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【完結】怪異解体奇譚  作者: 卯月 絢華
Chapter 02 見てはいけない

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Phase 03 加古川の人

昨日ようやくドラクエ3HD-2Dでゾーマをしばき倒したので執筆に集中できました。

 加古川市は、姫路と明石の境目にある小さな町である。とはいえ、町には名前の通り「加古川」という川が流れていて、播州地区における水源の拠点として重要な役割を担っている。そして、とある有名な野球解説者が放った「加古川から向こうの人は帰れないかもしれない」という言葉に代表されるように、西宮を拠点とする野球チームのナイターが長引いた時に「ホームスタジアムである甲子園球場の最寄り駅から終電で帰れるか帰れないか」の分水嶺(ぶんすいれい)となる場所でもある。

 

 ――まあ、私が向かった先は加古川のもっと奥地、高砂(たかさご)市との境目にある神社なのだけれど。

 

 バイクで「よくあるロードサイドの風景」を抜けて、私は山奥にある「鹿嶋神社」という場所に向かった。諸説あるにせよ、茨城(いばらき)県にある「鹿島神宮」の分社と言えば分かるだろうか。ちなみに、鹿島アントリオンのマスコットキャラクターはシカだが、これは鹿島神宮の中で保護されているシカから来ている。

 

 当たり前だが、鹿嶋神社は普通の神社である。大きな鳥居があって、そこをくぐると参道が見える。神社が見えてきたところで、私は駐輪場にバイクを停めて、そのまま本殿の鳥居をくぐった。

 

 本殿で二拝二拍手一拝でお祈りして、とりあえず「自分の小説が売れますように」と願っておいた。当然だけど、神社には私の他に誰もいない。

 

 というか、神社に用事があって来た訳ではなく、「カシマさん」の謎について調べに来たので、私はなんとなく古そうな民家の前で農作業をしていた老人に声をかけた。


「あの、少しよろしいでしょうか?」


 私が声をかけてきたところで、老人は話す。


「急に声をかけるなんて、(わし)に何の用だ?」


 仕方がないので、私は正直に用事を答えた。


「私は小説家で、この周辺で発生した都市伝説について取材をしているところなんです。――おじいさんは、『カシマさん』という都市伝説についてご存じないでしょうか?」


 老人の答えは、予想外のモノだった。


「もしかして、『カシマレイコ』のことかい? それなら知っているよ。――儂が、まだ子供の頃の話だったか」


「それ、詳しく教えてもらえないでしょうか?」


「もちろんだ。――詳しいことは、家の中で話そうと思う」


「分かりました。それじゃあ、中に入らせてもらいますね」


 そう言って、私は老人の家の中へと入った。



 家は昔ながらの農家の家といった具合で、築150年はくだらないと思った。やはり、昔の家だからか耐久性は高いのだろう。


 老人の妻と思しき女性が、温かいお茶とお菓子を持ってきてくれた。――どうやら、おもてなしには慣れているようだ。


 お茶を飲みながら、老人は話をする。


「あれは戦後間もない頃だったか。加古川は今よりももっと栄えていて、いわゆる花街もあった。加古川には鉄道を製造する会社があって、GHQによって我が国を占領していた時代も特需で利益を得ていた。――しかし、GHQの進駐軍の一部は日本人に対して蔑んだ目を見せていた。つまり、『何をやっても良い』と思っていたのだ。それで『鹿島礼子(かしまれいこ)』という娼婦が進駐軍から犯されて、キズ物になってしまった彼女はショックで線路沿いに飛び込み、列車にはねられてそのまま命を落とした」


