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異世界救助隊  作者: 里下里山
本編
9/31

第九話 総力戦

 「皆さん、こっちです!」


 声をかけてくれた魔法使いの背中を追いかける俺たち。

 さっきまであった、白色に勝利したという喜びの感情はとっくに心配一色に塗りかわっていた。

 都市部で怪物が暴れ回っている、普通なら噂として簡単に耳に入ってくることだ。

 しかし、それでもこうして焦り全開で走り続ける結果になったのは、俺たちが普段から怪物を簡単に追い返すことで、それが周りにとっても日常となっていたからである。

 実際、そこにはいつも通りルノやアイラがいて安心し切っていた人も多かっただろう。

 結果、俺たちに情報が伝達されるのも遅れてしまった。


 「グオオオオオオオオオ!」


 鳴り響く雄叫び、ようやく到着したようだ。

 ただ、その光景が目に入った時俺含め全員が冷静では

いられなかっただろう。

 全身ボロボロになりながら、それでも走り続けるルノ。

 その背中には血を流しながら、項垂れているアイラ。

 それを嘲笑うかのように追う、灰色の怪物。

 気づけば、俺は飛び出してしまっていた。


「何してくれてんだ」


 突然現れた、新たな男の攻撃に怪物も反応できない。

 顔面にクリーンヒットしたその拳は、灰色を思いっきり遠くまで吹き飛ばす。

 ルノもようやく、助けが来たことに気がついた。


「ミドロ……君……!」


「メンバー全員来たぞ……本当にすまないルノ。

 めちゃくちゃ辛かったよな」


 ハガリさんが、ルノの頭に優しく手を置く。

 ルノはその安心感からか、がっくりと腰を落とす。

 その身体はもう限界だと、小刻みに震え続けている。

 それでもアイラだけは離すまいと、ガッチリ背負い続けていた。


「私こそ本当に、本当にすみません。

 どうしても力不足で、アイラを守ることが出来ませんでした。

 私も逃げることに必死で……お願いします、アイラのことを助けてください……!」


「ああ、勿論だ。

 何度も仕事を頼んですまないが、アイラを病院まで連れていってもらってもいいか」


「分かりました」


 さっきまで道案内をしてもらっていた魔法使いにアイラを託す。

 同じ世界の仲間だ、大きく頷きすぐに走り出した。

 ルノはボロボロの身体をそれでも動かして、何とか戦いに影響が出づらいであろう道端に避難する。


「すいません、私も満身創痍でもう支援も出来そうにありません。

 本当に皆さんが後数分遅れていたら命の保証も無かったと思います。

 そんな私がこんなお願いするのもおこがましいんですけど……灰色、あの怪物をぶっ飛ばしてください。

 何度もすみません、お願いします……!」


 ルノはきっと悔しかったはずだ。

 友達が目の前でやられて、自分もやられかけて。

 もっと強くなりたい、そう願う。

 でも、それはきっとルノに限らない。

 怪物を逃がさないほどに、もっと速ければ。

 怪物を安全に確実に倒せるほどに、もっと頭が回れば。

 誰もが一つも絶望を抱かない程に、もっと強ければ。


 だからこそ、その羨望と後悔を抱えて今度は失敗しないように。

 この怪物を今持てる全力で倒す。


 俺の隣にハガリさんとアロナさん、ウィンプが立つ。

 皆、思いは一緒のようだ。


 灰色は戦いが始まるのを待ち侘びていたかのように、ゆっくりと立ち上がる。

 どうやら、完全に体勢を起こしたら始まるようだ。

 その様子に身構えながら、ハガリさんが言う。


「ルノ、自分でどう思っているかわからないけどルノは前よりずっと強くなった、少なくとも俺はそう思うよ。

 アイラを抱えて耐え続けたことも大したことだが、俺たちを頼ってくれるようになった。

 逃げる選択をして、俺たちを待っていてくれたことを誇りに思う」

 

