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魔法少女っていいですよね


──地球上に突如現れた異次元生命体による侵攻から早120年。



「飽きた──!」


「ぴょ!?」


人類は抗う術を持たぬまま、蹂躙という蹂躙を味わい、侵攻に屈し、一時期は元来の生存圏の約7割を消失した。


「あーきーたー!」


だが、突如、唐突に。

侵略開始■■年目の大規模絶滅戦争にて『ソレ』は産まれる。


──魔法。

それは奇跡の御業。神の恩寵。人類の手に偶然舞い降りた逆転の一手。

想像を具現化する力を持った魔法は、初めに一人の少女に宿る。


「飽きた……飽きた…?」


「うん」


「飽きた!?!?」


「そう言ってるじゃん」


魔法とは、高次元から引き出すエネルギーによって、物質の生成、イメージの創造を行うもの。そして異次元生命体に対する特攻を有するものだ。異次元生命体に通常の兵器は通用せず、尚かつ異次元生命体からの攻撃は現存する物質を強度を無視して貫通する。

そんな異次元生命体から、少女はたった一人で人類生存圏を侵略者から取り戻し、復興の礎となった。

魔法を扱う少女──魔法少女。人類の希望であると共に、人類には決して扱えない無限の力を発揮する怪物。


──だが人類は。

人類は、『扱えない』モノを許容しない。その力を、その奇跡を目の当たりにしておきながら何一つとて自由にならない等、人類という『種』が許さなかった。


「飽きたって何ぴょん!?」


「色々」


「色々じゃ分かんないぴょんッ!!」


「魔法少女やーめた、君もぴょん語尾無しね。アイデンティティは他のところで確保しな!私は魔法少女を辞めてコンサル業に務めてやるっ!!」


人類が踏み切ったのは、奇跡の『再現』だ。

『再現』それは文字通りの『再現』。魔法少女がいかにして産まれたかを記録したデータを元に、ひたすらに再現を繰り返す。

原初の魔法少女は出自故に人間性が薄く、気分で何をしでかすか分からない。そんなものに人類の存亡を任せる訳にはいかなかった。


『再現』が行われたのは、魔法少女が産まれてたったの2年。2年で人類はその禁忌へと足を踏み入れ───。


「ミーのコレはアイデンティティ確保の為にしてるんじゃないぴょ……んじゃない!君がイメージするマスコットが『コレ』だからそうなってるんでしょ!?」


「え、そうなの?ずっと素だと思ってた」


「これが素ならミーは相当センスのイカれたマスコットになるけどぴょん??」


「……『ミー』も?」


「…………それは素」


「……ふーん、あの時、人類滅亡するって時に…ミーって…」


──奇跡は再び降臨する。

方向性を持たせ、指向性を持ち、管理の出来る様に偽りのカバーストーリーを使い、2年目にして魔法少女は『兵器』へと変化した。

一度は絶滅に追い込まれかけた、人類の底力……いや、狂気が産んだその奇跡は、原初の魔法少女抜きで人類生存圏を全て取り戻す偉業と共に、異次元生命体を魔法生物として『駆除』する段階にまで至る。