「それで、電車にはねられた彼女の肉片が『カシマレイコ』という幽霊になって、今でもこの世をさまよっていると……」


「ああ、その通りだ。地元では『カシマさんの幽霊を見たら死ぬ』と言われていて、彼女が現れる前には『青白い光』が見えるんだ」


 老人が言いたいことは、分かっていた。――私は話す。


「現在神戸を騒がせている『青白い光の殺人』と同じですね。もしかして、何らかの因果関係があるのでしょうか?」


 私がそう話したところで、老人は手を叩いた。


「やはり、あんたさんもその事件のことが気になっていたのかい? 儂はこの事件を『カシマさんの仕業』だと思っていたが……」


「その通りです。――私は訳あってこの事件を追っていて、行き着いた先が加古川市内で口承されている『カシマさんの祟り』だったんです」


「なるほど。――あんたさん、名前を教えてくれないか?」


 老人にそう言われたので、私は自分の名前を名乗った。


「私は都築彩花という者です。あなたの名前も教えてもらえないでしょうか?」


 老人も、自分の名前を名乗っていく。


「儂は佐久島磯司(さくしまいそじ)という。この家で先祖代々農家をやっている、しがない老人だ」


 そう言って、私は「佐久島磯司」という情報源を入手した。――彼、結構使えるかもしれない。


 その後も彼の話に対してメモを取っていく。彼は70代後半と言った感じの老人だったが、見た目の割に老いは感じず、まさしく「ボケ知らず」という言葉が似合うと思った。彼曰く、「カシマさんの話は近隣住民の間でもかなり有名で、よく噂好きの人間から彼女に関する話を聞かれることがある」とのことだった。


 話をしているうちに、テーブルに置かれたお菓子はあっという間に空っぽになってしまい、私はそろそろ帰ろうと思った。――その時だった。


 彼は、一連の事件に対して何か思うことがあったのか、突然あることを話した。


「そうだ。最近、儂の娘から聞いた話だが……須磨海岸で、青白く光る人間を目撃したとのことだ。娘曰く、『まるで宇宙人のようだった』と言っていたよ。一連の事件と関係があるかどうかは不明だが、念のためにあんたさんに情報を共有しておきたい」


 須磨海岸で目撃された「青白く光る人間」……。海岸で目撃されたということは、やはり夜光虫を採取していたのだろうか? 私はそう思ったが、事件との因果関係までは分からなかった。


 そういうモヤモヤを抱えつつ、私は佐久島磯司の家を後にした。


「それじゃあ、私はこれで失礼します。――また、何かありましたらすぐにこちらへと来ますね」


「おう、分かっているぞ。――ご武運を」



 外に出るとすっかり日は暮れていた。こういうとき、幹線道路に出るまでの道は心細い。バイクで来た道を戻って、国道2号線沿いまで向かう。


 国道2号線に出ると、ロードサイドの看板がまぶしいと思った。私が豊岡にいた頃はこういう風景を見て「都会だ」と思っていたが、結局それは「よくある幹線道路の風景」でしかなく、少しでも道からそれると辺りは田畑しか見えない。そして、幹線道路が途切れた先にあるのは――平凡な農道だけである。


 やがて、加古川から明石に向かい、そして神戸へと戻ってきた。流石に三宮まで戻るとビル群がそびえ立っていて、渋滞にイライラしつつも芦屋を目指してバイクを走らせていた。神戸から芦屋へとまたぐと、風景は一変するというか……景観法の関係で高いビルは1つも見当たらなくなる。


 私はその景色を普通だと思っていたし、たまに大阪なんかで高いビルを見るとその高さで気を失いそうになるので、結局のところこれぐらいの高さがちょうど良いのかもしれない。


 そんなことを思っているうちに、アパートが見えてきた。私は駐輪場にバイクを停めて、そのまま自分の部屋の中へと入っていった。


 ――それにしても、あの老人が言っていた話……気になるな。やはりあの事件は「カシマレイコ」が関係しているのだろうか? というより、もう一つ気になるのは「須磨海岸で目撃された光を放つ人間」である。どう考えても夜光虫の採取だと思うけど、もしかしたら一連の事件と関係があるのかもしれない。私はそう考えた。


 サクッとシャワーを浴びて、レンジで冷凍食品をチンして、それを食べる。ダイナブックの画面には「今日聞いたこと」をメモ帳でまとめたモノが表示されていた。


 いずれにせよ、加古川で「カシマレイコ」という女性が犯されて心身にショックを患い、そのまま列車のレールに身投げをして自ら命を絶った。それは事実だと考えて良さそうだ。――しかし、彼女の肉片が怨霊となって祟りを起こすなんて、あり得るんだろうか? 私はそれが疑問だった。


