表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

破滅の予言と、奇跡の準備

セリシアは、神殿を出て村を見下ろす丘の上に立っていた。

 古びた家々、手入れの行き届いていない畑、そしてその奥に広がる深い森。


(あの森から魔獣が来るんだよね。確か“瘴気により変異した亜種グルード”だったか。炎耐性あり、物理に強い。あと二日)


 口元に手を添えて微笑む。


「……ああ、なんと美しき光景でしょう。ここが、わたくしの最初の歩みの地となるのですね」


(あーあ、なんでこんな厄ネタが初期村に配置されてんのよ……。ゲームの開発者マジで性格悪い)


 後ろから、神殿の神官長がやって来る。ロジェル・フランマル。白髪の老人で、セリシアの補佐役だ。


「セリシア様、ご気分はいかがですかな? 何かご命令があれば」


「ええ、とても清々しい朝でございますわ。……ところで、村の守備陣形について、少々お伺いしたいことがございますの」


「守備……でございますか?」


「はい。この村には、わたくしが“何かを感じた”……と申せば、ご理解いただけますでしょう?」


(察しろ。ていうか信じてお願いだから。ここで「感知スキル」とかないんだから!)


 神官長は息を呑んだあと、うやうやしく頭を下げる。


「なるほど……! まさか、セリシア様はすでに“兆し”を……! すぐに、騎士団に連絡を!」


(やった、チョロい! ……いえ、民の安全を願う聖女として、当然のことをしたまでですわ)


 セリシアの指示により、村は急ピッチで防衛準備を開始した。

 森との境界線に柵を張り、火薬庫の管理も厳重に行うよう命じた。


 そのすべてが、周囲には「奇跡の予知」として受け止められた。



その夜──


 セリシアは神殿の一室で、膝を抱えて思案していた。


(……今のところ順調だけど、油断はできない。グルードは夜襲型だったはずだし……)


「セリシア様、お夜食をお持ちいたしました」


 戸を開けたのは、給仕を務める若い少女、ミレイユだった。まだ十歳ほどのあどけない顔。


「まあ……ありがとうございます、ミレイユ。ご丁寧に……」


「わたし……、セリシア様みたいな立派な聖女になりたいんです!」


「……うふふ。嬉しいですわ。そのお気持ちだけで、胸が温まります」


(……この子も、ゲームだと死亡確定だった子だ。火薬庫の爆発に巻き込まれて)


 思わず、スープを持つ手に力が入った。


(……絶対、死なせない)


 心の底から湧き上がるその感情に、セリシア自身が驚いた。


(……わたくし、どうして。NPCなんて、ただのデータのはずだったのに……)



翌日──


 事件は、セリシアの計画を少しだけ狂わせる形で起きた。


 偵察に出ていた騎士が、重傷を負って戻ってきたのだ。


「セリシア様、敵影を確認いたしました! 魔獣の群れが、森の奥よりこちらに向かっております!」


 村の中が騒然とする。

 セリシアは、しかし慌てずに立ち上がった。


「皆さま、どうかお静まりなさいませ。わたくしは、皆さまの傍におります」


(さて、“聖女”としての初陣ね。しっかりキメなきゃ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