次元を超えた戦争が終結し、魔法少女はその能力によって人類の復興に献身し続け、異次元生命体の侵略開始120年目にして人類は以前の姿を取り戻したのである。


「こ、こほん!それで…魔法少女辞めて何するんですか、今どき貴方みたいな人を受け入れてくれる場所なんて何処にもないぴょんよ」


「ハロワにでも行こっかな〜」


「それが魔法少女のやる事なんです??」


「辞めたから関係なーい、もうイメ損の心配も無いし役所に元魔法少女が並んでても許されるっしょ!」


「はぁ…そうぴょんか」


「あーうそうそ、嘘だからそんな馬鹿間抜けを見る目で見ないで?」


だがしかし、人類は一つの過ちを犯したまま、その罪業の精算を行っていない。

罪は浄化されず、未だにその形を保ったまま人類の中に根付いている。


魔法少女。

魔法少女とは、人類が辿り着いた罪の果て。理解が出来るはずの無いモノから形だけを学び取り、外殻だけで作り上げた死骸。

魔法少女が産まれた理由を、彼らは知らない。


「やりたい事が一つあってさ」


「───」


「君が、やりたい事?」


「そうだよ。何かおかしいかい」


「それは……いや……まぁ、先にやりたい事聞くぴょんね」


魔法少女は──不滅の存在であった。

異次元生命体と魔法でしか死ぬ事は無く、魔法の代償を様々な形で支払う事になる。

感情、五感、共感、知恵、自我、肉体。魔法という0から1を生みだす奇跡を認めなかった人類は、魔法には代償が必要なのだと勘違いを正常だと判断した。


認めない、例えそれが人類の救世を担ったものだとしても、理解出来ないものは認められない。

『再現』の途中にその勘違いは混ざり、魔法少女は不完全のままこの世に生れ堕ちて、


「──魔法少女と人間の戦争」


「…………」


「対立煽りって奴?ほら、今のままじゃ魔法少女もやりきれないでしょ」


「人間は人間同士でも恨み合う、魔法少女は魔法少女同士で恨み合う、魔法少女と人間をちゃーんと対立させて〜、いっぱいドッカンドッカンさせたいな!」


「……君は、それを本当に望んで…?」


「『望む』事が出来たなら、きっと」


「……」


──世界は未だに、歪み切ったままだ。


元通りになる為に、元の形を失った。

幸福になる為に、幸福になる理由を失った。

未来の為に、数多の希望を失った。


形も、理由も、希望も失って、残ったのは罪のみに。


魔法少女が産まれた理由を、人類は知らない。


「それじゃ、まずは魔法少女同士を対立させよう!」


「本当に悪い方向にはいつも積極的だぴょん……誰か君を叱ってくれないかな…」


「君が叱ればいいじゃん」


「ミーが何言ったって、空っぽの君が変わるぴょん…?」


「──変われるさ、変われなくても変われても、どっちでもいい」


「話が噛み合って無いぴょん!!これだから…はぁ……」


童話から出てきたような、箒に乗った少女は、外気圏にてその真っ白な髪の毛をハラりと舞わせる。

白、というよりは色が抜かれ白髪の様に力なく舞う髪の毛は、みるみるうちに烏髪の漆黒へと染まっていく。

少女はふわりふわり、外気圏から降りていく。

人間では到底生存出来ない場所でも、魔法少女たる彼女にとって顔色を変える程のものでは無い。


「人類の味方も、魔法生物の敵も飽きちゃった。やっぱり青春真っ盛りの子から若いエキス吸わないとね!」


「感性がババアぴょん…」


「私がババアなら君は妖怪ジジイな癖に」


「言うなぴょん」


「ぴょんぴょーん、ごめんなさいぴょんねぇ〜」


「っ、癖だから抜けないんだよ!煽らないでくれるかな!?」


魔法少女の傍にはマスコットが付き物で、うさぎの人形はオトモとして少女に付き添っている。

時には叱り、時には相棒として、親代わりとも言っていい長い時間を過ごしてきた。


「──今年で何歳になったっけなぁ…」


「それは…『アレ』抜きでの話ぴょん?」


「そう」


「ならちゃんと歴史のお勉強するぴょん!君の事はちゃんと本に乗ってるぴょんから」


「…お勉強」


人形は「あ」と失言を咎めるも、時すでに遅し。

やる気をもった少女を止める手段は無く、悲しいかな親代わりと言ってもマスコットである人形に、作成者へ反抗する力は与えられていなかった。


「ふっ……学園に侵入するぞ〜!!!」


「ぴ゛ょ゛ッ゛」


これからは、下らない日々も喜びに満ち溢れた日々も、左程変わらない。

人類は罪を抱えすぎた、人類は罪業に塗れすぎた、そして最後にはその精算すら手放して、人類は人類として背負うべき責任すら放棄した。


ならば──魔法少女の存在意義は。


魔法少女がこの世に生まれた理由すら知らない、存在意義すら知らない人類。

今一度、平和を手にした今だからこそ問おう。



「────」



「魔法少女の、存在意義とは」



「魔法少女が産まれた理由は」



「魔法少女の、その真実を知った時。 君たちは魔法少女に何を求める──?」



──人類は、魔法少女が産まれた理由を。


──魔法少女が産まれた理由を、知らねばならない。











「めんどくさい──!!」


「ぴょっ!?」


田舎外れのボロい一軒家で、ノースリーブのワンピースを着た少女が軒下で足をバタバタとさせている。見た目は齢10才そこらの筈が、妙に体つきが良く、纏う雰囲気は成熟しきっていた。

