Phase 03 2006.08.XX
私が中学2年生の頃といえば――イタリアのトリノで冬季オリンピックが開催されて、日本で唯一の金メダリストとなったフィギュアスケーターが美しいのけぞりポーズを披露したことで話題となっていた。
もちろん、私の記憶の中にあるモノはオリンピックだけではない。ドイツで開催されたサッカーのワールドカップで日本代表が前評判とは裏腹に屈辱的なグループリーグ敗退という結果に終わってしまったり、携帯電話会社のCMのフレーズから「予想外」という言葉が流行したり、夏の甲子園では「ハンカチ王子」という高校球児が脚光を浴びていた。
その頃の私はというと――どちらかと言えば「イケてない」青春を送っていた。周りの女子は当時の二大アイドルのリーダーがダブルキャストとして出演していたドラマの主題歌から生まれた「修二と彰」というグループにうつつを抜かしていたが、世間から「オワコン」と化しつつあったhitomiが好きな私からしてはそんなことなんてどうでも良く、ドゥ・アズ・インフィニティも武道館でのラストライブであっけなく解散してしまったので、音楽の話はもっぱらオアシスかレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、もしくはフランツ・フェルディナンドのことばかり話していたのでクラスでも浮いていた。――早い話が、洋楽かぶれである。
そんなイケてない青春を送っていた私だったが、クラスの中で「都築さんが京極夏彦のクソ分厚いノベルスを読んでいる」という噂が広まっていき、気づけば私の周りで「そのノベルスを貸してほしい」という要望をもらうことが多くなっていた。
仕方がなかったので、私は教室に設置されていた「クラスで持ち寄る図書館」に彼の処女作である『姑獲鳥の夏』から第5作である『絡新婦の理』までのノベルスを持ってくることにした。最初のうちはクラスメイトもその分厚さにドン引きしていたが、次第に読んでいく人は増えていった。その中でも西口沙織と大渡達哉は私が持ってきたノベルスを読んでいたようで、2人からは「続きが気になるから『絡新婦の理』以降も持ってきてほしい」と言われていた。とはいえ、本棚を私の私物でジャックするわけにはいかなかったので、私は「続きは書店で探してくれ」と言わざるを得なかった。
京極夏彦と洋楽にかぶれつつイケてない青春を謳歌していた私だったが、夏休みに入ってすぐの頃、私にうってつけの情報を持ってきてくれたのは西口沙織だった。その日の私と彼女は、普段中学生だけでの入店が禁止されているアイスクリーム店にいたが、私服だったからなのか特に何も言われなかった。
彼女は話す。
「ねえ、ツヅキン。通学路……っていうか、心臓破りの坂道の下にあるボロ家って知ってるかしら?」
私は、彼女の話に対して答えていく。なんとなく心当たりがあったのだ。
「坂道の下にあるボロ家? それなら、知ってるけど……それがどうしたの?」
「実はね、最近、そのボロ家で『幽霊が出る』なんていう噂を聞きつけてね、ここはオカルト好きのツヅキンに噂がホントかどうか確かめてもらおうと思って」
「なるほどねぇ。――仮に幽霊が出るなら、夜かしら? いわゆる『丑の刻』の時間帯とか」
「確かに、『丑の刻参り』なんて言葉があるぐらいだもんね。『子』を現在の時間で午後11時から午前1時として――『丑』は午前1時から午前3時なんていうからね。京都の貴船神社でその時間帯に藁人形を打ち込むと呪った相手は死ぬって言うし」
「だったら、『丑の刻』に行ってみる? ボロ家」
私はそう言ったけど、彼女はあくまでも懐疑的だった。
「うーん……確かにその時間帯なら誰にも気づかれずにボロ家の全貌が見られると思うけど、バレたらバレたで大変だと思うわよ? 最悪の場合、アタシたちに対する停学処分も辞さないし」
「流石にそれはないと思う……。でも、私のお母さんは『むやみにあの家に近寄っちゃいけない』って言ってた。多分、何か隠してるんだと思う」
「ツヅキンのお母さんがそうやって言うんだったら、あの家には何かが隠されてるんでしょうね。――私たち女子2人じゃ心細いし、達哉くんも連れて行く?」
「どうして達哉くんなの?」
「彼、強いし」
「それじゃあ理由にならないと思うけど……まあ、男手は必要よね」
大渡達哉という人物は、いわゆる「文武両道」という感じの生徒だった。サッカー部に所属しながら勉強もかなり出来る方で、学力テストのランキングでは常に私と上位を争っていた。とはいえ、学力テストではライバル関係だけど、友人としてはノーサイドである。
私は、自分のガラケー(オレンジ色)で彼にメールを送信した。
――達哉くん、突然メールしてゴメン。
――今日、午前0時ぐらいに中学校の坂道へと来てくれない?
