに襲撃され、逃げ帰ってきたようです。完全に私の落ち度です。罰はなんなりと」

「捜索はまだ続けさせる。セバス、見つけ次第保護、そのあとは……頼むよ」

「仰せのままに」


 カーナリは何がなんだかわからないといった様子だ。話を聞く限り、我の予想どおり、年頃の娘の家出劇といったものなのだろう。  

 心配しているようだし、家の者どもの態度が冷たくなったのは多分押してダメなら引いてみろとやらを実践したのだろうな。


「ふむ、交渉はできそうだな……よし行くか」

「待ってください」


 ドアを開け、入ろうとすると、カーナリが腕を掴んできた。


「何をする」

「あの、なんでこうなったのかは分かりませんが、なんとなく、私は今ここに居てはいけないのだと思うのです」

「……ふむ」


 本来ならばこのような話、凡人の言葉と一蹴するが、我を尊ぶものの願いならば、聞かない訳にはいかないな。


「しょうがない、身代金はナシだ。代わりにこの家の宝は貰っていく」

「はい! ありがとうございます……!」


 クズノと合流するか、あやつの位置は…………まずいな、何故か死にかけではないか。


「カーナリ、ここに結界を張る。戻るまで動くな」

「……! わかりました」


 妙な力の正体はあの執事とやらだと思っていたが、我でもここまで気づけない程の魔法の腕をもつ人外……魔族、だな。



「おったからー! おったからー! 金ピカ、ワクワク、お金持ち〜!」


 身代金要求はマーさんに任せるとして、あたしも自分の取り分を増やすためにも金になるものは沢山持って帰らなきゃー!

 突然金が稼ぎたいって言った時とか、悪事にでも手を染めればって言ったら、即決しちゃった時はビビったけど、あの仕事めんどくさかったし、稼げるならこっちの方がいいよね!


「お、これはこれは」


 探索していたら煌びやかな部屋を見つけた。宝石、絵画、陶芸品……絶対値打ちものだ!目利きとか出来ないけど、絶対高いよね!


「うひゃー、何円くらいになるかなー! マーさんと仕事やっててよかったー! 締切破りまくりでイラつくこともあったけどー、ぜーんぶ許しちゃーう♡」


 今から手に入る金額を想像すると、ヨダレが出てくる。マーさんの口ぶり的に、これから沢山お金を稼ぐだろうし、いいアクセとかあったら売らないで、このまま貰っちゃおうかなー。


 マーさんがくれたバッグにどんどんものを詰める。全部を持ってくつもりは無いけど……どこまで入るんだこのバッグ、底が見えないせいでいつまでも詰め続けそう。

 

 その時、ふと背中に寒気が走った。誰かいる?でも、マーさんの魔法であたしの声も姿も見えてないはず……

 そっと後ろを振り向くと、メイドがドアを開け、その場に立っていた。なーんだ、びっくりした……


「おや? なにやら虫が迷い込んでいるようですね」

「ッ!?」


 咄嗟に飛び退く、先程まであたしの立っていた所には指のようなものが刺さっている。きもちわる!


「ちょっとー……マーさん、魔法切ったりしてないよね……」


 部屋の中にあった鏡を見ると、自分の姿は映っていない。魔法が解けたわけではないようだ。


「あら、思ったよりも素早いですわね。虫といってもゴキブリ、ということですか」

「んだと! あたしは虫じゃないやい! いつも可憐、スーパーウルトラミラクル美少女クズちゃんだぞ!」

「クズですか、生き物ですらないのですね。紙くず、糸くず、一体どれでしょうか」


 そのクズじゃない!と抗議する前に、異様さに気がついた。こいつ声も聞こえてる……直感が、人としての本能が、こいつはマズイと告げている。今にも逃げ出そうとするのに、膝が震えている。本能ならもう少し頑張ってよ!


「まぁ、死にゆく貴方がどんな存在かなど、どうでもいいことですね」


 メイドが指をこちらへと向けている。反射するよりも先に私の足を指が貫通していった。


「ッ!!!」

「おや、音をあげないとは、予想に反して度胸があるようですね」

「当たり前よ! あたしがどれだけ死線くぐってきたと思ってんの!」


 痛い、痛い、痛い!もしかして、あたしここで死ぬのかな……悪いことしようとしたから……もっと、もっとこの先の人生やりたいことがあったのに……


「ですが、足を貫かれては、最初の素早さも無意味、では、しんでくださ……」


 突然メイドは背後から掴まれ、窓から放り出された。投げた主は、まるで何事もなかったかのようにあたしにこう言った。


「何をしているクズノ、そんなところで座っていては、金目のものを詰められないぞ」

「……! う、うるさい! マーさん遅い!」

「…………我は尊大すぎる故に凡人とは比べようがない存在だが、回復魔法だけは使えない。代わりにこれを使え」


 そう言って瓶に入った飲み物を手渡してくる。


「回復ポーションだ。我の知り合いの作ったもの故、その足の怪我もすぐに治るだろう、我はあの魔族と遊んでくる」

「ま、魔族!? ヤバいやつとは思ったけど、魔族ってなんかすごいやつなんじゃないの?」


 魔族といえば、魔法を扱い、人類の敵……魔物を生み出す、魔界に住まう怪物……だったはずだよね。

 遠い昔に勇者サマが魔族の王を倒してからは、めっきり見なくなったって聞いたけど。


「なぜ魔族がと、貴様が思い悩む必要はない。理由をどれだけ推測しようが、ここにいることこそが事実だ。お前にも結界を貼っておく。事前にかけた魔法は残っている故、屋敷のものにはバレないと思うが、人にぶつからぬ位置にいろよ」