そんな少女が「わー!」と叫びながら、お盆に置いてあるサイダーを手に取って飲み干す。


不満、面倒、よく考えれば人類なんていつかは勝手に争い始めるから手を出す必要なくね?そんな感じの足バタバタ。


「めんどくさいめんどくさいめんどくさいめんどくさいめんどくさい〜、てか暑い」


「…暑すぎるぴょん」


「太陽消そうかな」


「それは辞めるぴょん!?」


対立煽りがしたい、というか魔法少女が昔みたいに必死に頑張ってる姿が見たい。

なんか今はアイドル営業してる魔法少女も居るし、対魔法少女用の薬品やら兵器やら作られてるから不滅の存在とは程遠く、簡単に死ねる。


「コレ見てよ〜…」


「なになに、『小学校生の今年なりたい職業ランキング』?……魔法少女第三位!?!?」


「なんか目を離してた隙にすんごい事なっててビックリ」


「いや……コレ…今はそういう時代なのかぴょん…?娘が将来アイドルになりたいって言ってる〜みたいな……」


ぴょんぴょんに手渡したスマホには、小学校低学年のなりたい職業をアンケートした結果が載っていた。

魔法少女、堂々たる第三位。100年前には戦争の道具としてしか見られていなかった魔法少女が現文明では随分と持て囃されたものだ。


実にけしからん!私はこういうのに対して普通に老害である。魔法少女はもっとこう、血と泥に塗れて希望の見えない明日に、ちぎれた腕と脚を魔法で形作りながら、「それでも」と前に進むべきなのである。


「今ではアイドルよりランキングが上、ですか」


「…第二位がパティシエで第一位がVTuber……魔法少女より第一位がコレな方が問題じゃないかぴょん?」


「んー……まぁ、時代の流行りがトップに立つのは不思議でも問題でもないんじゃない?」


「──この国の未来を憂うぴょん」


「VTuberになってもいいな〜、なりたーい。配信してストリーマーになりたい、スパチャで生活したい」


「ババアの癖して感性がニートの若者過ぎるぴょん!?むぎゅぅっ!?」


ババアババア煩いコイツはほっといて、まず対立煽りをしたいというのなら──現代の魔法少女に対する認識から改めさせる必要がある。

魔法少女はこんな消費型コンテンツでも、国の下の公務員みたいなものでもなく!空飛ぶ市役所でも無い!


魔法少女は!魔法少女であると!!


「もっとキラキラして、もっとギラギラのメラメラ、次のランキングは一位を取る!」


「世界がひっくり返るまで荒らし回し、魔法少女が更に輝ける世界へと変えよう!!」


「そうすれば──次の子供達のアンケートには、魔法少女しか載ってない。私が、退屈な授業で居眠りしなくてもいい世界に変えるんだ!!歴史の教科書をボーッと見つめる少年少女達よ!立ち上がれ!」


「あがが……はひゅへんだへひふといかれたひょういくねっひんのあくのおやひゃまぴょん(発言だけ聞くとイカれた教育熱心の悪の親玉ぴょん)」


「ふふふ、100年先、私の作った歴史に子供達が釘付けになってくれると嬉しいな」


「ぶへっ──こういうタイプで主目的が『教育』な事があるのかぴょん……」


──という訳で。

認識を改めさせる、それは魔法でも可能だ。

というか魔法にできないことは無い、全人類の頭の中をいじくって私が求める世界にしてもいい。


だけどそれは余りにも、あまりにもだ。

そんなことをするなら、私は自害する。魔法少女はそんな事しない、もっとキラキラとドロドロ、ついでにケミカル〇を混ぜたような自然な対立を産まなくては。


ならばどうするか。


「こうします」


「ぴょ…」


ぴょんぴょんに手をかざし、形を変化させる。

私の下僕なので幾ら乱雑に扱ってもいい、最後には元通りにするから許してね♡。


「ぴょん!?!?」


「な、何コレ!?何したぴょん!?」


「おー、やば。あざといな、あざと可愛すぎる」


対立煽りには、まず対立する相手を作らねば。

私が矢面に立ってもいいけれど、一個人に対する悪感情には限度がある。それに私は魔法少女の傍で絶望に抗う姿をじっくりと観察したいので無しだ。


なら組織だ。組織を作ろう。未来永劫魔法少女という存在に対してのアンチテーゼを持った、人類の敵対組織、悪の組織を。


「ミーの身体がぁ……」


「おぉおお…!素晴らしい、一人称ミーなのが特に」


「こんのクソババア…!!」


ぴょんぴょんにはそんな悪の組織の親玉になってもらいます。

イメージカラーは勿論黒、ぴょんぴょんは兎の人形なのでモチーフは不思議の国のアリスにしよう。なので髪は金髪、瞳は青と赤のオッドアイ、人形さんみたいに整った顔とちまっこいサイズ感!