 ふと、私はつい最近見た韓流映画を思い出す。その映画は「葬儀が終わって死人を埋葬しようと思って一族の墓を掘り返したら中からヤバいモノが出てきたので、陰陽師やエクソシストが総出で怨霊を(はら)っていく」というモノだった。あくまでも隣国の国威(こくい)を示す映画なので、怨霊の正体はかつて戦国時代に朝鮮半島を征伐(せいばつ)しようとした豊臣秀吉の怨霊という設定だったが、反日感情は抜きにしてそれなりに面白かった記憶がある。――ただ、どういう訳か4Dで見てしまったので、映画を見た後にロビーでフラフラになってしまったのだが。ゲロを吐かなかっただけマシである。


 あの韓流映画のことを思うと、「成仏に失敗した怨霊が殺人を起こす」という事例はなきにしもあらずである。まあ、所詮は映画の中の絵空事でしかないのだけれど。――スマホが鳴っている。


 私は、スマホのロックを解除して、通知を確認した。どうやら、大渡達哉からのメッセージらしい。


 ――彩花ちゃん、あれから事件に対する手がかりは得られたのか?

 ――僕の方は全くもって脈ナシだよ。あまりにも脈ナシだから、困っているぐらいだ。

 ――もし、何か事件について手がかりが得られたら、僕に教えてほしい。


 そう言われたからには、仕方ない。私は、彼のスマホにメッセージを送信した。



 彼に対して佐久島磯司の家で聞いたことを一通り伝えたところで、私のスマホにメッセージが送られてきた。


 ――ああ、わざわざ加古川まで行ってきたのか。

 ――彩花ちゃんの行動力には、相変わらず感心させられるよ。

 ――それはともかく、やっぱり「カシマレイコ」の幽霊が事件と関係があるかもしれなくて、なおかつ須磨海岸で彼女の霊と思しき「青白い光」が目撃されていると。

 ――でも、彩花ちゃんは須磨海岸で目撃された「青白い光」を夜光虫の採取だと思っているのか。

 ――確かに、夜光虫を採取する過程で手に夜光虫がくっついて、それが光を出しているという話なら、納得はできるな。

 ――まあ、こんなところだろうか。彩花ちゃん、これだけ情報が集まったら事件解決に一歩前進だ。助かるよ。


 メッセージはそこで終わっていた。少しでも、彼に対する手助けになってくれたらいいけど。私はそう思っていた。


 それから、眠くなってきたので睡眠安定剤を白湯で流し込んで、私は眠りについた。



 ここはどこだ?


 目の前に見えるのは、何らかの理由で廃社(はいしゃ)となった神社が見える。――流石に、鹿嶋神社じゃないと思うけど。


 周りには彼岸花が、人の生き血を吸ったように赤く狂い咲いている。


 恐怖で心臓の鼓動が早くなることを感じながら、私は廃社の中を進んでいく。


 やがて、かつて賽銭箱だったモノの近くに……白い服を着た片足の少女が立っていた。こんな場所で、一体何がしたいんだろうか?


