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悪の魔法少女っていいですよね②



「こんにちは!!」


「……」


──誰かな。


何も見えない、何も感じない。でも、誰かがそこに居る。

私から魔素を取り上げた人は、もっと冷たい声をしていた。

だから今、私に声をかけてくれている人は別の人で、大雨が降っている夜中に「こんにちは」って、


「…………」


「どうもどうも、私、貴方を悪の組織へ勧誘しに来ました」


「………」


「何か叶えたいことはありますか?ウチに入ってくれたら、毎日おにぎり生活から…毎日ステーキ生活だって出来るようになりますよ!」


「願いは、やりたいこととか…ありますか?」


「…………」


「───」


「わから、ない」


「わたし……なにも……」


「ふむ」


「…なんで……どうして……」


私は、ただ生きてただけ。

人生というものを生きて、死ぬだけだったのに、どうして私はこんな事になってるんですか。

分かりません。私は、生きる為に生きて、生きる為に働いて、生きる為に食べて、生きる為に寝て、ただそれだけを過ごしていたのに。

──どうして、こんな事をしてしまったのだろう。


「よし。分からないフリを辞めましょう!」


「───」


「ダークちゃんと呼ばせて貰いますが、ダークちゃんはどうしてこんな事をしたんですか?」


「…………」


「ちゃんと理由がある筈です、誰のために、何のために、それを吐き出す時間はあげますね」


「…………ぅ」


誰かもわからない人は、訳の分からない事を告げてきます。

分からないものは分からないし、私では考えても分かりません。

なのに、この人は「分からないフリ」と言いました。私は、『フリ』をしているのでしょうか。


私が不完全で、分からないフリをしているから、あのお兄さんは悲しんでいたのでしょうか。私が不完全で、分からないフリをしているから、誰も目を合わせてくれなかったんでしょうか。私が不完全で、分からないフリをしているから、ここで私の人生は終わるのでしょうか。