後はバニーガールの衣装を着させて、胸は…勿論盛る!画面映りがいいからね。ダイヤの柄が入った黒ストッキングに〜、うさ耳は肉体を変化させて付けるか衣装として着せるか審議。


──脳内裁判の結果生やしまして、ついでにシッポも。最後に逆バニーの肩から腕にかけての衣装を、もう少し健全に、ぴっちりでは無くゆるふわなThe・悪い魔法少女みたいにして……。


「はい終わり、よっと…鏡で見てみなよ」


「ぴょん……ぴょん…!?こ、コレは…!!」


「どうどう?結構自信あるんだ!ぴょんぴょん審査員の点数は〜?ダラダラダラダラダラダンッ!」


「…魔法少女に夢見すぎ、君の性癖出過ぎ、お昼の放送に映せない、この姿に暴力行為は普通にクレーム」


「─────」


「審議の結果、マイナス100点ぴょん」


「─────」


「見た目で加点1000000点ぴょん」


「やったぁぁぁぁぁ!」


──採用!!

一撃でOKを貰ったのは久しぶりで、思ったよりもぴょんぴょんに刺さったらしく、頬を赤らめながら自分の身体を何度も確認している。


完璧だ、完璧なキラキラ悪の魔法少女。

親玉の設定は練らなくていいや、適当に『今の魔法少女の体制に不満がある』とかで、大衆がおおまかにイメージしやすい敵対者。


「けど…このクソ暑い日にこの衣装は馬鹿ぴょん、ミーの身体でステーキ焼きたくないなら早く戻せぴょん」


「…………えぇ」


「えぇ、じゃない」


「…………可愛いのに」


「…………可愛いくてもぴょん」


「まぁ戻さないけど」


「……」


「ぴょんぴょん……いや、ミーちゃんにはこれから大切なお願い事をします!」


組織、と言うからには人数が必要だ。

悪の魔法少女が幹部を務めていたり、部下の人間が街中で魔法生物に変身したり!そういうのが必要。


ただ…私が完全な無私の人間、私の要素が全く混ざらない人間を作って組織で働かせたとして、そこに『ドラマ』は存在しない。

私が求めてるのは……ぽっとでの悪の組織、しかしその内実は現代社会の歪みの犠牲にされた者達だった…!みたいな。

何でも出来る力があっても、何でもかんでもやりたくなるかと言われれば別の話。モチベーションを保つ為にも薄暗い過去は必須。


「ミーちゃんは、悪の組織の親玉です!能力は肉体変化、異次元生命体…魔法生物を女体化させて組織に従えさせてる設定ね。私の力をその姿だったら使えるようにしてあるから」


「──女体化」


「今の魔法生物って見た目クリーチャー過ぎてさ、敵役として映なさ過ぎなんだよね。適当に引っ捕まえて、ミーちゃんのセンスで良いから魔法少女みたいな見た目にして手駒集めといて」


「捕まえてどうするぴょん、アイツら侵略以外の思考能力が無いのに」


「人間性を持たせます。人間性、慣れ…共感性とも言うべきかな?貪欲にリソースを求め続ける奴らの本能と、人間の理性がくっついた時に……」


どんなドラマが、どんなリアリティある劇が産まれるのだろう。


──愛を送った相手が、もしも人間を模倣しただけのAIだった時、人間はどんな顔をするのかな?


それが魔法生物だったら?それが醜い願いで作られた存在だったら?人間の欲望の果ての産物だったら?

魔法少女は、どんな顔をするのだろうか。楽しみで楽しみで仕方がない。魔法少女が魔法少女である為に、あらゆるシュチュエーションは用意されておくべきなんだ。


「ひ、ひぇ…顔キモすぎるぴょん…」


「そんなドン引かれる顔してた???」


「おおよそ、その見た目でしてちゃ駄目な顔してたぴょん」


何はともあれ、ミーちゃんは悪。私は正義側で物語を始めて、今からするのは物語を始める『準備』!

