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【完結】怪異解体奇譚  作者: 卯月 絢華
Chapter 03 絞霊術

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Phase 04 悪霊降臨

 それから、私は部屋に戻って大渡達哉からの返事を待っていた。普通に待っているだけじゃつまらないので、ダイナブックで新作小説の原稿を執筆していた。


 とはいえ、やはり執筆中の原稿は例の事件に引っ張られている。降霊術で幽霊を呼び出して、その幽霊の祟りによって人が死ぬという感じの話である。――あまり良くない。


 しかし、例の事件は「カンナ」という源氏名の女性による犯行で間違いないが……彼女はあくまでも源氏名でしかない。本名さえ分かればすぐに事件は解決するのだが……。


 そんなことを考えながら原稿を執筆していると、スマホが短く鳴った。――誰だ。


 ――ツヅキン、ヤッホー。


 メッセージの送り主は、西口沙織だった。一体、何の用だ?


 私はメッセージの続きを読んでいくことにした。


 ――達哉くんから例の事件について共有させてもらったわよ?

 ――それで、「カンナ」っていう女性が犯人だということは確かなのよね。

 ――朝ドラ女優のパワハラ騒動が問題になってるさなかに「カンナ」って名前は色々と勘ぐっちゃうわね。

 ――っていうか、その名前ってあくまでも偽名じゃん?

 ――案外、「カンナ」の本名は……すごくありふれた名前だと思う。

 ――例えば「ヤマダハナコ」とかさ。

 ――アハハ、関西人にとってヤマダハナコって言ったら「山田花子」になっちゃうわね。冗談よ、冗談。


 そこまでメッセージを読んだところで、私は――ひらめいた。


「カンナ」という源氏名の女性は、案外このアパートの中に潜んでいる可能性がある。江戸川乱歩の傑作怪奇小説である『屋根裏の散歩者』じゃないけど、彼女は何らかの手段を使って屋根裏へと忍び込み、何らかの手段で新垣源司という男性の命を奪った。――まあ、こんなところか。


 そのことに気づいた私は、橘泰子からマスターキーを貸してもらい、201号室の中へと入った。



 刑事さんたちが清掃したからなのか、部屋の中は事件が起きた割には整理整頓が行き届いていた。正直、私の部屋よりもきれいである。当然だけど、遺体とそれに関連するモノも撤去されていた。


 しかし、私が見るべき場所はいわゆる「リビング」という場所じゃなくて――浴室である。


 浴室の天井には、業者が点検を行いやすくするためにフタのようなモノが設置されている。子供の頃は、何のために天井にこんなモノが設置されているか分からなかったが、換気扇が故障したときに業者を呼んだことによってフタの謎がようやく分かった。


 私は、浴槽から天井のフタを開けて、「ガコン」という音がしたことを確認して屋根裏へと入った。


 中はジメジメとしていて、害獣としてのネズミを駆除するための罠も設置されている。――このアパート自体が相当古いものだから当然だろうか。


 そして、しばらく屋根裏の中を進んでいくと、人影のようなものが見えた。――寝息が聞こえるから、生きているのか。


 私は人影に対してスマホのライトを当てて、よく見えるようにした。――それでも、起きる気配がない。


 私は人影の頸動脈に触れたが、確かに脈を感じた。――ならば、やるべきことは一つ。


「――おはようございます」


 私がそう言ったところで、人影はむくりと起きて、こちらを向いた。


 スマホのライトで照らしたことによって、人影は女性へと姿を変えた。


「――あなた、誰?」


 女性の問いかけに対して、私は答えていく。


「私? 私は……このアパートの202号室に住む『都築彩花』という者ですが、それがどうしたんでしょうか?」


「いいえ、なんでもないわ。――それにしても、どうしてここが分かったのよ?」


「昔読んだ江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』という怪奇小説でそういう話を読んだので……。それはともかく、あなたが新垣源司さんの命を奪った。それは間違いないですよね? ――カンナさん」


 私の話に対して、カンナは反論する。


「どうして私の店での名前を知っているのよ? あなた、どこからどう見ても女性だから、その手の店に行くこともないのに」


 彼女の反論に対して、言うことは――分かっている。


「あなた、その店で新垣源司さんと肉体関係を持ったじゃないの。当然だけど、店において法律の関係でそういう行為は禁じられているから……わざわざ、彼の家に連れ込んだ上で事に及んだ。しかし、新垣源司は一流企業に務めているが故に女性関係が豊富だった。だから、降霊術を行うために女性を連れて心霊スポットへと向かったのは良いが、よりによってその日のあなたは仕事のシフト表が埋まっていて、新垣源司は別の女性と向かってしまった。そのことを知ったあなたは嫉妬に狂い、そして――幽霊となって新垣源司を殺害することを考えた。違いますか?」