――達哉くんも知ってると思うけど、沙織ちゃんが「ボロ家」の探索に行きたいって言い出したの。
――もし来てくれるんだったら、返事してよ。
――待ってるから。
まあ、これで良いだろう。それから、5分おきにメールセンターへと問い合わせを送ったが、なかなか返事は来なかった。
どうせ返事なんか来ない。私と西口沙織は半ば諦めの表情を見ていた。
そして、メールを送ってから30分ほど経過した頃だった。――着うたが鳴っている。ちなみに、私がメール着信音に設定していたのはhitomiの「GO MY WAY」という曲だった。豊川悦司演じる弁護士が弁護人として騒動を巻き起こすコメディドラマの主題歌で、当時の最新曲でもあった。個人的にhitomiのドラマ主題歌は竹野内豊と広末涼子がダブルキャストを務めた「授かり婚」を題材とした月9ドラマの主題歌である「IS IT YOU?」の方が好きだったが、全盛期の楽曲であるが故に着信音として設定するにはあまりにもベタすぎたので、敢えてこっちの方を設定していた。
ガラケーを開くと、確かに「新着メール1件」という通知が入っていた。もちろん、送信元は大渡達哉だった。
私は、彼からのメールを読んでいく。
――ああ、あの家のことか。
――僕も「どうしてこんなところに古びた家があるんだろうか?」って思っていたからな。
――ちょうど良い。僕も彩花ちゃんと沙織ちゃんの話に付き合うよ。
――まあ、仮に先生に怒られても……そのときはそのときだと思えば良い。
――それじゃあ、午前1時に坂道の前で待っているから。
メールはそこで終わっていた。――やはり、彼もボロ家のことを気にしていたのか。
ガラケーの画面を見たのか、西口沙織は話す。
「やっぱり、達哉くんもあの家のことを気にしてたのね。それなら、話は早いわね」
「そうね。3人そろえばナントカって言うもんね。文殊の知恵だっけ?」
「多分、それだと思う。――まあ、ともかく今日の深夜、みんなで肝試しに行くわよ?」
「分かった。それじゃあ、私は一旦家に帰るから」
「そうね。アタシも、家に帰るから」
そう言って、私は一旦西口沙織と別れることにした。
*
その日の夜。――兵庫県北部特有の蒸し暑さが、身体に染み渡る。
そんな蒸し暑い夜の町を、私は自転車で駆け抜けていた。周りは虫の音しか聞こえず、家々の灯りは消えている。空はどんよりと雲が流れ込んでいて、月や星は見えない状態だった。
やがて、私は目的地のボロ屋敷へとたどり着いた。屋敷の前では、西口沙織と大渡達哉も待っている。
「ツヅキン、来たのね」
「彩花ちゃん、待っていたよ」
2人がそう言うので、私は「待たせてゴメン」と一言伝えた。もちろん、2人は「別に待っていない」と言っていたのだけれど。
「それにしても、ないわね……アレ」
西口沙織は、屋敷の周りを見渡す。彼女が言う「アレ」とは、何なのだろうか?