正義として尽くす気は無いが、正義の立場だと合法的に魔法少女と接し会える。

まぁ裏でちょちょっとミーちゃんに手を貸すが、あくまでも傍観者の立場に徹しよう。


「それじゃ、クソ暑いけど解散!働け!えいっ!えいっ!おー!!」


「……えいえいおー」


「声が足りん!えいッ!えいッ!!おーッ!!!」


「……えい!えい!おー!…(セールス会社じゃないんだから…ミーは何させられてるんだぴょん…)」


「私は初期人材スカウトしてくるから、ミーちゃん管理よろしく。ついでにとっ捕まえた魔法生物もこの家に住まわせといてね〜」


瞬間移動か何かで、軒下で涼んでいた少女は風鈴すら揺らす事なくその場から消え去る。

残ったのは、この気候に相応しくない……この場所に……──相応しい場所なんて無い衣装を身に付けた可愛らしい少女のみ。


「はいはい…行ってらっしゃい」


手をひらひらと振って、いつもながらにワガママな主への不満をため息として吐き出した。

チリン、と鳴った風鈴の鈴の音が、これから始まる祝福の音であれば良いが、そうでなければ人類と魔法少女は彼女に迷惑を掛けられ続けるだろう。


近くの川のせせらぎ、青々とした木々の間を通る風、それが鳴らす風鈴の音。虫の合奏は、やった事ないけど楽曲を一つ作ってみてもいいかな、なんて、適当な感情を沸き上がらせる。

こういうものに、何かしらの感情を抱けるのであれば、どれだけ良かった事か。


主の欠陥は誰にも埋められない。彼女はこんな風情を感じる光景を見た所で、うんともすんとも言わずに、『真似』をするだけだ。

この気まぐれを通して、誰かが彼女の心を揺れ動く風鈴が如く、その音を鳴らせる事を祈っている。


「………ん?」



「スカウト?」



──スカウト。

主はスカウトと言った、その子をミーに管理を任せると。魔法生物も捕まえて、悪の組織も作って、魔法少女を悪に落として、人類の敵対者になって……。



「─────」



「スカ……ウト……」



「ミーは、悪の組織の親玉……」



「……」



「え?」



「もしかしなくても、ミーが全部やらなきゃダメなの?」



──残念無念。

これからの人類と魔法少女よりも、圧倒的な無茶振りをされ続ける悪役が決まったのは、この瞬間だった。





















「──瑠美(るみ)!」


広い、広い草原。

果てが見えない、水平線の彼方まで緑が続く大地。男はそこで名前を叫ぶ、愛しい愛しい我が子の名を。


「瑠美!瑠美ー!!何処だ!何処に……」


何処を振り返っても緑一色の世界で、男の叫びに応える者は居ない。

草の根をかき分け、我が子を探す。この世界の何処かにいるはずの我が子を必死になって探す。

探して、探して探して探して──。


「パパ…?」


「はぁっ、はぁっ……瑠美…」


「パパ…すっごく…つかれてる…?どうしたのー?」


「瑠美が、はぁっ…瑠美が居なくなったから…」


少女は父へ不思議そうに首を傾げる。「かくれんぼしてたのに!」と、父が心配で出てきてしまったが、もしやコレは父が自分を見つける為の作戦か!そう思って頬をプンプンと腹らませた。


