第四話 出会う
「いやまあ、運がいい……だけなんだけどな。
まさかこんなに上手く話が進むとは……」
俺たちが話を終えて、外に出た時には外は真っ暗になっていた。
今日は、とりあえず都市までついたから一日くらい息抜きに遊ぼう!……くらいのテンションだったはず。
それが、アイラさんが登場して戦いになり最終的にはこの世界のトップの立ち位置のアイリスさんにまで辿り着いた。
とんでもない距離を歩いたり、急な襲撃を受けたりなど一概に運が良い一日とすることは出来ないが、それでもハガリさんの言う通り話はトントン拍子に進んだといえるだろう。
とはいえ、ここが終着地点ではない。
滑り出しが良かったとはいえ、ここから正体不明の怪物たちと対峙しなくてはいけないし、この世界も不安に包まれている。
俺自身も、まだまだ戦力としては足りていないのだ。
「とりあえず、これからどうするんですか?」
ルノもそろそろ、異世界救助隊としての自覚が出始めたのかもしれない。
この膠着状態を壊すように、手を挙げて質問する。
「一旦お前らは宿に行ってゆっくり休め。
……俺はちょっとこの辺歩き回ってみるわ」
そう言い残して、その場を後にするハガリさん。
人々が活発に動く昼間に比べて、夜というのは静かで悪が動き出すのに、非常に向いている。
こうして夜に警戒するのは、抑止力という意味もあるのかもしれない。
「ミドロ、どうした?
宿に行かないと、ほら早く」
ハガリさんの後ろ姿を見続けていた俺に痺れを切らしてグイグイ引っ張ってくるアロナさん。
少ししてハッとした俺は、ようやく動き出す。
宿、というのは城下に聳え立つ大きな宿のことを指す。
アイリスさんが、怪物騒動が収まるまでは無償で貸してくれるらしい。
「え、凄いなこれ……ルノ見てよ」
そう言って興奮をルノに共有しようとするが、
「はい……凄い……ですね」
ルノは完全に燃え尽きていた。
俺の方を見ないまま、部屋に向けて一定の速度でゆらゆらと歩みを進める。
……うん、今日はハガリさんの言う通りゆっくり休んでおくことにしよう。
そう決めた俺はゆらゆら歩くルノをあっさり追い抜かし部屋のベッドに沈むのだった。
次の日、俺も昨日はアドレナリンが出ていて気づかなかったのか、相当疲れていたようだ。
大きなあくびをして、部屋を出る。
全員が集まれる食堂が併設されていて、そこにはとっくに全員が到着していた。
どうやら起きたのも、俺が一番最後だったらしい。
皆各々、昨日の疲れを身体に見せているがその中でも一際目立つハガリさんの目の下のくま。
しかし、それでもリーダーとしての役割を務めてくれるようだ。
俺が椅子についた途端、話し始めた。
「それじゃ、事件についての概要とか今日の行動とか。
まあ、とにかく色々共有するぞ」
昨日のような遊び感覚ではいられない、もう全員が仕事モードに入っている。
俺も気を引き締めようと背筋を伸ばす。
「それじゃまず、今回の事件について」
今回の事件、というのは怪物騒ぎのことを指す。
ある日、突然現れるようになった怪物は人を襲うだったり、牢獄を破壊し囚人を逃がすなどの悪事を働くようになった。
何よりも不思議なのは、その怪物が突如何の前触れもなく都市に現れることである。
そのため、写真はおろか証拠を集めることもできない。
その姿をすぐに眩ませるため、どこから発生しているのかも不明。
なんなら、無から突然発生しているのではないかというのが女王の見解のようだった。
しかし、その仮定で行くとするならばそれが魔法である可能性がゼロであるということを示す。
理由はシンプル、そんな魔法は存在しないからである。
こうなると、それらの怪物騒ぎを起こしているのは異世界からやってきたものである可能性が非常に高い。
つまりは、俺たち異世界救助隊の仕事であるというわけだ。
「現在目撃された特徴から、おそらくこの世界にいる怪物の個体数は三体。
