5 療養期間
機体操縦室の任期5年以下のパイロットは、社員寮で共同生活を行う決まりとなっている。しかし、穂浪泰介は、任期7年目となった現在も社員寮に住み付いている。
「あ~……暇だ~……」
社員寮の共有スペースの床に、穂浪はゴロンと寝転がった。本来なら、男所帯の往来に無防備に寝そべったが最後、蹴飛ばされるか踏み潰されるかするが、全員出社した後のため、その心配がない。しかし、包帯でぐるぐる巻きにされた左上肢のせいで、そこまで開放的な気持ちにはなれなかった。
アドマの光線を受けた左肩は、全治1か月と診断された。先週からリハビリが始まり、経過は良好だが、現場復帰はまだ先だろう。任務に出ることはおろかトレーニングや飛行訓練もできないため、病院へリハビリに行く以外は、一日のほとんどを社員寮で過ごしていた。それも、一人で。何もすることがないということが、こんなにも苦痛だなんて思っていなかった。今度からは大怪我する程の無茶はしないようにしよう、と、無意味に天井を見つめながら心に誓っていたとき、
「随分と退屈しているようだな」
重厚感のある低い声が頭上から降ってきた。寝転がったまま見上げようとすると、真上から見下ろしてくる監督官と目が合った。
「佐伯さん!? おッはようございますッ!!」
穂浪は慌てて起き上がろうとしたが、左上肢が固定されているせいでもたつく。
「任務もトレーニングもできないこの期間を、いかに有意義に過ごすか考えろ」
やっとの思いで体を起こして立ち上がった穂浪を見下ろしながら、佐伯二等空佐は続ける。
「操縦技術の研修会や、研究部の報告会は、普段忙しいとなかなか行けないだろう」
「いやぁ……座学は苦手で……」
「だから何だ。貴様がこうして寝転がって休んでいるうちに、同僚たちは鍛錬を重ね、腕を上げていくぞ。成長とは、努力した者にしか与えられない結果であり通過点だ」
「ぐうの音も出ません」
「研修会でも報告会でもいいから、この中から興味のあるものを選んでおけ」
佐伯二等空佐が懐から一覧表を出した。穂浪は気乗りしないながらも受け取り、研修会や報告会の表題に目を通した。どれも難しそうで、俺なんかに理解できんのかなぁ……と思ったとき、ふと「地球外生命体の能力とその効果及び想定される被害について」という報告会が目に付いた。担当者の欄には、「逢坂せつな」の名前。
「これ! これがいいです!」
穂浪が興奮気味に指差したところを、佐伯二等空佐は覗き込んだ。
「ほう、FPLの報告会か。貴様にしては難解なものを選んだな」
「とても興味があるので!」
「参加手続きは俺がしよう。追って要項を連絡する」
「分かりました!」
「で、ここからが本題なんだが」
「え、今のが本題じゃなかったんですか?」
「制服に着替えて、身形を整えろ」
「なんでですか?」
「総司令がお呼びだ」