12 電話
任務を遂行するまで局に帰って来るなと穂浪は指示されていた。無論、補助・監督役の逢坂も同様である。そのため、しばらくはホテル暮らしだ。
チェックインを済ませ、自室に入ると、逢坂はさっそく久我に電話をかけた。任務の進捗状況を報告し、ついでに穂浪の規格外っぷりも愚痴った。
「へぇ~相変わらず面白い人だなぁ、穂浪さん」
電話越しにケラケラ笑われ、逢坂は「笑い事じゃないわよ!」とスマホに向かって怒った。
「で? どうだったんだ?」
ひとしきり笑った後、久我が主語なく尋ねた。
「何が?」
「憧れの伊佐木キャプテンに会えたんだろ?」
「あぁ、うん……まぁね……」
「なんだよ、嬉しくねぇのかよ?」
「いや……10代の頃から憧れてた人だからさ、自分の中で美化してたせいかもしれないんだけど……なんか、思ってたんと違った」
「なんだそれ」
「60代になっても伊佐木キャプテンはシュッとしててカッコイイままと思ってた。トヨエツみたいな」
「まぁ、伊佐木キャプテンもパイロットを辞めてから色々あったみたいだしな」
「色々って?」
「伊佐木キャプテンの部下だったパイロットが殉職したらしい」
「え、そんな……」
「一筋縄ではいかなそうだな、逢坂の任務」
「私のじゃなくて穂浪さんの任務。私はただの子守り要員」
「子守りって……」
「久我だったら、どうする?」
「あ? 何が」
「どうやって伊佐木キャプテンを説得する?」
「そういうのは俺よりも穂浪さんの方が得意だろ。覚えてないのか? ラシェが局を攻撃してきたとき、穂浪さんが言ってたこと」
何だっけ? と思い出そうとすると、久我が、
「特技は誰とでもすぐ友達になれることだって言ってただろ」
と、解答を提示し、クスッと笑った。
あのとき、穂浪は撤退の指示を無視するどころか、全体統括である久我を言いくるめて、地球外生命体との話し合いなんて突飛なことをした。そして、なんだかんだあったものの最終的には話し合いを成功させた。宣言通り、《《誰とでも》》友達になれてしまえたのだ。
「牧下総司令が今回の任務に穂浪さんを駆り出したのは、穂浪さんのそういうところを見込んでだと思うぞ?」
久我に言われてから、逢坂はふと、穂浪と伊佐木の会話を思い出した。あんなに威圧感のあった伊佐木が、カツオのたたきの話になったら親切におすすめの店を教えてくれた。(あれを打算的にやったかは怪しいが、)穂浪の天性の人懐っこさは任務遂行に必須条件かもしれない。
「まぁとにかく、お前が相談すべき相手は電話越しの俺なんかじゃない」
最後に「頑張れよ」と付け足してから、久我は電話を切った。