勿論、まだ姿を見せていない奴がいるだったりなんらかの条件で更に生成されるという手段も考えられるが、とりあえず長期的に都市部を脅かしているこの三体の殲滅を俺らの目標とする」
三体の殲滅、聞こえはシンプルで簡単そうだが実際は
そういうわけでもない。
とにかく厄介なのは突然、規則性もなく現れるという
部分だ。
こうなっては、こちらも準備が進められない。
恐らく、かなりシンプルで地道な作戦になっていくの
だろう。
「何となく分かっていると思うが、俺たちがこれから
行うのは、地道な見回りだ。
二人程度で都市を歩き回り続けて、常に警戒の目があることを思い知らせる。
そこで焦って行動を変えれば、叩く隙が出てくる」
俺の中でも、それが一番納得がいく。
いずれにしろ、俺たちは怪物について何も知らなすぎる。
「とりあえず、こんなところだ。
……俺は寝る、通信機を配るから怪物を発見したらすぐに連絡してくれ。
ああ、この後すぐ見回りに行くのはミドロとルノな。
じゃあ解散」
「はーい、ってえ!?」
危ない、流れで聞き逃すところだった。
俺とルノでは、正直に言って力量不足だ。
ここまで寝ずに見回りをしてたハガリさんは仕方ないにしろ、せめてアロナさんはついてきてほしい。
そう思って交渉してみたところ、
「……ミドロ、大丈夫だよ。
私もこれから女王ともうちょっと話をしなくちゃいけないから参加できない。
でも、多分助けてくれる人がいる」
とあしらわれてしまった。
アロナさんが言った助けてくれる人というのは、よく分からないがどちにしろ俺たちで行くしかないらしい。
突然のピンチな状況に、凄い形相で肩を掴んでくるルノをそのまま連れて、見回りを始めることにする。
「まあ、とにかく慎重に行こう。
最低、二人とも危険な状態になったら俺能力使ってみるからさ」
「ですね、何もアクシデントが無ければ良いんですけど……ってうわ!」
アクシデントが無ければ、そう言っていた彼女の意思とは裏腹に、早速誰かにぶつかったようだ。
「あれ?こんな所で何してんの〜?」
ルノがぶつかった相手、それは昨日戦いになった水の
魔法使い、アイラさんだった。
俺は急いで戦闘体制に入る。
昨日の先輩たちのようにはいかないかもしれないが、とりあえずルノさえ逃がせれば……
「ちょっとストップ!
私だって昨日、女王様の話聞いてたのよ!?
あんたたちがもう敵じゃないの分かってるから!」
あ、そういえばそうだったか。
何なら帰るタイミングで謝られた気がする。
「勘違いしてすいません。
それじゃ、行こうかルノ」
「ちょ、ちょっと待ったー!」
アイラさんの気迫のある声に振り向かされる。
かなり焦った様子の彼女だったが、なんとか冷静さを取り戻し話し始める。
「まあ、偶然ここにいたわけだけど。
怪物退治、手伝ってあげてもいいわよ?」
めちゃめちゃに毛先をいじりながら搾り出すように言葉を選ぶアイラさん。
なるほど、俺たちに悪いことをしてしまったから罪滅ぼしをさせてほしい、大体そんなところか。
…………というか、さっきアロナさんが言っていた助けてくれる人ってこういうことか?
んー、ルノもいるしな……どうしよう。
「っていうか手伝う!
昨日あなたたち見てたけど、戦闘に不安があるんでしょ?
だったら、魔法使いの一人でもいた方が良いと思う」
「……そうですね、お願いします」
こういうのは水に流して先に進む方が後々楽だ。
この世界で過ごして行くならば、今後もどこかで関わることもあるだろうし、仲良くしておくことに越したことはない。
……ただまあ、昨日の一件もある。
事情が事情なだけに気まずい感じになってしまうのは仕方ないだろう。
そんなことをおもいながらも三人で巡回を始めることにする。
その十分後、
「こっちとか、人通り少なそうだから居そうじゃない
ですか?」
「ねえ、ちょっと何でどんどん先行くのよ〜!
一応、あなたこの世界に来て二日目でしょ?
