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1話 我はとにかく金が欲しい / 路地裏でカツアゲだ(3/4)

「ここがマー様の偉大なる拠点ですか……! あぁ、すばらしいです! 」

「こちらは偉大なる眷属でしょうか、なんて愛らしい猫なのでしょう! きっと、神代の血を引き継いでいるんですね……!」


 なにやら興奮しているカーナリだが、カワイは拾った猫だ。そんな由緒ある獣ではないぞ。


「ちょ、ちょっとマーさん……あたしを置いてってますよ……!」

「遅かったなクズ、だが、凡人にしては速い足を持っているのだ。もっと速く走れ」

「無茶言うな!」


 息切れでダウンしたクズノは置いておいて、とりあえず部屋を用意せねば、


「来い、カーナリ、お前の部屋はこっちだ」

「私に部屋を頂けるのですか、なんて寛大なお方……!」

「クズ、カーナリに紅茶を出せ。お前が買ってきていた、とっておきのやつだ」


 こやつは本当に良い。我の存在を適切に理解出来ているようだ。あとで、カワイを貸し出してやろう。


「わかりましたよってか、これじゃ誘拐じゃなくて、普通にもてなしちゃってるじゃないですか! 家の方に身代金要求するんですよね!?」

「無論だ。なんだ? お前はそんな簡単な目的も覚えることの出来ない鳥頭なのか?」

「……………………っんぐぅぁ!」


 声にならない声を出しながらクズノが紅茶を準備しに行く。それにしても、気になることがある。


「おい、カーナリ」

「ひゃい!」


 部屋を見て回っていたカーナリが飛び跳ねた。なんとも反応が良い。


「貴様は何故、従者も連れずにあのような場所にいた?」


 問題はこれだ。貴族の娘があのような凡人三人組と行動していたのには、理由があるはずだ。


「それは……」


 カーナリは話してよいものかというように、口をつぐんでいる。

申し訳なさが伝わってくるな。言えない事情があるのか……しかし、


「我は最高最大の天才だ。その我が話せと言っているのだ。我の前で隠し事をするでない」


 先程までまるで抵抗しなかったが、それは真の目的を隠すためだったのか?


「…………まさか、私のために全てを見通した上で、任せろと言うのですか」

「……ん、うむ、とりあえず話せ」


 確かに我ならばこの世の全てを見通す眼を持っていると言っても遜色ないな。こやつはやはり、我の信奉者のようだ。


「……実は、最近家のものが私に強く当たってくるのです」

「使用人だけならば、何か嫌われてしまうことをしてしまったのかもしれませんし、仕方ないと割りきれるのですが、これまでそんな素振りがなかった家族が、みんな冷たく接してくるようになってしまって……」

「最初は冷たいのは態度だけで、無視されるなど軽いもので済んでいたのですが、段々とエスカレートしていき、この前は庭にいた際に、上から花瓶が降ってきて……」

「唯一、味方してくれた執事が何とか家から出してくれたのですが、彼も追手を振り払うために、逃げている途中ではぐれてしまい、最初に協力してもらったあの三人と少し揉めていたのです」

「ふむ、なるほど」


 つまり、なんか嫌われてしまったので家出してきた、ということか。全く年頃の娘というのは周りの視線に敏感だな。我は既に百を超える年月を生きているため、そういった若々しさは記憶にないが、よくあることだろう。


「とりあえず、貴様の両親と話(脅迫)をするために手紙を書くか……いや、直接行った方が楽なようにも思えるな……まぁ、それまでは貴様はこの家から出るでないぞ、そうは言っても、出ることは出来ないがな」

「私の両親と話(原因の追求、和解)を……なぜそんなことをなさるのですか? 今日あったばかりだというのに」


 なぜ、そこで疑問がでるのだ?金のために決まっているだろう。


「無論、我の偉大なる目的、金を稼いで豪遊するためだ」

「そんな、貴方様の目的はもっと尊大で、私では到底理解できないということでしょうか……金を手に入れるなんて、そんな事のためではないことは分かります」

「ん、いやそんなことは無いぞ」

「謙遜なさらないでください。大丈夫です……いずれ、その時がきたら話してください……」


 なにやら妙なことを言っているような気もするが、出会った時から物語脳のようであったからな、そういうものなのだろう。

 まさか、これも年頃ということか……最近の若者と、私の若い頃とは価値観がまるっきり違いそうだな。


「ふむ、やはり直接交渉に赴いた方が楽なように思えてきたな。よひ、カーナリ行くぞ」

「は、はい! え、でもここに居なくてはいけないのでは?」

「予定変更だ、むざむざとお前(交渉材料)を奪わることはない、連れていった方が相手の出方も分かる」

「うぇ、そ、そんな……絶対に護るから安心してだなんて……」


 よし、なんだかわからんが、納得したようだな。こちらが娘を預かっていると確信できないと、交渉の場に立つことすらないやもしれん。そろそろ行くか……


「はーい、紅茶入りましたよー……って、マーさん? なんでフード被ってるんですか?」

「今からこやつの家に乗り込む。とっとと準備しろ」

「はぁ!? 紅茶入れたばっかだって!」


 いちいちうるさいやつだ。

 カーナリは『あ! では、急いで頂きますね』と言って紅茶を飲んでいる。舌をやけどしたらしく、口を開けて悶絶している。


「何をしている。紅茶は時を止めておく。後で飲め」

「はいはい、わかりました」

「……ほんと、なんでもできるなぁ……マーさんって何者なんですかね」


 クズノのそのつぶやきは、いつものように、マージには聞こえていなかった。

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