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異世界救助隊  作者: 里下里山
本編
28/31

第二十八話 とある時代の訪問者

 それはまるで本でで読んだようなそんな景色。

 石レンガが道なりにどこまでも進んでいて、歴史と近代を両立させたような、風変わりな家が立ち並ぶ。

 そこら中に石造りの高い塔があって雄大さすら感じる。

 さっきまでの集落とは打って変わって沢山の人々がそこら中を行き交う、そんな場所。

 俺はその中心に立っていた。


「……これは、一体なんだ?」


 そういえば俺は、ウィンプからほとんどの情報を得ることができなかった。

 だから、これが試練の一つなのかボスの攻撃によって何処へとばされてしまったのか、それすら判断がつかないくらいだ。


 とりあえず街を歩いてみることにした。

 本当に不思議な感覚だ、さっきまでのピンチな状況が嘘みたいに平和な街並みをただ目的もなく歩いているのだから。

 ふと、目の前に新聞が落ちているのを発見した。

 ……新聞?


 俺は当たり前のようにそんなことを考えたが、現代では新聞というツール自体使われているところが少ないらしい。

 もしかしたら、もう無いと言ってもいいレベルかも。

 それこそ俺は、古い本でその存在を知ったくらいなのだ。

 足跡のついたボロボロの新聞を拾い上げて、そこに書いてあった文字を辿る。

 が、そもそも文章を読めやしない。

 書かれていた文字は、まさしくあの壁画に書かれていたようなものらしく、そこでようやく石碑に触ったことにより、ここに来たのでは無いかという確証が強くなりほっと一息つく。