私はアルデハインの住民なのよ、ついてきなさい!」
「それもそうですね。
じゃあ、案内お願いします」
「……分かればいいんだけど。
ってかルノ?
どうして一言も喋ってくれないの?
一応、お友達になりたいとも思ってるんだけど……」
「……え!?
ああ、その、綺麗な人……なので、緊張しちゃって。
えと、私のことは、空気かなんかだと思ってもらって」
「できるわけないじゃないそんなこと!
ねー、もうちょっとだけ警戒解いてよ〜。
仲良くしてくれてもいいじゃない〜」
めちゃめちゃ馴染んでしまっているアイラさん。
その積極性にルノもタジタジである。
そのまま今度は俺に指をさす。
「っていうかミドロ!
あんたもいつまで敬語なのよ!
ルノにはめちゃくちゃ普通に喋ってるじゃない!」
「敬語……確かにそうですね。
最近先輩がたくさん増えたのでつい癖になってました」
「友達になりたいなら、まず話し方から!
私たちの間には、上下関係なんかないんだから」
気づいたら、俺が友達になりたい側にすり替えられている。
……まあ、別に間違ってはいないか。
「分かったよ、アイラ道案内よろしく」
「……えー、こんなあっさりタメ口になるとそれはそれでちょっと違うかも。
メンタル強いのこいつ?……よく分かんない」
「ミドロ君は私と初めて出会ったときも、そんな感じでしたよね」
「えー……」
よく分からないが、違ったらしい。
……まあ、ずっとこんな感じでアイラの案内を受けながら、道を進んでいく。
広がっている景色はまさしく平和そのもの。
怪物が前触れもなく現れるという話はどうやら本当のようで、皆こうして普通に暮らしていくしかないのだ。
「アイラはさ、怪物の姿見たことあんの?」
「あるわよ、とは言っても二回だけだけどね。
それでも印象に残るほどの見た目だった。
白い体毛に包まれていて、体格も私たちの2倍くらい大きくて、それでいて恐ろしいほどに目が鋭い」
「なるほど、出たらすぐ分かりそうだな。
この世界でペットとして飼われているのは鳥とか猫。
少なくとも巨大なモンスターみたいな見た目はいない
もんね」
「そうそう、だからこそ誰にも見られることなく都市の
中心に現れることが不思議なの。
女王様は、無から生まれたなんて言い方をしていたけれど、あながち間違いじゃないのかもね」
「あの……ミドロ君、アイラさん……」
俺とアイラの会話に急に入ってくるルノ。
その声は普段のルノとは全く違う、恐怖を感じた人間から出る大きく震えた声。
自分の頭上に影がかかって、その影の行方を追う。
なるほど、確かに見た瞬間頭がこう認識する。
怪物が現れた、と。
「グオオオオオオオオオ!」
大きな雄叫びを上げた、その怪物は俺たちに向けて飛び込んでくる。
身構えていた甲斐あって、何とか躱わす。
他のメンバーも大丈夫だったようだ。
「どうなってんのよこれ!?