そんな「アレ」について聞いたのは、大渡達哉だった。――彼は話す。
「アレか。確かに、この屋敷にそれらしきモノは見当たらないな。一体、どうやって中へと入るんだ?」
そこまで言う「アレ」といえば、やはり玄関だろうか。私は話す。
「もしかして、玄関……ないの?」
私が言いたいことは、合っていたようだ。西口沙織が話す。
「そうよ。この屋敷、玄関がないのよ」
「なるほど。――ちょっと待って。もしかして……これ、2階が入口なんじゃないのかな」
私は、なんとなく2階の存在に気づいて――階段を見つけた。
階段はらせん状になっていて、床は今にも朽ち果てそうだった。多分、お相撲さんが踏んだら床が抜け落ちるレベルでは済まされないだろう。
階段を上った先に、ドアが見えた。しかし、当然のようにドアには鍵がかけられていた。
「ドア、鍵がかかってるわね。――せっかくここまで来たのに、引き返しちゃうの?」
私はそう言ったけど、西口沙織は諦めない。
「ここまで来たからには、諦めないわよ? でも、どうやって中に入るかは……分からないわね」
悩む私と西口沙織に対して、大渡達哉がある提案を述べた。
「――もしかしたら、窓から幽霊を確かめることぐらいは出来ると思う」
彼の提案に、私たちは乗った。
「良いわね、それ」
「達哉くん、確かにそれなら窓を壊さずに幽霊を見ることが出来るわね。ナイスアイデアだと思う」
ラッキーなことに、2階の外壁には通路が設置されていたので、私は窓を探して色々な部屋を見ていた。しかし、ガラケーのライトで部屋を照らしても、何か見つかる訳ではない。
「やっぱり、幽霊騒ぎは誰かのデマなんじゃないのかな……」
私がそう言った瞬間、西口沙織は――機嫌が悪いパソコンのように固まった。
「…………」
「沙織ちゃん、どうしたの?」
彼女は、窓を見つめながら固まっている。一体、窓の向こうに何があるんだ?
私も彼女のように窓の向こうを覗いた。――なんだ、これ?
そこに見えていたモノは首を模したマネキンで、上には長髪のカツラが被せられていた。しかし、「ただのマネキン」で済ませられない理由が、窓の向こうにあった。
――ざらざら。ざらざら。ざらざら。
何かを舐める音が聞こえる。私は、音がする方へとガラケーのライトを照らす。
――ざらざら。ざらざら。ざらざら。
ガラケーのライトに照らされた白い服の少女は、虚ろな顔で何かを舐めている。私は、その様子を見ていた。そして、自らの腕を舐めようとした時だった。
「――おい、彩花ちゃん、沙織ちゃん……これ、多分ヤバいヤツだと思う」
大渡達哉の一言で、私は我に戻った。
しかし、西口沙織は――少女につられるように、自分の腕を舐めようとしていた。
彼は、思わず声を荒げて彼女に話した。
「さ、沙織ちゃん! やめるんだ! それは『呪い』だ!」
彼の言葉が効いたのか、彼女もすんでの所で我に帰った。
「――はっ! アタシ、何してたのかしら? 確か、部屋の中で少女の幽霊を見かけて、気づいた時には自分の体を舐めずっていた。一体、どういうことなのかしら?」
彼女の話を聞きながら、私たちは屋敷から撤退しようとした時だった。
「――つ、ツヅキン……アレ、何なの?」
私は、彼女に言われるがままに指さす方を見た。そこに立っていたのは、まさしく「髪を舐める幽霊」そのものだった。
「――い、いやああああああああああああっ!」
私は恐怖のあまり、思わず悲鳴を上げた。幽霊って、本当にいたんだな。
それでも、大渡達哉は冷静である。
「ここは、反対側へと回って階段を降りるんだ。多分、彼女はそこまで足が速い幽霊ではないと思う」
彼に言われて、私と西口沙織は全速力で階段まで走って行った。
「髪を舐める幽霊」は、ひたひたという足音を立てながらこちらへ向かってくる。――このままだと、私たちの方が祟られてしまう。
私たちは階段を降りていき、なんとか事なきを得た。――当然、「髪を舐める幽霊」が追ってくる気配はない。