「かくれんぼ…」


「そうだよ!一緒にやってたじゃん!」


「ふ、は、はは…そう、そうだったね…お父さんは…瑠美とかくれんぼをしてたんだった…」


「も〜、これはズルだから無し!次もお父さんが鬼ね!」


「ああ……パパが鬼さ。…でも今日はもう帰ろう、家でママが待ってるから…」


「……ママが?」


父は小さな手を両手で包む。

晴れすぎた空から差し込む日差しと、青々とした空が自分達を包み消す前に。

ここに在るモノを確かめる為に、握り、抱き締める。


ずっと不思議そうにしている少女は、流れていた父の涙の故を知らない。

だけどきっと、悲しいことがあったんだろう、暖かく抱擁する父へ、抱擁を返した。


「帰ろう……帰ろう瑠美……」


「ママが、父さんが…瑠美の事を…」


「ん……よくわかんない……」


「分からなくていい、分からなくていいんだ。分からなくていいから、帰ろう…」


「えー…じゃあ後一回だけ!一回遊んだら帰る!」


「っ」


父の両手から、するりと少女が抜けてしまう。

もう逃がさないように、逃げれないように強く抱き締めていたはずなのに、そんな父の思惑を無視して少女は駆け出していく。


遠く遠く、地平線の果てまで緑が広がる大地の、果ての果てへと。

空と地の境界線にまで、少女は駆けていく。


「待て!待ってくれ瑠美!」


重く上がらない足を気合いで動かして、世界に挟まれて潰されそうな暑さの中、視界から消えていく我が子を必死に目で追うも、その姿は陽炎のように消えていく。


必死に必死に、命を絞り出して歩む一歩は、軽々と草原を走る少女に追いつけない。


追いつけず、消えていく。視界から我が子の姿が、幻のように消えていく。



「まって……まってくれ……頼む…」


「頼む…!頼む、頼む頼む頼む頼む……!!」


「待ってくれ!瑠美────!!!」



手を伸ばした父の背中は、父というにはか細すぎて。

伸ばした手は、何処にも届く事なく地に落ちてしまいましたとさ。









「…………」


ツゥ、と一筋流れる涙が、自分のモノである事に気づくのにそう時間はかからなかった。

熱い感情と共に流れ出した涙は、今見た夢が原因なのだろうか。


「……エアコン、つけ忘れてたか…」


暑さで人死にが出るこの気候で、夜中のエアコン付け忘れは、下手すれば本当に死んでしまう。

座るだけで腰が痛くなるような年齢なら尚更、エアコンのつけ忘れは自殺行為だ。


暑い暑い部屋の中はまるで、青空の下で太陽に直視されている時のようで、


「…………」


起き上がり、エアコンのリモコンを取る気力すら湧かない。

いっそこのまま死んでくれればいい、憂鬱とした気分とおさらばするには、考える頭が無くなれば解決する。


「…………」


今見た夢の原因がなんであれ、気分は落ち込む。

落ち込んだ気分を元に戻すにも、戻してくれる相手はこの世に居ない。

憂鬱だ。死んでしまいたい。──ダメだ死ねない。まだ死ねない。


「……クソっ」


冗談抜きで命を奪いに来てる熱波と大気によって、カラカラに乾いた喉を潤しに台所へと向かう。

足場の踏みようもないゴミだらけの床との付き合いは長く、夜中であってもスルりと抜けて進むことが出来る。


何がいいだろうか、この喉の乾きと絶望を洗い流すには。


「……」


冷蔵庫の前に立って、扉を開けてその冷気を浴びる。とてつもない気持ち良さに、サウナ後の水風呂を連想しながら手に取ったのは、


「やっぱコレだな」


缶ビール。

プルタブに指をかけ、蓋を開く。すると子気味いい音と共に泡が溢れ出してきた。

最初は普通の缶ビールを好んでいたが、新発売の泡が溢れる缶ビールも中々良いもので、冷蔵庫の中は通販買いした缶ビールがダースで並んでいる。


「……んぐっ…」


──ダメだ、味がしない。

冷たいのだけは分かる、僅かな苦味と炭酸が、舌が壊れた自分にほんの僅かな刺激をもたらしてくれる。


「…………はぁ」


「それ美味しいんですか?」


「美味しいわけないだろ」


「……ん───!?」