 これをいわゆる試練と考えた俺は、とりあえずどうすれば達成になるかを考えるために、近くのカフェに入ってみることにした。


「えーと、オレンジジュースを一つ」


 席につき、すぐに注文を入れる。

 注文を待つ間も、俺の思考は止まらない。

 試練、だとすれば何か達成条件が存在するはずなのだが 大抵、それらは凄く分かりやすいものである。

 何か街の人々が困っているほどの大事件が発生している、目が覚めて急に話しかけられてストーリーに組み込まれる……そういうきっかけがあるはずなのだ。

 だが現状、そんなことは起きてもいない。

 あまりに普通に日常が流れすぎている。


 ……そろそろ本格的に何か甘いものを口に入れたい気持ちだ。

 目を厨房の方に配ると、手にオレンジジュースを一本持ってこちらに向かってくる店員さんらしき人物。

 少しの期待感と共に待っていると、その店員さんが椅子の足に引っかかり、体制を崩す。


 危ない、俺は能力を使ってすかさず飛び出した。

 が、能力は出ないまま俺も席から転げ落ちる。

 店はほんのちょっぴりの騒ぎになり、店員さんの元に数人誰かが駆け寄ってくる。

 ここでは、周りから聞こえるクスクスとした声も全く気にならない。

 早めに気づけて良かった、俺はこの空間においては能力を使うことができないらしい。


 その数分後、ようやくオレンジジュースが運ばれてきた。

 とりあえずゆっくりと喉に通しながら、ようやく現状のヤバさを噛み締める。

 ……思ったよりも焦りが強い。

 能力が使えない、目的がわからない。

 とにかく俺はこの先すらままならない。

 そんな俺の目の前に店主らしきおじいちゃんがやってくる。


「ごめんなさいね、お客さんもびっくりしただろうし提供も遅れてしまった。

 今回は、タダってことでどうか」


 あ、


 かろうじて俺は服を着ることは出来ているが、ポケットを漁っても特には何も出てこない。

 つまり、お金も一切持ち合わせていないということだ。

 目的云々より前に、生活がままならない。

 ようやく俺はこの世界でも、ピンチであることには変わりない、と気づいたのだった。


 そこからは、かなり忙しなく動き続けることとなった。

 まずは人から情報集め、メインで聞くのは仕事のことだったり、ここ周辺にはどんな問題があるのかについてだ。


 先に問題について……これに関しては特にピンとくるものは相変わらずなかった。

 ドラゴンが街を襲うことがある、結構前に盗みが起きたらしい、最近喧嘩が起きた。

 しかし、そのどれもがほとんど起きることはないこと。

 起きたとしてもただの不運であるため予測が立てづらいものであるようだ。

 それと紐づけて、分かったことがもう一つある。

 街の外に出れば、何かが得られるのでは無いかと思って街の門を潜ってみたところ、最初俺が目覚めたところに戻ってしまった。

 周りの人々が驚いていないかつ、時間が進んでいたことから、ワープというよりは整合性を保つためのシステムという印象を受けた。

 まあ、この世界を作った人物からすればこの範囲で何とかしろ、ということなのだろう。


 となれば、現状平和そのものであるこの世界では何かが起きるまで仕事をすることが求められる。

 そうしなければ飢え死にだ。

 そっちの問題に関しては聞き込みによりほとんどの仕組みを理解した。

 仕事を紹介してくれる、いわゆる仲介役の施設があるようだった。

 そこで見つけたポストマンの仕事、これなら街を見回りながらも仕事ができる。

 とりあえず、これで行くとしよう。


「まあ、とりあえず明日様子見て決めるわ。

 ……遅刻したら勿論すぐ解雇だからな」


「はい、明日からよろしくお願いします」


 はぁ、これで一日が終わりか。

 新聞がある時代、これは過去ということでいいのだろうか。

 本当にそこに飛ばされているのか、幻術のように見続けているのか。

 最近色んな力を目まぐるしく見てきた俺には、到底予想出来はしない。

 ウィンプのことがただただ心配……ならば俺はここでの試練を越えなきゃいけない、最初の一発目で。

 だから、とにかく情報収集と生活を賄ったりそれよりよければ武器を買い揃えるくらいまでやることにしよう。


 明日からはまた忙しくなりそうだ。


 その結果は大当たりで忙しい日々が始まった。

 沢山の郵便物を抱えて早朝走り回り、昼からは何が起こっていないか聞き込み調査して、そのまま夜になるまで小さい悩み事や依頼を解決していく。


 そうやって毎日を過ごして、この世界にも慣れていって食い繋げるほどのお金も稼げて、ようやく剣を買えた。

 今日もこれから、郵便物を全て配りきったことを報告するところだ。


「……まぁ、ぼちぼちだな。

 これからも家で働いてもらうが、手は抜くなよ」


「はい、ありがとうございます!」


 今日でようやく、正式にこの場所で働く許可が出た。

 あれから一週間、毎日工夫した甲斐があったな。

 外に出ると清々しい空気が流れてくる。

 今日も、聞き込みを始めようとしようか。


 そう言って、何となく目をつけたのは少し遠くにいるおじいちゃん。

 話しかけようと、歩き始めたタイミング。

 俺とおじいちゃんの間に何かが降ってくる。


「「全員、逃げろー!」」


 一斉にその場の人間が動き出す。

 その人の波は丁度降ってきた場所を境にして、逆向きになっている。

 一瞬何が起こったか分からなかったが、その姿に声を上げた。


「グオオオオオオオオオ!」


 ……ドラゴン。

 スアイガイで見たドラゴンたちよりもさらに一回りでかいその出立ちは、確かに恐怖を煽る。

 ドラゴンがたまに街に現れる、という話自体は本当に一回だけ聞いたことがあったが、まさかこんなにやばい奴だったとは。


 ドラゴンはくるりと振り返り俺から視線を逸らす。

 その先にいるのは、逃げ遅れた一人の青年。

 ドラゴンが着地した時に割れた地面の瓦礫によって、足を挟まれているようだ。

 俺は持っていた剣を思い切り投げると同時に走り出す。


 剣が当たり、やはりドラゴンはそちらに向き直す。

 その間に、瓦礫を持ち上げて男をとりあえずは救い出す。

 能力は無くなってしまったが、それでもあの頃よりもずっと力はついてきているのだ。


「た、助けて」


 怯えた表情の彼に肩を貸す。

 後は全力で逃げる、それだけだ。


「グオオオオオオオオオ!」


 ドラゴンが向かってくのを耳で理解し、その場に伏せる。