「何なのよ、アレ……」
私は2人に「髪を舐める幽霊」のことを聞いたが、2人とも「分からない」の一点張りだった。当然だろうか。
そして、「これが悪い夢であること」を祈りながら、私たちは屋敷を後にした。――その後、夏休み明けにクラスの先生から「夜中に町を出歩いた」ということで叱られたが、それで停学処分を食らうかと思えばそうでもなく、私の場合は「1週間の部活停止処分」で済んだ。まあ、私は広報部だったから周りに迷惑をかける部活じゃなかったし。
*
「――そういうことです。宿南刑事、分かってもらえましたか?」
私は、覚えている限りのことを宿南刑事に話した。
彼は話す。
「もちろんだ。君があの屋敷で見たことは、確かにこの耳で聞かせてもらった。しかし、気になる点がある」
「気になる点? それって、なんでしょうか?」
「私は刑事であって探偵ではないから詳しいことは分からないが、『髪を舐める幽霊』の正体は何なんだ?」
確かに、あの幽霊の正体は分からずじまいだったな。私は話す。
「ごめんなさい。あの幽霊の正体については私にも分からないんです」
「そうか。――まあ、君が『分からない』というのなら仕方がないな。私も、あの幽霊の正体については追っていくつもりだ」
それ、本当に言っているのか? 刑事が真面目に幽霊の捜査を行うという行為が、私の目には滑稽に見える。
とはいえ、荒川八千代と荒川由香利という2人の娘に対して手をかけた諸悪の根源がそういう幽霊の類いだとしたら、あの家は呪われているとしか言いようがない。一刻も早く、この呪いを解かなければ。
そんなことを考えながら、大渡達哉は話す。
「まあ、さっき彩花ちゃんが言っていた通り――あの時、僕たちは確かに事件現場にあったモノと同じマネキンをこの目で見ているんだ。あのマネキンにかけられていたカツラが人毛でできたモノだとして、カツラに対してDNA鑑定を行ったら、誰の人毛なのか一発で分かるような気がするが……」
そこは、彼の言う通りか。宿南刑事は話す。
「確かに、そうかもしれないな。一応、由香利ちゃんが殺害された時に遺されていたカツラは押収済みで、現在DNA鑑定を行っているところだが……」
刑事がそういう話をしている時だった。――鑑識と思しき人物が、彼に駆け寄った。
「宿南刑事! カツラに対するDNA鑑定が終わりました!」
「ああ、そうか。――それで、鑑定結果はどうなんだ?」
「そ……それが……」
「もったいぶらずに言ってくれ」
「分かりました。――カツラからは、荒川真紀子のDNAが検出されました。つまり、あのカツラは荒川真紀子の人毛で出来たモノだったんです」
――えっ? 私は思わずその思考回路を停止させてしまった。
「鑑識さん、それって……本当に言っているんですか?」
「ああ、君は小説家の都築亜弥華か。宿南刑事から話は聞いているよ。――それはともかく、このカツラは荒川真紀子の人毛からできているんだ」
あの時私が見た荒川真紀子の髪は長くて茶色いモノだったが、まさか――その毛髪は偽りのモノだったのか? そう思った私は、彼女に対して懐疑的な考えを示した。
そして、鑑識は話を続けた。
「荒川真紀子の人毛からできたカツラは黒く、長さは1メートル近くにも及んでいたよ。何というか、『呪いのビデオを再生するとテレビの画面から飛び出してくるとされる女の幽霊』みたいだったな」
呪いのビデオを再生するとテレビの画面から飛び出してくるとされる女の幽霊。その幽霊は「貞子」という通称で呼ばれていて、ビデオテープが廃れた現在では動画配信サイトに投稿された呪いの動画を再生すると画面から飛び出してくるとされている。――まあ、それはともかく、彼女も「白い服に長い髪」という出で立ちで、指の爪はすべて剥がされてたな。となると、やはり荒川八千代や荒川由香利もそういう儀式の被害者なんだろうか?