その味わいに思いを馳せている時、背後から声が聞こえ問に答えた、こんなもの美味い訳が無いと。

しかし、背後から声が聞こえたのはおかしいと分かる。何故ならば自分は一人暮らしであり、この家に居るのは自分だけの筈だから。


ひゅうと吹いた窓からのぬるい風に急いで振り返り、携帯していた拳銃を向ける。

男が拳銃を向けた先に居たのは──少女だ。

漆黒の髪は腰あたりにまで長く、瞳は全てを拒絶していそうな脱色具合。

如何にも『魔法少女』という格好で、ここまでベタなのは久しぶりに見ない。モダン派と言えばそこまでだが。


「ちッ…魔法少女か」


「わぁ、それ職業病ですか?」


「何処の誰の所属だ、言え」


「何処の誰でもありません」


「…殺すぞ」


「殺せませんよ、なんてったって魔法少女ですから」


男の狙いに迷いは無い。脳天に向けた照準はブレる事なく、手首は固定されたままゆっくり近づく。

どうも舐め腐った雰囲気をしている魔法少女に対し、「舐めるな」と吐き捨てる男は遂に額へと銃口を突きつけれる距離にまで。


「最後にもう一度、何処の所属で誰からの差し金だ、言わないと殺す」


「言うも何も、何処の所属でも無いし誰の下にも就いてませんってば」


「──分かった」


そして。

──男は引き金を引く。通常であれば魔法少女の肌に傷一つすら付けられない現代兵器の筈が、男が放った弾丸は少女の脳天を貫いて、赤い花を壁に散らした。


一般人が見れば有り得ない光景に、男の表情は僅かにもブレる事は無い。

変な奴が来て、勝手に死んでいった。部屋を掃除しないと。その程度の感傷であり、今日は疲れたからいいと、ベットに戻ろう。


戻ろう──として、


「ほら、殺せませんって言ったのに」


「──は?」


「初対面の相手を銃殺、中々に擦れてて点数高い…!やっぱりボサッとした暗黒ドクターは貴方が適任ですね」


「………んな馬鹿な。対魔法生物用の特殊弾だぞ」


男が弾丸としていたのは、人類が新たなる元素として指名した『魔法素粒子』たる『魔素』を対消滅させる特別品。

ミサイルだろうがなんだろうが傷一つ付かない魔法少女を一撃で葬り去る奥の手の筈が、その奥の手を撃ち込まれた少女はピンピンとしている。


「まぁまぁ、私の事はどうでも良くて……──魔法少女安楽死計画主任にして悲劇の主役たる川畑優希さん!」


「貴方をスカウトしに来ました、どうか、私の悪の秘密結社に入隊してみませんか?」


「───」


そしてその少女は、馬鹿を超えた馬鹿の、馬鹿馬鹿しい事を言い放った。


「貴方には素質があります、入隊してもいい理由もある。色々複雑な事情がすんごい形で絡まってますが、結果として──」


「貴方は、愛しい存在を3人失っている」


「…………」


「…………お前」


「我が子の様に接していた相手は社会に消費され、社会の闇に血を繋がる子を消され、最後には最愛の妻さえ魔法少女に奪われた」


「復讐、してみません?憎悪吐きたい放題ですよ、ウチの組織」


「…………」


「…魔法少女自体に、罪は無い……あれは……事故だった」


「瑠美も………俺の自業自得だ。瑠奈は、なるべくしてああなった」


「俺には誰も、何も恨む資格は無い。俺が恨むのは俺だけで、お前の言う復讐とやらはお門違いだよ」


「ふむ」


男はそれだけ言い放つと、後ろ頭を掻きベッドに戻っていく。

不可思議な存在に付き合う体力は無い、そう言いたげな態度で横になる。


不審者のせいで忘れ、台所に置き去りにした缶ビールの存在を横になってから思い出し、この暑さじゃ明日には捨てとかないとダメだな。そう考えながら目を瞑ろうとして、


「──求めないんですか?」


「あ?」


「求めないんですか、魔法少女が目の前に居るのに」


「…何言って……」


「魔法少女が!貴方の目の前に居るんです!!」


「っ…?」


意を汲み取れない発言を繰り返す少女に、もしやコレは暑さで気が狂った自分が見せている幻覚なのではないかと思い始め、弾丸が効かなかった事からそうだそうだと再び横になる。