 俺は、この街から出れないがとりあえず彼を街から出してあげるしかない。

 門まではそんなに遠く無い、そしてその門の先には兵士たちが色々と対応している様子。

 せめてこの青年さえ門を渡り切れば、全力で追いかけっこくらいはできる。


 ドラゴンはじっくり、俺たちのことを眺めている。

 今度は、絶対に攻撃を外さないようにしているらしい。

 こんな時、自分を犠牲にできたら幾分楽だろう。


 俺の仲間たちはお節介で、俺が危険な時身を晒し一緒に危険な目に遭う。

 俺は、俺自身も守ることでしか全員を救えない。

 だったら、


「痛くても走って!」


 青年の背中を押して、俺はドラゴンに向かっていた。

 ドラゴンの尻尾の間に滑り込む、でかい生物にとって自分の股下は大抵目で追えない死角というやつだ。


 その間に俺は、次の地点を目指す。

 聳え立つ塔の一つ、門の先を見下ろせる位置にある。

 ドラゴンはようやく俺を見つける、かつ俺に小馬鹿にされるような感覚を覚えたのか俺狙いになる。

 俺は塔を登り続ける、あのドラゴンは一度攻撃を避けた時、あえて俺たちの様子を伺うふりをした。

 それは、頭を使っているということだ。

 かつ、さっきあえて死角に入り込む戦法をあえて見せたのだ。

 塔に登った俺を確実に仕留めるなら、


「グオオオオオオオオオ!」


 塔の屋上、見渡しも良く逃げ道のないこの場所で待ち伏せてくる。

 俺の予想は当たった。


 あとは一つ、この世界のルールが成立するなら。

 塔の上から見る門にもう人はいない、どうやら全員逃げきれたということらしい。

 ならば、俺のやるべきことは一つ。


「当ててみろ!」


 ドラゴンにそう告げ、俺は塔から飛び落ちる。

 横から火球が飛んでくる、そんなスレスレの状況。

 俺はギリギリ、門の外に飛び出した。


 ……俺がいたのは、最初のスタート地点。

 つまり、やつから逃げきることに成功したのだ。


「よしっ」


 見つからないように小さな声でガッツポーズでドラゴンの反対まで走っていく。

 と、みるみるうちに世界は塗り変わっていった。

 どんどんと周りは白く、本当にそれ以外の説明が不要なほどに真っ白な景色が広がる。


 真ん中にポツリ立っているのは、先ほどの少年だ。

 俺の顔を見つめて数秒、耐えきれず笑い出した。


「わはははははははは!

 いや、最高。

 まさか街から出られない仕様を逆に利用するなんて」


 この人が、俺にとっての先祖……みたいなものだろうか…


「それで、あの試練の合格は……」


「試練……?

 ……………………ああ、いや試練じゃないよ。

 これは性格診断みたいなものさ、別に君たち子孫を助けたいって気持ちの親心みたいな。

 まあ、勿論足りなすぎると感じた場合は落とすけどね」


 爽やかな表情でニコッと笑いかけてくれる青年。

 まあ、合格ということでいいのだろう。


「それで……君に与えたいものもあるがその前に。

 話しておくとしようか、この大事件の全貌を」


「分かるんですか?」


「まあ、僕は血が繋がっている君たちの視点ならば追うことが出来るからね。

 つまり、そういうことだよ」


「悪側にも、俺たちの子孫がいると」


「正体、わかってるでしょ?

 それでも……聞く?」


 頷く俺を見て、分かったと説明を始める彼。

 心の準備をする間すら与えられず、急に分かっていても衝撃的な事実が告げられる。


「今回の黒幕は、君のお父さんだ。

 ……まあ、その動機は大変皮肉なものだけどね」


 お父さんはやっぱり生きていて、彼がこの世界にボスを連れてきてしまった。


「皮肉というのはもしかして、俺を守るためですか?」


「よく分かってる、どうしてそう考えたんだ?」


「俺は、お父さんという存在がいながら何故か異世界への情報は本でしか得られなかった。

 あえて、異世界への興味を断ち切らせているような……」


 青年は俺の考えに正解だと頷きながら話を進める。


「そうだね、彼は英雄としてあらゆる世界から愛されていた。

 しかし、そんな中怪物。

 いや、悪魔と出会ってしまい絶望を植え付けられた。

 とても辛い思いをしたし、身体は何日動かなかった分からないほどの大敗だった。

 子供にこんな思いはさせたくないよね」


「だから……自分を死んだことにして目の前から消えた。

 力を持たない人たちが集まる自分の故郷に残して」


 これは、優しさなのだろう。

 本当に不器用な人だ、ただそう思う。


「君を故郷に残す、でもそれだけでは彼の不安は拭えなかった。

 この遺跡があるせいでいずれ、きっと君は能力のことを知ってしまうかもしれないからね。

 だから、誰かに先にあげてしまえばいい。

 そうすれば、いずれどこかのタイミングで君は辛い思いをする前に勝負を降りる」


「それが、ボスがここにきた理由?」


「……まあ、そういうことだ。

こんな末端にある世界を目指そうなんて人間は異世界間を行ける船を持っていても早々いない。

 それこそ、一瞬でこれる能力者くらいのものさ。

 まさかこんなに故郷を荒らされるとは予想していなかったようだけどね」


 何とも言えない気持ち、自分の父は臆病で不器用で。

 これも優しさからやったことなんだろうけど、俺も寂しい思いをして、集落もこんなになって。


「さて、これから君はどうしたい?」


「よく分かんないです。

 強いて言うなら、お父さんに会って相談くらいしてくれって、それくらいは俺にも言う権利ありますよね」


「どうだろう?」


「はぁ、もう頭が無茶苦茶になりそうだけどとりあえずもういい。

 俺は、行動を変える必要はなさそうです。

 ボスのこと、とりあえずケリつけてきます」


「そうか、じゃあウィンプにもよろしく言っといてくれ。

 ……ああ、大事なイベントを忘れるところだった。

 君に今、最も似合う武器を一つだけプレゼントするよ。

 気にいるはずだ」


 俺の手に一本、剣が握らされる。


「それは不殺の剣。

 効果は帰ってからのお楽しみだ」


「ありがとうございます、またお話し聞いても良いですか?」


「気が向いたらね〜」


 景色は目まぐるしく変わっていく。

 ようやく、俺は元の場所に戻れそうだ。


「それじゃ、決着つけようかボス」


 握りしめたその剣はやけに手に馴染んで、俺は勝ちを確信していた。

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