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異世界救助隊  作者: 里下里山
本編
3/31

第三話 片鱗

 見たことのない美しい容器、見たことのない食べもの。

 箒、長いローブ、脇に抱えられた分厚い本に杖。

 そのどれもが、俺にとっては新鮮な景色だ。

 これが魔法の世界、アルデハイン。


「こらミドロ、すぐに立ち止まらない。

 今日しか遊べないかもしれないんだから、早く行く」


 ついつい色んなものに気を取られてしまって遅れをとってしまう。

 そんな俺に喝を入れるアロナさんは完全に保護者だ。


「ほら、あれ美味しそう。

 食べてみよ」


 そうやって走り出したアロナさんの背中を見て、ふと疑問が浮かんでくる。


「アロナさん、お金ってあるんですか?」


「………………」


 黙り込んでしまった。

 隣を並んで歩いていたルノと顔を見合わせて苦笑いする。

 世界間で共通の通貨が使われている例はそんなに多くない。

 その場所でよく取れる金属を使った硬貨や世界内の王様を模した紙幣など、それぞれの文化がよく出るのが通貨というものなのだ。

 なんなら、俺の世界では物々交換だったレベルである。

 それほどまでに統一性がない。


「おー、奇遇じゃねーか」


 困って固まっている俺たちを待っていたかのように、ハガリさんが向こうのほうから手を振っていた。

 荷物はかなり軽装になっていて、泊まる場所含め色々手続きが終わったことがわかる。

 つまりだ……


「ハガリ、金……」


「あーそうそう、渡してなかったよな。

 ほら、換金も済んだからこれで今日くらいは遊べるはずだ」


 小さい布袋が、アロナさんの手に置かれる。

 ジャラ、と重めの音がして今日くらいは余裕で遊べる量であることが推測できた。

 何故か、アロナさんがドヤ顔で俺を見てくる。

 ……まあ、とりあえず一安心だ。


 その後は食べ歩きをしたりしながらゆっくりと時間を過ごす。

 アルデハインの人々が珍しそうに俺たちを見るが、これくらい慣れろ、とハガリさんが豪快に笑っていた。

 実際、途中からそんなことも気にならないほど楽しんでいる自分がいたのも事実である。


 そんなこんなで過ごしているうちに、周りは暗くなってきていた。

 半透明で、綺麗なキーホルダーを空に掲げて今日の思い出を脳に馴染ませる。

 きっと、普段からこうではないんだと思う。

 俺とルノにとっては、かなり怒涛の数日だった。

 こんな風に遊ぶ機会を設けてくれたのは先輩たちの気遣いだったのだと、なんとなくそう感じる。

 気づけば俺は、憧れを思い出したと共に目の前を歩く彼らに信頼を置くようになっていた。

 単純な人間なんだな、と新たな自分の一面に何だか呆れてしまう。


 ルノは一体どう思っているのだろう。

 そんなことを思って、彼女の方を見る。

 すると、彼女の視線は一つの屋台を追い続けていた。

 フルーツにチョコをコーティングした、確かに美味しそうに見えるスイーツだ。

 何となくのお節介心が湧いてきて、俺は声をあげた。


「おーい、最後に食べたいものあるんですけど

 いいですか?」


「おう、どれだどれだ!?」


 その数分後、帰路に着く俺たちの手にはさっきの屋台のスイーツが握られていた。


「あの、ミドロ君……」


 ルノに声をかけられる。


「きっと、気を遣わせてしまったんですよね?」


「あー、そういうわけじゃないよ。

 俺もめちゃめちゃおいしそうだなと思って」


 ルノは悲しそうに俯いてしまう。


「私も、こういう時ちゃんと声を上げられるようにしないといけませんね。

 ずっとミドロ君に頼りっぱなしってわけにもいかないですし……」


「いや、俺は全然困ってないよ。

 いくらでも頼ってほしい」


「……ごめんなさい、もちろん感謝はしてるんです。

 ただ、私の中で変えたいと思う気持ちがあって」


 ルノが主張が苦手だと言う話は、何回か聞いていた。

 彼女なりに努力をしているのも俺は見てきた。

 きっと、この旅の中で変わっていくのだろう。

 ここでアドバイスとかをするのは、何か違う気がする。


「そっか、応援してるよ」


「……うん!」


 すると、さっきベンチに座っていた時と同じようにアロナさんが気づけば背後に立っている。


「私はもう友達だと思ってたのに〜」


「そうだぞ、こいつなんかいい練習相手だろ。

 普段は誰にも懐かないのにルノには懐いている。

 ちょっと雑に接するくらいが丁度いい」


 普通にペット扱いされるアロナさん。

 怒りを表すようにハガリさんの足を思いっきりつねる。

 久しぶりに、ルノが声を上げて笑った。


