7話 隠れ蓑
「……ほう、なかなかに良いではないか」
「え? ……は、はいそうですね、マー様……」
闇市で屋敷を立てるための資金を手に入れた我は、その足で我が決めた建造予定地を見にやってきた。
魔物が蔓延る森の中、人の寄り付かぬこの場所は我が屋敷を建てるのにうってつけである。
ピュアも我に賛同し笑っている。すこし歯切れが悪いような気もするが、気のせいだろう。
「マージさん……なんでこんなとこに屋敷を建てようとするんです? ちょーっと立地というか、環境というか、悪くないですかね」
「なんだクズノ、お前がそれを気にする必要はないだろう」
「あたし、ここにこれから通わなきゃいけなくなるじゃないですか! 死活問題です!」
こやつの足ならば、特に問題は無いだろうが、常々文句の絶えない奴だな。
とはいえ、役に立っている者の主張を何も聞かないのは我の度量に関わるか……
「そうか、ならば貴様にも屋敷の一室をやろう」
「え゙、いいんですか……じゃなくて、結局それでも周囲が魔物だらけなのに変わりはないんですけどね!」
「そんなものどうとでもなるだろう。それよりも土地はここで決めた。次は腕のいい職人が必要だ」
「話聞けや!」
面倒だ。クズノは庭に紐でつないでおくか?そんなことを考えていると、ピュアが何やら恐る恐るといった様子で手を挙げる。
「どうしたピュア」
「あの、マー様、兎にも角にもこの周辺の魔物を討伐しないと、職人の方々も作業しづらいのでは……」
「……ふむ、確かにむやみに強大な結界を張るわけにもいかない……我がこのあたりの森の主を討伐したほうが凡人によいかもしれん」
「でもマージさん、そしたら今度はその主を討伐した人探しが始まるんじゃ」
「そうか、困ったな」
力がありすぎるというのも困った者だな。どうしたものか、我はもうこの土地以外眼中にないのだが。
「じゃあ、功績を代わりに立てる人がいればいいんですよ!」
「ピュアちゃーん、そんな人いたら苦労しな……」
言いかけてクズノが悪い笑みを浮かべた。何か思いついたようだな。
「いるじゃん、ちょうどいいのが」
「ほう、言ってみろ」
「腕がたって、それなりの功績をたててもおかしくない人、それは……」
「タイケ! あいつに押し付けちゃえばいいんですよ!」
クズノの提案によりタイケを使うことにした我は、二人を連れ闇市へとやってきた。
中へ入ると一瞬のうちにカールが現れる。
「ん、どうしたカール」
「どうしたもこうしたもねえ! なんでこんな早くもどってくんだよ! ほんの数時間であんたの顔をまた見ることになるとは思わなかったわ!」
カールが怒鳴り散らしているが、気にすることはない。
「タイケはどこだ」
「無視かよ!」
「うわーその気持ちわかるー」
クズノがカールに肩を組んで何か言っているが、タイケの場所を聞いているわけではなさそうだ。まったくなにをしているんだあやつは。
「マー様、あれ……」
「どうした……なんだあれは」
ピュアの指さす先をみると、そこにはタイケがいた、のだが、なにやら異様に大きい重りを持ち上げている。
「オブリさん、こんにちは!」
「ん? ピュアさんに旦那!? どうしたんで?」
タイケが重りを地面に下すと軽く地面に響いた。
「タイケ、貴様は選ばれた」
「はい?」
「えっと、森の主を倒した功績をオブリさんが代わりにもらってほしいということです!」
タイケはピュアの言葉を聞くと我のほうに目を向けてくる。
「森の主って、町はずれの森のか? かなりのやつだと聞いてたが、そんなやつの討伐の功績を俺が!?」
「ピュアがそう言っているだろう。我が目立つのはよくないからな。貴様がやれ」
「あそこにはあの魔族の根城もあるはず……まさか……」
こやつは義理堅い。考え事をしているようだが、我の期待を裏切ることはないだろう。
「わかった……わかりやしたぜ旦那! 大剣使いタイケ! 旦那のための隠れ蓑になりやしょう!」
「よし、これでよいな」
「あ、旦那、ただ俺一人で倒したってなると信じてもらえないと思うんでさ、仲間を連れてきてもいいか?」
仲間……そんなものが必要か?対等なものなど、己を蹴落としにかかる敵でしかないだろうに。
「……まあよい、貴様に任せる」
「助かりやす! じゃあ今ちょうどこの闇市にいるんで、ちょっと話してきやす!」
そう言ってタイケは闇市の奥へと駆け抜けていった。しばらくすると、大柄な男を連れてきた。タイケもかなり大きいが、こいつもかなりの大きさだ。
「あんたが、タイケさんを打ち負かしたっていう魔法使いか、俺はビッグスだ。気乗りはしないが、タイケさんの頼みだ。森の主討伐、やってやるよ」
「そうか」
凡人のようにしか見えないが、大丈夫なのか?少し雲行きが怪しいように思えるが。
「あ、あなたは……」
「……? なんだ嬢ちゃん、俺の顔になにかついてるか?」
「い、いえ、なにも」
なにやらピュアは気になることがあるようだな。
消音魔法を発動させ小さくピュアに語り掛ける。
「どうした、なにかあったか」
「えっと、あの方はマー様とお会いした際に、私の逃亡を助けてくれた方です……」
「……おお、あの凡人、忘れていたな」
ピュアを誘拐する際の三人組か、群れのボスをしていた男だな。大した実力はなさそうに見えたが、我の見識が間違えるはずもない……タイケめ、どういう仲間の選び方をしているのだ。
「旦那? 大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。仲間というのはこやつのみか?」
「いや、あと一人、ここにはいないんで町に呼びに行こうかと」
「ふむ、早急にな」
もう一人の仲間……そいつがタイケ並の実力を持っていれば問題はないか。我がいる故、最初から心配する必要はないのだが、疑われては困るからな。
「旦那も一緒に来やすか? 顔見せってことで」
「そうだな、よかろう、我も同行してやる」
「私も着いて行きます!」
すると、カールと意気投合したらしく、クズノが肩を組んで歩いてきた。
「あたしはここで待ってますねー。カールと思ったより話があっちゃってー!」
「こいつは女としては中身が最悪だが、友人としては素晴らしい考えを持っている逸材だぜ」
「中身最悪はあんたもでしょ!」
「はぁ……凡人の考えはよく分からんな」
なにやら楽しそうだな。放っておこう。凡人は妙なところで友情とやらが芽ばえるらしい。
二人を無視すると、我はタイケの仲間とやらを探しに町へと繰り出した。