 私の話に対して、カンナは言葉を失った。


「くっ……」


 そして、私は話す。


「まあ、こんな狭いところで話をしていても窮屈なだけですし、話の続きは地上に降りて行いましょう」



 大渡達哉の指示もあって、私は201号室のリビングでカンナと話をしていた。


 彼女は話す。


「それにしても、どうして私が源司さんを殺害したって分かったのよ?」


 その答えは、言うまでもない。


「あなたは、源司さんから部屋の合鍵をもらっていたのでしょう。そして、合鍵を使って部屋の中に侵入して、浴室から天井へと入った。――これなら、源司さんに気づかれることもなく部屋の中に潜むことが出来ますからね」


 そこまで話したところで、彼女は焦りの顔を見せている。――それでも、私は話を続ける。


「もちろん、日記に載っている『女性の幽霊』の正体はあなたで、屋根裏は長年の積み重ねによって汚れていたから――あなたの身体は汚れで真っ黒だった。もちろん、異臭は屋根裏の汚れによるモノから放たれたモノでしょう」


「でも、私が源司さんの首を絞めたというエビデンスはどうやって説明するんでしょうか?」


 流石にこの反論に対する答えは考えていなかった。ただ、「トリックが漆である」ということだけ頭にあったので、そのトリックをどうやって説明するかまでは考えていなかったのだ。


 もう、手詰まりだろうか。そう思っていたときだった。――ガチャリというドアノブの音がした。


「――あなたは、屋根裏からテグスを垂らして源司さんの首を絞めたんだ。そして、漆はマーキングのために源司さんが寝ている間に塗ったんだ」


 玄関には、長髪で大柄な男性の姿があった。男性は、こちらに向かいながら話を続ける。


「漆は肌に触れるとかゆくなるという性質を持っているから、あなたはゴム手袋を使って漆を塗って、源司さんの首に触れた。当然、あなたは屋根裏に潜んでいた状態だから、ゴム手袋という証拠はいとも簡単に隠滅できる。――宿南刑事、アレを」


 男性がそう言ったところで、宿南刑事はビニール袋に入った手袋を取り出した。


「達哉さん、例のモノならすでにこちらで押収済みです。――まさかとは思ったけど、彼女が屋根裏に潜んでいるなんて考えてもいませんでしたが」


「ああ、そうだな。――そして、彩花ちゃんに『源司さんの部屋で待機しておいてくれ』と頼んだのにはちゃんと訳があったんだ」


 私は、男性――大渡達哉に話す。


「達哉くん、そこまで計算して私に『源司さんの部屋で待機しておいてほしい』って言ったの?」


「ああ、もちろんだ。――もしかしたら、彩花ちゃんはこの事件についてどこかで江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』を思い出してくれる可能性に賭けていたが、ドンピシャだったようだな」


「そうね。――ところで、「カンナ」の本名って……何なの?」


「彼女の本名は『橋本美央(はしもとみお)』だ。――まあ、今となってはどうでも良い話だが」


 私たちの話に対してしびれを切らしたのか、カンナ――橋本美央は、キレた。


「揃いも揃ってなんなのよ! 私が何をしたって言うのよ! 私が『幽霊』とでも?」


 キレる彼女に対して、大渡達哉は論破していく。


「あなたは『幽霊』なんかじゃなくてただの人間だ。――いや、もしかしたら『悪霊』になりたかったんだろうけど、所詮あなたは生身の人間でしかない。だから、『悪霊』に成り代わって新垣源司という男性を殺害したところで、あなたはただの犯罪者だ」


「く、くっ……」


 橋本美央という女性は意外と論破に弱く、大渡達哉という探偵の論破によって、あっさりと折れてしまった。


「宿南刑事、彼女を逮捕してくれ」


 彼がそう言ったところで、宿南刑事は橋本美央という「幽霊のなり損ない」に対して手錠をかけた。


「橋本美央さん、あなたを殺人の容疑で逮捕する」


 刑事に逮捕されたところで、彼女は悲しそうな顔をしていた。



「――それにしても、どうしてここが分かったのよ?」


 私は、大渡達哉に対してそんな質問をした。


 彼の答えは、言うまでもない。


「事件現場に入った時点で、浴室の天井が少しずれていることに気づいた。だから、犯人は天井に潜んでいるんじゃないかって考えたんだ」


「そうだったのね。――やっぱり、私よりも達哉くんの方が上手(うわて)だったわね」


「いや、今回ばかりは君も頑張ったと思う。まあ、事件現場が住んでいるアパートの一室だったら、仕方ないが」


「まあ、住んでるアパートが事故物件になっちゃった以上……私は別の場所へと引っ越そうかしら? 例えば六麓荘(ろくろくそう)とか……」


「いくら君が芦屋に住んでいるからといって、六麓荘は高望みしすぎだと思うが?」


「そうですか。それなら、仕方ないわね……」



 やはり、探偵に対してゲスい考えは通用しない。私は「やれやれ」と思いながら、彼の話を聞いていた。

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