「すいません、心配かけちゃいました。

 改めて、これからもお願いします」


 彼女らしいそんな言葉に俺含めた全員がほっこりした。

 その時、


「ちょっと、楽しそうなところ悪いわね」


 声の方向に1人の女性、この街のメインカラーと同じ青い髪が夜風にあたりサラサラと揺れる。

 ローブをバサっと翻し、俺たちのことを冷たく見つめる彼女は魔法使い、というやつなのだろう。

 俺たちに、杖を向けて威嚇してくる。


「あなたたちは、我々の世界を不幸に堕としかねない危険人物。

 悪いけど、ここで消えてもらうわ!」


 何が何だか分からないが、これから戦いが始まるらしい。

 周りの仲間達を見てみれば完全に応戦体制。

 ヤバいことが起こる予感に周りにいた他の住民たちも一斉に身を引いて、家の中へと駆け込む。

 とりあえずルノに声をかけ、邪魔にならないように後ろに下がることにした。

 それを見たハガリさんがニヤリと笑う。


「新人2人、いい判断だ。

 今はとりあえず、自分の身に危険が及ばないようにだけ気をつけろ」


 それこそ、俺にとって魔法というのは物語に出てくる空想レベルで知識がない。

 何が起こるか本当に分からないため、細心の注意だけはしておくことにする。


「見てろ、これが相手を一切傷つけずに封殺する方法だ」


 そう言って、腰につけていた剣を抜くハガリさん。

 その剣は色々ガチャガチャしていて、簡単な言い方をすれば機械的だ。

 同じような銃を、アロナさんも取り出す。


「あなたたち、もしかして私のバトルで何かをレクチャー

 しようとしてるの?

 ……どうやら、バカにしてくれてるようね」


 魔法使いの女が杖を振りかざす。

 その先には、どんどん水が溜まっていく。

 おそらく、水を扱う魔法なのだろう。


「そんな風に思ったことを後悔してしまうほどの地獄を 見せてあげる!」


 撃ち放った水は綺麗に、俺の方へ向かってくる。

 ハガリさんは剣を使い、慣れた手つきで飛んでくる攻撃を相殺する。


 始めてみる魔法。

 それは水という性質ではルノの能力と同じだが、実際には似て非なるものだと理解する。

 ルノは圧倒的水量と勢いで押しつぶす感じのイメージ。

 一方で、あの魔法使いの水はとてつもない制度で細く早く、俺のことを狙ってきている。

 おそらく、かなりの努力と年数をかけて作られた技なのではないだろうか。


「いいか、離れすぎるな。

 相手が動きを変えたり仲間がいたり、そんな事態の時に守れない可能性は全て潰しておきたい」


 俺も頷いて、冷静に動けるように呼吸を整える。

 この後は、繰り返しの展開になった。

 様々に形を変える水をハガリさんが切り裂く。

 それこそ、カバーしきれない攻撃もあるがそれを的確にアロナさんが撃ち落とす。

 そのコンビネーションは付け入る隙が無いと感じる。


 ただそこまでの力があるならばと、一つ疑問を抱く。

 その疑問はすぐに魔法使いが聞いてくれた。


「ちょっと、あんたらいつ攻撃してくるつもりよ!

 これって舐めプってやつ!?」


 かなり興奮気味だ。

 しかし、2人はそれに応えようとしない。

 俺自身も傷つけずに倒すと言ってはいたが、流石に何もしないでここまで来るとは思わなかった。

 もしかしたら、作戦が通じていないのではないかと不安になる。


「あー、わかったわよ!

 特大をお見舞いしてあげる。」


 さっきよりも勢いを増した水が渦を作り、どんどんと大きさを増していく。

 これは本気というやつか、マズいのではないだろうか。

 ちょっと不安になってハガリさんの方を見る。

 ハガリさんもこちらを見返し、バツが悪そうに頭を掻く。


「よし、逃げよう」


 そう言い出すと距離を取るように走り出す。

 まさかの展開に、俺とルノの脳裏が絶望で染まるが生き残るためには逃げるしかない。

 なんとか後を追うことにする。


「私の魔力に溺れなさーい!」


 魔法の杖を振り下ろそうとした、その瞬間。

 バンッ!という音と共に、魔法使いの杖に穴が空く。

 もちろん、こんなことができるのはアロナさんだけだ。


 勢いを増していた水は行き場をなくして、そのまま上に飛んでいく。

 数秒後には、雨が降り始めた。

 魔法使いもその場にペタン、と座り込んでしまう。

 どうやら、戦意喪失ということらしい。


「ふっふっふ…… どうだ、相手を傷つけずに封殺することに成功したぞ!」


 俺とルノの目は完全に死んでいる。

 焦ったハガリさんは威厳を失うまいと必死に喋る。


「いやな、どの世界においても強い力っていうのは無限に使い続けられるわけじゃないんだよ。

 お前らだって、ずっと走り続けることはできないだろ?