 灰色は、次の動きに向けて構える。

 今すぐにでも、飛んできそうだ。


「俺はさ、頼られると熱くなるんだ。

 それもとびきり可愛い後輩に頼られちまった。

 だから、期待は裏切りたくない。

 アロナ、ミドロ、ウィンプ、全員やれるな?」


「グオオオオオオオオオ!」


 何だかんだ色々考えたけど、結局ただイラついているだけだ。

 自分にも、こんな運命にも、目の前の怪物にも。

 だからハガリさんの言ったことに当たり前ですよ、と返すように俺は灰色をもう一度ぶん殴る。


 少し後ろに後ずさった灰色は、それでも俺のパンチを両腕で受け止めて、その場に立っていた。

 こうして、俺たち異世界救助隊の総力戦が始まる。


「グオオオオオオオオオ!」


 灰色はもう一度向かってくる。

 実際、俺の一撃は奴を何度も吹き飛ばしているがダメージを与えられている感触はない。

 だったら今度は、


「頼む、ウィンプ!」


 とんでもない勢いで突進してきた灰色を俺の身体で真正面から受け止める。

 踏ん張り続けて硬直が数秒続いた後、地面からツルが伸び始めた。

 勿論、そのツルの正体はウィンプの能力だ。


「悪いが、ここらで足踏みしててもらうぜ!」


 ツルは器用な動きを見せて、組み合っている俺を避けるようにどんどんとその数を増しながら灰色に纏わりつく。

 抵抗を見せれば、俺が力でねじ伏せる。

 そうして時間をかけていくうちに灰色の身体は固定されてしまった。


「ナイスだミドロ、これで完全に拘束できたはずだ」


 そう言いながら俺にグッドサインを送ってくれるウィンプ。

 流石にウィンプの能力は強すぎる。

 かなり絶望的に感じていた灰色の登場だったが、一瞬にして有利な状況に変わった。


 そう思っていたのも束の間、メキメキと音が立ち始める。

 だんだんとツルはちぎれていき、その灰色の毛を露わにする。


「は?嘘だろ?

 何重にしたと思ってんだよ!」


「いや、ここまで隙が生まれれば充分だ」


「私ももう、やっちゃっていいんだよね」


 どんどんとツルの層が破られていく中、ハガリさんとアロナさんが前に出た。

 灰色がツルの中から顔を出したその瞬間、


「くらいやがれ!」


 その顔面目掛けて、ハガリさんの剣が突き刺さる。


「グオオオオオオオオオ……!」


 流石の痛みに悲痛な叫びを上げる。

 どんどんと露出していく肌に更にアロナさんが追撃を入れる。

 ツルを破ることを最優先にしないといけない灰色にとって、この二人に抵抗する手段は一つもない。


 ようやく破って、二人を睨みつけた頃にはその身体は絶望的なピンチと言えるほどにボロボロだった。

 ようやく反撃開始のようだ。


「グオオオオオオオオオ!」


 まず狙われるのはハガリさん。

 ハガリさんはギリギリまで灰色の姿を捉えて躱わす。

 直線的なその動きを避けるのは彼にとっては簡単なようだ。

 その間に、アロナさんが追撃する。


 そう来るならばと、アロナさんを狙う灰色。

 しかし、アロナさんも完璧に攻撃を避ける。

 勿論、ハガリさんはその後ろ姿にきっちりと剣を入れる。


 どちらかではない、二人とも強い。

 ましてや、長年の経験から息も合っている。

 勿論、灰色は相当な痛手を負っており動きのキレがないと言う部分もある。

 それでも、その二人の完璧な動きには憧れを感じざるを得ない。


「すげえな……」


 ボロボロでもう立っているのもギリギリそうな灰色を見て、唖然とするウィンプ。

 それほどまでに圧倒的な差。

 やはり、俺の尊敬する先輩の背中は遠いのだと思い知らされる。


「いいか、ミドロとウィンプも油断するな!

 しっかり相手の動きを見ておけよ!」


 向かい合っている展開の灰色。

 今誰かを狙おうものなら、一斉に他のメンバーの攻撃が降り注ぐ。

 灰色が現れてから、およそ三十分が経った。

 魔法使いも各々、都市から避難し終えたことだろう。

 本当に灰色に出来ることはない。


 と、灰色が身体の向きを変える。

 勿論、逃げたところで無駄だ。

 第一、灰色はいつ倒れてもおかしくないほどにボロボロなのだ、逃げ切る事はできない。


「グ、グア」


 しかし、それは俺の予測を大きく外れる行動だった。


「……グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」


 今までとは、比べ物にならないほどの声を上げる。

 俺たちは呆気に取られ、咆哮の先はみるみるうちに建物が破壊されて一本の道が出来上がる。


 だが、正直に言って脅威ではない。

 確かにとんでもない威力だったが、息を大きく吸ったのを見れば直撃は逃がれられる。

 それだけ、隙の大きい動きだった。

 どうして、こんな行動をとったのだろうか。

 だが、一人というより一体。

 焦ったような大きな声が上がる。


「その道の先には進ませるなぁ!」


 その声を上げたのはウィンプだった。

 俺たちはどういう意味か理解できない。

 それでも、最後の力を振り絞って走り出し始めた灰色に違和感を感じ、追いかける。

 だが、奴はその道の先で静止していた。

 ハガリさんが全員に向けて声を上げる。


「逃がしたら大変なことになる、今ここで倒すぞ!」


「いや、おそらくだがもう大変なことにはなってるぜ」


 灰色がゆっくりとこちらを振り向く。

 さっきまであった傷は、どんどんと治癒されていき筋肉は一回り巨大になっている。

 地面にはツタの破片と白い毛、そして大量の血。


「まさか……!」


 俺はその恐ろしさのあまり声を上げてしまった。

 奴の口からは血が流れ出ている、ウィンプだけは分かっていたのだ。

 咆哮を上げたその道の先、そこに白色が拘束されていたことを。


 そう、灰色は仲間を捕食してしまったのだ。

 同じ怪物を食べることで身体強化、完全回復。

 それが、奴の能力らしい。

 おそらく黒色も食べたのだろう。

 つまり、これが灰色の完全形態というわけだ。


 灰色と目が合う。

 その瞬間、奴は俺に向かって一気に距離を詰めたんだと思う。

 何故思う、という表現にしたかといえばその行動を視認する前に吹き飛ばされたからだ。


「ミドロ!」


 

 あまりの強襲に意識を失いかけてしまった。

 ハガリさんの呼びかけで何とか保つ。


「全員聞け!

