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【完結】怪異解体奇譚  作者: 卯月 絢華
Chapter 03 絞霊術

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14/19

Prologue 事件現場は隣人の部屋

みんな大好き「リアルの怪談」の話です。

 世の中には「決して行ってはいけない儀式」というモノがある。それらは相手を呪うモノから霊を呼び出すモノ――降霊術(こうれいじゅつ)まで色々な種類がある。

 

 実際、降霊術を行ったことによってその人間が祟られてしまったというケースはよく報告されているし、最悪の場合死に至る場合もある。

 

 そして、私が高校生の頃にもそういう話は「リアル」としてネット上で伝播(でんぱ)していた。


「リアル」という怖い話を簡単に説明するならば、「ある男性が禁じられた降霊術を行ったことによっておぞましいモノを呼び出してしまい、彼は呪われてしまった」と言った具合である。

 

 呪われた男性は首に発疹(ほっしん)のようなモノが現れて、それが「悪霊による呪い」だと気づいた男性は、知り合いの僧侶に頼んで除霊をしてもらい、事態は収束したかに見えた。しかし、除霊に成功したはずの彼は首を(くく)って命を落としてしまう。――つまり、ネット上の怖い話で「リアル」と称されているモノは、男性が生前に残していた手記を元にした話である。



「――なるほど。男性の首元には縄で絞められたような痕があって、直接的な死因は縊殺(いさつ)だと判断できるのか」


 宿南刑事は、男性だったモノを見ながら話す。


 そもそも、どうしてこうなったのかというと……私が住んでいるアパートの隣部屋から異臭がしたので、中を覗くと男性だったものが首を括って亡くなっていたからである。異臭はヘドロのような臭いであり、現場には黒い液体が残されていた。


 そういえば、「リアル」において男性を苦しめる悪霊はヘドロのような臭いを放っていて、部屋には黒い液体が残されていたとかそんな感じだったか。悪霊を呼び出してしまった彼は、とっさの判断でアパートから逃げだし、近くのファミレスで夜を明かした。そして、翌朝部屋に戻ると――異臭を放つ黒い液体が残されていたという。


 まさかとは思うが、この部屋の住民は「リアル」の儀式を実践して、霊を降ろしてしまったのか。降霊した悪霊は、男性の首を絞めて、彼の命を奪った。――まあ、私が考えられることはこんなところだろう。


 宿南刑事は話を続けた。


「まあ、遺体の第一発見者が彩花ちゃんだということは確かだし、君も容疑者の1人だということは念頭に入れておいてほしい」


 どうやら、私は事件の容疑者の1人としてマーキングされてしまったらしい。――私は話す。


「宿南刑事、そうは言いますけど……私は無実です。ましてや、私は『遺体の第一発見者』という立場でしかないじゃないですか。まあ、他に犯人がいたら話は別ですけど」


 私がそう言ったところで、彼は話す。


「確かに、犯人がいるとすれば……このアパートの住民だろうか? とりあえず、他の住民にも話を聞いてみようと思う」


「そうですね。――それじゃあ、あとは宿南刑事に任せましたから」


「分かっている。――私はこれで失礼するよ」


 そう言いながら、宿南刑事は事件現場から踵を返した。


 私――都築彩花が住んでいるのが、アパートの202号室。そして、件の遺体が見つかったのがアパートの201号室である。異臭に気づいたのは今朝の8時頃で、ちょうど朝ドラが終わったタイミングだった。

 

 最初は「誰かがゴミを出している最中なのだろう」と思ったが、それにしては異臭が消えない。このままだと、私の創作に対する集中力も途切れてしまう。

 

 あまりにも困った私は、201号室のドアチャイムを鳴らして隣人を呼び出そうとした。しかし、いくらチャイムを鳴らしても出る気配がない。

 

 困った私は、大家(おおや)さんに頼んでアパートのマスターキーを貸してもらい、201号室のドアを開けた。そして、部屋の中で――男性が首を括って亡くなっていた。首吊り遺体の下には、黒い液体のようなモノが残っていて、これこそが異臭の正体なのだろうと思った。

 

 もちろん、警察へ通報してアパートまで来てもらい、刑事の中には普段からお世話になっている兵庫県警捜査一課の刑事・宿南善太郎もいた。――彼が来たから話は早いと思っていたが、私は遺体を見たという理由で「容疑者」の烙印を()されてしまった。

 