 だからさ、こっちは最低限で相手の全力の攻撃を受け続けてたらいずれ、相手側にボロが出るんだよ。

 こうすれば、完封できるってわけだ……うんうん」


 何か、凄い長々と説明をし続けている。

 後ろでは、本日のMVPアロナさんが複数個の決めポーズを順に披露してくれていた。

 ようやく、俺は口を開く。


「あの、最後のでかい攻撃も想定内ですか?」


 ハガリさんは固まってしまった。


「……最後のでかい攻撃も想定内ですか?」


「いや、違います。

 もっと安全な方法で次はやります」


 遂に、先輩に敬語を使わせてしまった。

 まあ結果オーライ、ということにしておく。

 実際、二人があんな武器を使っているのはおそらく戦闘系の能力とかを持っていないからだろう。

 それで、突如現れた魔法使いを結果的にみれば完封したというのだから、やはり救助隊と言えるだけの強さは持っていると言える。


「さ、俺たちの説教はここまでにしてもらって……」


 ぬるっと、話を変えられたがこれ以上追求するつもりもない。

 それに、俺もこっちを先にやらないといけないと思っていた。

 ハガリさんを先頭に、全員で魔法使いのところへ行く。


「……名前は?」


「なんで答えなくちゃいけないのよ!」


「………………」


「……アイラよ!これでいいんでしょ!?」


 どうやら、攻撃された目的含め聞きたいことはすぐに聞き出せそうだ。

 とりあえず、今回この世界に来た理由の足がかりになるかもしれない。

 質問を続ける。


「なんで俺たちを攻撃したんだ?」


「そりゃ……あんたらが悪さしてるんじゃないかと思ったから!

 っていうかやってるんでしょ!」


「詳しく聞いてもいいか」


 俺たちはアロナさんの占いをもとに動いている。

 実際、俺の世界にきたタイミングも偶然とは思えないレベルだった。

 何かの事件中だとしたら、疑われるということもなくはないのかもしれない。


「怪物よ、怪物。

 あんたらが連れてきて、暴れさせてるんでしょ!?」


「は?怪物?どういうことだ?」


「しらばっくれるんじゃないわよ!」


 その後の会話は堂々巡りだった。

 とにかく怪物、というワードしか言わなくなってしまう。

 どうすればいいかと悩んでいると、


「なんの騒ぎですか?」


 たくさんの魔法使いを連れた、一人の女性。

 美しい長い髪に、綺麗な紫のドレス。

 一目で、この世界における権力者であるということが分かる。

 ハガリさんが、臆せず言う。


「えーと、怪物?かなんかよく分からんけどそういうのを出してるのが俺らだと疑っているみたいだ。

 この、アイラって子が」


「はぁ、またあなたは……

 国のことを思うのはいいことですが、一度私に話を通しなさい。

 あなたたちは、異世界救助隊という方達かしら。

 こういった時に助けてくれる方々がいると、そう勉強したことがあります」


 中々に博識な人のようだ。

 さっきの堂々巡りな会話から一転、綺麗に話が通る。

 ついてきて下さい、と手招きをした彼女の後を追う。

 アイラと名乗った魔法使いの女の子もしょんぼりしながら最後尾についていた。


 俺たちが連れてこられたのは、大きなお城。

 おそらく、この世界で一番の建造物と断定しても良いのではないだろうか。

 それほどまでに雄大で、迫力がある建物だ。


 その客室、長い机に大きな椅子。

 今まででは、絶対に訪れることはできなかったそんな高貴な雰囲気の場所へと通される。

 全員が席について、ようやく話が再開する。


「先ほどは私の世界の者が失礼しました。

 私はこの世界のトップ、所謂女王という立場をやっておりますアイリスと申します。

 以後、お見知りおきを」


 とりあえずお辞儀をしようとするが、この世界の文化か分からず、周りをキョロキョロしてみて最終的に辞めた。

 本当に未体験の舞台に立たされており、緊張感が重くのしかかる。

 俺は、異世界救助隊の一員なんだと再認識させられた。


「それで、怪物というものの存在についてですが……

 この世界では、ここ数日突如現れた謎の怪物に手を焼いていますの。

 今のところ、最悪のケースで言えば大怪我程度に済んでいるけれど皆不安を感じていますわ」


「なるほど、続けてください」


 完全に仕事の顔になったハガリさんが話を催促する。


「それで、その怪物なのだけれど使っているものが明らかに魔法ではないの。

 魔法というのは、火、水、土、風、闇、光。

 そんな自然から来る属性の力を利用している。

 それこそ、生物生成や生物操作なんてもってのほか。

 ここまで話せば見えてくるかしら」


「その怪物というのは異世界の力が関係している」


「そういうこと。

 この世界にもたくさんの生物がいるけれどそれとは空気の違う悍ましい異形。

 異世界じゃなかったとしても、私たちでは解明しきれない何かが関わっている」


 ハガリさんは俺含めたメンバーたちを見回す。

 アロナさんが静かに頷いたのを見て、俺も慌てて頷いておく。


「この一件、俺たちに預からせてください」


「ええ、是非お願いしたい。

 ただこれだけは女王として。

 怪しい行動を見せたら私も躊躇なくあなた達を消すことになる」


 それほど、世界に危機が迫っているということだ。

 二人のトップは真剣な眼差し同士で握手を交わす。

 こうして、俺たちの初めてのミッションが決まることになる。

 突如現れた謎の怪物退治、そんな不可思議な任務に俺も息が詰まるような責任感を覚えていた。

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