 こっからは作戦変える、プランBだ!」


 その声を聞き、全員が迅速に行動を開始する。

 俺は着地の体制を整え、着地後すぐに走り出す。

 アロナさん、ウィンプと即座に合流した。

 急いで街の外へ出る。


 怪物を見逃がせばめんどくさい事態になる。

 確かにさっき、俺はそんなことを思った。

 しかし、これは怪物側にとっても同じである。


 時間が経つたびに俺たちはどんどんと強くなった。

 俺も修行により怪物たちと渡りあったし、ルノが逃げ切れたのもその証として怪物たちの目に映っているはず。

 放っておけば、いずれまた強くなって厄介になっていく。


 つまり、相手側もここで倒しておきたい……そう思うのが普通だと思う。

 これはただの予想に過ぎないし、所詮は相手依存の

賭け事、それでも。


「オオオオオオオオオオオ!!」


「怪物きました、まずは成功!」


 ウィンプがツルで壁を作っていく。

 さっきみたいな超高速の突進は使わせない。

 それでもドンドン破られる音は聞こえる。


「ねえ、これって何とかなってる?」


「知らねーよ!

 二体目の捕食前とはいえ、あの怪物から十数分逃げられてたルノがすげーんだよ!」

 

 更に少しずつ足音は近づいてくる。

 こんな速さとパワーをこの時間維持できるなんて完全俺の上位互換、チートだな。

 遂には、俺たちの目の前まで来てしまった。


「やばいやばいやばい!

 すぐそこまで来てるぞ」


「当たれ……」


 バンッ、と一発音が聞こえてから怪物が体勢を崩しその身を転がす。

 どうやら、アロナさんの撃った一発は怪物の足かどこかに当たってくれたようだ。


「セーフ」


「ギリギリすぎんだろこれ!」


 この一発が効いた、俺たちは見えてきた森に入り込む。

 怪物は一瞬転倒したものの起き上がって、すぐ俺たちの後を追ってきたようだ。


 耳を澄ます怪物、しかし森には様々な生物が存在する。

 簡単にターゲットの位置を特定することも難しい。

 それでもなんとか探し出すしかないのだ、怪物側の勝利のために。


 そのターゲットとなっていた俺たちはと言うと……

 森の外に出ていた。

 大きく肩を揺らしながら、その疲れを露わにする。

 ここまで上手くいくとは驚きだ。

 後は仲間に全てを託してみることにする。


「よお、その感じ。

 上手くいったみたいだな」


「うん、でもまさかプランBを出すことになるとは思ってなかった。

 本当に成功確率の低すぎる作戦」


 後から追ってきたのは、ハガリさん。

 アロナさんの文句に困ったように笑っている。

 当たり前だ、こんな作戦やることになるなんてハガリさん本人が思っていなかったのだろう。

 そして今回の作戦の主役は、そんなハガリさんの背中にいた。


「ルノ……」


「みなさん、本当にご心配おかけしました。

 それじゃ、勝ちましょうか」


 彼女は森に向けて手を構える。

 もし、本当に勝てないと悟った時の作戦。

 俺たちが森に誘き寄せて撹乱する。

 そして、この森に向けて特大火力をぶち込む。


 その一つが、ルノの水の力だ。

 そしてもう一つが……


「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ。」


 ハガリさんの無線から聞こえるその声、もはや懐かしい。

 上に影がかかって、全てが揃ったことを認識する。


 そう、今回のもう一つの主役。

 それが異世界救助隊の移動艦、つまりはゴウテツさんだ。


「この船は、俺が相当の時間をかけて作った力作だ」


 そうハガリさんが言うだけのことはあるようで、この船にはたくさんの仕掛けが施されている。

 その内の一つが高圧ビーム砲、これから放つとんでも火力の一撃だ。


「よし、それじゃ終わらせるとするか!」


「3……2……1……ぶっ放せ!」


 この作戦は本当に奇跡だと思う。

 俺たちを追わずに逃げられていたかもしれないし、ウィンプの壁がもっと早く破られていたかもしれない。

 俺たちの中の誰か一人でもミスをしてはいけなかった。

 それでも、信じ続けてきてなんとか確率を一に変える手段。


 俺たちが掴み取った奇跡の一撃だ。


「「はああああああああああああああああ!!」」


 放たれた二つの衝撃は一気に森に突き刺さる。

 視界の全てが覆われるほどのその威力は足の速さや力なんて無視してしまうほどの破壊力と範囲。

 一瞬で、大きなクレーターが出来上がった。


 そのクレーターの中心、一体の怪物が倒れている。

 剛毛により、なんとか身を保ったようだがそれでもその場に伏せて、動くことはない。

 つまり……


「勝った……?」


 俺の一声が伝播するように全員が歓喜の声を上げる。

 本当の意味での総力戦、その末に俺たちはこの世界を救うことに成功したのだった。

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