13 作戦会議
久我に背中を押され、逢坂は穂浪の部屋を訪ねた。
「あれ? 逢坂さん? どうしたんですか?」
ドアを開けた先に逢坂が立っていたため、穂浪は目をパチクリさせた。
「明日のことについて作戦会議をと思いまして」
「あ、それなら俺に考えがあるんです。ちょっと聞いてくれませんか?」
言いながら、穂浪はドアを開け広げ、逢坂を招き入れた。
「明日は、俺一人で会いに行こうと思うんです」
椅子に腰掛けながら、穂浪は明るく言った。逢坂は向かいの椅子に腰掛けながら、眉を八の字に下げた。
「私、何か気に障ることしました……?」
「あ、いや、そうじゃないです! 伊佐木キャプテン、一人暮らしっぽかったので、俺一人で行った方が警戒されないかなって。一対一の方が気楽に話してくれそうじゃないですか」
良いアイディアだが、穂浪一人で行かせるには些か心配だった。それが顔に出てしまっていたようで、
「俺に単独行動させるのは不安ですか?」
困ったように笑いながら、穂浪は頬をポリポリと掻いた。
「穂浪さん一人で会いに行ったとして、どうアプローチするんですか?」
「ん~、とりあえず家に上げてもらうところから始めますかね。立ち話じゃ落ち着いて話せないし」
「どうやって家に上げてもらうんですか?」
「玄関先で雑談でもして、伊佐木キャプテンの警戒心を解いてみます」
「雑談って、どんな?」
「そのときのフィーリングで」
「それじゃ作戦になりません」
ダメだこりゃ、と逢坂が項垂れると、穂浪はケラケラと笑った。
「何言ってるんですか。逢坂さんは誰かと友達になるとき、雑談の内容を事前に考えるんですか?」
友達って……相手は伊佐木キャプテンだぞ……? と思ったが、一先ず穂浪の言い分を傾聴してみる。
「そのときの相手の様子とか、天気とか、その場で起こったこととか、そういうお互いが共通認識してるものから、話題って広げるもんじゃないですか。事前に考えておいた雑談を投げかけたって、相手の心は開けません。フィーリングって意外と大事ですよ?」
まさか穂浪に言いくるめられる日がくるとは思ってもみなかった。しかし、その主張には一理あった。悔しいが、最もだった。そして、そういうフィーリングに関しては、逢坂よりも穂浪の方が適性がある。何たって、特技は誰とでもすぐ友達になれることだから。
「分かりました。明日のことは穂浪さんにお任せします」
「ありがとうございます」
「ただ、くれぐれも粗相のないように」
「アハハ、牧下総司令みたいなこと言いますね」
「返事は?」
「あ、は、はい……」
穂浪は心の中で、「やっぱり似てきてる……」と嘆いた。