偶然にしては出来過ぎじゃない」
そう、偶然にしては出来過ぎ。
何の前触れもなく、俺たちを狙ったように現れた。
前にも怪物は魔法使いの一人を人質に取ったり、刑務所に現れて囚人を逃したりしたらしい。
この一連の行動には、確かな計画性や知性を感じる。
つまり怪物自身に知能がある、もしくは知恵を与えている何かがいる、そう考えるのが妥当だろう。
怪物は臆することなく、次の攻撃を始める。
考える暇すら与えてくれない、というか避けれない。
水の玉が飛んできて、何とか攻撃の軌道が変わった。
しかし、それが原因で二分されてしまったようだ。
「ミドロ!早くこっちにきなさい!」
そう呼びかけるアイラ、しかし怪物はそれを許してくれないようだ。
俺のことをじっと見て、出方を伺っている。
アイラもルノを守るのに必死で動けない、仕方ないか。
「かかってこいや!」
力を込めた瞬間、全身が金色の光で縁取られる。
あれ以来使っていなかったため少し心配だったが、何とか能力を使うことには成功したらしい。
危険を察知し、俺の全力が出る前に突進してくる怪物。
「グオオオオオオオオオ!」
大きな雄叫びを上げ、衝突してきたが何とか身体は
耐えてくれたようだ。
その一撃をしっかりと受け止める。
能力の詳細すらよく分かっていないが、少なくとも力は強くなっているらしい。
衝突の勢いを利用してそのままぶん投げる。
「おらぁ!!」
怪物はそのまま地面に強く叩きつけられる。
その間に、一気に距離を取った。
「やるじゃんミドロ!」
素直に褒めてくれるアイラ。
正直、能力がまた出せるかすら賭けであったためこんなに褒められるのも違う気がする。
起き上がった怪物はその白い毛についた汚れを手で払う。
そう簡単に終わるわけはないか。
構えようとした、次の瞬間。
脳がクラクラと危険信号を出して、身体が悲鳴を上げる。
どうやら、とっくにガタがきていたようだ。
怪物はまた向かってくる。
奥の手も使ってしまった、次こそ無理か。
そう思った瞬間、
「よく頑張ったな、ミドロ」
目の前にハガリさんが立っている、どうやら間に合った。
怪物は一瞬、向かってこようとしたその動きのまま停止する。
気づいた時には、俺たちの逆側に走り出した。
つまりは逃げたのだ。
「あ、おいコラ!」
必死にその後を追うハガリさん、少しして戻ってくる。
「悪い、逃げられた」
俺の姿を見ながら、申し訳なさそうに言うハガリさん。
そんな申し訳なさそうにしないでほしい。
この人の到着が少しでも遅れていたら、俺はきっとやられてしまっていたのだから。
ハガリさんはそんな悲痛な表情を読み取ったようだ。
「……礼なら、ルノにでも言うんだな」
ルノの方を見れば、その手には通信機が握られていた。
どうやら、アイラに守られている間に連絡を入れてくれたようだ。
本当に大活躍だと思う。
ルノとアイラも俺のところに走ってくる。
「あの、ミドロ君ありがとうございました」
「あの怪物に力で勝っちゃうなんてやるじゃない!」
アイラは俺の背中を何度も叩く。
ボロボロの身体はまた悲鳴をあげた。
……ちくしょう、反撃する余力も残っていない。
「それから、アイラさんも。
……本当にありがとうございます」
ルノは勇気を出して、アイラに言う。
アイラも一瞬笑みが溢れたがすぐにそっぽを向いた。
「アイラさんじゃやだ」
「……………………ありがとう、アイラ」
アイラは満面の笑みになる。
その視線は俺の方を向いていた。
嫌な予感がする。
「ねー、もう私ルノからタメ口使われるようになったのよ!!
あんた、ルノとは一番仲良いみたいな感じでスカしてたもんねー!?
ねえ、呼び捨てにされたことある!!??」
「……ない」
「だよねー!!!」
アイラは勝ち誇ったような感じでまた俺の背中をバシバシ叩く。
仲良くなったのは良いが、こいつマジでむかつく。
その様子を見て、ソワソワとルノに近づくハガリさん。
「ルノ、俺にもタメ口使って良いんだぜ。
先輩後輩とか気にすんな、なあ?」
「…………絶対無理です!!」
こうして、俺たちは怪物を何とか退治することに成功したのだった。
しかし、その強さは俺たちだけでは逃がしてしまうほどであり、そのクラスが三体以上はいるのだ。
まだまだ俺も足りていない部分が多すぎる。
「あの、ハガリさん。
俺もっと、強くなりたいです」
俺は真っ直ぐに強くなりたい気持ちをハガリさんに
伝えてみる。
「んー、強くなるかー。
……あ、そういえばちょうど良いかもしれないな。
アロナが色々見つけてきたらしいぞ?」
アロナさん?
何だか気になることを言い残して、ハガリさんは俺をおぶって帰路に着く。
どうやら明日も、何かが待ち受けていそうだ。
もし、それが少しでも強くなれることに繋がるなら。
今度は、こんなボロボロの勝ちで終わりたくない。
一つ、覚悟を決めた一日となった。
ちなみに、宿に戻るまでアイラの自慢は続いた。