横になった自分を覗き込むようにして、自分の瞼を無理矢理指で開いてこなければ、その戯言に付き合う必要もなかったのだが。


「なんっ」


「──川畑さん。納得してます?」


「……」


「納得したんですか?それとも、納得させられたんですか?」


「…………」


「貴方が求めているのは、それだけなんですか?納得させられた結末でいいんですか?復讐したい気持ちや憎しみを全部抑えて無理矢理納得して……」


「──これで、いいんですか?」


「………………いいんだよ、無くなったものは、戻らない。俺が何しようとな」


──諦めたんだ。

燃えるような復讐心があった。病院で記憶を失って、廃人となった妻を見る度に粘つく憎しみが増えていった。


でも、ある日。痩けて今にも死にそうな妻の、最後の笑顔を見て。


もういいや。そう思った。

もういいんだ、こんなもの捨ててしまおう。失ったものは、もう戻らないのだから。


「───それが!」


「それが!妥協だって言ってんです!!」


「…………」


「本当に?それだけで求めるものは終わり?何でもかんでも求めていいのに、魔法少女が目の前に居るのに?」


魔法少女(希望)を目の前にして、貴方の求めるものはそれ(悲劇)で終わりなんですか?」


「……黙れよ」


「川畑さん、川畑さん川畑さん川畑さん!受け入れたソレに、本当に納得しているのなら!」


「──どうして、貴方が見つめる世界の色は、こんなにも抜け落ちているんです?」


「…頼むから……もう……!」


拳を少女に叩き付ける。

無論、魔法少女に普通の物理的干渉は一切害を及ばさない。無惨にも殴った方の拳が傷ついて、痛みに悶えるだけ。


「いっ…。誰っ…だよお前は……!なんなんだよ…!!」


「私は魔法少女です」


「今更なんで!お前みたいな…!」


「私が、魔法少女であり、貴方が願いを持っているからです」


「……なんの、為に……」


「悪の組織を作りたいんです。魔法少女が魔法少女である為に、人類の皆さんが理由を思い出す為に」


「もう一度言いますね、川畑さん。貴方の目の前に居るのは魔法少女なんです」


「求めて下さい、願って下さい、際限なく、自分が求める全てを叶えて欲しいと」


──それは悪魔の提案だった。

口にしてはいけない、この道を選んだからこそ後悔してはいけない筈の過去に、心が痛いと喚き始める。


唐突に現れた存在に何故か過去を把握されていて、気分は最悪。なのに、怒りとは別の感情による涙が流れる。


「お前は……お前…は…」


「なん、なんだ……本当に……」


「私は、魔法少女ですよ。川畑さん」


人間には、時折決して触れてはいけない傷が作られる。

妻と過ごしたボロアパートに、大富豪になってからも住み着いていたり、夜な夜な愛した者の夢を見たり、未だ病院で外を見続ける余命幾ばくも無い妻の元へ毎日通ったり。


それは後悔によるものだ。自身が犯した決して拭えない罪と後悔によって、人間は心に傷を作る。


「………聞いて、くれるか……?」


「はい。私は何処の誰の所属でも無ければ、貴方を苦しめる存在でもありません。初対面ではありますが、存分にどうぞ」


「……ほんとは…」


「本っ……当は……俺は」


「死んだ瑠奈と……殺された、瑠美の仇を取って……」


「…………妻と、一緒に、この部屋で過ごしたい」


「ただ、ただそれだけが幸せなんだ。俺は……許されなくてもいいから……そんな夢を、みたい。その夢を奪った奴らを…全員、ぶち殺してやりてぇ…!!」


話している間に血反吐を吐きそうだった。

都合のいい、自分にだけ甘くて都合のいい話を、ツラツラと並べては後悔を口にする。


魔法少女と魔法生物の争いに巻き込まれて妻があんな状態になったのも、実験体であった瑠奈が自分の本当の娘だと気付いた時には全てが遅かったのも、俺の娘とされていた瑠美が奴らにとって邪魔だから消されたのも全部。


全部全部、無かったことにしたい。


「──川畑さん」


「貴方の願い、聞き届けました。貴方が希望を願うのなら、私は魔法少女として希望を届けましょう」


「貴方の願いを人質に働かせる、なんて事はしません。直通便で貴方の願いを叶えましょう!勿論料金はタダです!」


「…………は、はは、そうか」


「あ、嘘だと思ってますね?なら早速……よいしょっと、魔法でキラキラ〜」


「……」


「はいこれで奥様と子供達は元通りになりました。まぁそれで、お暇があれば秘密結社のドクター係として色々お願いしたく……」


「───まて、待て待て待て。元通り?」


「え?そうですけど」


「馬鹿かお前、命の蘇生は魔法の中でも禁忌に分類されてんだぞ。最低でも魔法少女3人の命と引き換えに──」


「川畑さん…魔法に代償なんてあると思ってるんですか?奇跡ですよ?魔法なんですよ?代償が必要な魔法って下らないと思いません?」


「明日、貴方の奥様の病室に足を運んでみてください。これが夢じゃないって分かりますから、それじゃ私は他にもスカウト先があるので失礼します!!」


「───」


「あ。これ名刺ですどうぞ、連絡先はこれに書いてるんで、それでは」


「─────」



真夏の夜の夢のような、一瞬の一幕を過ごした男は、消え去った少女の痕跡すら探さずに。

これが、夢であれと願う心と、夢でなければと願う心に苛まれながら、瞳を閉じた。









「………暑い」


セミすら鳴く気力を失わせる帰路の中、炎天下の日差しを手で日陰を作り、何とか熱中症を避けようとしている男がいる。


『パパ!』


ボサボサの髪は変わらずだが、普段その男を見掛ける人でも、そのボサついた髪でしか分からない程に顔周りを整えていた。

髭を剃り、顔を洗い、眉を整え、ボサボサの髪を一つくくりにしたポニーテールは案外雰囲気と合っている。


『────瑠美』


猫背でとぼとぼと歩く男は、胸ポケットから一枚の紙を取りだして、そこに載ってあった電話番号を指先でなぞった。


「…………」


何とも言えない表情で、苦虫をかみ潰したような顔をしながらスマホを取り出す。

──スマホの画面には、笑顔の女性と子供2人の姿が映っていて、男はそれをじっっくりと数秒眺め、穏やかに微笑んで、


「…………暑っついな」


静かに、ゆっくりと、指でなぞった電話番号を携帯に入力した。


「………」


「………………」


「…………………………」


《もしもし、こちら悪の組織第一支部ぴょん。事件ですか事故ですか?》


「…………どっちでもないんだが」


《出前は取ってないぴょん!冷やかしなら電話を切るぴょんよ!》


「いや、おたくの…魔法少女に伝言があってな……」


《ああ、ウチの。はいはい、伝言かぴょん》


「面接だけ、一応受けに行く。何するかだけ聞いて、私生活と噛み合わなかったら辞退するってな」


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