 私は、少女に声をかけた。


「――あなた、誰?」


 少女が、私の方を振り向く。――その瞬間、私の心臓の鼓動は大きく高鳴った。


「私は、カシマレイコよ。――あなたの身体が欲しいの」


 そう言って、「カシマレイコ」と名乗った少女は私の足を無理矢理つかんだ。そして、「グキッ」という音がして……足の感覚がないことに気づいた。


 私が前を向くと、少女は私の右脚を奪っていた。奪われた足の付け根から、血がどくどくど流れ出ている。


「あ、あなた……私の足を奪って、何がしたいのよ!」


 私はそうやって叫んだけど、少女はひたすら不気味に笑っている。――これは、悪い夢だ。


 私は夢から覚めるべく、、廃社から逃げようとした。しかし、少女は逃げようとした私の上に馬乗りになって、首を絞めていく。


 息ができない。息が出来ないから、心臓の鼓動が早鐘を打つように早くなる。助けて。こういうとき、達哉くんがいたら――。



 ――ああ、夢か。悪い夢だ。


 心臓は未だに鼓動が早く、それだけで自分が「悪い夢を見たこと」は明確だった。


 スマホを見ると、時刻は深夜の2時だった。まだ、そんなものなのか。


 私は嫌な夢から逃避すべく、お守り代わりにスマホで音楽を流しながら再び眠りについた。どうせ、夢の記憶なんて朝にはなくなっているだろう。



 翌日。私はスマホのアラームでその意識を覚醒させた。――というか、イヤホンを付けっぱなしで寝ていたから、思いっきり爆音のアラーム音が耳を貫通していた。


 とりあえず朝食を食べて、私は嫌な夢を忘れようとした。しかし、悪い夢ほど鮮明な記憶が残ってしまうモノである。少女は、私の足を引っこ抜いた上で首を絞めて……。


 ――そういうことか。被害者の直接的な死因は、足を切断されたことによるショック死ではなく、首を絞められたことによる縊死だったのか。


 だから、私が見た夢は、事件のトリックを予言していたモノだったのか。


 夢の記憶が鮮明なうちに、私は大渡達哉のスマホにメッセージを送った。


 ――達哉くん、被害者の死因が分かったわ。

 ――多分だけど、被害者は足を切断されたんじゃなくて、足を切断されたあとに首を絞められて命を落としたんだ。

 ――犯人の手口が分かった以上、あとは「カシマレイコ」の正体よね。

 ――達哉くんは、彼女の正体について……見当ついてるの?


 そこまでメッセージを送ったところで、彼から即座に返信が送られてきた。――もしかして、このメッセージを見ているのか。


 ――なるほど。確かにそれなら確実に「両脚のない遺体」を生み出すことが出来るな。彩花ちゃん、ナイスだ。

 ――とはいえ、「カシマレイコ」の正体は分からずじまいか。

 ――君が言っていた「須磨海岸の青白い光」が関係あると思うが……。

 ――まあ、そこは追々調べていくことにするか。僕も仕事で探偵をやっている訳じゃないからな。


 それはそうか。――しかし、事件解決へ向けてかなり前進していることは確かだった。あとは犯人を見つけ出すことだけだが……。そんなことを考えているときだった。突然、めったに鳴らないスマホの着信音が鳴り響いた。


 スマホの画面には「佐久島磯司」と表示されている。――何かあったんだろうか?


 私は、恐る恐るスマホの通話ボタンをタップして、彼からの電話に出た。


「もしもし、彩花ちゃん? カシマレイコの祟りと思しき事件が、近くで発生した。事件の発生現場は鹿嶋神社からほど遠くない山の中で、遺体は足がない状態だった。今までの事件と違うところは、被害者が女性じゃなくて男性というところで、事件発生前にはやはり『青白い光』が目撃されている。――あんたさん、暇なら来てくれないか?」


 私の答えは、当然のモノである。


「分かりました。今すぐそちらへと向かいますので……少し待っていてください」


「分かった。儂は家で待っているからな」


 彼がそう言ったところで、スマホからはツーツー音が鳴り響いていた。


 それにしても、新たな事件で、被害者は女性じゃなくて男性。一体、犯人はどういう目的があってこんなことを?


 私はモヤモヤを抱えつつライダースジャケットに袖を通し、駐輪場へと向かった。


 もちろん、行くべき場所は佐久島磯司の家であり、私は2号線を通って加古川と高砂の境界線へと向かった。


 辺りはのどかな農村地帯にしては物々しい雰囲気で包まれていて、兵庫県警のパトカーも多数確認できた。


 そして、何よりも――宿南刑事がそこにいる。


 彼は話す。


「彩花ちゃん、どうしてここが分かったんだ?」


 私は、彼に事情を説明した。


「実は、『カシマさん』について調べているうちにこの周辺へとたどり着いて……それで、近隣住民から情報を聞き出したのよ」


「そうだったのか。――まあ、『カシマさん』によるものと思しき3人目の犠牲者が出てしまったことは事実だが……今回は、監視カメラにバッチリと犯人の姿が映っているんだ」


「犯人の姿?」


「ああ、元々はクマによる被害を防ぐために山中(さんちゅう)に設置された監視カメラだったが、こんなカタチで役に立ってしまうのは不本意だ。――彩花ちゃん、映像を見たら……何か分かるのではないのか?」


 私の答えは、当然だ。


「そうね。監視カメラの映像を見ない限り、犯人の尻尾はつかめないもんね」


 そう言って、宿南刑事はタブレット端末を操作して監視カメラの映像を映し出した。


 画面に映っていた女性は――悪い夢で見た少女に似た女性だった。私はフラッシュバックで過呼吸を起こし、その場で意識を失った。



「――おい! 彩花ちゃん! 大丈夫か!」


 彼にそう言われた気がしたけど、その後のことは……記憶がない。

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