 そういえば、屋敷が慌ただしい。そりゃ、窓がぶっ壊れたもんね。そっちの音は消えなかったっぽいし、どんどん人が集まるだろう。結界を貼ってからマーさんは窓から飛び降りて行った。



 魔族……クズノにも言った通り、何故町中にいるのか気になるが、今は考察するタイミングでもない。

 とりあえず、窓から外へと投げたが、中庭か、人目についてしまうな、魔法戦となれば、俺自身の光の屈折は邪魔なため解く必要がある。

 解かなかったとして、戦闘していれば、魔法の行使でどの道バレる。実に面倒だ。こんな凡族に俺が手を煩うとは。


「……いったい、何者ですか、我々の計画を邪魔するものは!」

「我の名を聞く前に自分の名を名乗ったらどうだ? 魔族の女よ」

「ッ! 魔族だってバレているんですか。そうですね、では名乗らせていただきましょう」


 メイドの頭の左右からは角が、背中には翼、そして腰の辺りから尾が生えてくる。


(わたくし)は新魔王軍、四天王ズノーハ様の配下が一人! 私のことを恐れるものはこう呼ぶ……その名も……ぐぇっ」

「長い。もっと簡潔に言え」


 名を語る前に、長ったらしくて殺してしまった。

 我の尊大なる名をその記憶に刻む名誉、それを与えられる前に心臓当たりを魔力で貫かれるだけで死んでしまうとは、なんと情けない。


 魔族を殺してすぐ、屋敷中から人が集まってきた。


「いたぞ! あれは……うちのメイド!? しかし、あの姿! まさか、魔族!」


 面倒だ。もう少し遅ければ、全て魔法で無かったことにできたというのに、仕方ない。


「あー、よく聞け凡人、我の方を向くが良い」

「なんだ貴様! 何者だ!」

「うるさい、よく聞けよ……『この場での記憶を消却せよ』」

「貴様! 何者かと聞いて……いる……あ?」


 バタバタと凡人どもが倒れる。よし、このうちに屋敷を直してしまおう。

 屋敷の中に入り、壁を修復、クズノとカーナリを回収だ。



 二人を回収した我は、早々に屋敷を去った。

 クズノが我がバッグに詰めていた物は全て、無事に持ち帰ることが出来た。


「カーナリ、貴様、今後どうするつもりだ」


 家出娘ではあるが、何かこやつにしか分からない事情がありそうなことは分かった。


「……そうですね、あの、マー様、一つお願いしてもいいでしょうか」

「許す。言ってみろ」

「実は……」



「……メイドが突然死……?」

「はい、マートモ様、先程中庭にて死亡しているのが見つかりましたが、死因は不明となっております」


 うちを脅していた魔族の配下……そのメイドが突然死だと?娘は無事なのだろうか……奴らは、娘の肉体を魂のない状態で求めていた。私もセバスにより治療を受けるまで影響を受けてしまい、ピュアには酷いことをしてしまった……

 何とか術にかかったフリをしながら逃がすことには成功したが、謎のフードに護衛が全てやられてしまったことが誤算だ。そのフードも魔族の仲間なのか……もしそうなら……


「……ピュア……………………」


「それと、こちらの手紙がその遺体の側に……」

「手紙だと……これは!」


 これは、この字は、娘の……ピュアのものだ!


「おい! オットリー!」

「……どうしたのですか、あなた」

「これを!」

「…………ピュア!!!」



 拝啓 お父様、お母様、セバス、屋敷のみんなへ


 最近、みんなの様子が変わってしまって、最初は私がなにかしてしまったのかと思っていました。私って、思い込みが激しいし、なにか不快にさせてしまったのではないかと、そう考えていたのです。

 ですが、ある方によって、何か事情があったということを私は知りました。おそらく、今の屋敷は、私にとって安全な家ではないのでしょう。ですが、安心してください。その方の元で、お手伝いを条件に居候させてもらう運びとなりました。

 すべて理解した訳では無いですが、いつか、また皆さんに会えること、お屋敷に戻れることを願って頑張っていきます。お父様、お母様、私は大丈夫です。気に病まずに、二人でできることをなさってください。セバス、小さい頃からずっとありがとう。貴方の献身を忘れることはありません。屋敷のみんな、お父様は真面目すぎて働きすぎてしまうので、みんなで支えてあげてください。お母様に関しては、時折突拍子もないことをするので、何かあったら止めてください。

 最後に、ごめんなさい屋敷の財産を少し頂いていきます。恩人に報いるためとはいえ、事後報告になってしまったことをお許しください。


 ピュア・カーナリ



1話完

勢いで1話を書きましたが、書きたいものの雰囲気は今回まででおおよそ入れることができたと思います。

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