──私は、何が分からないのか、分かりません。


「……うぁ…」


「目も、内臓も、腕も足も奪われて、大雨の中…人生が終わろうとしているのは何故?ダークちゃんは、どうしてこんな目に合ってるんです?」


「わから、ない」


「──ダークちゃん、どうして?」


それでも、それでもこの人はずっと問いを続けてきます。

分からないと言い続けても、ずっと。冷たい冷たい雨の中、傘もささずにずっと。

目が見えないので、この人の顔は分かりませんが、きっと悪魔のような人間だと思います。


「ぇぁ…う…」


「ダークちゃん」


「……──わたしが、おにいさんを…かなしませたから…」


「どうして悲しませたの?」


「おにいさんから、ものをとったから」


「どうして物をとっちゃったの?」


「……とってって、いわれたから……」


「誰かに何か言われたら何でも言う事を聞くのかな?もし、あのお兄さんが一緒に暮らそうって急に言ってきても…そうするの?」


「………」


「……すきなこに、いわれたから」


「──うん。ダークちゃんは…好きな子にお兄さんから物を盗んできてって言われて、こうなったんだ」


それは──なにもかも、私から出た言葉であって、私の言葉を繋ぎ合わせて作られたソレは、確かに分からないフリをしていたんだと分かりました。

その人は、ゆっくりゆっくり言葉を紡ぎます。私の言葉を本当に私が言っているように、何度も何度も繰り返して私に渡してきます。


どうしてそんなことをするのかは、フリではなく本当に分からなくて、分からないけれど、とても温かい。そんな不思議な時間です。

急に、身体に降りかかる冷たさが消えて、ほんの少しづつ温かくなって、


「よしそれじゃ……最後だ。ダークちゃんは、どうして」


「──どうして、『好き』になったの?」


「…………それ、は…ゲホッ…ゲホッ、そ…れは…」


「…………」


「わたしのこと」


「みてくれたから」


「…素敵な理由だね。良い理由だと思う…でも、それは答えじゃないよ。ダークちゃん、あの子の事を君は…どうして好きになったのかな?君は──」


「生きているだけで良いと思ってたのにさ?」


「────」


そうでした。

私は、生きるために生きてきたのに。私は、生きる以外の事をする理由が無いのに。私は、全部全部生きる為に──。


…どうしてだろう?どうして、私はこんな事をしたんだろう。人生というものを過ごすのが、人間のやる事で、魔法少女であり物である私は何をすればいいのか分からない。


──人生で何を成し遂げたいか、何で喜んで、何で苦しんで、どうやって死ぬか。それを納得したいから、人生を過ごすらしい。


私は、それが分からない。どうしてそんなことをするのか、魔法少女の自分には分からない。


「…………」


「…………」


「────ぁ」


もしかして。

もしかして、もしかしてもしかして。もしかして、私が分からないフリをしているのは。


私が、分からないフリをしているのは、コレでした。

生きる為に『好き』は必要ありません。生きる為にあの子の言う事を聞く必要はありません。生きる為に盗む必要はありません。

いつか死ぬ危険な仕事に就いていても、死ぬ為に仕事はしていません。


なら、どうしてこうなったのか。


「…………」


なら、どうしてこうなったのか。


「………お゛ぇ…」


なら、どうしてこうなったのか。


「…………ぉ…あ゛…」


どうして。


どうして、私はこんなにも。



「……わか、わから、ない、のが……」



死ぬのが、嫌なのだろうか?



「わからないのが、いやだから…!」



「わからないまま、しにたく、ないっ!!」




──それは。


それは、私が初めて叫んだ、『生きる』以外の切望だった。





「──その願い、叶えましょう」












──人生ってなんだろう。


いつか死ぬ為に生きているのに、みんな必死に生きて、納得をしようとしています。

死んだ時に、もう、死んでもいいと思う為に、生きているらしいです。それを生き様と言ったり、人生と言ったりするらしいです。


なら。

なら、私は。

──納得したい。


私だって納得したい。納得して死にたい、こうやって生きてきたから、死んでも大丈夫だよって言いたい。後悔したくない。嫌な思いをしてもさせても、納得して死にたい。

全部知りたい、全部全部知りたい。分からないものなんて一つも無くていい。


どうして私は不完全なのか。

どうして私はお母さんとお父さんが居ないのか。

どうして私は誰からも目を合わせられないのか。

どうして私は命懸けで仕事をしているのか。

どうして私はご飯を食べて歯を磨いているのか。

どうして私は寝て起きて毎日を過ごしているのか。

どうして私は『好き』を知ろうとしたのか。

どうして私は、何もしらないのか。


「…………」


「……?」


「……いきて……る?」


「──生きてますよ、ダークちゃん」


気がつけば私はベンチで寝ていて、聞いたことのある声が隣から聞こえた。雨が降り続く空の下で、私は隣の人に傘を差してもらっていた。


「……えっと…」


「改めて自己紹介を、私は魔法少女です!それ以外でもそれ以下でもなく、悪の組織を作りたいので勧誘しに来ました!」


「……」


「社会福祉万全!入隊後暫くは衣食住完備!お賃金も沢山出るし、何よりやりがいがある!!…というのをモットーにした悪の組織です」


「特に強制することも無いですし、ダークちゃんが願った事を叶えようとするだけでも大丈夫ですよ。入隊してくれるならそれは保証します」


「いかがでしょうかッ!!」


「…………」


「……ごめん、なさい。まだ私…話したい人がいて…」


「そ、そうでしたね……ちょこっと興奮し過ぎました…。ではこちらを」


手渡されたのは、小さな星型の髪飾り。

その人は、私の手を優しく包み込みながらそれを手渡します。


「……」


「ダークちゃんが私に会いたいってコレに願えば、すぐ飛んでいきます!呼び出したら悪の組織に入隊しろー!なんて言いませんが……毎度勧誘しようとは思ってるので」


「ありがとう……ございます…?」


「いえいえ、それでは私は下準備があるので失礼します!悪の組織に入隊したくなったらいつでも呼んで下さいね!」


そう言うと、その人は風が吹くように消えました。

私に残されたのはその髪飾りと、傍に置かれた傘だけがあって、傘は私を雨から護っています。


──夢の様な時間でした。あの子以外に、初めて私は目と目を合わして人と会話して、とても幸せなのかもしれません。

幸せなのか分からない、ということも無く、どうしてか私は幸せだと断言出来ました。あの人が、私の分からないを教えてくれたからでしょうか?


「……」


「──行かないと」


ともかく、私はしなきゃいけないことをしに行きます。

多分、恐らく、分からないけれど、それはきっと大切な事で、死ぬのに満足する為には決して逃げちゃいけない気がしました。


逃げて逃げて、逃げ続けてきたけれど、私はもう逃げません。そして逃げれません、私は、もう私に嘘をつきたくないからです。


──この時間には、帰り道に彼女が待っているだろうから。


「……」


「…ふッ…!」


妙に軽い身体を動かすと、普段から軋んで傷んでいた身体はすっかり引っ込んで、脆いはずの両足は大地を踏み締めます。

早く、速く、より速く。落ちる雨よりも速く走ったのは初めてで、今ならなんでも出来そうな気がします。


走って走って、走り続けて──、



「───」



私は、話さなきゃいけない人と、再び出会いました。



「──あやね、ちゃん…!?」



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