表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

運命の始まり

金と白で彩られた神殿の天井。そこから差し込む光は、まるで聖なる後光のようだった。


 目を開いた瞬間、セリシアは理解した。


(……ああ、やっちゃったなぁ)


 視界に映るのは、豪奢な天蓋付きのベッドと、白衣の少女たちが神妙な面持ちで祈る姿。


 そして──何より、見覚えのあるこの場所。

 乙女ゲーム《グレイス・リディア》の聖女ルート。絶望と悲劇を繰り返す鬱展開の巣窟。


(まさか、本当にこのゲームの中に転生するとは……! しかもよりにもよって、死亡率トップクラスのセリシア様ルートとか!)


 けれど声には出さない。セリシアはゆっくりと上体を起こし、周囲を見渡して、柔らかく微笑んだ。


「……ご心配をおかけしてしまいましたわね。わたくし、大丈夫でございます」


「セリシア様……!」

「神よ……ついに聖女が目覚められたのですね……!」


 祈っていた少女たちは涙を流しながら跪いた。その視線には純粋な崇拝と、何かを託すような期待が宿っている。


(あーあ……もう始まっちゃった。これ、絶対面倒くさいパターンじゃない……)


 けれどその表情に曇りはない。

 セリシアは“完璧な聖女”として振る舞うことを選んだ。


「皆さまの祈り、確かに……届きましたわ。どうか、顔をお上げになってくださいまし」


 少女たちは一斉に顔を上げ、口々に感謝と賛美を述べた。

 その光景は、セリシアにとって──既視感のある“ゲームのイベント”だった。


(でも、この村、あと二日で魔獣に襲撃されて、全滅するんだよね……NPC含めて子どもまで全員)


 記憶にある通りなら、助かる見込みはゼロ。

 このまま“イベント進行”に任せれば、間違いなく地獄が再現される。


(……うん、やめよう。めちゃくちゃ寝覚め悪いわ)


 だからセリシアは、ゆっくりと立ち上がり、祈りの姿勢を取った。


「主よ。どうかこの地に、祝福と……救済を」


(……ってポーズしてるだけだけどね。とりあえず情報収集からよ。村の地形、守備、火薬庫の位置と避難路……。くっそ、完全に災害対策マニュアルじゃん)


 けれど、彼女の静かな祈りの言葉は、空気すら震わせた。


 そして、神殿のステンドグラス越しに差し込んだ光が、彼女の姿を包み込むように照らす。


「光が……!」

「神の光が、聖女セリシア様に……!」


(いやそれ、ただの朝日です。マジで)


 けれど、もう止めることはできなかった。

 この瞬間、村人たちにとって──“本物の聖女”が降臨したのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