貞子の話に乗ったのか、大渡達哉が話す。
「そういえば、貞子は『異能の持ち主』であるが故に周りから蔑まれていて、異能を嫌った両親によって井戸の底に落とされて命を落としたというな。その証拠に、彼女がテレビの画面から出てくるときは決まって井戸の映像が映し出されている。――まさか、荒川家もそういう『異能の持ち主』だったのか?」
確かに、荒川家が「異能の持ち主」なら、そういう儀式を行ってもおかしくはないが……。そんなことを考えていると、西口沙織が口を挟んできた。
「達哉くんが言う通り、その可能性は考えられるわね。荒川家はそういう血筋で、自分の娘に対して『教育』を行うことによってその力を覚醒させていった。でも、『異能』を覚醒させるためには代償として自らの爪と歯、そして髪の毛を箱の中に供養しないといけない。――もしかして、あの屋敷は……『異能』を覚醒させるための施設なのかしら?」
「沙織ちゃん、その通りかもしれない。――なんとしても、悪しき伝統はこの手で止めないと!」
私がそういう覚悟を決めた時だった。――さらなる遺留物の発見が、鑑識から宿南刑事に伝えられた。
「宿南刑事! 荒川由香利の毛髪が入っていたタンスの中から、こんな紙を押収しました。――これ、なんて読むんでしょうか?」
鑑識が押収した紙には黒い毛筆で「禁后」と書かれていた。――そういえば、西口沙織が言っていた漢字も「禁止の禁に皇后の后」なんて単語だったな。読み方こそ分からないけど、仮の読みとして「パンドラ」なんて当てられていたか。
そういえば、前にネット上で見た「禁后」の話だと、その家系では娘の本名とは別に「隠し名」という名前が付けられていたという話だったな。私はその話を「ネット上の創作怪談」だと思っていたが……。
そういうことを踏まえて、私は話す。
「やっぱり、荒川家は『禁后』の家系で、すべての元凶たる人物は――多分、荒川静枝だと思う。だから、2人の娘に対して手をかけたのも、彼女で間違いないわ」
私の話は、妙に説得力があるモノだったようだ。――宿南刑事が話す。
「そうか。私も一連の事件の真犯人はこの家の当主である荒川静枝だと思っていたが……それだと、あまりにも出来すぎた話だな。とはいえ、私は彼女に対して殺人の容疑で逮捕状を出すつもりだ」
これですべての謎は解決した。――私はそう思っていた。
しかし、宿南刑事の部下と思しき刑事の無線から入ってきた連絡によって――事態は思わぬ方向へと転んでしまった。
「――そうか。今すぐ荒川家へと向かうから、待っていてくれ」
「宿南刑事、どうされたんでしょうか?」
私がそうやって聞くと、彼は申し訳なさそうな言葉で答えた。
「残念だが、一連の事件に関連して新たな犠牲者が見つかった。被害者は――荒川チョコと、荒川貴子だ」
――実の娘だけならまだしも、家で飼われていた愛犬の命まで奪うなんて……どうかしている!
私は「愛犬の命を奪ったロシアンマフィアに対してアジトごと爆破するという報復行為に出たキアヌ・リーブス演じる殺し屋」のことを思い浮かべながら、バイクにまたがった。
そして、2人に話す。
「――沙織ちゃん、達哉くん、今すぐ荒川家へと戻るわよ? ついでに、世界中の殺し屋が逗留しているホテルからジョン・ウィックも呼び出そうかしら?」
ジョン・ウィックに反応したのは、大渡達哉の方だった。
「ああ、家系図に犬の名前があったフェーズで『※犬は無事です』を心がけていたが……仕方ない。犬の恨みって、思っている以上に怖いからな。僕がジョン・ウィックなら、犯人の家ごとロケットランチャーで爆破するよ」
そうして、私たちは荒川家へと向かった。――これ以上、犠牲者を出してたまるか!