Epilogue 無敵の人
「――なるほど、今度は『幽霊による殺人』を解決してしまったと」
私の溝淡社での担当者である藤倉仁美はビデオチャット越しにそう言った。
彼女の話に対して、私は若干呆れつつ話す。
「まあ、そんなところです。最初は放射性物質から放たれるチェレンコフ光だと思っていましたが、結局、夜光虫を体に塗りたくっただけの犯行でした」
私の話に、彼女は乗っていく。
「そんな推理小説のトリックみたいなことを実践する人って、世の中にいたんですね……おちおち、小説の執筆もできないですよね?」
「ま、まあ……『よい子はマネしないでね!』と言うしかありませんが」
「ですよね。――とはいえ、『幽霊の殺人』のゲラを読ませてもらいましたが、私は好きですよ? 編集長に言って書籍化の準備を進めてもらうと思います」
「そうですか。――まあ、それで私の知名度が上がるんでしたら、なんでもいいですけど……」
「アハハ、相変わらず都築先生は謙虚なんですからっ。もっと、自分に対して自信を持った方が良いと思いますよ?」
そうなのか。――私は、ダイナブックの前でため息を吐いた。
そして、彼女はビデオチャットを終えた。
「それじゃあ、私はこれで失礼します。――また、新作小説の方もどしどし執筆してくださいね?」
そう言って、彼女はビデオチャットの終話ボタンを押した。
これで良いのかどうか分からないけど、とりあえず私は『幽霊の殺人』の原稿を読んでいく。――結局、あの事件に引っ張られているじゃないか。
あの事件は許されるモノじゃないけど、犯人が自暴自棄の結果ああなってしまい、「無敵の人」と化してしまった。社会不適合者が「無敵の人」と化してしまった以上、それに対する抑止力が存在するかと思えば、今のところはそうでもない。ただ、彼女は死刑が執行されて「文字通りの幽霊」と化すのだろう。――もしくは、怨霊だろうか。
いわゆる「カシマさん」だって、元をたどれば犯されて自ら命を絶った娼婦の怨霊であり、彼女は好きで娼婦をやっていた訳じゃないのだろう。戦後直後ということもあって、彼女は経済的に困窮していた。その結果、彼女は米軍相手の娼婦となり、米軍から犯されて心神喪失状態になってしまった。――そうやって考えると、誰が一番悪いのかは明確である。
今だって、正直言って景気の良い世の中ではない。だからこそ、いつかはタガが外れてしまうかもしれない。そして、タガが外れた結果――妖怪のようなモノへと変貌してしまうのだろう。
そうならないためにも、私に出来ることといえば……何かあるのか?
私は自問自答したけど、結局その日は答えは出なかった。
まあ、そのうち答えは出てくるのだろう。そう思いながら、私は今日も生きている。