 まあ、私が遺体の第一発見者だという事実に間違いはないし、刑事が私を容疑者であると断定するのは当然の話である。しかし、私が昨日何をしていたかというと、普通に小説の原稿を書いて、普通にご飯を食べて、普通に「世界一有名な配管工」の名を冠したレースゲームをしていた。――こんなところか。誰かを(あや)めるという暇なんてない。

 

 とはいえ、人見知りである私は隣人の名前をよく知らない。今回「首吊り遺体」が見つかったことによって、ようやく201号室の住民の名前が「新垣源司(あらがきげんじ)」と知ったぐらいである。彼、芸能界屈指のビッグカップルを合わせたような名前だが……そこを気にしたら負けなのだろう。

 

 私の様子を心配したのか、203号室の住民が私の部屋へと入ってくる。どうやら、女性らしい。


「彩花ちゃん、201号室で遺体が見つかったって本当なの? 本当なら、このアパートは事故物件になっちゃうわね」

 

 隣人に対して、私は話す。


「ああ、あなたは203号室の葛城さんですか。名前は表札で存じておりましたが……実際に姿を見たのは初めてかもしれません」

 

 203号室の女性――葛城律子(かつらぎりつこ)は話す。


「あら? そうなの? 私は彩花ちゃんがアパートに出入りするのを良く見ていたけど? 私はその様子を見て『小説家も大変な仕事だ』って思ってたけど」


「そうですか。――まあ、どう思うかは葛城さんの勝手ですけど」


「私は、彩花ちゃんに協力したいんだけどなぁ。だって、彩花ちゃんってミステリ作家なんでしょ? こんなチャンス、逃したら次はないと思うわ。まさに『逃がした魚は大きい』だわ」


 彼女はそう言ってくれたけど、私はあくまでも「探偵小説の語り手」として小説を書いているだけだ。別に、私が事件を解決する訳じゃない。


 そういえば、この事件について探偵――大渡達哉はどう思っているのだろうか? 私はそんなことを考えようと思ったけど、今はまだそのフェーズではないのか。正直言って、悩んでいた。


 私の悩みを遮るように、葛城律子は話す。


「まあ、私もこの事件に興味を持った訳だし、こっちも独自で推理していこうとは思っているわ。それじゃ、私はこれで」


 そう言って、彼女は部屋から出て行った。――やっぱり、大渡達哉にこの事件のことを伝えるべきだろうか?


 私は、彼のスマホにメッセージを送信した。


 ――達哉くん、実は……私が住むアパートの部屋の隣で事件が発生しちゃったのよね。

 ――被害者の死因は首を絞められたことによる縊死で、警察では事件と事故の両方から捜査を進めようとしているみたい。

 ――まあ、100パーセント事件だと思うけど。

 ――ところで、達哉くんは「リアルの呪い」って知ってるかしら? ある男性が降霊術を行ったことによって呪われてしまい、最終的には命を落とすって感じのモノなんだけど。

 ――私はこの事件について、「リアルの呪い」なんじゃないんかなって考えたのよね。

 ――まあ、とりあえず事件に関して分かってることはスマホに送っていくから、達哉くんも何か考えてみて。


 そこまで送ったところで、私はメッセージを止めた。そして、ダイナブックで「事件について分かっていること」をまとめた。



 資料を作り終わって、私は彼のスマホにそれを転送した。――よく見たら、メッセージに対して既読が付いている。もしかしたら、読んでいるのだろうか? 私がそんなことを考えていると、彼からメッセージが送られてきた。


 ――ああ、「芦屋市内のアパートで男性の遺体が発見された」というニュースを見たが、まさか彩花ちゃんのアパートだとは思わなかったよ。

 ――それはともかく、彩花ちゃんは事件に対して「リアル」という昔の怖い話が関係しているんじゃないかって考えているのか。

 ――確かに、アレも降霊術によって男性が呪われてしまい、そのまま死に至ったとかそんな感じの話だったな。当時ガラケーで読んでいて怖いと思ったのを覚えているよ。

 ――しかし、アレはガラケー時代の怪談だから通用した話であって、今は令和だぞ? そんな古めかしい怪談をトレースしたような事件が発生するとは考えにくいな。

 ――まあ、彩花ちゃんが容疑者として警察から目を付けられている以上、僕は君の無実を証明出来るように努力はするつもりだ。


 彼からのメッセージは、そこで終わっていた。


 彼が言うとおり、「リアル」は所詮ガラケー時代の怪談話であって、令和の世の中において通用するような話ではない。それは確かだった。――ここは、彼の話を信じるべきだろうか。



 そんなことを思いながら、私はダイナブックの前で頬杖をつき、そして――ため息を吐いた。

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